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波乱のループ二周目
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ヒメリアやフィオナに、同じ花嫁候補会のレイチェルが会を抜けて海外留学するという情報が入ったのは、彼女が旅立つ前日だった。
「レイチェルさんは、クルスペーラ王太子の花嫁候補になるのを諦めて、自分探しの旅に出るそうです。とはいえ、何も目標なく旅に出るのも良くないとまずは海外留学からスタートされるとか。結婚以外の未来を検討する者が現れるとは、現代的になって来たということでしょう」
「神父様、その話は本当何ですか? 出発はいつ頃になるんでしょうか」
「明日の午前には船で島を出るそうなので、花嫁候補会のみんなで見送りをしようという話が出ています。ヒメリアさんもフィオナさんも、明日は教会での勉強よりレイチェルさんの見送りを優先して下さい」
花嫁候補者の中ではまだ幼い二人は、教会で聖書や行儀見習いの勉強をしている。二人にレイチェルの旅立ちを知らせたのも、教会の神父経由だった。神父が用事のために部屋を立ち去ると、ヒメリアとフィオナは先程のお知らせについて、ヒソヒソと話し合う。
「フィオナちゃん。やっぱりレイチェルお姉さんって、宝石会の時にもカシスお姉さんと揉めてたみたいだし。喧嘩が原因で島を出ていくのかなぁ?」
「あの二人。最近は、幻のダイヤモンドを巡ってさらに揉めていたって噂だし、どちらかが出ていくしか解決策がなかったんじゃないの」
「自分探しの旅なんて言い方して、結局追い出されちゃったってことなの?」
ヒメリアが素朴な疑問をフィオナにぶつける。この先もカシスが気に入られなければ、他の花嫁候補も追い出されると思ったからだ。
「うーん……追い出されるって言うのとは、ちょっと違うんじゃない。追放命令って、きちんと上の命令で文書とかでくるらしいよ。何となく雰囲気が悪いから、空気をよんで……って感じなんじゃない?」
追い出されるとは俗に言う追放のことだが、レイチェルは別にクルスペーラ王太子やカシスから直接追放命令を喰らった訳ではない。あくまでも自分の意思で島を出ていくのであれば、自分探しの旅の出たくなったという理由で合っている。
「空気をよむかぁ……フィオナちゃんは相変わらず、大人みたいなことを言うね。けど、これから先、カシスお姉さんとお話しするのちょっと怖くなっちゃったな。でも、ずっと嫌な思いをするくらいなら、私も空気をよんで島を出ちゃおうかな?」
「ヒメリアの年齢で島を出て自分探しの旅なんて、まだ早いわよ。それに、私とヒメリアは誰も花嫁候補者が残らなかった場合の最終手段何だから、おいそれと島から出す気はないはずよ」
大陸からやって来たフィオナは、オマセさんと呼ばれていただけあってヒメリアよりも自分達を取り巻く環境を理解していた。最年少の二人は、いわば万が一の時の保険扱いである。そうそうすぐに、他所へと行かせるわけにはいかないのだろう。
「えっ……私達だけは、追放されたりはしないの? そっか、でも私……生きているうちにこの島以外の景色を見てみたかったなぁ」
「自分から追放されたいなんて、意外とヒメリアって変わっているのね。中央大陸なんて、貴女が考えているほどいいところじゃないのに。それとも、ずっとこの島にいるとそう言う考えも浮かんでくるのかしら」
* * *
「にゃーん」
「あっ猫」
次の日、レイチェルの見送りのために港へ向かうと、途中の道で猫が数匹ヒメリアとフィオナの元に近づいて来た。元々この港には地域猫が住んでいたが、どの猫も見慣れない模様の猫である。
「にゃあん」
