月の破片を受け取って 〜夢の続きはあなたと共に〜

琴音

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エピローグ クルトとアンジェのその後

5 念願の猫との暮らし

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 翌日、アンジェが王様たちとお仕事してる間、みんなで猫牧場に来た。城からそう遠くない直轄地に、王家所有の猫牧場があるんだ。

「カール猫だよ!猫!この世界に来て初めて近くでみたよ。うわーっ」
「かわいいですよね」
「うん!」

 牧場の名の通り、馬とか牛みたいな柵の中で猫たちは好きに過ごしていたけど、猫は飛ぶから魔法のドームが張られていた。それと大きさだけじゃなくて、この世界の猫はなぜか草食だ。馬とかと同じで牧草を食べる。まあ果物も穀類もね。ワイバーンも同じだから飼うのは簡単だと、調教師の方は説明してくれる。

「この魔石を首に付ければ人の言葉を理解しますが、猫はニャアだけです」
「ほほう」

 紫の魔石が真ん中についている皮のチョーカーを見せてくれた。魔石を外しても猫は懐きますが、本来の野生に戻る。人を選ぶようになり、誰でも乗せてはくれないし、僕が知ってる猫のようになるらしい。彼は牧場の猫は首輪はつけていませんから、素の彼らを見て下さいって。

「まるでペットのようですね」
「うん」

 僕が知ってる猫の生態だね。牧場の好きなところで丸くなって寝てたり、子猫は走り回ったり飛んで防壁にぶつかって落っこちたり。でも猫ひねりで着地。ケガはしなさそうだ。そんな様子を眺めていると、調教師さんはあれが本来の生態で、日がな一日餌を食べ寝ている。大人しい動物だと説明してくれた。

 夜行性のため夜中は飛んだり走ったりするけど、その時人は目に入らなくなるので、魔石のない猫は夜は近づかないようにと言われた。遊びに夢中になり、あちらは触ったつもりでもこちらは死ぬよって。うん、大型のトラとかライオンとかと考える方がよさそうだ。ペットとして飼うことも出来るが、大きさは忘れるなって。後で飼育のマニュアルをくれるそうだ。

「猫は昼間使役し、夜は魔石を外し開放。ストレスが少なくなり長生きします。見て分かるように広い牧場は必要ないですが、全速力で走れる大きさがあるとよりいいですね」

 あのぉ~とラムジーが手を上げた。猫は抜け毛の季節はないのかって。被毛のある動物は抜けますよねって。

「ええ。猫も春と秋に抜けますが、集めて羊の毛のように使えます。染色も出来ますし、無駄はありませんよ」
「硬くないんですか?」
「ええ。では触ってみましょうか」

 やほっーい。猫だあって僕は、首輪のある茶トラを触らせてもらった。

「カール大変!こんなに大きいのに、僕の知ってる猫の触り心地だ」
「ほほう。確かに柔らかいですね。ふかふかです」

 お腹が気持ちいいですよと、寝転んでる猫のお腹に入れてもらった。この世の天国……あったかくて、ほんのり猫臭くて堪らん!牧草のいい香りと土の匂いもする。夢がかなったなあ。この足の間の、特にふかふかなところに入ったら、きっと気持ちいいだろうと思ってたんだ。

「戦場でも活躍しますよ。テントなんか持っていかなくても寒さに負けません。野宿にぴったりです」
「ああ……そうね。夏は汗だくでキツそうだけど」

 ん?と、調教師の人に不思議そうにされた。夏でも夜は寒いでしょうって。ああそうか、砂漠は夜寒いんだったね。これだけの草木があろうと、元々ここは砂漠だったから、気候はそのままで変わらないのか。

「どの子にしようかな」
「ではこちらに。ここは繁殖用で、あちらが売り物用の子たちです。どうぞ」
「はい!」

 僕はワクワクと販売用の厩舎に行って、クルト様のお好きな子をと言われて探した。ここは王族の所有だけど、民も買いに来る場所。貴族専用ではないそうだ。王族や貴族の牧場は、猫の種類が豊富で、見た目や性格固定がされているらしい。

