月の破片を受け取って 〜夢の続きはあなたと共に〜

琴音

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四章 戦とアンジェ

12 父様が心配して来てくれた

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 アンジェが入院して数日後、父様が僕の屋敷に来てくれた。アンジェの入院の説明をしろってね。客間で父様とふたり、メイドが下がって一通りのあいさつが済むと話し始めた。

「……僕が追い詰めたのかもしれない」
「どういうことだ?」

 ハンネス様やお医者様、エルムントたちとの会話をかいつまんで話した。

「そりゃあお前のせいじゃないな。アンジェの問題だ」
「そっかな?」

 僕は父様を不安な気持ちで見つめた。

「ああ。だが……気の毒なことをした。俺もお前をよろしくとこと、あるごとに言ってたしな」

 アンジェの責任感の強さと、能力の高さを過信しすぎたと父様はため息。彼も弱いところがあって当たり前なのにって。

「アンジェはいつもなんでもないって顔していた。親が事故死、クヌート様が結婚して屋敷を出てしまってからかな。その頃から顔つきが厳しくなっていたんだ」

 クヌート様は見た目は似てるが、アンジェとは正反対らしい。研究に没頭して妻を溺愛。舞踏会とかでは奥様を見せびらかすタイプで、それが嫌で奥様は外では無口になった。あらら、話せないんじゃなくて話さなくなったのか。アンジェと同じだな。

「マルセル様は控えめな佇まいの美しさだろ。クヌート様は妻の清楚な美が自慢で、見て見てと周りに言うもんだから、マルセル様が怒ってな。外では微笑むだけになったそうだ」
「あはは……そんなふうに見えないなあ。番のお披露目の時も、ふたりともあんまり話さなかったよ?」
「若い頃の話だし、外では静かになったんだろう」
「そっか」

 だが、アンジェもひとりのノルンでしかなかったんだなあって。俺たちはあいつを過信して、仕事は出来て当たり前と押し付けてたんだろう。部下の指導も大臣としても問題ないし、領地の運営も手広くやっている。公爵として何一つ問題なんて見つからない。それに甘えたなと父様。
 うちの国は大臣はみんな仲がいいそうで、いろんなことを融通し合う関係でもある。爵位はあまり関係なく、助け合うことが多いそうだ。

「俺たちも悪かったんだろう。新婚なのにお前との時間も奪い当然としてた。あれは仕事熱心で我らが帰っても城に残る日が多かったんだ」
 
 あんまりどころか、アンジェはほとんど帰って来なかった。週に一度の休みも取らず、夕食で顔を見ればいい方で、会話もあんまりなくて……仲良くなるきっかけすら作れなくて。

「すまなかった。アンジェは真面目なんだ。それを咎めもせずに来た。クルトと過ごす時間を作ってやるべきであったな」

 この国は土地が広いだけの国で、民もそんなに多くない。だからいろんな省が全部城の中にあって、行き来も多く、多少他の省の動向は分かるんだそう。
 広大な敷地に省が分散してて、馬車でなきゃ移動出来ないなんて大国じゃないんだ。小さく穏やかに生きてるんだって父様。
 それにアンジェの寂しさと忙しさは比例していて、忙しさで気持ちを誤魔化したのだろう。お前と一緒になってその均衡が崩れたのかなって。

 みんな同じことを言う。どれほどアンジェは頑張ってたんだろうね。僕はお家で楽しく暮らしてたのに、アンジェの心に寄り添えきれなかったんだ。なにしてたんだろうね僕は。妻としての仕事をしてなかったようなもんだ。

「それは違う。妻は家で子どもを育て社交に出かける。それがお前の仕事だ。うちはまあ母様を働かせてたが、今はしてないがな」
「そうなの?」
「ああ、爵位が上がって国からの税の再分配が増えたんだよ。ちょびっとだけど蓄えも増えた」
「よかったね」

