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正編
05
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ルーイン伯爵邸では、神よりお告げを受けてそのまま倒れた御令嬢ヒメリアを診てもらうため、医師を呼んでいた。
「病気などはありませんが疲労が溜まっているのは確かです。神経衰弱の一種かも知れませんな、うむ。念のため、数日の間は外出を控えるように」
「あぁっ……では、お嬢様の身体は良くなるのですね。本当にここまでご足労、ありがとうございました!」
お告げの反動で倒れた伯爵令嬢ヒメリアは、医師の診断により数日の自宅療養を言い渡された。決定的な肉体の不調は認められないが、神経衰弱の状態に陥っていると推定されたからだ。
「神様、私に生きるチャンスを与えてくださって感謝致します」
ベッドに横たわり時折、聖書を片手に祈りを捧げる療養生活は、ヒメリアが修道院希望者であることを使用人達に判らせる良い機会だった。
「失礼します……ヒメリアお嬢様、ご希望の卵粥とリンゴです。この数日の間ずっと粗食ばかりですが、以前のようにシェフ自慢の料理を食べても良いんですよ」
「心遣い、ありがとう。でもね、私思うんだけど、今からこうして質素な暮らしに慣れていかなくてはいけないと考えているの。それに卵粥もリンゴもこの館の使用人が私のために用意してくれた大事な食料だわ。私にとっては、この家の食べ物はぜんぶ御馳走よ」
「あぁ……お嬢様、本当にこのまま修道院へ?」
療養当初は豪華な食事が多数運ばれていたが、将来的に修道院へと移動する予定のヒメリアは粗食を希望して今では質素な卵粥とリンゴしか食べない。すっかり変わり果てたヒメリアに、将来の王妃となるヒメリアの結婚を心の底から楽しみにしていたお付きのメイドは、酷く落ち込んでいる様子だった。
するとさらに追い討ちをかけるように、新たな情報をもってメイドがヒメリアの部屋の戸を叩いた。どうやら、王宮サイドからヒメリア宛に封書が届いたようだ。
「ヒメリアお嬢様、哀しいお知らせです。王宮サイドもお告げが本物であると確信されたそうで、お嬢様と王太子様の婚約破棄を認めるとか……」
「そう。とても残念だけど、これは私が神様から命じられた運命なの。結果的に我がルーイン家も救われるはずよ」
うわべはヒメリア自身も王太子との婚約破棄を残念がる素振りを見せているが、内心は自分を遅かれ早かれ裏切る王太子と縁が切れた方が良いと感じていた。
(どうせ既に裏では聖女フィオナと良い関係となり、私の暗殺を企てているはずだわ。あんな男の顔なんて、二度と見たくない)
「実は、最後に王太子クルスペーラ様が、自らヒメリアお嬢様のお見舞いをしたいと。修道院への移動がしやすくなるように、許可証を発行してくださるそうです」
「えっ……王太子様が自ら? そ、そう分かったわ」
ようやくこの島国を出られるとヒメリアとしてはホッとしていたのに、何を思ったのか王太子自らお見舞いに来るという。
(一体、どういった風の吹き回しかしら。それとも聖女フィオナの洗脳魔法は、まだ完全には王太子達に効いていない?)
* * *
時を同じくして、婚約破棄後の修道院送りという恩情の計画は、ヒメリア殺害を切望する聖女フィオナとその取り巻きにも伝えられる。
「ひぃいいいいっ。ヒメリア嬢は気が狂れてしまったのだろうか。自ら婚約破棄を申し出て、次期王妃の座をフィオナ様に譲るだなんて」
「おかしい、ヒメリア嬢と聖女フィオナ様は面識がなく、それどころか聖女フィオナ様の存在自体知らぬはずだが」
「神がいるのだよ、この島には神がいるんだっ。本物のっ!」
伯爵令嬢ヒメリアはご神託に従うという体裁を得て、島国から逃げることとなった。だが、ヒメリアと同じくタイムリープの記憶を持つ聖女フィオナだけは、この展開を認めようとしない。
「一体どうなっているの、この五回目の転生はっ。これじゃあヒメリアに【ざまぁ】出来ないじゃないっ。悪魔憑きとの理由で、一度は閉じ込められていた私のたった一つの生きがい。あの女の泣き叫ぶ姿だけが、魔力の源となるのにィイイイ。きぃいいいっ」
パキンっ!
