捨てる神あれば拾う神あり こんな僕でいいってどこ見て言ってんの?

琴音

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三章 どこになにが潜んでるかは分からない

4.不安で

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「いってきます」
「いってらっしゃーい」

 僕は特に意味はないけど有休を取っていて、広翔に合わせて起きて、朝ご飯作って食べさせ見送った。有休を消化しないとマズイから時々ね。広翔を見送ってから洗い物をして、

「よし!寝る!」

 布団に入りうつらうつら。だけど寝られない。クソッ!一度覚醒すると寝られない。

「もういい!」

 ガバッと起き上がり、コーヒー淹れてソファに座る。朝のワイドショーを眺め……暇。サブスクに変えて映画を検索、適当に流していた。携帯を手に取り……ん?おお、数少ない僕の友だち山本だ。なになに?

「千広久しぶり!元気?俺結婚することになりました。案内状送るからよろしくね。また連絡します」

 そんな文面が書いてあった。ああ、そうだよねぇそんなお年頃だ。三十ちょっとなら……おめでとうって送り返した。
 結婚ねえ……僕には縁遠いどころか、無理。いつかそんな法律できたらな。
 結果、なにするわけでもなく夜になり、スーパーに行っただけとなった。

「ちーは俺の奥さん?旦那さん?だけど、そうだなあ書類的にはなんもないね。でも今の世間の盛り上がりならいつか……」
「うん」

 会社の誰かの結婚とか、こうやって連絡が来るたびに胸がチクリとする。

「ちーが大好き。それじゃダメ?」
「ダメじゃない」

 僕はギュッと広翔に抱きついた。ただ好き、ちーって呼んでくれるこの優しい声があればいいかな。

「ちー?」
「うん……」
「そんなにくっつくと暑い」
「あ、ごめん」

 お風呂上がりにベッタリは暑いね、すぐ離れた。

「俺はこれでいいんだ。ちーがこうして俺を大切にしてくれて、俺も大切にして。なんでもない日が続くんだ。よくない?」
「うん」
「穏やかに過ごせるだけでいい」
「うん」

 こんな時間で僕もいい。なにか欲しい訳でもないし、広翔と同じものを見て感じられればそれでいい。……と、思っていた。

「帰りが遅い。予定より遅い」
「あ、うん。ちょっと相談とか乗ってて」
「ふーん……」

 広翔の様子がおかしい。このところ毎晩遅い、遅いのは当たり前なんだけど、酒臭いし夕飯いらないって。

「ちー……そんな顔すんなよ。ちょっとチームのやつが弱っててさ。俺チームリーダーだから放置出来ないんだよ」
「分かってる」

 話によれば、スタッフの一人が激務にメンタルやられ始めてて、休みがちになっているそう。

「仕事は出来るやつなんだけど……無理してたんだろう。不規則な時間の出社もあるし、休みも不定期になりがちだから」
「うん」

 広翔は土日に休めるわけじゃない。祝日なんてもってのほか、他国と違うから、あっちこっち代休取ることが多い。だから僕は合わせたりするけど、やりきれはしない。平日はすれ違いも多いんだ。

「ちー、寂しいだろうけど、少し我慢して」
「……うん」

 不機嫌な僕をまぁまぁと抱いて、僕も仕方ないって我慢していた。そんなある日、

「あれ?広翔……?」

 僕も少し帰りが遅い日の繁華街、若い男性の肩を抱いて居酒屋へ。え?僕は何食わぬ顔して店の前をゆっくり歩き中を見た。
 ぐったりしてる若い子と、ニコニコなんか話しかけてる広翔。不安になって見える位置で遠くに下がり、誰か待ってるふりして見ていた。

 料理やお酒が出てきて、食べながらなにか話しかけて、でも相手の反応が悪く俯いてる。そのうち相手が泣きながら、泣きながら?なにか訴えてブチギレてた。なにごと?
 僕も電柱の影に隠れてて、いつまでここにいるんだよ。不審げに通り過ぎる人に見られていた。

