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1 親は見ていた
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俺はなんとなく生きていた。世の中はこんなものだと悪い達観がどこかあって、そう、諦めにも似た感情。大きな川の流れに身を任せればいいくらいしか考えていなかった。
「イノシシ欲しい?」
この出会いが俺の人生を劇的に変えたんだ……
俺は何不自由なく育ててもらったが、最近「言葉にしにくいモヤモヤ」を感じていた。何に不満があるのか分からないんだ。
親も何かを強く求めてもこないし、上二人が優秀でさ。俺もそこそこ(たぶん)だが見劣り感は半端ない。
一番上は品行方正で顔までいい。真ん中は雰囲気は違うけど以下同文、そして普通の俺。体力だけが自慢で他は可もなく不可もなく普通に成人した。町で人気の二人のことを聞きたくて、たまに出かける町では俺に近づく人が多数だ。
「ねえねえクラウス様。ルーク様、もしくはシモン様の奥様はお決まり?」
「さあ……?」
なんて話しかけられることが多い。知らねえよ、本人に聞けだよ。実は二人とも心に決めた方がいるらしく、俺には話さないが親はゴソゴソと動き回っている。もうすぐ二人とも結婚するんだろう。使用人たちが「旦那様が近所に屋敷を探しているけど、誰かご結婚かしら」なんてのを小耳に挟んだし。
俺はこの「ぼんやり生きるのも悪くない」が「これは違う」とも。俺は頭の後ろで手を組み上を向いた。
「なにしようかなぁ」
「なにって……お仕事してください。商談がこれからありますから」
俺の側近のティオンは早く書類読んでくれと急かした。いやいや仕事はするけどさ。
「そうじゃなくてさ。お前は俺がここんちに必要と思う?」
え?と驚きキョトンとすると腕組みをした。そして目を閉じ悩む。
「現在はあれですが、今後は必要でしょうね。旦那様が引退すればいる意味は大きくなります。お兄様たちの補佐は重要なお仕事だと思います」
「でもさ。俺でなくてもできることだろ?お前でもできる業務だ」
「まあ、でも今我が商会は三人の評判が……」
「そこ違う。兄たちの人間的な評判と能力だ」
ティオンは「いつもの卑屈発言ですか?」と、本日の商談相手の説明をやめてため息をつく。いやいや、これは卑屈とかじゃないんだよ。後継ぎは上の長男ルーク、その補佐に二男シモンがいる。俺の存在意義がここにはない。ある意味誰でもできる業務の俺はそう感じるんだ。
うちの商会はそれほど大きいものじゃない。父さんたちが頑張ってたのは承知してるし、販路や新商品を近隣から集めて評判がいい。それを兄たちが若い人用の珍しい物を増やしたりしてさ。おかげで売り上げは上がっている。支店があるほどの規模じゃないが、身内も商人だからネットワーク的には支店あり?かな。
「俺裏方だしさ」
「あなたが表に出たくないと言って、裏方の卸だけにしたんじゃないですか」
「そうだけどさ。だって俺がいらっしゃいませって客を迎えるとな。あからさまにがっかりされるんだぞ。心折れるさ」
「まあ……」
最近の客は兄たち目当ての人ばかりなんだ。
二人とも深い青い瞳、なのに艶やかな黒髪で目鼻立ちはクッソ整っててさ。この国ではこの色が一番モテる特別な色で多くはない。大昔に貴族の血でもあったのか、うちの一族はこの色が出やすい。王族や貴族由来(王族は黒髪・青い瞳が当たり前)の証でもあるんだ。兄たちにもとより、家族に魔力はなく俺だけ。一族にも数人だ。
庶民の髪色、瞳の色は色とりどりだ。近隣諸国でも黒髪は王侯貴族のみ、どの国の王族もよその大陸から来た人たちなんだろうと思われている。庶民の歴史勉強はそこんところ習わないから不明。図書館にもそんな本はないからな。
「俺も金髪じゃなくて黒髪に生まれれば少しは違ったかな。魔力もあるし」
まあ多少は……と同じく金髪のティオンは俺を見つめた。でも顔立ち的に黒髪似合わない気がするかな?としげしげと俺を品定めする。そしてフンと鼻を鳴らし、
