チワワに転生したオレがラブリーチートで異世界を救い始めている件。

星里有乃

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第2章

22話 運命はその犬を放っておかない

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「ハチ、あなたは本当に子犬なの? それとも本当は……ううん、期待しちゃダメよね」

 次の日、目を覚ますと二百五十年前の魔王一族姫であるブーケの部屋だった。昨夜は疲れていたせいか食後すぐに眠ってしまったオレだが、きちんと犬用の寝心地の良いスペースで睡眠を取ったようだ。きっと、ブーケ姫やメイドさんが眠っているオレをスペースまで運んでくれたのだろう。

「ふぁああっ!」

 眠気がなかなか醒めずに、大きなあくびをして思わず声が出てしまう。オレ自身、小型犬のチワワの割にあまり吠えない犬なのだが、こういう時は仕方がない。オレの大きなあくびは、ブーケにも聞こえていたのか、嬉しそうに笑いながら様子を見にやって来た。

「だからね、ハチを鍛える意味でも……今日は出掛けようと思って。ほら、この辺りって、昼間は強いモンスターが出ない代わりにカラクリ兵達がうろついているでしょう。子犬が使い魔として訓練するのであれば、カラクリ兵くらいの小さな機械達がちょうどいいんじゃないかって」
「なるほど! 確かに、あれくらい小さなカラクリ兵であれば致命傷になるような心配もありませんし。魔法を暴発させても、機械相手ならさほど心配いらないでしょうし。良い考えだと思いますよ
「うふふっ。そうよね……さてと、まずはデータを取得しないと。あーあ、昔だったらもっとたくさん食料やサプリメントがあったから、あの子にも良いものを与えられていたのだけれど」

 時代は冷戦中で、あまり贅沢な暮らしは出来ないという状況らしい。姫君というポジションの割に質素な生活をしている印象のブーケ姫だが、その原因は大戦後の不景気にあるようだ。

「ええと……この家に残っている使い魔用のアイテムは……。首輪は、ハチがつけているものがあるからいいとして。水用の容器、餌用のお皿、フリスビーや小型のオモチャ……」
「毛並みを整えるためのブラシは、新しいものが手に入っていますよ。衛生面を考えてパピリンが使っていた古いものからチェンジした方が良いかもしれませんね」
「あら、随分と良いブラシが手に入ったじゃない? これは、魔王城の内部のものが作ったのかしら」

 もともと犬を飼っていることから、犬用のアイテムや食事は揃っているようだ。それに、ブーケ姫が愛犬家であることを知っている魔王城内の者達が、いろいろとアイテムを贈ってくれる様子。

「ええ、お針子さんが是非姫様の犬にって、手作りなんですよ。使い心地が良ければ商品化して、新たな収入源にするつもりみたいです」
「いわゆるモニターというものね。私も、魔王城の内部の者が収入源を増やしていくのは賛成だし、ありがたく使わせてもらうわ」

 順調にオレを飼うためのグッズを揃えて、育てる気満々のブーケ姫。一時的な預かりという割には、長期滞在を前提とした計画のようでちょっぴり複雑な心境だ。

「パピリンの使っていたリードがあるからいいけど、新しいものも見つけてあげないとね」
「ふふっ。随分とあのワンちゃんに入れ込んでいるみたいですねお嬢様。なんだか恋をしているみたいです」
「ま、まさか……!」

 けれど、使い魔として契約するためとはいえ姫君であるブーケ自ら料理をするのが当たり前のようでなんだか不思議である。よく考えてみれば、この建物もお城の中というより別棟になっているし、ブーケはお城の人達と生活を分離しているのかも知れない。

「まぁ新しい犬との出会いは恋みたいなものかも知れないけれど。ワクワクするようなトキメキがあるでしょう?」
「あはは……確かに、相手がどんな性格なのか……とか。たくさん気になることがありますものね」

 その証拠にこの別棟には、ブーケの寝室、台所、客間、使用人の部屋など普通の一般家庭レベルの部屋数が揃っている。
 敷地もそれなりに城の本部とは離れていて、外出する場合も城門などを使用しなくても出入り出来るようになっている。まるで、姫が自由に活動するための施設のようだ。