 相手はキレて帰るとでも言ったのか立ち上がり、上着とカバンを掴んで店を出ようとしている。それを広翔が掴んで会計済ませて。

「待てよ!」
「やだ!何で僕の気持ちを受け入れてくれないんだ!こんなにも……うわーん」
「工藤……」

 僕は柱の陰に更に隠れた。なにこれ……

「工藤立てよ」
「やだ!」
「ほら…みんな見てる」
「いい!」

 どう見ても痴話喧嘩にしか見えない。広翔が腕を掴むと触んな!と怒鳴ってるし、いいからって無理やり立たせて歩き出した……かと思うとしゃがんじゃう。

「僕じゃダメなの?」
「ごめん」
「なら立たない」

 そんなのを繰り返しながら駅に向かっている。僕は隠れながら追う。何してるの僕は?とは思うけど、気になって帰ることが出来なかった。

「なら一晩でもいいよ。僕の虜にして見せる」
「……ムリ」
「どうしたら好きになってくれる?」
「うーん……」

 ふたりは花壇の縁に座ってしまった。広翔が疲れてゼーゼーしてきてるからだろう。とぎれとぎれの言葉しか聞こえないけど、これは修羅場だよね?

「ねえ!」
「……俺会社のヤツとは付き合わない主義なんだよ」
「曲げろよ!」
「ふう……」

 涙声で胸ぐら掴んで詰め寄ってるね。どうしようかなって頭を掻いて広翔はお手上げって雰囲気。

「俺は愛してる同居人がいる」
「知ってる!聞いたもん。僕にしてよ!」
「いや……そんな簡単なもんじゃ」

 僕若いしいい子だよ?会社を辞めてあなたの生涯の恋人になる。赴任先にもついて行くし、ずっと側にいて寂しい思いなんてさせない!だから!と怒鳴ってる。
 人通りの少ない辺りだけど、いないわけじゃないからギョッとされてる。男性同士だからね。

「広翔ぉ……」
「名前で呼ぶな、工藤」
「い…いやだ……僕を好きになってよ。千広よりずっと愛してるはずなんだ!」
「うーん……そんなことないと……」

 これは見ちゃいけないものだ、広翔は違う言い訳してたし……よし帰ろう。いつか話してくれるだろうから。と、目を離そうとしたらぶちゅう……と相手がしてる。あ、ああ……心臓バクバクで僕は走って逃げた。
 
 やだあ!広翔に触らないで!僕のだ!いやあ!

 電車に駆け込み急いで帰宅。風呂入っていて速攻布団に入った。笑顔でおかえりって言える自信がなくて、お腹空いてるはずなんだけど、もうどうでもいい。……でも、寝れるはずもなく。
 その後一時間以上経って物音がした。帰って来たようだ。ゴソゴソ、カタカタと音がしていると、シャワーの水が流れ出した。

 バカだな、こんなに聞き耳立ててたら寝られないのに。ギュッと目を閉じて布団を頭まで掛けていた。そのうち……うつらうつらとしだした頃、布団がはがれて隣に広翔が入って来た。

「ちー?寝ちゃった?」

 僕は寝た振りして返事も、動きもしなかった。

「寝たか……おやすみ」

 チュッと頬にキスが、ごめん。広翔は僕を抱いてちー大好きって、お酒の匂いがしてきた。
 高い体温を感じつつ、先程の現場を思い出していた。メンタルがではなく、言い寄られてたんだね。そりゃあ言い辛い、僕でも言わないだろうなあ。解決したら言ってくれるかもだけど、言わないかもね。

 べもその解決が、僕をいらねって言わない保証はない。ものすごく不安になった。何年も前のことなのに、元彼との辛かったことがフラッシュバックして、心臓がドクンドクンと早鐘のように鳴る。背中に張り付いてる広翔のスーッて寝息……これがなくなる?この幸せがなくなるの?ウソでしょ?

 悶々と不安に押しつぶされようとしているうちに、朝になってしまった、マジか。

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