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第1章
第17話 キスの予行練習03:庭師アルサルの初めては不意打ちに【前編】
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しばらくして、ヒストリア王子の腹違いの弟であるアルサルが、中庭の噴水にやって来た。交代制のデートだから、少しだけ休憩時間を挟んでのデート開始。
ウェーブがかった栗色の髪を靡かせながら駆け寄るアルサルに、思わず胸がキュンと鳴る。この二日間ですっかりアルサルに対する印象が変わってしまった。完全に異性として、意識するようになってしまっている。
おそらく、あの大胆な告白を受けなくても、きっと私の心は彼に傾いていっただろう。
「ガーネット嬢、ごめん。待った? あれっオレがあげたストール、あんなところに。まったく、あのバカ兄貴だろう。子供っぽいんだから! 寒くなかったか?」
先程は、ヒストリア王子がアルサルのことを子供っぽいと言っていたのに。当のアルサルは、兄のことを子供だと思っているようだ。
「大丈夫よ、ストールごめんね。私の身長じゃあの天使像の高さにあるもの取れなくて」
「いや、ストールの方は別にいいんだよ。大切なのは、ガーネットの身体だし……そうだ! こうして……」
キュッ! と、突然アルサルに抱きしめられて、びっくりしてしまう。あたたかい心地よいアルサルの温もりが、お互い洋服を着ていても伝わってくる。
とくん、とくん。聞こえてくる胸の鼓動は、距離が近い証拠。アルサルに正面から抱きしめられて、ちょうど彼の唇が私のおでこに当たるような位置。
私が肩を出していたからアルサルが心配してプレゼントしてくれたストールは、ヒストリア王子の魔法で風に流されて今は天使像の手の中だ。その剥き出しの肩をあたためる行為だということが分かっていても、心臓は恋のトキメキで高鳴るばかり。
あれっ? いま、私ってなんて言った? 恋のトキメキ……って表現したような。
そうだ……私は自分でもう少しずつ気付いていた。急速に私の心は、アルサルのことを『好き』になりつつあることに。けれど、それはお花で例えるとまだ蕾のような恋心で、完全に花開くかはまだ分からない段階だった。
「あったかいね、アルサル。けど、ちょっと恥ずかしいかな?」
「ごっごめん! なんていうか、浮かれててつい……。ずっと、自分の身分を明かせなかったし、告白してデート出来る日が来るなんて思わなかったから」
チュッ! と、音を立てて不意打ちにおでこにキスされる。アルサルの形の良い男らしい口元が、イタズラに笑う。ゴメンと言いつつ、行動はすでに向こうが仕切っている。
確か、おでこのキスは友情のしるしのはず。私とアルサルの仲は、現時点でそれくらいだとヒストリア王子も言っていた。
けれど、けれど……実際にされると、とてもじゃないけど、友情で行うようには思えないんですけどぉぉおおっ!
「アルサルってば、恥ずかしいっ。『おでこ』とは言え、ふ……不意打ちのキスだなんて!」
「そんなことじゃ、乙女剣士になんかなれないんじゃないかって。ふふっ予行練習した方が、いいと思うよ!」
「もうっ私のこと、からかって! とっても真剣に、明日ファーストキスをどうしたらいいのか悩んでいたのにっ」
すると、さっきまでからかっていたアルサルの瞳がピクリと動いて、真剣な眼差しにシフトする。あれっ。何か私って、アルサルのこと怒らせるようなこと言ったっけ?
