雪と月

𝓐.女装きつね

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死神。

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 午前四時。

 閉店わずか早いのだけれど、そこは自営の特権だと看板を落とす。まして独りなのだから誰に気を使うでもない。清々しい自己責任だ。

 エレベーターを降りた繁華街は連休明けの初夜に人通りは疎らで、似つかわしく無く澄んでいた。

 古今東西。得てして繁華街って場所は “ いわく付き ” は定石なのだけれど、それは私が帰路を辿るココも例と違わない。
 一等地に大きな公園が有り、そこは何者も建屋を作ら……いや作れないのだろうからまぁそれなりの土地なのだろうと推測できる。

 自宅までは徒歩で十分程。時折地域猫とじゃれ合っていたのだけれど、猫会議に巻き込まれてからは脚を向けていない。……だってヤツらってば私の事を “ 猫仲間 ” だと思い始めていやがったし。

ーー

 さて今宵も馴染みのコンビニに寄ってタバコを、と暇そうな呼び込みを横目に交差点に差し掛かろうとした時、不意に足元がグニャリと歪む。

『いつものアリス症候群にしちゃキツいな…って』

 捉えたモノが喉を掻く寸前、必死とそれを飲み込ませた。

 疎らとはいえ人々が行き交う交差点のド真ん中。初夏に似つかわしくないゴスロリ女性が闇の晴天に傘を差し立ち尽くしていたのだ。

 瞬時 “ 私には害は無い ” と見測るけれど、姿形、その鮮明さからすると厄介そうだと、気付かぬふりを決め込む事にした。

「お幾らになりますか?」

 すれ違いざま故意に肩を重ねた時、まるで直接意識に声をねじ込まれ、酔いに判断が面倒くさいと思わず立ち止まってしまった……『くそッ、バレた』

 " この空間から脱出する ”

 私は眼をつむり頭を切替えた。裏の裏、摂理に反するのならこちらはその中で私の世界を作ってしまえばいい。名付けるとしたなら “ ザ・ワールド ” かしら。

 歩数にしておそらく五、六百。小さな交差点が五箇所と大通りがひとつ。住処までのその区間、私は眼を深く瞑り脚を進め始めた。

 次第サーモグラフィのような世界が意識に構築される。おそらく先天の全盲者が見ている世界はコレなのだろう。これほどに見えているのだから恐怖心等懐きようもないモノだと独り納得し唇を遊んだ。

ーー

 それは私が構築した世界。 “ ゴスロリ少女 ” は入れない、認識及ば無いだろうとふんだ自己流身勝手な “ 心霊遊び ” だ。いや、そのハズである。

 信号機の色、行き交う人々。数秒行く手を遮る地域猫をサーモで認識しながら後ろ手に空間を閉じた。


「あ、お帰りなさい。雪乃さん」

『残念ね、ゴスロリさん。私の勝……』
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