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代償。
しおりを挟む『よろしくないヤツってのは存外おとなしいモノだからねぇ』と雪乃さんは散ったグラスを広げた布に摘まんでいる。忙しないテレビの電源を落とすかのよう、まるで " 何もなかった ” ように。
宴の席では良くある話なのだろう、今宵の様を見たなら女性ひとりで賄っている店舗には必ず後ろ盾があると聞くのもまるで頷ける話だ。
だけれど雪乃さんは盾があるワケでもなかろうに、言葉ひとつも無いまま容易く事を収めた。何事だったのかは分からないけれど、酔った男性がグラスを床に叩き付け、雪乃さんに手を伸ばしたんだ。だけれどその間、ほんの僅か長針の手前ほどであっさりと腕を下げ、ソイツは店を出ていった。
それは何も起きなかったと胸を撫でおろすべきなのだけれど、今ひとつ腑に落ちない。
『あの男性を何として収めたんだ、雪乃さん……』
戻る静粛の中で雪乃さんはゆっくりとテレビを消した……その姿に蘇った記憶。それはまるで冷えたアイスピックのように僕を貫いたんだ。
ーー雪乃さんから聞いた話だ。
生物、人間ってモノは必ず " 死ぬ ” 。明日が来るのが当たり前ではなくて、奇跡なのだと刻まれているかどうか……恐らくね、それが奥行きってヤツなんだよ。良く聞く “ 気迫、覇気 " なんてのも実は意味合いが違くてさ、『人を呪わば穴ふたつ』って言うでしょ? そう、相手をウンヌンじゃないんだよ。その事柄に迷いなく己の命を捨てる覚悟はあるかって事なんだけれどね……こればかりはねぇ、実体験無しではきっと纏えないんだよ。
「私はそんな大層なモンじゃないよ、……あ、でも知ってる? 千手観音って持っている半分は武器なんだよ、顔なんて11個もあるしね。醜悪なモノには容赦ナシだなんて全く有り難いのか疑わしいと思わない?」
ーー “ 記憶は魂の代償 ” 。アリストテレスとは意味違うのだろうけれど、雪乃さんとの記憶の代償……それは間違いなく僕の魂なのだろう。
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