「この猫達、なんだろう。最近島に来た子なのかな」
「ああ、この猫ちゃん達は魔女狩りと猫狩りから逃れて来た猫ちゃん達だよ。まだ大陸では魔女狩りや猫狩りをする地域があってね。有志が寄付したり里親を探して、猫ちゃんを安全な場所へと逃しているのさ」
ヒメリアの素朴な疑問に、猫の面倒を任せられているらしい船乗りさんが答える。つまり、猫は大陸からこの島に逃げて来たと言うことらしい。
「私はいずれ島から出たいと思っていたのに、猫ちゃん達は大陸から追放されてペリメーラ島に来たんだね」
「はははっ! 猫を追放か。まぁネズミ取りをしてくれる猫達を要らないなんて、変わった連中だよ。船の中でネズミに荷物をやられたり、食い散らかされたらたまったもんじゃない。自分を必要としてくれるところに、来たんだから運の良い猫ちゃん達だよ」
魔女狩りと聞いて、魔女の血を引くフィオナは終始ダンマリを決めていた。ヒメリアはそんなフィオナを実は人見知りで、親しい人としかおしゃべりしないタイプなのだろうとあまり気に留めなかった。
旅立つレイチェルを見送る人々の中に、彼女と最も親しかったはずのカシスの姿はない。結局、彼女達は仲直りをしないまま離れることになった。
「レイチェルお姉さん、大陸でも元気でねっ」
「たまには、花嫁候補会にお手紙ちょうだい」
「レイチェル、頑張りすぎて無理しちゃダメよ」
「ありがとう、みんな。行ってきます!」
ヒメリアやフィオナ……他の見送りの人々の声と混ざって、かもめの声が響く。船が進んでいくその先には、青い空と風が旅立ちの景色を鮮やかに彩る。やがてレイチェルを乗せた船は海の向こうに小さくなって、その姿さえ見えなくなった。
さて今回の結果は、何度タイムリープを繰り返してもレイチェル個人の人生としては、いずれ海外留学をすることになり、結果は変わらない。けれど、こういう形で離脱者が出たことの他者への影響は大きく、花嫁候補会から離脱する人の数は増え続ける。
それからあっという間に月日は経ち、ついに花嫁候補会はヒメリアとフィオナの二人きりとなっていた。
「レイチェルさんは、クルスペーラ王太子の花嫁候補になるのを諦めて、自分探しの旅に出るそうです。とはいえ、何も目標なく旅に出るのも良くないとまずは海外留学からスタートされるとか。結婚以外の未来を検討する者が現れるとは、現代的になって来たということでしょう」
「神父様、その話は本当何ですか? 出発はいつ頃になるんでしょうか」
「明日の午前には船で島を出るそうなので、花嫁候補会のみんなで見送りをしようという話が出ています。ヒメリアさんもフィオナさんも、明日は教会での勉強よりレイチェルさんの見送りを優先して下さい」
花嫁候補者の中ではまだ幼い二人は、教会で聖書や行儀見習いの勉強をしている。二人にレイチェルの旅立ちを知らせたのも、教会の神父経由だった。神父が用事のために部屋を立ち去ると、ヒメリアとフィオナは先程のお知らせについて、ヒソヒソと話し合う。
「フィオナちゃん。やっぱりレイチェルお姉さんって、宝石会の時にもカシスお姉さんと揉めてたみたいだし。喧嘩が原因で島を出ていくのかなぁ?」
「あの二人。最近は、幻のダイヤモンドを巡ってさらに揉めていたって噂だし、どちらかが出ていくしか解決策がなかったんじゃないの」
「自分探しの旅なんて言い方して、結局追い出されちゃったってことなの?」
ヒメリアが素朴な疑問をフィオナにぶつける。この先もカシスが気に入られなければ、他の花嫁候補も追い出されると思ったからだ。
「うーん……追い出されるって言うのとは、ちょっと違うんじゃない。追放命令って、きちんと上の命令で文書とかでくるらしいよ。何となく雰囲気が悪いから、空気をよんで……って感じなんじゃない?」
