ループ五回目の伯爵令嬢は『ざまぁ』される前に追放されたい

星井ゆの花(星里有乃)

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波乱のループ二周目

02

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 魔女が復活したことにより島の時間が戻り、ヒメリアは亡くなったはずのカシス嬢宅にて行われる宝石会に招かれた。カシス嬢の家は島の鉱山を所有しており、加工などをして宝石を売る商人でもあった。花嫁候補会の一環として、宝石会を行う意味は、貴族同士の交流とビジネスの輪を広げる意味もあるのだろう。

「おおっルーイン伯爵夫人! 待ち兼ねましたぞ。いやぁ流石に貴女はパーティーの華だっ。エスコートしてもよろしですかな」
「ふふっ。そんなふうに誉めて、どうせ他の奥様達にも似たようなこと言ってるんじゃない?」
「いえいえ、ルーイン伯爵夫人だけですよ」

 いつも以上におめかしをして、馬車で辿り着いた場所は初めて訪問するバルティーヤ邸だ。既に室内では盛り上がっているグループがいるようで、酒を飲み交わしながらの笑い声が響いている。

「まぁヒメリアちゃん。今日は一段と可愛らしいわ、いらっしゃい。もうクルスペーラも屋敷に来ているのよ」
「はっはい、カシスさん。お邪魔します……」

 ルーイン伯爵夫人にはバルティーヤ卿が、幼いヒメリアにはカシス嬢が自ら出迎えてくれたが、死んだはずの人間と話すという違和感がヒメリアを硬らせた。胸元の大きく開いたドレスは、豊満な揺れる胸と赤い宝石が目を惹くようにデザインしているようだ。けれど、一度は死んだ人間の身体かと思うだけで、ヒメリアは震えが出てしまう。
 いつも以上に硬くガチガチになるヒメリア見て、カシス嬢は慣れない宝石会で緊張しているのだろうと判断し、明るくもてなすように心がける。

(ふふっ。ヒメリアちゃんったら子供ながらにも、私が付けている今日の宝石が特別な品だって気づいちゃってるのかも。今はまだ小さいけれど、将来は美人になるだろうし。我が宝石商の良いお客さまになってくれたら良いのだけど)

 カシス嬢のその態度はとても堂々としていて、まるで既に自分がこの花嫁会の中では他の人とは違うと、次期王妃であるかのような振る舞いだった。未だ幼いヒメリアのことは、元からライバルとすら考えてないようで、気になる御令嬢といえばやはり同世代だった。

 すると、クルスペーラ王太子がカシスの後ろから現れて、到着した御令嬢の人数を数えて『あと二人か……』と計算をしていた。

「やぁヒメリアちゃん、こんにちは。きょうは大人の人達がメインの会だから、子供のキミは僕が面倒を見ることになっているんだ。部屋で宝石の本を読んであげるからおいで、後で中央大陸から来た女の子も到着すると思うよ」
「こんにちは、クルスペーラ王太子様。宝石の本ってどんな感じなのかしら?」
「宝石と魔法に纏わる伝説や神話との関わりについて載っているものだよ。さあ、おいで」

 クルスペーラ王太子がヒメリアの手を繋いで部屋へと誘導しようとすると、すかさずカシス嬢が晒されっぱなしの胸をクルスペーラ王太子の腕にグイッと絡ませて引き止めた。ヒメリアは子供ながらに、随分とカシスお姉さんはベタベタと王太子様にくっついているなと感じる。

「あら、クルスペーラ。もう部屋に行ってしまうの?」
「大人達が酔う姿を小さい子に見せない方がいいと思ってね、先に部屋へ行ってるよ」
「そう……今日はお客様は泊まっていく方が多いけど、用事が済んだら部屋にいらして下さいな」
「……分かったよ。そうする」

 普段見せないような艶っぽい目配せと甘えるような声で、カシス嬢はクルスペーラ王太子を自らの寝室に誘う。クルスペーラ王太子も満更ではない様子で、恥ずかしそうに了承をしていた。


 * * *


 ヒメリアが子供用の部屋でクルスペーラ王太子に本を読んで貰っていると、赤い髪をした美少女がドアを開けて入室して来た。

「クルスペーラ王太子、遅くなってごめんなさい。えぇと、貴女は……?」
「ヒメリア・ルーインです。初めまして……貴女の名前は……?」

 ヒメリアは一瞬、フィオちゃんと名を呼びかけたが、少女はフィオと非常によく似ていながらも、別人と分かる態度と表情だった。

「私の名はフィオリーナ、今は【フィオナ】という名前よ。訳があって、ファミリーネームは教えてあげられないけど、一応中央大陸の貴族階級出身よ。まずは、年上のライバル達を蹴落とすために、共同戦線と行きましょう!」

 フィオナは大人びた表情で、声色も話す内容も歳に似合わない生意気なものだった。まるでフィオの中に、別の魂が入ってしまったような不思議な感じだ。

「えっ? ライバル……何の話」
「ふふっ。他の女を出し抜いている女豹のこと、そしてそれを、これから私達二人で蹴落とすということよ」
「おやまぁ、フィオナちゃんは随分とオマセさんだね」

 クルスペーラ王太子はヒメリアと違って、マセた話に関心がある様子のフィオナに苦笑いしつつも、内心はヒヤヒヤしていた。
 そしてそう遠くない将来、本当にライバルを蹴落とし始めるのだが、それはヒメリアにとって想定外の展開が始まる予兆に過ぎなかった。
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