ループ五回目の伯爵令嬢は『ざまぁ』される前に追放されたい

星井ゆの花(星里有乃)

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初めてのループ

04

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 ぽつり、ぽつり、と空から溢れた雫。
 ペリメーラ島の女神が涙を流す時、島中に雨が降り注ぐと伝えられている。まだ、この島が女神信仰だった頃の遠い遠い言い伝えだ。
 そして、クルスペーラ王太子の花嫁候補が集められたその日は、女神の哀しみを現すように予定にない雨が降り続いた。


 * * *


 島民の花嫁候補者が全員集まったところで、王宮花嫁候補室の幹部がはじまりの言葉を述べる。幹部の男性は王宮御用達の行儀見習いの先生で、花嫁候補達の中で誰が最も王妃に相応しい女性か見極める係でもあった。
 当初の予定では、一旦談話室に集合して外の庭園で食事をするはずだったが、既に外では雨が降っている。

「今日は皆様お集まりいただき、誠にありがとうございます。あいにくの天気により予定を変更して、庭園ではなくこのまま談話室で交流を行う形となりました」

 気がつけば、このまま談話室で食事会が出来るように、カートで次々と料理が運び込まれている。メイドが慌ただしくテーブルに料理を並べているところを見ると、ついさっきまでは庭園に運ぶ予定の料理だったのだろう。

『雨、だって……もしかすると、女神様が泣いていらっしゃるのかしら?』
『そんなの大昔の御伽噺でしょう。この島はとっくの昔に女神信仰では無いわよ』
『しっ……幹部に聴こえちゃうわ!』

 スピーチから遠く離れた席の御令嬢達がヒソヒソと、今回の雨について女神の涙だと噂し始めた。こう言う時の耳の良さは不思議なもので、そのヒソヒソ話を咎めるように咳払いをしてからスピーチが続けられる。

「おほんっ。クルスペーラ王太子の花嫁候補に選ばれたと言うことは、国の代表者の候補に選ばれたも同然。若い皆様が良い淑女になるよう努力に励みますよう、我々王宮花嫁候補室としてもサポート致しましょう。では……クルスペーラ王太子から挨拶がございますので、しばしお待ち下さい」

 王太子を含めての会合は立食パーティーの形式を想定しているようで、ヒメリアが想像していたお茶会よりもカジュアルになりそうだった。

『えー結局、立食パーティーってこと? あーあ、上手いこと王太子様とお隣の席になって、お嫁になりたかったなぁ』
『心理学的には、お隣の席の人と仲良くなる訳では無いらしいよ。もっと会話しやすい斜め前とかのポジションがいいんだって』
『そんなの迷信よ。好感度が高くなければ、どの位置にいたって恋愛に発展しませんわ。まぁ、私は相手の意に任せて自分からグイグイ行くのはしませんけどね』

 恋愛に関心のある年頃の御令嬢は、雑学やら一般論やらを語り合ってそれなりに愉しんでいる様子。おそらくメンバーの中で最も幼いヒメリアからすると、ずっと立ちっぱなしの立食形式は足が辛いところがある。

「ヒメリア様は、この中で最年少ですし。座りたくなったら後方の席で休んでいても大丈夫ですよ」
「あっはい。ありがとうございます。まだ平気です」
「そうですか、では王太子様がいらっしゃるまではそのままでお願いします」

 しばらくすると、ようやくクルスペーラ王太子が談話室に入室してきた。サラリとした金色の髪と、透き通る青い瞳は浮世離れしていてまるで生きている少年なのかと疑うほどだ。

 ザワザワ、ザワザワ……!

『本物よ……! 本物のクルスペーラ王太子だわ』
『やだっ。写真で見るよりも何百倍もお美しい』
『ああ、あんなに王太子様が麗しいなんて。私、もっとオシャレしてくれば良かったぁ』

 想像を上回る美しさのクルスペーラ王太子の登場に、感嘆の声が挙がっていく。
 王太子のことは遠巻きで見たことがある程度だったヒメリアからすると、初めて至近距離で見る彼は天使がこの場に舞い降りたのかと錯覚するほどだった。絶世の美少年と評判となっているのは、次期国王へのお世辞ではなく本気の評価なのだと確信する。

「一応初めまして……と挨拶した方がいいのかな。次期国王候補のクルスペーラです。今日は、僕と同世代の女の子からもっと幼い少女まで、花嫁候補として集まってくれて嬉しく思うよ。まずは、友人としてみんなと仲良くなれたらいいと思っている。よろしくっ」

 ニコッとクルスペーラ王太子が微笑むだけで、その場に花が咲くような圧倒的存在感。一体誰に微笑いかけたのかというだけで、ちょっとした揉め事が起こりそうなほどだ。

(なんだかクルスペーラ王太子って、住む世界が違う方みたい。私、場違いだったのかしら?)

 数年後にヒメリアが年頃になってから気づいたのは、この時わざわざ立食形式を採用したのは複数の花嫁候補達を王太子との席の近さで予想させないための配慮だということ。極力揉めないように、上手く交流をさせるように……実に王宮側も気を遣っていたのだろう。
 その配慮すら、大陸から王妃を娶りたいと考える派閥からすれば無意味なのだが、この頃はまだ平和で。暗部が内密に動いていることにすら、気がつく機会は無かった。
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