「ああブリーダーのようなものかな」
「ブリーダーとは?」
「いえ……すみません」
 
 不思議そうにしたけど、彼は追及はしてこなかった。まあ他国の公爵だから引いたんだろう。

 猫は血統の良し悪しがあって、姿、安定した飛行、長命とか。後は血統による種類だそうだ。長い年月の間に長毛、目の色、被毛の色などたくさん。前世と同じで種類の名前はあるそうだが、マニュアルを確認してくれって。種類は多く、いきなり全部は覚えきれないらしい。

「やはり茶トラだな。それと三毛……後は……」
「クルト様。この子かわいいです」

 カールは、気に入ったらしい猫の柵の前で眺めていた。アビシニアンみたいな猫だ。シュッとした体の猫。ラムジーは真っ黒でツヤツヤな子の前で、ボーッとかっこいいって言いながら見ている。ローベルトはスコティッシュフォールドのような子の前で、うーって手を伸ばして小さな耳をもしゃもしゃ。僕が選んだ子は和猫のような子だ。でもみんなは、血統書の猫のような子に興味を持っていた。

「種類は混ぜないほうがいいんだよね?」

 調教師さんは出来ればねって。

「能力に変化が起きて、クルト様が選んだ子に近づいて行き、野性味が増えますね。クルト様が好んだ猫は種類固定前の野生種で、この地域ならどこの森にもいますが、特別優秀な子が生まれるのも、この野生種です」
「ふーん」

 ならこの三種類かなあ。グレーのロシアンブルーっぽい子も目が緑で美しい。ん?ギーはどこだ?あ、いた。ヒマラヤン見たいな子の前でガン見している。

「これで織物を作ったらあったかそう……」

 とか言っていた。確かに。牛サイズの猫で、なおかつ長毛だから羊毛みたいに使えるかも。そのうちラムジーがギーに近づきヒソヒソ。運送用に騎獣を変形させれば、今からでもかなり持ち帰れるのでは?と話している。その手があったか!ならば騎獣は二人分だから……うひひ。

「では、こちらとこちら……えーっと。ラムジーたちは騎獣を運送用にするんでしょ?ならさ、ヘルテルにも連れていけばいいよ」
「え?我らももらっていいのですか?」
「どうぞ。皆さんに差し上げろと言われてますから、お好きなだけ」

 ご存分に選んで下さいませと、調教師の方はニッコリ。なら俺は全部長毛がいいとギー。暖かなマントや服が手に入るようになるからって。そうだなあと、ラムジーも同意して、ふたりは本気で牧場内を探し出した。
 結局、ヘルテル組はヒマラヤン、アビシニアン長毛、ノルウェージャンフォレストキャット長毛と全部長毛の子たちの番。本気で服にする気だな。名前は僕の記憶だから、たぶん違うけど(仮)で。僕は猫好きで、主要な種類は知ってるんだ。

「我が国には羊は少なくヤギが服飾に使われます。ですが、ヤギは小さくあまり取れないんです。このくらいで」

 調教師の方の手の幅は大型犬のサイズもなく、柴犬サイズ。

「えっヤギってそんなサイズだっけ?」
「ええ。この辺のヤギは小さいのです」

 当然食料にもなり、丸焼きにして食べるそうだ。あー……でも食べる所少なさそうだな。僕はウサギは?と聞いたら、凶暴だし鳴き声がうるさいから、家畜にしている人はいないそうだ。どんなに家から離れた場所でも、一匹でも声がうるさいらしい。そういやうちの国でもほとんど見かけないなあ。郊外の一軒家的な農家が、珍味的に生産だそうだ。だから、ウサギは冒険者に捕りに行かせるらしい。僕らはせっかくこんな遠くに来たからと、調教師さんにいろんな話を聞いて、とても楽しい時間を過ごした。

