雪と月

𝓐.女装きつね

文字の大きさ
10 / 59

千円。

しおりを挟む

『待ち合わせや約束にやたら早く行く子だから出勤前の持て余した時間にいつも寄るパチンコ屋さんがあったんだよ』

ーー雪乃さんから聞いた話だ。

 東洋一の歓楽街、当時は若いオカマってのが随分とレアだったようで、そこで飲んでいる時に居合わせた男性に声をかれられ、週末のみをショーダンサーとして勤務していたらしい。

「雪乃ちゃぁん、もう少しで出そうなんだよ」

「あ、タエおばあちゃん。おはよー♪ ん? 千円でいいの?」

 そんなのが毎度毎度だったけれども、雪乃さんはなにやら自分の祖母のように思っていたから、と返してもらおうとは考えていなかったらしい。

 それが半年くらい続いた頃。

「雪乃ちゃん、ご飯。ごちそうするよ、いつも助けてもらっているから。ね、いいだろぉ?」

『ありがとうと待ち合わせた日曜日、居合わすなり大丈夫だからとタクシーに押し込められたんだけれど、当時は近場だと降ろされたり乗車拒否が当たり前だったから心配でね。
 ご馳走するって言っていたのだからタクシー代も出すつもりなのだろうけど、彼女が遠距離のお金やチップなんて持っていると思えなかったからさ』

 そしたらね、行き先も告げていないのに車がスーッって。『あれ……こんなタクシー乗った事ないぞ、なんか広くない? この車』

「せっかくだから、私の家でご馳走しようと思って。ごめんね、レストランとかの方が良かった?」

 好きだったんだろうなぁ、私。この人とご飯ならなんでもイイやぁってハシャいでいたら『キキィー』って車が止まって運転手さんが周ってドアを開けてくれた……んだけれどさ、

『え……ハイ? 何このバケモノみたいな門……』

「伺っていましたよ、雪乃さんですよね。初めまして、母にいつも優しくしてくださっているようで」

 そこからはね、大変だったんだよ。まぁ婿養子にされかけたり、分かりもしない能を見せられたり、不釣り合いなプレゼントくれようとしたりとか。

「タエおばあちゃん……18歳にクロコのバッグが似合うと思う? あ、でも相撲見物はまた行きたいな」

 大手ゼネコンなんかにも紹介してもらえてね、いや……何かその重役さん? スーツの下にブラジャーしていたオジサンだったけれど。

 けれど変態ブラジャーさんのおかげで最新建築に触れる機会が増えて、随分とスキルアップができたんだ。頭のイイ人に囲まれて死ぬかと思ったけど、それがなかったら高卒の私には遠い世界だったと思う。

 当時ね、◯○の母みたいな感じの手相占いさんにね、三人連続で言われたんだよ。

『あなたっ、運だけで生きていけるわっ!』

 その時はホメられている気が全っ然しなかったけれど、なんか最近はね『あ……そうかも』って。

ーーでもそれっていわゆる『バカ』って言われていませんか? 雪乃さん。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

バーチャル女子高生

廣瀬純七
大衆娯楽
バーチャルの世界で女子高生になるサラリーマンの話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ボディチェンジウォッチ

廣瀬純七
SF
体を交換できる腕時計で体を交換する男女の話

秘められたサイズへの渇望

到冠
大衆娯楽
大きな胸であることを隠してる少女たちが、自分の真のサイズを開放して比べあうお話です。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

性転のへきれき

廣瀬純七
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

処理中です...