「その……ガーネット、まずは落ちついて話そう。座って」
「う、うん。どうかしたの、アルサル?」
取り敢えずヒストリア王子と語り合った方向と、逆側に設置されたベンチに座りお話することに。けど、しばらく沈黙が続き、噴水から流れる水の音だけが聞こえていた。
「その、もしかして。さっきの話が本当だとすると……。ガーネットって、明日の仮契約のキスがファーストキスなんだ?」
「えっ……ええ。当たり前じゃない! 体裁上は私ってヒストリア王子の婚約者だったから、他に恋人なんて作れるはずないし。実際は、ほとんど婚約破棄扱いされてたけど。今回、アルサルの身分が判明してようやく、他の男性とのフラグが立ったのよ」
気のせいかも知れないが、ゴクリと緊張して、アルサルが喉を鳴らす音が聞こえた気がする。
「えっと、つまり、あのバカ兄貴……いやヒストリア王子とは、まだキスとかしていなかったってこと? よく自室で会っていただろう? 例えばさ、デート中に膝枕してあげたり、ケーキとかをアーンして食べさせたり……そういうことをしていたんじゃ」
「まさか! ヒストリア王子が紳士っぽく、手の甲にキスしてくれたことはあったけど。すっごく品の良い、清らかなお付き合いしかしていないんだからっ」
よく考えてみれば、自室でデートだなんてどういうお付き合いをしているかは想像にお任せするしかないわけで。アルサルの脳内設定では、私とヒストリア王子はイチャラブ関係だと思い込んでいたらしい。
「そ、そうだったのか。オレの中では、兄貴の恋人を奪い取る系の方向性で話が固まっていたから。てっきり2人は、そういう仲かと……そうか、あの兄貴がね。どうりで兄貴が天使扱いされていると思ったら、手を出してなかったとは……。なんか、ホッとしたよ」
「私って、まだ清らかな乙女なのに、世間じゃすでにヒストリア王子とあれこれしているイメージだったんだ。なんだか、ちょっとだけショックかな?」
「ゴメン、傷つけるつもりはなかったんだ。ただ、自分の伴侶になる女性の身辺は知っておきたいだろう」
一応、まだヒストリア王子とアルサルのどちらと結婚するかは不明瞭なハズだけど。既に、アルサルの中では私とアルサルのカップリングで結婚するシナリオに突入しているようだ。
「だからね、さっきも話したけど明日の契約がファーストキスになっちゃうの。ヒストリア王子が、ファーストキスは一生の思い出に残る大切なものだから、真剣に考えた方が良いってアドバイスしてくれて……」
「あの兄貴が、そんなまともなことを……いや一応賢者だしな。たまにはまともなことを言うのか。それで、ガーネットの気持ちは決まったの?」
「ふぇっっ。気持ちって……」
「オレとヒストリア、どっちとファーストキスするのかって話」
「き、決まっていないから、こうしてデートして気持ちを確認しているわけで」
「そっか。けど、明日の儀式の日じゃきっと兄の権利でヒストリアが相手だよな。なのに、自分で決めるようにってことは……今、決めろって意味だと思うよ」
「兄の権利、そういえばデートの順番も年功序列で決めたんだっけ。どうしよう……全然気がつかなかったわ。もうすぐデートタイムが終了するのに、今更気付くなんて……!」
儀式でファーストキスをする場合は、必然的に相手はヒストリア王子になる。だから、アルサルを選びたければ、デート中に決めるようにとの意味だったようだ。
「ガーネット、兄貴の許可も出てるみたいだし。今、ここで予行練習じゃなく、本当にオレとファーストキス……しよう」
最初は冗談めいて話しているのかと思いきや、アルサルはとても真剣な眼差しで。天使像が見守る中、不意打ちで近づく距離に思わず目を瞑ってしまう。
(どうしよう! まだ、心の準備が出来ていないのに。このままファーストキスしちゃうの?)
――私の唇とアルサルの唇が触れ合うまで、あと数ミリ。
ウェーブがかった栗色の髪を靡かせながら駆け寄るアルサルに、思わず胸がキュンと鳴る。この二日間ですっかりアルサルに対する印象が変わってしまった。完全に異性として、意識するようになってしまっている。
おそらく、あの大胆な告白を受けなくても、きっと私の心は彼に傾いていっただろう。
「ガーネット嬢、ごめん。待った? あれっオレがあげたストール、あんなところに。まったく、あのバカ兄貴だろう。子供っぽいんだから! 寒くなかったか?」
先程は、ヒストリア王子がアルサルのことを子供っぽいと言っていたのに。当のアルサルは、兄のことを子供だと思っているようだ。
「大丈夫よ、ストールごめんね。私の身長じゃあの天使像の高さにあるもの取れなくて」
「いや、ストールの方は別にいいんだよ。大切なのは、ガーネットの身体だし……そうだ! こうして……」
キュッ! と、突然アルサルに抱きしめられて、びっくりしてしまう。あたたかい心地よいアルサルの温もりが、お互い洋服を着ていても伝わってくる。
とくん、とくん。聞こえてくる胸の鼓動は、距離が近い証拠。アルサルに正面から抱きしめられて、ちょうど彼の唇が私のおでこに当たるような位置。
私が肩を出していたからアルサルが心配してプレゼントしてくれたストールは、ヒストリア王子の魔法で風に流されて今は天使像の手の中だ。その剥き出しの肩をあたためる行為だということが分かっていても、心臓は恋のトキメキで高鳴るばかり。
あれっ? いま、私ってなんて言った? 恋のトキメキ……って表現したような。
そうだ……私は自分でもう少しずつ気付いていた。急速に私の心は、アルサルのことを『好き』になりつつあることに。けれど、それはお花で例えるとまだ蕾のような恋心で、完全に花開くかはまだ分からない段階だった。
「あったかいね、アルサル。けど、ちょっと恥ずかしいかな?」
「ごっごめん! なんていうか、浮かれててつい……。ずっと、自分の身分を明かせなかったし、告白してデート出来る日が来るなんて思わなかったから」
チュッ! と、音を立てて不意打ちにおでこにキスされる。アルサルの形の良い男らしい口元が、イタズラに笑う。ゴメンと言いつつ、行動はすでに向こうが仕切っている。
確か、おでこのキスは友情のしるしのはず。私とアルサルの仲は、現時点でそれくらいだとヒストリア王子も言っていた。
けれど、けれど……実際にされると、とてもじゃないけど、友情で行うようには思えないんですけどぉぉおおっ!