 あー……よかったが、全部じゃないと苦笑い。

「経済的にはだな。だが居心地は悪くなった。総務省並に雑用が増えて走り回っている」
「あはは……それはごめん」

 王様は俺たちも反省するし、お前は不安がらずドンと構えてアンジェを待ってろって。

「そうします」
「お前は……そうだな。アンジェにとっては宝物みたいになってるんだろう」
「そうかな」
「そうしかないだろう。アンジェを大切にしてやれ」
「はい」

 父様は仕事の帰りに寄ったから、すぐに城近くの貴族街の屋敷に帰った。今は社交シーズンで母様もこちらに来ているんだ。領地は兄様たちが頑張っている。僕が以前帰った時に父様たちがいたのは不測の事態だったからなんだ。それに今回も、父様が僕らを心配して来てくれるなんてね。なんて幸せなことなんだろうと僕は嬉しかった。

 きっとアンジェは元気に帰ってくるはずだから僕が落ち込んではいられない。元気で過ごそうと気持ちを新たにした。
 部屋に戻るとティモも、ご心配でしょうがこの病は自分で気が付かないと治りません。他人の言葉は届かず、こうして物理的に番と距離を取らないと、愛しい気持ちのなにが悪いとしか感じないんですよと言う。

「この病はなんなのかな?」

 なんかよく分かんないんだよね。なんでこんなになるのかがさ。ティモはどう説明したらと考えているようだ。

「うーん……ノルンが番に執着して、それしか分からなくなって、ふたりでいればそれで幸せってなるんです。これはノルンしか罹らないんですよね」
「ふーん。アンがノルンに執着というか夢中になるんでしょ?番ってさ」

 そうなんですが……と、とても言いにくいですが、簡単に言えば旦那様があなたを信用してないんですよ。いつか裏切って逃げるんじゃって思ってるんですと、申し訳無さそうに僕を見る。

「はあ?なにそれ。僕がアンジェを裏切るなんて、誰かに力負けして襲われた時くらいでしょ!でも、心は裏切らないよ?」
「通常はそうですね。ですが……」

 ティモは旦那様は苦労されていて、ベルント様との仲もよくはなかった。番になっても、ベッドを共にしても振り向いてくれない妻に心を痛めていたと、屋敷の仲間に聞いたそうだ。

「ベルント様は元気な頃は奔放で、その…旦那様に疑われるような行動も多かったと聞きました。他の方とキスしてたり……その……お帰りが遅い時や……」
「ああうん。想像ついた」

 アンジェは知らないけど、まあ好きなことをしてたらしい。もしかしたら番としての繋がりが極端に弱かったのではないかと、ティモは考えているそうだ。家同士の都合での結婚の方にはあるようですよと教えてくれた。でもアンが自分から他のノルンになんて、僕にその気持ちは分からない。

「たぶん旦那様は、ベルント様の裏切りを無意識に感じられてたんじゃないですかね。だから番は裏切るって知ってらっしゃる」
「……うん」

 僕が来るまでのアンジェはなんて……涙出る。

「クルト様……」
「ごめん。あんまりにもアンジェは……なんでこんなにも辛い思いをしなきゃならなかったんだろうって思ったら」

 この公爵家は先代が亡くなってから、今の旦那様の力量だけでここまで来ました。黒の賢者の自負もあったんでしょうね。自分を殺しすぎた反動で、あなたのくれる愛情に溺れたんですよって。愛し愛される関係が心地よく、子どもも生まれた。いなくなったらどうしようって気持ちが戦で強く感じたのでしょうって。

「ローベルトに聞いたの?」

 ティモは首を振り、

「他の方もにもですね。屋敷の者もクルト様が来てから屋敷が華やぎましたって。ベルント様はみんな好きではあったけど、好きの意味が違うそうです」
「あ?」

 個人的に好きな方はいなかったんじゃないかと、みんな言っていたそう。でも候爵家の方で、鍛冶の技術がすごくて領地も潤って、旦那様が好きな方だから家臣も好き。ほほん。

「醜聞は外に出ないよう家臣は気を使ってたそうです。旦那様に気が付かれないようにしていた。それが本来の目的だったようですね」
「アンジェはみんなに認められて愛されたんだね」

 ええそれはもうとティモ。子供時代を知っている家臣ほど慕っておりますって。

「僕は何も知らないことにして、アンジェを待つよ」
「はい。それがようございます」

 ティモからはまだなにかある感じはするけど、どうせいい話など出て来ないだろう。なら聞いていいことはない。僕はアンジェの帰りを黙って待つ。きっとすぐ帰って来るはずだからね。







 
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