ループ五回目の伯爵令嬢は『ざまぁ』される前に追放されたい

星井ゆの花

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干渉縞が生じるループ

02

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 ようやくヒメリアが病気から快復したところで、これまでのタイムリープとは異なる状況になった。

 中央大陸のレオナルド公爵から、ヒメリア宛に求婚の手紙が届いたのである。
 ルーイン邸自慢の中庭では、病み上がりのヒメリアを囲んで母親とメイド長、家庭教師らがお茶会と言う名の会議を開いていた。

「凄い、流石ですわ。ヒメリアお嬢様! まさかあのレオナルド公爵様から、求婚されるなんて。幼い頃から、花嫁教育を受けてきた成果があったというものです」
「けれど、メイド長。今のところはクルスペーラ王太子の花嫁候補として登録しているのに、どうしてこのタイミングで中央大陸からこんなお誘いがあるのかしら」

 南国に相応しく美容にも良いとされるハイビスカスティーを飲みながら、黙って話を聞いていたヒメリアだったが、周囲の人間のあまりの興奮ぶりに不安を覚えて疑問を口に出す。

「このタイミングだからこそ、です。もし、クルスペーラ王太子との将来に不安がおありなら、これまでの花嫁候補のように辞退という手段も取れますわね」
「辞退……そうなると、フィオナだけが残って自然と上手く収まるのね。けど、王宮の目もあるし」

 体裁上、ヒメリアはペリメライド国の王妃になる確率がかなり高いポジションにおり、表向きはすぐに他所からのお見合いを受けることは出来ない。だが、この数年の間に王妃候補から離脱し、海外に渡ったり大陸でお見合いをして嫁いだ者がいたのも事実。
 何よりも万が一、王妃候補から漏れた場合の行先が決まっていないと、将来に困るのではないかという懸念もあった。


「本当に、メイド長の言う通りよヒメリア。他のお妃候補達は候補から漏れた時の逃げ道を確保してから離脱したけど、我がルーイン家はそういったルートが無かったじゃない。けど、中央大陸の公爵家はペリメライド国の王族と遠縁でもあるし、離脱ルートとしては一番カドが立たないコースだわ」

 レオナルド公爵からの求婚は、クルスペーラ王太子と婚姻する以外に全く希望がないとされていたヒメリアにとって、渡りに船といったところだ。

「つまり、中央大陸側からすると私に上手く王妃候補から離脱させて、フィオナに王妃の席に着いて貰いたいのよね。その方法が、全ての人が幸せになれる手段なのであれば、そちらの方がいいのだけど……」

 ヒメリアの心を蝕んでいたタイムリープの悪夢は、ヒメリアが王妃となり脱落したフィオナが魔女として断罪されるというもの。その悪夢がただの夢なのか本当に時間軸が繰り返されているのか、その時のヒメリアには判断出来なかった。
 だが、悪夢が正夢になるくらいならば、自分は王妃にならなくても良いと思うくらいには、タイムリープの記憶はヒメリアの心に浸透していた。


 * * *


 時を同じくして、ペリメライド国王宮内にある花嫁候補会役員も間でも、中央大陸のレオナルド公爵がヒメリアに結婚話を持ちかけたという話題で持ちきりだった。


「ヒメリア・ルーインに求婚した男がいる? しかも、その相手はレオナルド公爵だと」
「はい。中央大陸といえば、もう一人の花嫁候補であるフィオナ嬢の出身地です。あちら側の計画では、もともとフィオナ嬢が我がペリメライド国の王妃になる予定だと思われます。ヒメリア嬢の引き取り先として自ら名乗り出ても、不思議ではないのでは?」

 レオナルド公爵の行動は暗にフィオナ嬢を王妃にするように、という圧迫をかけてきたと思われても仕方のないものである。

「ふむ……確かに、ヒメリア嬢の引き取り先が決まってしまえば、消去法でフィオナ嬢に王妃は確定しますな。しかし、まさか公爵様自ら名乗り出るとは参りました」
「しかし、わざわざフィオナ嬢を王妃にさせるために、公爵様がそこまでするのは不思議でなりませんね」
「ルーイン邸に派遣しているメイドからの報告によると、以前からヒメリア嬢の信仰や内面に心が惹かれていたとか。確かに、ヒメリア嬢の聖書の読み解きは、まるで聖女の生まれ変わりのようだと幼い頃から話題でしたし。複雑な信仰の歴史を持つ中央大陸公爵が、是非彼女を妻として迎えたいと考えてもおかしくはない」

 複雑な歴史、即ち中央大陸で長く行われていた魔女狩りや異端審問を指しているのだろうと、その場にいる誰もが気づいた。
 だが、教会信仰者の中には今もなお魔女を悪と見做し、異端審問を正義と考える者も隠れているため、そのことについて深く触れようとはしなかった。この中にも潜んでいるであろう狂った信仰を続ける者に、どうでもよい理由で目をつけられたくないからだ。


「問題はクルスペーラ王太子が、中央大陸側が主導を握るであろう流れを是と思えるかどうか……ですな」

 およその見解がまとまったところで、クルスペーラ王太子の性格をよく知る教育係が独り言のように呟く。そして、その予感は見事に的中しているのであった。
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