 僕らは猫を決めて、帰宅の日に迎えに来ますとお願いして城に戻ると、アンジェはお部屋で憮然としてお茶を飲んでいた。俺ばっかり仕事とは、なんでだよって。猫はどうでもいいけどって。

「ここにいると、仕事が次から次に舞い込みそうだから、王家所有の別荘に移ることになった。まあ、民が城に押しかけているからもある」
「え?そんなの見かけなかったけど?」

 ふうって鼻で返事。お前らは裏門から帰って来たからだって。表門は人だかりだそう。大樹を復活させた者を出せ!見せろって。王様が王家の者がやったんだと話したけど、民は納得してないそうだ。

「嘘つくな!出せ!あの奇跡はうちの王族じゃないはずだ!」
「どこから連れて来たんだ!あれはどこかの白の賢者だろ!見せろ!」
「女王の末裔だろ!出せ!隠すな!嘘つくなあ!」

 とまあ、城の門の前で叫んでいるそうだ。みんな水に困ってた辺りの国の人らしく、その人物に感謝を伝えるんだって騒いでるそう。あはは……どこかで体験したような、だな。

「明日出発する。民には誰がしたかは伝えない予定だそうだ。国内で誰か適当な人を見繕い、民に向けて祝賀披露をして誤魔化すらしい」
「ふーん」

 おいでって言われて、いそいそとアンジェの膝に跨り抱きついた。んふふっ

「お前はさ。あちこちに奇跡を起こす使命があったのかもな」
「え?」

 アンジェは、俺のこの世での時間は残り少なくなった。過去を振り返ると、そうなふうに思ったそうだ。お前はこの世界の者ではないから、この世界の人々は、僕がなにしても異世界者だからとみな納得する。アレス神の加護の解除なんざ、神には簡単なはずだ。それをお前にやらせているのには意味があって、神の思惑にお前は使われたのかもねって。ああ、そんな考え方もあるか。

「でも悪くはないかな。みんなの役に立てたし、ユグドラシルの当分の水の確保も出来た。ゼェメは今や美形の国として、王都はエロエロの風俗で栄えてるし」
「あれ、どうなんだろ……」
「まあね……」

 北からの人が流入して、見た目の美しい人が多くなったんだ。イケメンの国として近隣に名を馳せ、気がついたら貿易兼、歓楽の国になった。エロで国が稼いでいる訳ではないけど……ないけどねえ。観光客が異常で、結果的に貿易も盛んになり、国が儲かっている。
 
 王様はうちみたいな穏やかな~とか言ってたけど、どこもかしこもえっちぃ店ばかり。治安維持に苦労はしているけど、交易の中継地としては仕方ないのかも。

「アフロディーテ様に加護を貰った人の店まであるそうだ」
「ほほう。それは見てみたい」
「そうだな。帰りに寄るか」

 若い頃は僕が歓楽街を見たいと騒いだら、これでもかって嫌そうな顔したけど、今は僕の愛を疑わないから素直に連れて行ってくれる。

「でもねアンジェ。僕はあなたが一番のイケメンだよ。大好きだ」
「ありがとう」

 見た目がアンジェより美しかったり賢かったりの人もいるだろう。だけど、僕にはアンジェがいればそれでいい。僕のど真ん中イケメン。年取っても美しい夫がいればそれで満足なんだ。

「でもアンジェ年取らないねえ」
「お前のおかげ」

 僕はアンジェの頬をナデナデ。美しいアンジェは毎日見ても飽きないし、青い瞳はいつでも吸い込まれそうな美しさだ。それと、僕らは同じくらいの年齢に見えるようになった。アンジェは四十ちょこっとくらいから見た目が変わらなくなり、肌艶もいい。ちんこの勃ちも申し分ない。僕は五十近かったけど体も軽く、年齢を感じないし見た目は若いまま。そして頭の中身も残念なまま。アンジェも同じで、六十には見えなくて不気味と言われて始めていた。本人は気にもしてないけどね。

「クルト愛している。ハーデス様のところに行っても一緒にいよう」
「うん」

 なんて話して翌日、裏口から王家所有の山の別荘に移り、ユグドラシルをひと月堪能して帰宅。帰宅後は猫牧場を領地の城下の空き地に作り、僕は猫を増やし売りまくった。そして、貴族や商人のアンの方に大人気になり、ユグドラシルに時々買付けに行き、さらに拡大。商売は軌道に乗り、リーンハルトに引き継いだ。

 にゃんたまフカフカで、お尻の毛は特にふかふか。んふふっとサワサワしてたら、プスーっと音がして、ゲホゲホッ……おなら…死ぬだろ。クサッ臭すぎる!