「お二人とは確かに違いますが、黒髪じゃなくてもクラウス様も素敵ですよ?」
「ありがと。でもな、絶世の美男が両隣にいてみ?人様にはどう見える?」
「ウッ」
「ウッじゃねえよ。それが真実なの」
なんの進展も発展もない会話が多くなり始めた頃。父さんはいつにもなく楽しそうに夕食の席についた。そして、
「クラウスに縁談が来た。隣の領地のオーギュスタン商会の二男クレールさんだ」
俺は体が揺れるほど驚いて食事の手が止まった。こんな俺に縁談?と。兄たちじゃないの?と聞けば俺だと。へえ、奇特な人もいたもんだな。俺は縁談の話に興味が持てず食事を続けた。
「あちこち頼んでたんだ。お前は相手がいなさそうだったからね」
「そりゃどうも」
父はお相手の説明を始めたが俺は聞きゃしなかった。やっぱりというか、俺はこの家ではいらない子だったんだなあと改めて思った。外に出しても困らない子だったな。
それにあの商会はこの国で手広くやってる一族の人。それがこんな小さな商会の子を求めるのは「なにか裏がある」しかねえ。
この世界は全ての人が子が産める。どちらが子を産むか決めてから結婚になるんだ。もうこれ俺だろ。婚前の協議もなく俺だろ。
「父さん、これ俺が嫁の縁談なんだろ?」
ああ?う?とかうろたえた父。隣の母は溜息をつき、フォークを皿に置いて手を下げた。うちの母は父に意見しない。ゆえに表情もなく動かない。
「そういう条件で……あはは?」
「やっぱりね」
兄たち二人も食事の手を止め、父に静かに睨みを利かせ始めた。あ……これはまずい。
「これはいくらなんでもだ。この縁談はこちらが格下どころじゃない。相手は難ありの方なのでは?」
「かなあ?父さんはこの人の兄は知ってるんだが、この人には会ったことない。でもクラウスはそれなりに強いし反撃できるだろ?」
「そうじゃないだろ父さんッ」
「いやあ……切磋琢磨とも言えないか。他の人には難ありもクラウスにはそうならんかもだし?」
兄たちは明らかにこの言葉でキレた。俺を溺愛するおかしい兄たちがこの話に食いつかないはずはない。
「兄さんたち、あの……ね?」
「黙りなさいクラウス。ここで引いちゃダメなんだ。君は僕らの宝物なんだから」
「そうだよクラウス。僕らよりもっともっと幸せにならなくちゃね」
俺に向けるうっとりしたような微笑みに、怯んで何も言えなくなった。兄たちは父に視線を戻すとまくし立てる。どれだけ自分たちが俺を愛しているかを交えながら。俺は無言になるしかなかった。
「でもさあ、クラウスってこんなだろ?自分からなにかやりたいとか言わないし」
俺はその言葉にギクリとした。父は続けて「言ったのは後ろに下がりたいだろ」ってさ。ふんわりで自分の基軸が見えない。商売も好きそうでもないし、なら家庭に入るのもよかろうって。反論の余地がない。
「強い相手に引っ張ってもらった方が幸せかな?と父さんは思ったんだよ」
「クラウスは協調性が強いだけ!自己主張がないのとは違うんだ!」
「そう?俺にはわかんないけど。仕事はやれてるけど楽しそうじゃないし」
「親が節穴でどうする!使用人の信頼はクラウスが一番あるんだよ!」
「し、知ってるけど……」
その後も続き、父は興奮した兄たちに言い返すのが精一杯みたいになってきた。そろそろ聞いている方が恥ずかしい。完全に褒められてないし「俺のダメなところを言い合う大会」みたいでなんとも言えない気持ちに。
「兄さんたちもういいから!」
「よくない!君は僕らのかわいい弟だ。父さんが見てないだけなんだよ!」
「い、いや……あの。見てての発言かと……」
「黙りなさい!」
「ウッ」
なんか分からん感じになった。仕方なく俺は飯をかき込み、母さんと目配せして食堂を出た。自分のダメさを聞き続ける拷問には付き合いきれん。
「ごめんね。僕はあの話は止めたんだ。君が幸せになれるか不安でさ」
「ありがとう」
おお、母さん止めてくれてたんだ。俺は少し嬉しくてニヤついてしまった。それに気がついたのか母さんは静かに話を続けた。