「ハチ、おはよう。昨夜はよく眠れたかな? 今日は、一応あなたを私の仮使い魔として登録してから森に出ようと思うの。もちろん、あなたの本当のご主人様との契約は維持されるから安心してね」
「きゃうん(分かったよ)」

 今日のブーケ姫のスケジュールは、彼女の飼い犬であるパピリンの出産準備のために裏庭の小屋まで行くはず。だが、その前にオレとの仮契約を済ませるつもりみたいだ。

「うふふ。なんだか、ハチって人間の言葉が完璧に理解出来ているみたい。不思議ね、本当に聖なる獣で神の遣いなのかしら? さて、昨日と同じ今朝もミルク粥になるけど、ちょっぴり味付けを変えるから違いを楽しんでね」

 ブーケ達が食べる人間の分の食事は、メイドさんが用意済みのようであとはオレの食事だけだった。一応、待てをしてから合図に合わせて昨日とはちょっぴり味が違うというミルク粥を味わう。

(なるほど、何となく昨日よりさっぱりめで、朝の活力が湧く味付けだ)

 ブーケ達も手早く朝食を済ませて、出かける準備が完了。すると、おもむろにブーケが杖と小さな手帳を片手に何やら呪文を唱え始めた。

「いいこと、ハチ。これから、私とあなたの間に仮の契約を結んで、相性かた算出されるステータスを割り出すわ。俗に言う『ステータスオープン』というもので、数値は魔力で自動的に手帳に刻まれるの。数年前に開発されて技術で、この時代の魔法使いなら誰でも出来るのよ」
「きゃん、きゃうん(へえ、この時代のステータスオープンは手帳を使うのか)」

 ブルーベルと使い魔として仮契約をした際には、スマホのアプリを介してステータスオープンを行った。てっきり、現代の技術を使わないとステータスは割り出せないものだと思い込んでいたが。
 この当時で数年前に開発されたそうだが、残念ながら現代の魔法使いはステータスオープン魔法を使える人は少人数である。当時の方が自分達の呪文でステータスを割り出せた分、身近な存在だったようだ。

「精霊達よ、私とこの清らかな犬との間に仮初めの契約を認めよ。我の魔力とこの使い魔の魔力を数値として表したまえ……ステータスオープン!」

 ボワンッ! 呪文に反応するように、青白い光が手帳に発生する。そして、ペンが自動で手帳の上を滑っていき、サラサラと何かの文章を記しているようだった。

(これが、当時のステータスオープンか。なかなかすごい技術だなぁ)

 感心しながら見守っていると、まるで間違いでも見つけたように、ブーケが目を見開いて手帳を何度も確認している。

「ハチ……あなた、一体? いえ、けどステータスオープン呪文が間違えるはずないし」

 首を傾げて、ステータスオープン魔法が失敗した可能性を探るブーケ姫。あんなに自信たっぷりで行なった魔法なのだから、大丈夫だと思ったのだが。やはり、現代では機械任せになっているくらいだし、難しい技術なのだろうか。

「ブーケ姫様、何か不備でもありましたか? もしかすると、魔法に使ったペンのインクが足りなかったとか」

 メイドさんがブーケ姫をフォローするために、他に原因がないか調べて回る。直接紙に文字を書き出すタイプの魔法のため、ペンやインクなどのアナログな道具に不備があった場合には失敗することもあるだろう。

「ううん、数値が足りないわけじゃないのよ。ほら、見てちょうだい、この数値」

 どうやら、ブーケ姫的には道具に不備があるとは考えていないようだ。そういえば、オレの犬目線から見てもサラサラとペンが手帳を滑っていて、スムーズに自動手記されていた気がする。では、一体何が引っかかっていると言うのだろうか。

「はい、では失礼して……。ええと、使い魔ランクSチワワのハチ。魔力数値、は、はちじゅうはちまん、はっせんんんっ? こ、これは一体っ。このデータ、この可愛いらしい子犬ちゃんの魔力数値ですよねぇ。あぁっこれが聖なる獣のオチカラなのでしょうか」

 魔族のはずなのに、思わず神に祈るメイドさん。せっかく、普通のチワワとしてやっていきたかったのに、運命の神様はオレを放っておいてくれないみたいだ。
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