公爵令嬢エイプリルは嘘がお嫌い〜断罪を告げてきた王太子様の嘘を暴いて差し上げましょう〜

星井ゆの花(星里有乃)

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 フェナス王太子の影武者ゴシェナイトと、その恋人の聖女イミテが辺境地に追放されて一年が経った。
 一時期は影武者ゴシェナイトに第一王太子の座を奪われていたフェナスだったが、影武者事件から一年を区切りとして婚約者である公爵令嬢エイプリルと結婚することになった。

 久しぶりに幸せなニュースの号外が発行されて、国民も景気が良くなると大喜びだ。しかし、影武者暴露事件が起こったパーティー出席者はまだ一年前の事件を忘れているわけではなく、度々振り返っては話題に上る。


『フェナス王太子も、いよいよ結婚かぁ。例の事件から一年待ったというのは、もしかすると二卵性双生児の双子の片割れゴシェナイトさんとその恋人のイミテさんが世間に赦されるのを待ったのかもな』
『私は影武者だったゴシェナイトさんも、被害者だと思うわ。だって、王家に不吉な双子というだけで片方を影武者に変えてしまったのでしょう。変な習慣をずっと引きずっていた王宮も悪いのよ』
『けど、実はフェナス王太子が体調を崩す度にしょっちゅう入れ替わっていたんだろう? 幼いころなんか、途中でどっちがどっちだか分からなくならなかったかなぁ?』


 身体に聖なる魔力を蓄える神聖魔法は、時として術者本人をも蝕んでいくとされている。そんな神聖魔法の使い手一族であるフェナス王太子は、特に幼少期は頻繁に体調を崩していた。
 しょっちゅうフェナス王太子と影武者ゴシェナイトが入れ替わっていたと仮定すると、確かにどちらが本物の第一王太子なのか区別がつかなそうではある。
 殆どの国民はそのことについてそれ以上深く考察しなかったが、事件を担当した警部だけはずっとそのことが頭に引っかかっていた。

「何故、公爵令嬢エイプリルはわざわざあんな茶番をしてまで、影武者ゴシェナイトの正体を引き摺り出して、フェナス王太子との入れ替え劇を人前で演じたのだろう?」

 一年経っても気がかりは消えず、事件担当警部の特権で王宮の古いデータベースから、双子の王子について何か判別方法が残されていないかどうか、調べることにした。


【神聖歴2008年04月01日】
 婚約者であるエイプリル嬢の誕生日パーティーの日だが、本物のフェナス王太子は熱のせいで欠席となった。仕方なく、影武者ゴシェナイトにパーティーに出てもらうことにする。
 はしゃいだエイプリル嬢を庇って、影武者ゴシェナイトが手のひらに怪我を負った。エイプリル嬢はよりによって影武者ゴシェナイトのことを命の恩人だと思っているようだ。

【神聖歴2008年05月10日】
 残酷なことに影武者ゴシェナイトの手のひらの傷は、一生残ってしまうようだ。しかし、考えようによってはフェナス王太子と影武者ゴシェナイトの判別方法が出来たと言える。
 手のひらの傷はくっきりと大きな十字架を描いていて、王家が罪を背負っていると神が警告しているように感じられた。

【神聖歴2014年04月01日】
 本物のフェナス王太子が入院することになったため、入れ替わりの期間が長くなることになった。だが、エイプリル嬢は手のひらに傷のある影武者ゴシェナイトの方を偉く気に入っているようでしきりに、『お帰りなさい、もう嘘をつかないでね』と繰り返していた。
 王宮の上層部は、長期入院のフェナス王太子について会議の場を設けて、もし万が一の時にはそのまま影武者ゴシェナイトがフェナス王太子だということにしようと結論づけたそうだ。
 そんなことをするくらいなら、王子が双子であることを公表して、二人とも大事に育てればいいのに……と、私は思った。だが、余計な口出しをして職を失い家族を養えなくなるのを恐れて何も言えなかった。


「途中で終わっているな、この日記。しかし、手のひらに十字架の傷か……」


 フェナス王太子の初代教育係が残した日記は、途中で終わっていた。いろいろと多くを知り過ぎたため辺境地に移動になったが、元気にやっているとのことだ。
 警部は日記の内容から察するものがあったが、やはり保身のためさらには家族のために、何も見なかったことにしてデータ保管室を後にした。


 * * *


 フェナス王太子とエイプリル嬢の結婚式は、神聖魔法国家フェナカイトでは最も古い修道院に付属している聖堂を借りて行われた。事情はよく分からないが、王宮側が相談した結果その場所が最も相応しいと指定したらしい。
 一説によると、影武者ゴシェナイトはそこで長いことお世話になっていたため、恩のある彼らと縁を続けるためにも結婚式の場に選んだのではないかと噂された。


「私、誓うわ。幼い頃、私を救うために手のひらに十字架の傷を負った貴方を一生、変わらず愛するって」
「本当に? キミは絶対に嘘をつかない人だからね。嬉しいよ、エイプリル」
「ふふっ。だって、私は……貴方が手のひらに十字架の傷を負った日から、【そのこと以外は嘘をつかない】と神様に願掛けしたのだもの。だから、嘘は……それ以外つけないわ」


 誓いの指輪を交換して、幸せそうな二人。

 かつて影武者ゴシェナイトとして幼少期を過ごした彼の手のひらには、彼の罪を咎めるための十字架が刻まれていた。
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