「歩きながら話そうか。僕は商売のことに関してはフレデリックに何も言わない。この結婚も商売の拡大の意味もあるとは思っているが、さすがに考えてとお願いしたんだ」
「ありがとう。でも父さんの気持ちも分からないでもないよ」
「それでもだよ」
俺から見た両親は明るい父と穏やかに微笑む母に見える。何も言い返さない母に不満がないとは思えないが、夫婦には何かあるんだろう。俺も商売人として考えるなら、この縁談は意味があるのは理解している。俺はそのための子供、それが他家と縁を結ぶやり方なのは承知していた。
母さんは少し話そうと通りかかった居間に入った。俺も後に続いて入り近くのソファに二人で座りながら母さんは「でもね」って。
「僕は子供は親の所有物とは考えていないんだ。そこがフレデリックとは考えが合わない」
「また……商会の奥方とは思えない発言だね。子は道具と考えるのが当然なのに」
「まあね」
以前から母さんとのおしゃべりで時々「ん?」と思うことがあったけど、これかと腑に落ちた。子を親の、家の駒と考えてないことに胸が温かくなり、いらない子って気持ちが少し溶けた気がした。
「俺たちを一人の人間として見てくれてたんだね」
「当然だろ?だから使用人たちには奥様はおかしいとか陰口言われたりもしたかな」
母さんが言うには「親や家の役に立つのが当然」と子に刷り込むのが王侯貴族、庶民関わらず教育するのが当たり前。でも母さんは、忙しい父の目が行き届かないことをいいことに、俺たちを伸び伸びと育ててくれていたんだそう。放置ではなかったのか。
「上二人は商売の楽しさがあるから構わないと今を楽しんでいるんだ。でもね、君はそう見えない。ここは父さんに同意する」
「あ……うん……楽しくないんじゃないんだけどね」
俺は母から目をそらした。親ってすごいね、よく見ている。ありがたくもあり恥じ入る気持ちもあった。成人して店に立つようになって数年。一通りできるようになった十九の現在、幼い頃からのことが頭を駆け巡っていた。
「クラウス、君は何がしたいの?」
母さんの問いに俺は答えられなかった。
「イノシシ欲しい?」
この出会いが俺の人生を劇的に変えたんだ……
俺は何不自由なく育ててもらったが、最近「言葉にしにくいモヤモヤ」を感じていた。何に不満があるのか分からないんだ。
親も何かを強く求めてもこないし、上二人が優秀でさ。俺もそこそこ(たぶん)だが見劣り感は半端ない。
一番上は品行方正で顔までいい。真ん中は雰囲気は違うけど以下同文、そして普通の俺。体力だけが自慢で他は可もなく不可もなく普通に成人した。町で人気の二人のことを聞きたくて、たまに出かける町では俺に近づく人が多数だ。
「ねえねえクラウス様。ルーク様、もしくはシモン様の奥様はお決まり?」
「さあ……?」
なんて話しかけられることが多い。知らねえよ、本人に聞けだよ。実は二人とも心に決めた方がいるらしく、俺には話さないが親はゴソゴソと動き回っている。もうすぐ二人とも結婚するんだろう。使用人たちが「旦那様が近所に屋敷を探しているけど、誰かご結婚かしら」なんてのを小耳に挟んだし。
俺はこの「ぼんやり生きるのも悪くない」が「これは違う」とも。俺は頭の後ろで手を組み上を向いた。
「なにしようかなぁ」
「なにって……お仕事してください。商談がこれからありますから」
俺の側近のティオンは早く書類読んでくれと急かした。いやいや仕事はするけどさ。
「そうじゃなくてさ。お前は俺がここんちに必要と思う?」
え?と驚きキョトンとすると腕組みをした。そして目を閉じ悩む。
「現在はあれですが、今後は必要でしょうね。旦那様が引退すればいる意味は大きくなります。お兄様たちの補佐は重要なお仕事だと思います」
「でもさ。俺でなくてもできることだろ?お前でもできる業務だ」
「まあ、でも今我が商会は三人の評判が……」
「そこ違う。兄たちの人間的な評判と能力だ」
