魔法使いの思惑と、俺の無自覚 〜魔法使いの策略にはまったけど、幸せになりました たぶん〜

琴音

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4 何とか出発して最初の目的地に到着

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 俺はこの後も何度も「兄さんたちは恋愛対象じゃない」と繰り返していた。その間にティオンに親を呼びに行かせた。そして、

「ルーク、シモンもうやめなさい。クラウスにとってあなたたちは兄でしかないんだよ!」
「でもだって僕はクラウスが生まれた時から僕の妻にと!かわいくてずっとそのつもりで!」
「僕もです母さん!素直に育ったのは僕の手柄だ!僕と結婚するんですよ!」

 額に手を当てうなだれる母。あれほどダメと諭したのに、と後ろにいた父の胸にふらつきもたれた。父は母を抱いてため息。

「諦めろ。クラウスは二人に伴侶としての興味はないんだよ。理解しなさい」
「「嫌です!」」

 嫌ですじゃねえよ。弟にこれだけ執着するのはなんなんだよ。俺にはさっぱり分からない。確かに俺は二人より少し年が離れてるからあれだけど、そんなの子供の時だけだろ。お前ら二十歳を超えて何言ってんだ。

「もういいやクラウス行きなさい。父さんは君の旅路を祈ってる。いい顔で戻れよ」
「え?はい」

 俺とティオンは戸惑いながらもさっき隠した荷物を手に取り背負った。貴重品はベルトに通す皮のポーチ、それを俺たちは腰に付けた。

「なんだその支度は!どこに行くんだ!」
「言いません」

 いいから行きなさいと両親は二人を制止し、俺たちを部屋から出そうとしてくれる。

「ありがとう父さん母さん。きっと今よりいい顔で戻ります」
「おう!期待してるぞ。ついでに伴侶もな」
「そこはちょっと……行ってきます!」

「待てよ」とか「僕も行く!」とか喚く兄たちを横目に俺たちは馬屋に急いだ。馬番は待っててくれて他の荷物はすでに馬に括ってくれていた。

「ありがとうライアン」
「いいえ。クラウス様は賢いですからきっとこの旅の経験が人生の糧になりますからね。私は待ってますから」
「ああきっとな。体に気をつけてくれよ。若くないんだから」
「はい。若くないは余計ですよ」

 俺たちが馬に跨ると馬も気がついてるのか少し興奮気味だ。

「アルバート、これからお前が俺の足だ。よろしくな」

 馬の首を叩くといななきで返事をしてくれた。そして「行くぞ」と腹を蹴った。アルバートは颯爽と駆け出した。

 夜に出発するのは多少危険はある。だが兄たちを出し抜くにはこれしかなかったんだ。この近くには魔物は多くない。森を抜ければ隣の領地のはずだ。その手前にうちの荷物の中継拠点があるんだ。そこまで急ぐぞとティオンに声を掛けた。

「はい。街を抜けたあたりから危険ですのでこれを」
「うん」

 ティオンに手渡された剣を腰に差した。剣を差して歩くこと自体少ない俺は、この重さに身が引き締まる。護衛はティオンだけだ。しくじったら死ぬ。まあ、庶民の護衛術以上の魔物はこの辺にはいないが、狼なんかはいる。どちらかといえばそちらが問題だな。

「訓練はしてたし多少の魔法は使えるし何とかなるだろ」
「私は山育ちで剣はそこそこ。でも魔法は使えません。使えるのはあなただけです」
「ちっさいファイアーボールでも気をそらすくらいはできるだろうさ」

 俺たちは小さな村をいくつも抜け、大きな森に差し掛かる。見上げると月も真上から傾き始めていた。森に入ると木陰から見える銀色に輝く月に俺は不思議な気分になっていた。

「本当に家を出てしまった。なんか不安より高揚感の方が強いな」
「私も領地から長期に出るの初めてです。お互い死なないようにしましょう。いえ、私が死んでもあなたは帰って下さい」
「やめろよ。縁起でもない」

 ティオンはこれから行く中継地の責任者の息子だ。代々うちに仕えてくれる家。小さい頃からよく遊んでいて気が合うからと、父さんが俺の側近にしてくれたんだ。

「クラウス様、狼の遠吠えが聞こえます。気を抜かないように」
「ああ」

 駆け抜けるか?と聞けば馬の足音で狼が襲いに来るかもしれないからゆっくりでいいとティオン。それもそうだなとゆっくり進んだ。時々藪からスライムや小型のネズミみたいな魔物が横切ったけど何とか中継地に着いた。

「お尻が痛い。最近乗らないからきついですね」
「まあな。慣れるさ、いつかな」

 俺たちは馬を降りて建物に近づくと、ティオンの父が起きていて迎えてくれた。

「クラウス様、ようこそ。でも早かったですね。もっと遅い時間とお聞きしてたのに」
「うん、あの……兄さんたちがね。少し……な」
「あー……承知しました、こちらに馬を。おーい」

