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波乱のループ二周目
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しおりを挟む紆余曲折を経て憧れのダイヤモンドを自分のものにしたレイチェル嬢は、毎日うっとりとした瞳で取り憑かれたようにダイヤモンドを鑑賞するようになった。博物館の特別展示品として預かっている品ではあるが、実質はバルティーヤ家から管理の座を奪ったことになる。
「うふふ……幻のダイヤモンドは私のもの。王太子様の結婚相手の座も私のもの……」
レイチェル嬢は博物館の開館時間が終わってから、掃除の手伝いという言い訳を作り、毎日ダイヤモンドに触っては自分が王妃になることを夢見るようになった。
以前のレイチェル嬢は特別次期王妃という肩書きに関心なく、もっとさっぱりとした性格だったはずだ。
彼女が変わるきっかけになったのは、クルスペーラ王太子が大人の男になるための【夜伽の儀式】の相手役として親友のカシス嬢が選ばれた頃からだった。
『クルスペーラ王太子も、いよいよ大人の仲間入りか。けれど、そういうことの相手役がまさか花嫁候補会の所属者になるとはね』
『王妃を娶る前に儀式的に女を知るためのものだとばかり思っていたが、カシスが初めての相手じゃ……もう王妃様もカシスで決まりかね』
『何でも、今からカシス嬢に媚を売る連中も増えているらしいわよ。やあねぇ……計算高くて』
高級娼婦や王宮勤めの巫女あたりがお役目を果たしそうなものだが、王太子の初めての相手役として白羽の矢が当たったのは花嫁候補会に所属するカシス嬢だ。
同じ年頃の若い娘ならレイチェルもいたのに、レイチェルもカシスに負けず劣らずの美貌の持ち主であるはずなのに。周囲の風当たりが強くなるにつれて、選ばれなかったレイチェルの心は荒んでいく。
その一方で、カシス嬢はどんどん横柄になっていき、以前の優しくしっかり者のカシスは何処かに消えてしまった。レイチェルの親友カシスは、王太子の夜伽の相手に選ばれた頃から消えてしまったのだ。
名目上の儀式が済んでからも、王太子とカシスは度々身体を結ぶようになり、特にカシスは関係を他の人々にひけらかす様になっていった。
* * *
ある日のことだ。
わざわざクルスペーラ王太子が泊まりにくる日を選んでレイチェルを自宅に招き、お泊まり会を開いたことがあった。
『レイチェル、次のお休みの日……スケジュール空いているかしら? うちに泊まりにいらっしゃいよ。レイチェルにはいつも良い宝石をたくさん買って貰っているし、親友なんだしたまにはご馳走したいわ』
『えっ……うん、いいけれど。次のお休みの日ってクルスペーラ王太子も、カシスの家に来るんでしょう。お邪魔じゃないかしら……』
『ふふっ。気にしないでちょうだいな、彼ったら大人の男になりたてでちょっとはしゃいでいるのよ。たまには他の人も家に泊めて、自制心を養って貰わないと』
口先では自制だ何だ言っていたカシスだが、いざレイチェルが泊まりに来るとこれみよがしに王太子との仲を見せつけてきた。夕食のチキンの取り皿を仕切り、自らのフォークでクルスペーラ王太子に幾度も食べさせて、レイチェルの目がありそうな場所で口付けを交わす。
(もう嫌だわ、カシスは他の花嫁候補に辞退して欲しいのね。だったら、そういえばいいのに)
心に嫌な気持ちを溜め込みながら風呂に入り、借りている部屋で就寝……というタイミングで隣の部屋から声が聞こえてきた。
『ああんっ。もう、クルスペーラったら、あ、あ……慌てないでよ』
『どうだ、だいぶ僕も慣れてきただろう? いいだろう』
『ひゃあんっ。仕方がないわね……来て。ああっは、あっあっ!』
カシスの高い嬌声が響く。
レイチェルが隣の部屋で泊まっているのをカシスは知っているはずだが、カシスは分かってて声が聞こえやすい部屋で王太子とベッドを共にし始めた。
ことが終わり、くだらない話の中でカシスがクスクスと笑ってレイチェルの話題を出す。
『レイチェルも可愛らしいけど、色気がないのよねあの子。いつも落ち着きがなくてキョロキョロしてて、お転婆は卒業する年なのに。あれじゃあ、最年少のおチビちゃんといい勝負だわ』
『そういう言い方は良くないよ、カシス。レイチェルはきっと……まだ色ごとに疎いだけだろう。ところで、本当に将来はレイチェルを自分のお付きとして雇いたいのかい。本人には話したのかい?』
『ふふっ。だって、あの子生真面目に花嫁候補会を抜けないんですもの。せっかく社交界デビューの年齢なのに、お嫁に行くチャンスを逃したわ。けど、私に一生使われるようになった方があの子のためよ。きっと、他に嫁げたとしても色気がなくてすぐに浮気されちゃうわ!』
(えっ……カシスは私のこと、親友じゃなくて使用人にするために親しくしてたんだ。友達だと思っていたのは私だけだったんだ。そっか……)
この日を境に、明るく元気なレイチェルは消えた。
それ以来、急速にレイチェルとカシスの仲は冷え込んでいき、レイチェルはあらゆるところでカシスの悪い噂を立てるようになった。いつの間にか彼女達は、呪われた王族の花嫁候補に相応しい壊れた人格になっていったのである。
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