聖女フィオナの美しくネイルアートされたピンク色の爪が折れる。それは、フィオナ自身の苛立ちによって自らの口で爪を噛み切った音だ。いや、爪の音にしては大きく、不自然なほど。
そしてその『何か』が割れる音は、伯爵令嬢ヒメリアが断罪される悲劇の運命が、僅かに壊れ始めたことを示すようだった。
「病気などはありませんが疲労が溜まっているのは確かです。神経衰弱の一種かも知れませんな、うむ。念のため、数日の間は外出を控えるように」
「あぁっ……では、お嬢様の身体は良くなるのですね。本当にここまでご足労、ありがとうございました!」
お告げの反動で倒れた伯爵令嬢ヒメリアは、医師の診断により数日の自宅療養を言い渡された。決定的な肉体の不調は認められないが、神経衰弱の状態に陥っていると推定されたからだ。
「神様、私に生きるチャンスを与えてくださって感謝致します」
ベッドに横たわり時折、聖書を片手に祈りを捧げる療養生活は、ヒメリアが修道院希望者であることを使用人達に判らせる良い機会だった。
「失礼します……ヒメリアお嬢様、ご希望の卵粥とリンゴです。この数日の間ずっと粗食ばかりですが、以前のようにシェフ自慢の料理を食べても良いんですよ」
「心遣い、ありがとう。でもね、私思うんだけど、今からこうして質素な暮らしに慣れていかなくてはいけないと考えているの。それに卵粥もリンゴもこの館の使用人が私のために用意してくれた大事な食料だわ。私にとっては、この家の食べ物はぜんぶ御馳走よ」
「あぁ……お嬢様、本当にこのまま修道院へ?」
療養当初は豪華な食事が多数運ばれていたが、将来的に修道院へと移動する予定のヒメリアは粗食を希望して今では質素な卵粥とリンゴしか食べない。すっかり変わり果てたヒメリアに、将来の王妃となるヒメリアの結婚を心の底から楽しみにしていたお付きのメイドは、酷く落ち込んでいる様子だった。
するとさらに追い討ちをかけるように、新たな情報をもってメイドがヒメリアの部屋の戸を叩いた。どうやら、王宮サイドからヒメリア宛に封書が届いたようだ。
「ヒメリアお嬢様、哀しいお知らせです。王宮サイドもお告げが本物であると確信されたそうで、お嬢様と王太子様の婚約破棄を認めるとか……」
「そう。とても残念だけど、これは私が神様から命じられた運命なの。結果的に我がルーイン家も救われるはずよ」
うわべはヒメリア自身も王太子との婚約破棄を残念がる素振りを見せているが、内心は自分を遅かれ早かれ裏切る王太子と縁が切れた方が良いと感じていた。
(どうせ既に裏では聖女フィオナと良い関係となり、私の暗殺を企てているはずだわ。あんな男の顔なんて、二度と見たくない)
「実は、最後に王太子クルスペーラ様が、自らヒメリアお嬢様のお見舞いをしたいと。修道院への移動がしやすくなるように、許可証を発行してくださるそうです」
「えっ……王太子様が自ら? そ、そう分かったわ」
ようやくこの島国を出られるとヒメリアとしてはホッとしていたのに、何を思ったのか王太子自らお見舞いに来るという。
(一体、どういった風の吹き回しかしら。それとも聖女フィオナの洗脳魔法は、まだ完全には王太子達に効いていない?)
* * *
時を同じくして、婚約破棄後の修道院送りという恩情の計画は、ヒメリア殺害を切望する聖女フィオナとその取り巻きにも伝えられる。
「ひぃいいいいっ。ヒメリア嬢は気が狂れてしまったのだろうか。自ら婚約破棄を申し出て、次期王妃の座をフィオナ様に譲るだなんて」
「おかしい、ヒメリア嬢と聖女フィオナ様は面識がなく、それどころか聖女フィオナ様の存在自体知らぬはずだが」
「神がいるのだよ、この島には神がいるんだっ。本物のっ!」
伯爵令嬢ヒメリアはご神託に従うという体裁を得て、島国から逃げることとなった。だが、ヒメリアと同じくタイムリープの記憶を持つ聖女フィオナだけは、この展開を認めようとしない。
「一体どうなっているの、この五回目の転生はっ。これじゃあヒメリアに【ざまぁ】出来ないじゃないっ。悪魔憑きとの理由で、一度は閉じ込められていた私のたった一つの生きがい。あの女の泣き叫ぶ姿だけが、魔力の源となるのにィイイイ。きぃいいいっ」
パキンっ!
聖女フィオナの美しくネイルアートされたピンク色の爪が折れる。それは、フィオナ自身の苛立ちによって自らの口で爪を噛み切った音だ。いや、爪の音にしては大きく、不自然なほど。
そしてその『何か』が割れる音は、伯爵令嬢ヒメリアが断罪される悲劇の運命が、僅かに壊れ始めたことを示すようだった。
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