魔法使いの思惑と、俺の無自覚 〜魔法使いの策略にはまったけど、幸せになりました たぶん〜

琴音

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2 母の提案

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「君は何がしたいの?」

 この問いに何も浮かばなかった。今じゃない何かしかなかった。どこか閉塞感を感じどこかへ行きたい、新たなことをしたい。そんな気持ちは常にあったけど二の足を踏んでいた。世間体やまだ見ぬ世界への不安も当然ある。踏ん切りがつかなかったんだ。

「なにかしたいけど分からないって感じだね」
「母さんはなんでもお見通しか」
「だって君は僕のかわいい息子だもの。薄々感じてたよ」
「そっか……」

 ふふっと優しげに笑いそうだねえと頬杖をついた母さん。父さんは年齢で少しふくよかになり始めているんだけど、母さんはどこかかわいらしい感じのある人。こんなポーズが未だにかわいく見える人なんだ。自慢の母だね。俺はあんまり似なかったけど。

 上二人は母似で俺は父似、体力と金髪まで似てしまったんだ。母さんは一族の遠縁の人で父とは「ほぼ他人」のようなお家の人だった。だけど美しい青い瞳と黒髪の美人。嫁取り争奪戦に父が勝って俺の母となった。

「俺ね、結婚どころか人生すら考えついていないんだ。なにかやりたいばっかでさ」
「ふむふむ、それで?」
「それで……俺恋人いたことないし」
「うん知ってる」

 この際だから全部話せと母。楽しそうに笑う母にたじろぎながらも、この先やる気なさそうに働くのも悪いかなと俺は思ってしまった。

「好みの人がどんなか定まらないんだ、仕事もそう。楽しいしやり甲斐もあるけどなんか違うって思いもある」
「ふーん。君の見えている世界は狭いのかもね」
「え?」

 だってそうだろうと母は言う。この街だけでも色々なことがあるし、ここは領主様の城下町。人は多くたくさんの農産物や小間物から武器まで流通している。職人も多く日々目まぐるしく物も人も動いている。それが逆に君の目を曇らせているのかな?と笑った。

「外国の人や冒険者が目に入らないのかな」
「さすがに見えてるよ」
「君は見えてるだけなんだよ。その人たちがなにをしにここに来ているのか。ここを通ってどこに行くか考えたことある?」
「いえ……」

 知識じゃない。人の営みを見れば自ずと我が商会は何を店に並べなくてはならないかを理解する。その視点がないから迷うんだ。でも君はこの話を聞いても興味はないだろう、違うか?と問われた。返事をすることにためらった。だって俺は「仕事をさせられている」気分でいたのに気がついたからだ。

「ごめんなさい。俺は……」
「気づきは大切だよ。そして気づいたらなにをするかだ」
「はい」

 興味あることは?と聞かれたけど、俺は何が好きかなと考えた……あ。そして真っ赤になってしまった。恥ずかしすぎることが浮かんだんだ。

「どうした?真っ赤になって」
「えっと……俺はそのね」

 言うの?マジで?母さんはほらほらと急かしてくるけど言うの?と完全に躊躇ちゅうちょした。

「言わなきゃ話が進まないよクラウス」
「う、うん」

 居心地が悪くどうしたものか。体をひねったり上向いたりソワソワしてしまう。クソッ

「当ててみようか?」
「ふえ?」
「フレデリックや兄さんたちに従ってれば困らない、もしくはそれでいいと考えてるんじゃないのか?」
「はうっ……母さん。そ、そこまで他力本願じゃ……いえそのとおりです。ここまで茫漠と生きてきました。ごめんなさい」

 俺は膝に突っ伏した。そうなんだよ、何も考えなくてここまで来た。それが最近おかしいと感じ始めたから……むーん。

「アハハッやっばりそうか。クラウスらしいけど今大人になり始めたんだね。おめでとう」
「嫌味かよ」
「嫌味です」

 母は優しいけど時々こうなんだ。胸にグサリと突き刺す言葉をかけてくる。

「ならさ、いじめられてもお嫁さんをやってみるかい?そこから店を乗っ取るくらいやるとかさ」
「母さんバカですか?あそこの規模は家とは違いまーす。国中に支店があるような人気の高級店です。こんな田舎の小倅、少し足んない俺じゃ無理」
「そっか。なら子をそんなふうに育てるとか?美男は美男らしいよ?」
「見た目だけじゃなあ」
「見た目は大事だよ。父さんは素敵だもの」

