36 / 59
竹取物語。
しおりを挟む行き着くまでに随分な時間を要したのは使いの洋装以外は処分しなくてはならない、ひとつモノの無い部屋にズカズカと荷物を散らかす気概に遠かった故なのだけれど、厄介なヤツが “ もうひとつ ” 。それを相手に僕は毎度奮戦を余儀なくされている。
まるでカラクリ箱のようだけれど、 “ 鍵 ” だ と言われたら確かにそうなのだろう。『少しマジナイをかけたんだよ』などと雪乃さんが猫の唇で宣うソレには鍵穴が存在していなくて、1度押し込んでから右に45度、手を離してさらにそこから90度。今度は取手を引き戻し、左に45度回転させて最後に押し込めば解錠されるという仕組みだ。
「そりゃ竹内金庫ほどではないけれどね、音や手応えを極限まで鞣したからそこらのヤツよりは上等さ」
まったく、拘る箇所が逸脱しているってモンだ。赤外線でもなきゃ攻略できない先には何ひとつ無い部屋があるだけなのだから。とは言え手合いを少し覚えたのだろう、近々は5分程度もあれば解けるようになっていた。
『……ん? 珍しいなコレは』
季節暮れる冷え込みから逃れようやく靴を揃えた時、玄関に舞う葉書に目が落ち “ どれどれコタツの上にでも置いていてあげよう ” かと触れた先に、まるで襟元で蜘蛛が這ったような違和感が走った。
それは雪乃さんが言うよう、きっと近しくなった事で触角が増えたのだろう。だけれどまるでミカドが戻るまでの時のよう、僕は目を開かずに箱舟を待つ事にしたんだ。
ーー雪乃さんから聞いた話だ。
「あぁ、京六さんからだね。判じ物でも真似たよう、彼なりの七七日の伝えなのだろうけれどさ」
ーー浅き春、桜と間違えど桃膨らます君が勝つのもしかたなしーー
「まったく11月だというのにさ、随分と遅配するものだよ。……桃というのはね、平安あたりだと不老不死の象徴、無双とか天下無敵って意味を表していてさ。それでもね、8年前まではしかりと切手が貼ってあったんだよ? 佳奈子先生の御親父は無病であればゆうに越えている年齢なはずなのだから、せざるをえないじゃないのさ。でも面白いと思わない? それからは毎度桃の葉弁がくっついているんだよ、まるで “ あちら側の切手 ” でもあるかのように」
ーー御親父まで待たせているのでは仕方がないものだと紫煙を揺らした雪乃さんの姿は、まるで木々の節穴奥底を覗くかのよう僕の瞼を漆黒に暈していった。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる