魔法使いの思惑と、俺の無自覚 〜魔法使いの策略にはまったけど、幸せになりました たぶん〜

琴音

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3 修羅場……なんでだよ

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 母さんは仕事ができないではなく、しない人だったのを実感した。俺が旅が決まると、ひと月もしないうちにあちこちに手配し整えてしまった。あとは俺が出かけるだけ。よくよく考えれば母も商人の子供だったわ。さて、いつにしようかな。

「そうですね。数年くらいですから、どこか気に入った場所に住処を見つけそこを拠点に動く。もしくは完全に冒険者のように転々とするとかですかね」
「だよな。どっちが俺向きかな?」
「ご自分で考えなさいませ」

 そうだよ、俺の見識を増やす旅なんだからティオンに頼ってどうする。何かしたいって言い出したのは俺だろ。旅を終わらせたら家に帰るのもありだし、行った先で伴侶を得て働くのもあり。無限の可能性がある。親は好きにしろって言ってくれたしね。

 家の都合を押し付けなかったのは「あくまでも人生は自分が主人公」にして欲しかったから。夫婦になって同じ船に乗っても自分の意見は持たなければならない。そんな当たり前のことを自覚して欲しかったからだそうだ。上二人は正解だったようだけど、俺の心は自我のない……親の期待どおりにはならんもの。

「母さんの時代にはそれが許されなかった。だから君たちには自分の思う人生をあげたかったんだ」

 そう言って幸せそうに笑った母の顔を思い出していた。誰でも子を産めるが向き不向きもある。貴族は自分で子育てしないからどっちが産んでも困らないが庶民は違う。どちらかがキャリアや夢を諦める、もしくはペースを落とすしかない。子育ても立派なことだとは思うけど、実感が湧かない。

 この世界には魔法使いがいる。俺もその一人で、たくさんの魔法使いや魔道士なんてとんでもなく強い術者たちもいる。だけど不老不死を研究する者はもういないんだ。

 昔々、もう滅びた国のことだけど「不老不死の薬」を完成させた城の大魔道士がいた。それを時の王に飲ませ、王は多少若返り遺憾なく力を発揮し国を治めた。だけど年月とともに「よい施策をしても当然と思う人」とか逆に「全てを否定する反抗的な人々」の存在に気がついた。

 どんなに手を尽くしても当たり前、それどころかどんどん要求は増える。やってもやっても「長生きばかりの愚王」などと耳に入り、いつしか気持ちが落ち込むようになる。

 そして王は考えつく。もしかしたら知識のなさから自分の施策が理解できないのではと疑った。おカネを掛け学校を作り、庶民にも手厚い教育をした。でもね、そうじゃなかった。ただ文句を言いたい人とはいつの時代にもいるものでね。

 そしてある日のこと、お側にいる従者が朝起こしに部屋に行くと王いなかった。どこへ行ったかも分からなくて探しても見つからなかったそう。王は自分の力のなさを嘆いたか、それとも愚民どもめと憤慨したかは分からない。でも手を尽くしても見つからなくて、今でもどこかで人に紛れて生きてるんじゃないかと言われている。そんな昔話がこの大陸にはある。

 魔法使いは不老や万能の薬にもなる存在だ。だが長生きがいいものでもないと教えてくれるお話。長生きするのは「知識や技術」だけでいい、そうこの大陸の人は強く思っている。

 期限ある人生は、限りがあるからこそ大きな成果をもたらす。だからこの大陸には書物や職人を大切にする文化がある。どんなことも継承すれば「長生きと同じ効果」があると知らしめたんだ。血筋も継承と身近で結婚するが……王侯貴族は気が付き始めてるけどやめられない。家柄(強い魔力)は大切だからね。

 などと昔話に浸っても始まらないので、俺はとりあえず次の満月の夜に家を出ることにした。馬の手入れをしっかりして秘密裏に荷物を用意する。そして何食わぬ顔で仕事もして、両親には報告や相談は怠らない。

 そして決行当日、満月が東の空に黄みがかって昇り始めた。少しかすんでて大きく見えた。

「よかったです。雨が降らなくて」
「うん」

 俺とティオンは夕食後俺の部屋の窓から満月を眺めていた。この月が白く輝く頃俺は旅に出るんだ。どんなことが待ち受けているか想像もできない。箱入り息子が箱から出るんだ。困難しかないだろうがそれも経験。