ティオンは「いつもの卑屈発言ですか?」と、本日の商談相手の説明をやめてため息をつく。いやいや、これは卑屈とかじゃないんだよ。後継ぎは上の長男ルーク、その補佐に二男シモンがいる。俺の存在意義がここにはない。ある意味誰でもできる業務の俺はそう感じるんだ。
うちの商会はそれほど大きいものじゃない。父さんたちが頑張ってたのは承知してるし、販路や新商品を近隣から集めて評判がいい。それを兄たちが若い人用の珍しい物を増やしたりしてさ。おかげで売り上げは上がっている。支店があるほどの規模じゃないが、身内も商人だからネットワーク的には支店あり?かな。
「俺裏方だしさ」
「あなたが表に出たくないと言って、裏方の卸だけにしたんじゃないですか」
「そうだけどさ。だって俺がいらっしゃいませって客を迎えるとな。あからさまにがっかりされるんだぞ。心折れるさ」
「まあ……」
最近の客は兄たち目当ての人ばかりなんだ。
二人とも深い青い瞳、なのに艶やかな黒髪で目鼻立ちはクッソ整っててさ。この国ではこの色が一番モテる特別な色で多くはない。大昔に貴族の血でもあったのか、うちの一族はこの色が出やすい。王族や貴族由来(王族は黒髪・青い瞳が当たり前)の証でもあるんだ。兄たちにもとより、家族に魔力はなく俺だけ。一族にも数人だ。
庶民の髪色、瞳の色は色とりどりだ。近隣諸国でも黒髪は王侯貴族のみ、どの国の王族もよその大陸から来た人たちなんだろうと思われている。庶民の歴史勉強はそこんところ習わないから不明。図書館にもそんな本はないからな。
「俺も金髪じゃなくて黒髪に生まれれば少しは違ったかな。魔力もあるし」
まあ多少は……と同じく金髪のティオンは俺を見つめた。でも顔立ち的に黒髪似合わない気がするかな?としげしげと俺を品定めする。そしてフンと鼻を鳴らし、
「お二人とは確かに違いますが、黒髪じゃなくてもクラウス様も素敵ですよ?」
「ありがと。でもな、絶世の美男が両隣にいてみ?人様にはどう見える?」
「ウッ」
「ウッじゃねえよ。それが真実なの」
なんの進展も発展もない会話が多くなり始めた頃。父さんはいつにもなく楽しそうに夕食の席についた。そして、
「クラウスに縁談が来た。隣の領地のオーギュスタン商会の二男クレールさんだ」
俺は体が揺れるほど驚いて食事の手が止まった。こんな俺に縁談?と。兄たちじゃないの?と聞けば俺だと。へえ、奇特な人もいたもんだな。俺は縁談の話に興味が持てず食事を続けた。
「あちこち頼んでたんだ。お前は相手がいなさそうだったからね」
「そりゃどうも」
父はお相手の説明を始めたが俺は聞きゃしなかった。やっぱりというか、俺はこの家ではいらない子だったんだなあと改めて思った。外に出しても困らない子だったな。
それにあの商会はこの国で手広くやってる一族の人。それがこんな小さな商会の子を求めるのは「なにか裏がある」しかねえ。
この世界は全ての人が子が産める。どちらが子を産むか決めてから結婚になるんだ。もうこれ俺だろ。婚前の協議もなく俺だろ。
「父さん、これ俺が嫁の縁談なんだろ?」
ああ?う?とかうろたえた父。隣の母は溜息をつき、フォークを皿に置いて手を下げた。うちの母は父に意見しない。ゆえに表情もなく動かない。
「そういう条件で……あはは?」
「やっぱりね」
兄たち二人も食事の手を止め、父に静かに睨みを利かせ始めた。あ……これはまずい。
「これはいくらなんでもだ。この縁談はこちらが格下どころじゃない。相手は難ありの方なのでは?」
「かなあ?父さんはこの人の兄は知ってるんだが、この人には会ったことない。でもクラウスはそれなりに強いし反撃できるだろ?」
「そうじゃないだろ父さんッ」
「いやあ……切磋琢磨とも言えないか。他の人には難ありもクラウスにはそうならんかもだし?」
兄たちは明らかにこの言葉でキレた。俺を溺愛するおかしい兄たちがこの話に食いつかないはずはない。
「兄さんたち、あの……ね?」
「黙りなさいクラウス。ここで引いちゃダメなんだ。君は僕らの宝物なんだから」