「アンヌ臭いよぉ」
「ニャ~ン」

 僕は最初にもらった茶トラのアンヌだけを屋敷に連れて来て、客間の一つを潰して猫部屋にして飼っていた。アンジェは屋敷に入れるのは……と難色を示したけど、押し切ってね。猫飼うのが夢だったんだ。

「イチゴ食べる?」
「ニャン」

 にっちゃにっちゃ食べるアンヌはかわいい。僕は暇な時間にアンヌのお腹に埋まって、ユグドラシルで買って来た歴史の本をゆっくり読んでいる。自分のルーツ……とは思うけど、この体のルーツ、家のルーツが分かるかなって。なんも分からんかったけど、物語ふうの伝記は面白かった。

「クルトいるか?」
「うん」

 またアンヌの腹かと言いながら、自分もボスンとアンヌに寄りかかる。

「あーでもいいな。こんな寒い時期は」
「でしょう?」

 ふたりでなにかする訳でもなくこうしているのはいい。アンジェはたまにお城に仕事に行くけどね。街に出ればワイバーンと猫が飛び回り……なんだろね?って感じたけど、民は猫を受け入れ飛び回っていた。

 ……クルト、アンゼルム。時が近づいています。心の準備を……

「アンジェ!」
「俺にも聞こえた」
「アルテミス様。どちらですか?」

 ……別々の方がいいかしら?多少は融通出来ますよ……

「リーンハルトたちには悪いけど一緒で!アンジェいいよね?」
「ああ。残るのも残されるのも辛いからな」

 ……ではそのように……

 この世界では六十歳まで生きることは難しいんだ。前世の病はこちらでも当然あって、風邪で民は簡単に死ぬ。半分の人は早々にリタイヤが当たり前なんだ。いつか……誰が賢い人が僕のいた世界のように、抗生物質とか麻酔とか医療が進めば変わるだろうけど、そんな技術は、僕がこの世界で生きてる間には出來なかった。

 ……クルト。あなたには我らの使徒のような役割を押し付けたことを、詫びたいと思います。我らの法では現世に直接手を出すことは禁じられていますから……

 やはりそうかとアンジェ。前代未聞のことばかりが起きるから、なんか変だなあって思っていたそうだ。

 ……アレスの加護も人が願わなければ解除は出来ない。アレスが加護を与えた人を、他の神が不適格と認めることもない。あの地はあんまりだとアレス以外は感じていました。ありがとう……

「いいえ。楽しい一生でした。こちらこそありがとうございます」

 ……こちらで会いましょう……

 そして言葉はなくなった。アンジェとアンヌのお腹で抱き合った。とても幸せな時をありがとう。アンジェに見初められて、こんな幸せを手に出来た。感謝しかないよ。

「俺もだ。お前がくれた物は全て楽しかった」
「うん」

 前もっての神の天啓がある時、それが実行されるのは平均ひと月弱くらい。体のどこも不具合はないから事故かもね。でもアンジェと一緒ならどうでもいい。アンジェも同じことを考えていたようで、たくさんのことを子どもたちに残して行こうって。

「楽しかったね」
「ああ。なにもかも懐かしい。初夜のお前の怯えっぷりも、その後の乱れっぷりもな」
「やめてよ。アンジェもちんこ萎えないで僕を責めたでしょう?」
「あれはお前が煽るから」

 いつものようにあーでもないこーでもないもおしゃべりして、その時が来るのをなんでもない日常を過ごしながら待った。

 そして……

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