 少しワクワクしながら二人で月を眺めていると、下の兄が部屋に来たらしい。入れてとドアの向こうから声がする。

「まずいティオン荷物を隠して!」
「はい」
「シモン兄さん今開けます」

 俺はティオンが背負いの鞄の荷物を隠したのを確認して扉を開いた。

「ごめんね。クラウスに会いたくなってさあ」
「ん?酔ってます?」

 真っ赤な顔して目は虚ろで、少し嫌な微笑みを浮かべていた。

「うん。商業ギルドの寄り合いで……ウック。飲み過ぎちゃったかな」
「お水飲みますか?」
「うん……」

 千鳥足で体が揺れると、シモンは俺に倒れ込んできた。今日の夕食にいなかったのはこれか。俺はシモンを抱えたままソファに座らせて、テーブルの水をグラスに注ぎ兄に飲ませた。

「んふふっクラウス……」
「なんですか」
「かわいい。僕の姫……」
「あ?」
「させて……僕の子を産んでよぉ」
「え?させてとは?ふざけないでシモン」

「ふざけてないよ?クラウスは経験ないでしょ?僕が初めてでそんで奥さんになるんだ。ねえ」って呂律の回らない話し方でクスリと笑う。「ねえ」じゃねえよ。

「シモン飲みすぎだよ」
「かもね。でもこれは本心だ。クラウス最近おかしいだろ。お嫁に行く話なくなったのに変だ。誰か見つけたのか?」
「いいえ……そんな人はいません」

 なんて勘がいいんだ。普通にしてたつもりなのに。シモンはエロい手つきで胸を触るし、俺に跨がろうとするから抑えていた。乗るなよ。

「キスして」
「嫌です。おやすみあいさつならいいですけど」
「違う。ちゃんと……ウッして」
「嫌ですね。シモン兄さんは愛してますが、その愛してるじゃありません」
「なら……今から愛して?」
「無理」

 惚けながらかわいくケチって。なんだこれと俺がため息をつくと、一瞬の隙で押し倒されてしまった。ティオンはアワアワと慌てて引き剥がそうとしてくれたけど触んな!と怒鳴りながら手を払う。見上げるシモンは酔いもありエッチィ顔してました。

「君、なんか隠してるでしょ?言いなさい」
「何もありません」
「嘘だ。母さんも少し変だし父さんは挙動不審。絶対何かある」

 父さん……なんでだよ。あれほど母さんに言われてたのに。変なところで弱っちいんだから。

「何もありません。俺もう寝るんですよ、お部屋にお戻りを」
「ヤダ。君も来て僕と朝までしっぽりと」
「いいえ、いりません。兄さんは兄さんなんです。伴侶にはなりません」

 するとシモンの瞳は潤み深く息を吐いた。困惑して見つめていると、瞬きと共に俺の頬に雫が落ちてきた。俺、さらに困惑。

「愛してるんだ。ずっと誰よりも君を、クラウスを愛してた。大人になるのを待ってたんだ。僕を受け入れて」
「泣かないでシモン。でも受け入れません」
「意地悪言わないでよ、クラウス」

 近づく兄の顔を押し戻していたら手が股間に入り込む!ヤメレ。俺は彼の手を引き抜いた。兄さん酔いすぎだよ。理性はどこにしまったんだよ。まったく。

「エッチは恋人とね。シモン兄さん」
「それはクラウス、君だよ。僕のお姫さま」
「違います、弟です」

 こんな問答をしていると上の兄がやって来て無言で下ろしてくれた。よかった。

「なんで手を出そうとするんだシモン。クラウスは僕の妻、触んな!」
「あ?」

 助けに来てくれたんじゃないっぽいな。ティオンもしくじったって顔で「外に出たら近くにいたから助けにと連れてきた」けどと焦っている。うん、上の兄ルークは選択ミス。母さんか父さん、もしくは使用人が正しかったね。

「抜けがけは許さない。クラウスは僕の妻にするつもりでかわいらしく育てたんだ。触るな」
「それはお互い様だ。僕の方が好きだよね、ねえクラウス?」

 だめだこれ。父さんが不審すぎて暴走したんだ兄さんたち。あーあ。俺はソファから起き上がり二人の方を向いた。

「俺にとって二人ともただの兄でしかないです。大好きな兄さんたちですが、好きの意味が違うんです。たとえ襲われても抱かれても気持ちは変わりません」
「「なッ……」」

 なんで二人とも絶句なんだよ。俺が「うん、兄さん愛してます抱いて」なんて日が来ると本気で信じてたのか?頭どうかしてるんじゃないか。いや、どうかしてるんだよ初めから。

「そういう夫婦がいることを知ってます。友だちの親にいましたから。でも俺は二人をそんな目で見たことはありません」
「「なら見て!」」
「見ませんッ」

 なんで出発の日にこんなことになるんだ?全部父さんが悪い。仕事はできるくせに家族相手だと弱腰で困ったもんだ。あーあ。









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