「アルサルってば、恥ずかしいっ。『おでこ』とは言え、ふ……不意打ちのキスだなんて!」
「そんなことじゃ、乙女剣士になんかなれないんじゃないかって。ふふっ予行練習した方が、いいと思うよ!」
「もうっ私のこと、からかって! とっても真剣に、明日ファーストキスをどうしたらいいのか悩んでいたのにっ」
すると、さっきまでからかっていたアルサルの瞳がピクリと動いて、真剣な眼差しにシフトする。あれっ。何か私って、アルサルのこと怒らせるようなこと言ったっけ?
「その……ガーネット、まずは落ちついて話そう。座って」
「う、うん。どうかしたの、アルサル?」
取り敢えずヒストリア王子と語り合った方向と、逆側に設置されたベンチに座りお話することに。けど、しばらく沈黙が続き、噴水から流れる水の音だけが聞こえていた。
「その、もしかして。さっきの話が本当だとすると……。ガーネットって、明日の仮契約のキスがファーストキスなんだ?」
「えっ……ええ。当たり前じゃない! 体裁上は私ってヒストリア王子の婚約者だったから、他に恋人なんて作れるはずないし。実際は、ほとんど婚約破棄扱いされてたけど。今回、アルサルの身分が判明してようやく、他の男性とのフラグが立ったのよ」
気のせいかも知れないが、ゴクリと緊張して、アルサルが喉を鳴らす音が聞こえた気がする。
「えっと、つまり、あのバカ兄貴……いやヒストリア王子とは、まだキスとかしていなかったってこと? よく自室で会っていただろう? 例えばさ、デート中に膝枕してあげたり、ケーキとかをアーンして食べさせたり……そういうことをしていたんじゃ」
「まさか! ヒストリア王子が紳士っぽく、手の甲にキスしてくれたことはあったけど。すっごく品の良い、清らかなお付き合いしかしていないんだからっ」
よく考えてみれば、自室でデートだなんてどういうお付き合いをしているかは想像にお任せするしかないわけで。アルサルの脳内設定では、私とヒストリア王子はイチャラブ関係だと思い込んでいたらしい。
「そ、そうだったのか。オレの中では、兄貴の恋人を奪い取る系の方向性で話が固まっていたから。てっきり2人は、そういう仲かと……そうか、あの兄貴がね。どうりで兄貴が天使扱いされていると思ったら、手を出してなかったとは……。なんか、ホッとしたよ」
「私って、まだ清らかな乙女なのに、世間じゃすでにヒストリア王子とあれこれしているイメージだったんだ。なんだか、ちょっとだけショックかな?」
「ゴメン、傷つけるつもりはなかったんだ。ただ、自分の伴侶になる女性の身辺は知っておきたいだろう」
一応、まだヒストリア王子とアルサルのどちらと結婚するかは不明瞭なハズだけど。既に、アルサルの中では私とアルサルのカップリングで結婚するシナリオに突入しているようだ。
「だからね、さっきも話したけど明日の契約がファーストキスになっちゃうの。ヒストリア王子が、ファーストキスは一生の思い出に残る大切なものだから、真剣に考えた方が良いってアドバイスしてくれて……」
「あの兄貴が、そんなまともなことを……いや一応賢者だしな。たまにはまともなことを言うのか。それで、ガーネットの気持ちは決まったの?」
「ふぇっっ。気持ちって……」
「オレとヒストリア、どっちとファーストキスするのかって話」
「き、決まっていないから、こうしてデートして気持ちを確認しているわけで」
「そっか。けど、明日の儀式の日じゃきっと兄の権利でヒストリアが相手だよな。なのに、自分で決めるようにってことは……今、決めろって意味だと思うよ」
「兄の権利、そういえばデートの順番も年功序列で決めたんだっけ。どうしよう……全然気がつかなかったわ。もうすぐデートタイムが終了するのに、今更気付くなんて……!」
儀式でファーストキスをする場合は、必然的に相手はヒストリア王子になる。だから、アルサルを選びたければ、デート中に決めるようにとの意味だったようだ。
「ガーネット、兄貴の許可も出てるみたいだし。今、ここで予行練習じゃなく、本当にオレとファーストキス……しよう」
最初は冗談めいて話しているのかと思いきや、アルサルはとても真剣な眼差しで。天使像が見守る中、不意打ちで近づく距離に思わず目を瞑ってしまう。
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