追い出されるとは俗に言う追放のことだが、レイチェルは別にクルスペーラ王太子やカシスから直接追放命令を喰らった訳ではない。あくまでも自分の意思で島を出ていくのであれば、自分探しの旅の出たくなったという理由で合っている。
「空気をよむかぁ……フィオナちゃんは相変わらず、大人みたいなことを言うね。けど、これから先、カシスお姉さんとお話しするのちょっと怖くなっちゃったな。でも、ずっと嫌な思いをするくらいなら、私も空気をよんで島を出ちゃおうかな?」
「ヒメリアの年齢で島を出て自分探しの旅なんて、まだ早いわよ。それに、私とヒメリアは誰も花嫁候補者が残らなかった場合の最終手段何だから、おいそれと島から出す気はないはずよ」
大陸からやって来たフィオナは、オマセさんと呼ばれていただけあってヒメリアよりも自分達を取り巻く環境を理解していた。最年少の二人は、いわば万が一の時の保険扱いである。そうそうすぐに、他所へと行かせるわけにはいかないのだろう。
「えっ……私達だけは、追放されたりはしないの? そっか、でも私……生きているうちにこの島以外の景色を見てみたかったなぁ」
「自分から追放されたいなんて、意外とヒメリアって変わっているのね。中央大陸なんて、貴女が考えているほどいいところじゃないのに。それとも、ずっとこの島にいるとそう言う考えも浮かんでくるのかしら」
* * *
「にゃーん」
「あっ猫」
次の日、レイチェルの見送りのために港へ向かうと、途中の道で猫が数匹ヒメリアとフィオナの元に近づいて来た。元々この港には地域猫が住んでいたが、どの猫も見慣れない模様の猫である。
「にゃあん」
「この猫達、なんだろう。最近島に来た子なのかな」
「ああ、この猫ちゃん達は魔女狩りと猫狩りから逃れて来た猫ちゃん達だよ。まだ大陸では魔女狩りや猫狩りをする地域があってね。有志が寄付したり里親を探して、猫ちゃんを安全な場所へと逃しているのさ」
ヒメリアの素朴な疑問に、猫の面倒を任せられているらしい船乗りさんが答える。つまり、猫は大陸からこの島に逃げて来たと言うことらしい。
「私はいずれ島から出たいと思っていたのに、猫ちゃん達は大陸から追放されてペリメーラ島に来たんだね」
「はははっ! 猫を追放か。まぁネズミ取りをしてくれる猫達を要らないなんて、変わった連中だよ。船の中でネズミに荷物をやられたり、食い散らかされたらたまったもんじゃない。自分を必要としてくれるところに、来たんだから運の良い猫ちゃん達だよ」
魔女狩りと聞いて、魔女の血を引くフィオナは終始ダンマリを決めていた。ヒメリアはそんなフィオナを実は人見知りで、親しい人としかおしゃべりしないタイプなのだろうとあまり気に留めなかった。
旅立つレイチェルを見送る人々の中に、彼女と最も親しかったはずのカシスの姿はない。結局、彼女達は仲直りをしないまま離れることになった。
「レイチェルお姉さん、大陸でも元気でねっ」
「たまには、花嫁候補会にお手紙ちょうだい」
「レイチェル、頑張りすぎて無理しちゃダメよ」
「ありがとう、みんな。行ってきます!」
ヒメリアやフィオナ……他の見送りの人々の声と混ざって、かもめの声が響く。船が進んでいくその先には、青い空と風が旅立ちの景色を鮮やかに彩る。やがてレイチェルを乗せた船は海の向こうに小さくなって、その姿さえ見えなくなった。
さて今回の結果は、何度タイムリープを繰り返してもレイチェル個人の人生としては、いずれ海外留学をすることになり、結果は変わらない。けれど、こういう形で離脱者が出たことの他者への影響は大きく、花嫁候補会から離脱する人の数は増え続ける。
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