「そうだよクラウス。僕らよりもっともっと幸せにならなくちゃね」
俺に向けるうっとりしたような微笑みに、怯んで何も言えなくなった。兄たちは父に視線を戻すとまくし立てる。どれだけ自分たちが俺を愛しているかを交えながら。俺は無言になるしかなかった。
「でもさあ、クラウスってこんなだろ?自分からなにかやりたいとか言わないし」
俺はその言葉にギクリとした。父は続けて「言ったのは後ろに下がりたいだろ」ってさ。ふんわりで自分の基軸が見えない。商売も好きそうでもないし、なら家庭に入るのもよかろうって。反論の余地がない。
「強い相手に引っ張ってもらった方が幸せかな?と父さんは思ったんだよ」
「クラウスは協調性が強いだけ!自己主張がないのとは違うんだ!」
「そう?俺にはわかんないけど。仕事はやれてるけど楽しそうじゃないし」
「親が節穴でどうする!使用人の信頼はクラウスが一番あるんだよ!」
「し、知ってるけど……」
その後も続き、父は興奮した兄たちに言い返すのが精一杯みたいになってきた。そろそろ聞いている方が恥ずかしい。完全に褒められてないし「俺のダメなところを言い合う大会」みたいでなんとも言えない気持ちに。
「兄さんたちもういいから!」
「よくない!君は僕らのかわいい弟だ。父さんが見てないだけなんだよ!」
「い、いや……あの。見てての発言かと……」
「黙りなさい!」
「ウッ」
なんか分からん感じになった。仕方なく俺は飯をかき込み、母さんと目配せして食堂を出た。自分のダメさを聞き続ける拷問には付き合いきれん。
「ごめんね。僕はあの話は止めたんだ。君が幸せになれるか不安でさ」
「ありがとう」
おお、母さん止めてくれてたんだ。俺は少し嬉しくてニヤついてしまった。それに気がついたのか母さんは静かに話を続けた。
「歩きながら話そうか。僕は商売のことに関してはフレデリックに何も言わない。この結婚も商売の拡大の意味もあるとは思っているが、さすがに考えてとお願いしたんだ」
「ありがとう。でも父さんの気持ちも分からないでもないよ」
「それでもだよ」
俺から見た両親は明るい父と穏やかに微笑む母に見える。何も言い返さない母に不満がないとは思えないが、夫婦には何かあるんだろう。俺も商売人として考えるなら、この縁談は意味があるのは理解している。俺はそのための子供、それが他家と縁を結ぶやり方なのは承知していた。
母さんは少し話そうと通りかかった居間に入った。俺も後に続いて入り近くのソファに二人で座りながら母さんは「でもね」って。
「僕は子供は親の所有物とは考えていないんだ。そこがフレデリックとは考えが合わない」
「また……商会の奥方とは思えない発言だね。子は道具と考えるのが当然なのに」
「まあね」
以前から母さんとのおしゃべりで時々「ん?」と思うことがあったけど、これかと腑に落ちた。子を親の、家の駒と考えてないことに胸が温かくなり、いらない子って気持ちが少し溶けた気がした。
「俺たちを一人の人間として見てくれてたんだね」
「当然だろ?だから使用人たちには奥様はおかしいとか陰口言われたりもしたかな」
母さんが言うには「親や家の役に立つのが当然」と子に刷り込むのが王侯貴族、庶民関わらず教育するのが当たり前。でも母さんは、忙しい父の目が行き届かないことをいいことに、俺たちを伸び伸びと育ててくれていたんだそう。放置ではなかったのか。
「上二人は商売の楽しさがあるから構わないと今を楽しんでいるんだ。でもね、君はそう見えない。ここは父さんに同意する」
「あ……うん……楽しくないんじゃないんだけどね」
俺は母から目をそらした。親ってすごいね、よく見ている。ありがたくもあり恥じ入る気持ちもあった。成人して店に立つようになって数年。一通りできるようになった十九の現在、幼い頃からのことが頭を駆け巡っていた。
「クラウス、君は何がしたいの?」
母さんの問いに俺は答えられなかった。
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