 これだけで理解するということは「兄たちの俺への感情を知らなかったのは俺とティオン」だけだったな。なんだかなあ。

「お疲れでしょう。夜も更けましたし、おやすみになられます?」
「うん。そうさせて。お尻痛い」
「アハハッですよね。お風呂は?」
「入ってきたからいい」

 この中継地は卸の倉庫とティオンの家族の家、そして使用人たちの家がある。他の商会の中継地でもあって、山の中の小さな村みたいな感じなんだ。

「今日は村の宿屋に冒険者もたくさん宿泊してるんです。居酒屋も賑やかですねえ」
「ふーん、なんでだろ?この時期に?」

 ティオンの父、グレンはお聞きになったことがあるかもしれませんがと前置きして、

「王都の向こう側の領地の森の近くに珍しい鳥の魔獣が現れる時期なんです。それであちこちから集まってるんですよ」
「ああ、あの小型のサギみたいな鳥の魔獣」
「ええ。中でもシルバーのヘロンは相当の魔力持ちです。風魔法が得意で使役にしたい魔法使いが多いですね」

 聞くところによると、ヘロンはまあまあ人が好きじゃない。狩られるばかりじゃなくて元々懐きにくい種類と聞く。頑張れしかないななんてティオンに話しかけると、

「興味持ちましょうよ。なんにでも」
「え?ああ、そっか」

 呆れて手を広げるティオン。隣で苦笑いのグレン。

「私が近くにいて思うのは、あなたは何かに対して興味が薄い。表面的に理解したら終わりなんです。クラウス様は」
「ごめんなさい、気をつけます。俺も見に行きます」
「そうして」

 グレンは集まる時期は半月後からひと月の間。ここからなら余裕で間に合うから心配はいらない。王都で遊んででも間に合うからって。情報ありがとう。

「私も倅と同じ意見です。クラウス様は他人や物事に興味が薄い。新聞の一面記事を見たら全てを知った気になるような……ですかね」
「ああ、俺の悪いところだな。両親にもそこは指摘されてるんだ。だからこの旅なんだよ」

 自覚されてたか、よかったと彼は微笑んだ。俺は恥ずかしいのでつい最近気がついたとは言わず、外面マックスの笑顔でいた。

「奥様からの指示で、我ら中継地の使用人はあなたが立ち寄れば路銀を渡すよう手配されています。他国は無理ですのでそこはご理解を」
「うん」

 俺たちはグレンの屋敷に向かい客間に案内された。ティオンも客間で俺と一緒だ。もう家を出た息子に部屋はないそうだ。

「部屋があると気軽に帰りたくなる。だからダメって父が」
「そっか。俺は甘やかされてたからな」
「あのお家ならそれでいいのですよ。店は小さいけど卸やなんかで稼ぎがありますから」
「まあねえ」

 そして俺たちは同じ部屋で就寝。これからずっとこうなるからとグレンの配慮だ。慣れろってね。そして俺たちは日の出とともに起きた。

「ティオンおはよう。ケツが思ったより痛いけど」
「おはようございます。私もです」

 憂鬱な目覚めだった。運動不足とは違うこの尻の痛みに俺は目を伏せた。たった二時間くらい乗っただけでこの体たらく。

「これでアルバートに乗るの?」
「慣れですかね。痛みに耐えていればいつか……」
「うん……」

 二人で尻の痛みに呻くだけ。そのうち痛くなくなるだろうが気が遠くなる。

「おはようございまーす。朝食で……え?」

 メイドが明るく入ってきたが俺たちはベッドから動けずにいた。座ってるだけで痛い。説明したら「クラウス様は魔法使えるでしょ?」それでと言われてハッとした。そうだよ、俺は魔法使えるだろ。今まで使ってこなかったけど。

「で、ティオン呪文は?」
「私は使えませんから魔術の勉強してませんよ」
「ならば、旦那様の趣味のお部屋に専門書がございましたから、私がお持ちいたしましょう」
「ありがと」

 そして待つこと数分。俺は受け取った本をめくり探した。ふむふむ、癒やし系だったな。つか慣れれば「痛いの痛いの飛んでけ」でもいいらしい。マジか。そんなだっけか?と小首を傾げてしまう。

「やってみればいいのでは?」
「そうだな」

 ならばと無理して立ち上がりティオンに掛けてみることにした。魔法なんて使うことないと適当に試験勉強してたよ俺。そんですぐ忘れるような俺で不安だったがやってみた。一応きちんとした呪文を唱えて。

「癒やしの精霊よ、我の呼びかけに応えよ。そなたの柔らかな手を我に」

 俺の手から光が溢れティオンの尻に注ぐ。すぐに光は消えた。これ効いてんの?って疑いを持つくらいのあっけなさだった。大体俺は癒やし系使ったことねえし。

「どう?」
「えっと……」

 ティオンは自分の尻を撫でまわし、そしてベッドから降りて飛び跳ねた。

「痛くありません!すごい!これなら馬に乗れます。慣れるまではこれでお願いします!」
「う、うん」

 自分にも掛けてみた。そして尻を触り飛び跳ねてみた。すげえ!魔法すげえ!

「クラウス様お忘れでしょうが使いすぎると倒れます。魔力切れで」
「あ、思い出した」
「庶民は貴族のように魔力が多くありませんから気をつけて使って下さいませ。旅の進行に支障が出ますよ」
「そうするわ」

 元気になった俺たちは、飯でーすと楽しそうな少年メイドについていくことにした。






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