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正編
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「では、出発致しましょう。まずは、港近くの飛空挺乗り場まで」
ガラガラ、ガラガラ……。
走り出した馬車の中では馬が土を蹴る音を聞きながら、静かに深呼吸するヒメリアの姿があった。自慢の長髪を襟足ほどの長さまで短く切った彼女は、ようやく悲願叶って追放される安堵を味わっているようにも見えた。
「ヒメリア様、飛空挺は風の向きによって、いくらか揺れると聞いております。今から、酔い止めのお薬を飲んでおいた方が、無難ですわ」
ふと、お付きの新人メイドが薬入れのポーチから小さなカプセルを取り出し、隣で座るヒメリアに【それ】を手渡す。その仕草は半ば強引で、無理やりでも、薬を飲ませたいという意思が感じられる。
「えっ……酔い止めの薬? ごめんなさい、私って初めての薬は念のため控えているの」
「そうでしたか、ヒメリア様。警戒心がお強いですのね、けれど……甘いですわっ」
「きゃあっ!」
ドスッ! ヒメリアの首に突然、何かの注射が打ち込まれる。メイドの狙いはヒメリアに薬を飲ませることではなく、薬に気を取られている隙に彼女の首筋に麻酔薬を打つことだった。
(うぅ……頭が朦朧とする。ピリピリとした不思議な感覚、身体が動かない!)
「ヒヒーン! ブルルッ」
(外から馬の悲鳴、馬車が止まった?)
「残念でしたわね、ヒメリア様。貴女を島から出さないようにと、聖女フィオナ様から命じられております。まぁ表向きは、海外へ向かう旅路の途中で、行方不明になった設定になるのでしょうが」
どうやらメイドも馬車の運転手も両方、聖女フィオナサイドの人間だったようで、馬車が急に止まってしまう。
「そ、そんな……! 私をこれからどうするつもり、このまま殺すの?」
「さあ? この後の処遇は聖女フィオナ様がお決めになるので、私の預かり知ることではありません。ですが……どうやら、お迎えが来たようですわね」
「迎え……あうっ」
ズシャァアアアッ!
メイドは暗殺者が本業なのか、いきなりヒメリアの頭を掴んで、馬車のドアから外へと放り投げた。
『命令です。悪魔の化身ヒメリアをここで、亡き者にしなさいっ』
何処からともなく、若い娘の声が聞こえてきて、ヒメリア抹殺を命じる。おそらく聖女フィオナがどこかで指示を出しているのだろう。
すると待ち構えていたかのように、別の黒ずくめの暗殺者が、ヒメリアを羽交い締めにする。そしてメイドの手には、ギラリと光る鋭いナイフが。
「この世は、神が選ばれし聖女フィオナ様のシナリオに、全て従わなくてはいけないっ。フィオナ様のシナリオから外れようとする輩は……死ねぇええっ」
身体が痺れて動けないヒメリアが抵抗できるはずもなく、万事休すと思われた時。突然魔法の詠唱が聞こえて、ヒメリアと暗殺者が引き離された。
ズガァアアアアンッ!
(あれっ? 私、まだ生きているの。誰かが私を庇ってくれたんだわ。暗殺者から守るようにして、杖を持つあの後ろ姿は……まさか!)
「くぅっ! この魔法防壁は、一体……。おっお前はまさか、クルスペーラ王太子? 何故だっ聖女フィオナ様の洗脳で、すっかり木偶人形になっているはず」
「これでも王太子という肩書のほかに、王家直系の魔法使いなんでね、舐めないでもらいたい。けれど、いずれは洗脳により理性を失う身。となれば、遠慮は要らない。思う存分、暴れさせてもらうとしよう」
窮地に陥ったヒメリアを魔法により救い出したのは、一度は別れを告げたはずの『元・婚約者クルスペーラ王太子』だった。
ガラガラ、ガラガラ……。
走り出した馬車の中では馬が土を蹴る音を聞きながら、静かに深呼吸するヒメリアの姿があった。自慢の長髪を襟足ほどの長さまで短く切った彼女は、ようやく悲願叶って追放される安堵を味わっているようにも見えた。
「ヒメリア様、飛空挺は風の向きによって、いくらか揺れると聞いております。今から、酔い止めのお薬を飲んでおいた方が、無難ですわ」
ふと、お付きの新人メイドが薬入れのポーチから小さなカプセルを取り出し、隣で座るヒメリアに【それ】を手渡す。その仕草は半ば強引で、無理やりでも、薬を飲ませたいという意思が感じられる。
「えっ……酔い止めの薬? ごめんなさい、私って初めての薬は念のため控えているの」
「そうでしたか、ヒメリア様。警戒心がお強いですのね、けれど……甘いですわっ」
「きゃあっ!」
ドスッ! ヒメリアの首に突然、何かの注射が打ち込まれる。メイドの狙いはヒメリアに薬を飲ませることではなく、薬に気を取られている隙に彼女の首筋に麻酔薬を打つことだった。
(うぅ……頭が朦朧とする。ピリピリとした不思議な感覚、身体が動かない!)
「ヒヒーン! ブルルッ」
(外から馬の悲鳴、馬車が止まった?)
「残念でしたわね、ヒメリア様。貴女を島から出さないようにと、聖女フィオナ様から命じられております。まぁ表向きは、海外へ向かう旅路の途中で、行方不明になった設定になるのでしょうが」
どうやらメイドも馬車の運転手も両方、聖女フィオナサイドの人間だったようで、馬車が急に止まってしまう。
「そ、そんな……! 私をこれからどうするつもり、このまま殺すの?」
「さあ? この後の処遇は聖女フィオナ様がお決めになるので、私の預かり知ることではありません。ですが……どうやら、お迎えが来たようですわね」
「迎え……あうっ」
ズシャァアアアッ!
メイドは暗殺者が本業なのか、いきなりヒメリアの頭を掴んで、馬車のドアから外へと放り投げた。
『命令です。悪魔の化身ヒメリアをここで、亡き者にしなさいっ』
何処からともなく、若い娘の声が聞こえてきて、ヒメリア抹殺を命じる。おそらく聖女フィオナがどこかで指示を出しているのだろう。
すると待ち構えていたかのように、別の黒ずくめの暗殺者が、ヒメリアを羽交い締めにする。そしてメイドの手には、ギラリと光る鋭いナイフが。
「この世は、神が選ばれし聖女フィオナ様のシナリオに、全て従わなくてはいけないっ。フィオナ様のシナリオから外れようとする輩は……死ねぇええっ」
身体が痺れて動けないヒメリアが抵抗できるはずもなく、万事休すと思われた時。突然魔法の詠唱が聞こえて、ヒメリアと暗殺者が引き離された。
ズガァアアアアンッ!
(あれっ? 私、まだ生きているの。誰かが私を庇ってくれたんだわ。暗殺者から守るようにして、杖を持つあの後ろ姿は……まさか!)
「くぅっ! この魔法防壁は、一体……。おっお前はまさか、クルスペーラ王太子? 何故だっ聖女フィオナ様の洗脳で、すっかり木偶人形になっているはず」
「これでも王太子という肩書のほかに、王家直系の魔法使いなんでね、舐めないでもらいたい。けれど、いずれは洗脳により理性を失う身。となれば、遠慮は要らない。思う存分、暴れさせてもらうとしよう」
窮地に陥ったヒメリアを魔法により救い出したのは、一度は別れを告げたはずの『元・婚約者クルスペーラ王太子』だった。
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