 そうだった。母は目がおかしかったんだ。世間が言う美男には反応が薄く、城の騎士のようなゴツい人が好きらしい。父はまさにそう。

「見た目に関しては母さんの意見は無視します」
「なんで?」
「母さんは世の標準の美とずれてるから」

 アハハッと母さんは盛大に笑った。僕はひ弱に見える見た目で子供の頃から苦労して、だから体格のいい人を好んだそう。俺は両親のハイブリッドでどちら似でもないよねってと母はさらに笑う。

「嫁はともかく、数年遊んでみるかい?」
「え?」
「国を回ってみるとか、近くの他国に行ってみるとかよくないかい?」
「いいの?」
「うん、それくらいの余力はあるよ。縁談は断るし君の人生の目的を探しなさい」
「あ、ありがとう母さん」

 視界が広がり、俺はその二股に分かれた道の前に立つことができた気がしていた。母さんは「君は色気が足りないから夜の遊びもするといい」とアドバイスをくれた。え?

「あのね母さん。そこは親なんだからやめなさいじゃねえの?」
「ルークやシモンにならそう言うよ。でも君は綺麗すぎるんだ。世の悪い部分や人のズルさや賢さを見てくるといい。そして嫁か婿も連れて帰ってくれるとなおいい」
「そこは……期待しないでよ。つーかさ、兄さんたちそんななの?」
「君は本気でひよこのままだったか……僕の育て方は間違ったのかな?」

 呆れた母さんに俺はどうすれば?二人はモテるのをいいことに恋人は取っ替え引っ替えだった。でも俺にはそんなところを見せなかった。なぜなら弟を嫁にしたいと昔から言ってた二人で、外に目を向けさせないと危険だったそうだ。「冗談で言ってただけだろ?」と聞けば「本気だよ」って、怖いだろ。

「兄弟で子を持つのは王族や貴族にはある。でもそれは家の血統、魔力を重んじるからだ」
「うん」
「でもその生まれた子たちはすぐ死んだり弱かったりもする。だから庶民は身内婚はよくないと学習している」
「そうだね」

 貴族じゃないけど、それ同等の権限を持たされているような家でもなけりゃ身内からは貰わない。それは知ってる。

「僕とフレデリックは他人に近かったから結婚したんだ。じゃなければいくら好みでもここにいないよ」
「うん」

 そろそろ二人を抑えるのが難しい。いい機会だから俺は外に遊びに行け。その間に嫁か婿を用意して目をそらす予定で、今物理的に家から追い出そうとしていたそうだ。ああ、屋敷探してたのはそんな理由か。

「お金の心配はいらないからね。隣の領地にユリーク、兄がいるし、あちこち手配するから」
「はい」

 他の領地にも母さんの兄弟や従兄弟がいるから頼んでおく。家に近づくなってさ。

「君は本当に清廉に育った……感無量だね」
「いいのか悪いのか分かんないけど、愛してくれてありがとう母さん」
「愛してるよクラウス」

 とりあえず側近のティオンはくれてやる。あれ連れて諸国漫遊に行け。ここまではいいけど、出かける日を兄たちにバレないようにしなさいって。いなくなるならと襲ってくるかもしれないからってさ。なにそれ怖い。

「孫は見たいけど、いやまあ悪くはないけど……なんだろうな。全く違うお家から伴侶を見つけて欲しいんだ。僕は君たちの見初めた人を見たい。ワクワクするでしょ?」
「ふーん」

 兄弟間でも悪くはない。悪くはないけど、どちらかの兄が暴れそうな気もするし、君が産む……ようなと言われた。その可能性は高いな。

「君は奥さんになりたい?」
「うーんどうだろ。まだ考えてなかったよ」
「何かを成し遂げたなら、かな?」
「そこは相手によるかな。産んだ方が絶対育てるものでも……」
「クラウス甘い!世の中はそんなに甘くない!そこは母親が育てろとなるんだ!そこはいつの時代も変わらない!」
「は、はい。肝に銘じます」

 母さんはおもむろに立ち上がり、棚からお酒とグラスを取り出した、ん?すぐに廊下に顔を出してメイドにつまみを用意しろと声を掛けた。あ?これ長丁場になるのか?

「せっかくだからとことん話し合おう。最近話ができてなかったからね」
「まあいいですけど」

 このまま夜中まで母さんとおしゃべりを楽しんだ。まあ、父さんがいかにかわいくて男らしくて夜がとてもよかったとか、子に話す内容じゃないものまで含まれてたけどさ。

 でも母さんが父に意見をしない理由は理解できた。父を恐ろしく愛してたんだよ。何しても許せるくらいに好みなんだそうだ。俺にもそんな人出来るのかな、と不安になるくらいだった。

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