男娼からの成り上がり 〜溺愛されて流されて それでも僕は前を向く〜

琴音

文字の大きさ
45 / 83
三章 自分を知ること

14.領主の仕事とは

しおりを挟む
 翌日からジョナサンを始め、自分の担当の業務を指導してくれる事になった。

「正直なところ、領主は細かなところまで知っている必要はありません。メイドが何したこれしたとか、派遣した責任者がどのように動き、部下を管理したなんてのはいりません」
「うん」

 屋敷の会談などの仕事をするための部屋。ジョナサンは静かな口調で話している。

「指示、中間報告、結果。ここを把握します。視察は気になったことなど確認して、順調かどうか、問題ないかを確認する場です」
「うん」

 そこでやりにくい、不作だなんてことがあれば対策を取る。現在稼働中のものは維持しさらなる発展を考えるために行く。

「基本の流れは全て同じです。街であろうと農地であろうと」
「うん」

 とても丁寧に講義をしてけれる。

「しかし、これが出来るようにするには組織をきちんと作らねばなりません。領主は領内でどんな事業をしているか、予算はどのくらいかかっているか、それに対して収入がどれほどあるかを把握をする必要があります」
「うん」

 全体を把握するのか。ふんふん、変えたい所とか不満を聞く……か。

「簡単に考えれば個人でどこかに雇われているのと同じです。収入から、家賃、食費、衣服代、交際費など、それを考えて生活するはずです」
「うん」
「それが大きくなります。そして、一番の違いは、自分の生活だけではないのです。家臣、民の生活の責任が生じます。家族であれば親、稼ぎ頭の責任ですね。ここが破綻すると一家離散が起きます。それが領地全体だとお考えください。これは国にも波及します」
「なんと……」

 漠然と分かってはいたけど、言葉にされると余計に身につまされる。ぼんやりやることではない。

「なんとなく責任感はでましたか?」
「うん」
「長くやっている領主はここを忘れます。子供の頃から裕福に困ったことなどなく育つ。システムはすでに上手く回っていて、家臣も先代からの者で特に問題にならず回る。意識しなくなるんです」

 ジョナサンは続ける。
 ですが、それは先代の功績であって、次代の領主の力じゃない。同じようにやっても、家臣、民を侮ればついてきてくれはしない。当然だな。

「では何をすればついて来てくれるか。お分かりですか?」
「ただ仕事を真面目にすればいいだけじゃないんだよね」
「ええ。それですと逃げはしませんが、慕われはしませんね。あくまで稼ぐためにといるだけになります」
「だよなあ」

 ふたりで考えた。自分の国はこれで傾いている。家臣の心を掴めなかったからだ。ならばどうすれば………魅力とはなんだろう。

「なあ、お前はなぜ父上の側近をやっているんだ?何がよくてここにいる?」

 ふふっと微笑み僕らを見る。

「我が家は代々こちらに仕える家系ですね。私は土地なしの伯爵家です。基本当主は城勤めだす」
「へえ。お前は二男か」
「はい。二男以下の誰か、もしくは全部こちらに来ることが多いですね」

 家系だから来るだけじゃないんだろう。嫌なら他もあるんだし、城に士官も出来るはずだ。

「父上の何がよくて他所に行かなかったんだ?」

 少し考えた様子でうーんって。

「そうですねぇ。側にいると楽しいからです。歳も近く子供の頃から知っていますしね。それに困った人ではありますが、手を貸したくなる方なのです。これが全てですかね」
「ほほう」

 手を貸したくなる。

 これだろうな魅力って。父上の何がってことではないんだろう。この人のためなら頑張ろうって気にさせる何か。

「それって僕にもあると思う?」

 ふふっと笑い僕を見る。

「それは分かりません。ですがまず雰囲気は大丈夫ですかね。人を寄せ付けない感じはないですから。後はあなたを好きになってくれる人を身近に置き、更に増やす」
「簡単に言うよ。エロい目線でなら僕を好んでくれる者はたくさんいたけど、それなくしてどれだけの人が……」

 僕は見た目だけだよ。きれい、かっこいいとかそんなのばっかだった気がする。

「キャル、僕はあなたの見た目だけで好きになったんじゃない。困っている人を見つけ、手を差し伸べることが出来るあなただから、好きになったんだ。きっと他にもいるよ」
「そうかな」
「そうだよ!」

 カミーユはなあ、彼自体が優しく思いやりがあるタイプだからあれだけど、僕どこか冷めてるからねぇ。そんな事ないよって言ってくれるけど、あんまり信じられない。妻の贔屓目があるのではと疑う。そんなやり取りを見ていたジョナサン。

「冷めている部分は大切ですよ。変に感情で突っ走らないから。冷静に分析する力は大切ですからね。それしか見えなくなるなんて、周りが困ります」
「あはは。そうだね。長が暴れたら困るもんね」

 この国は今は安定していますが、昔は何かとあったようです。領主同士が仲がよく、間違っているのにも関わらず関係の良さで切れずに味方して、結局どちらも無くなったなんて家もあったそうだ。

「領主はそれでよかったかもしれません。ですが家臣は職を失い、土地は他家の管理になる。そうすればやり方も税制も変わる。どれだけの者が迷惑を被ったか。冷静に物を考えることは大切ですよ」
「悪いばかりじゃないか」
「はい。感情を優先するばかりではつとまりません」

 この辺りは未開発の土地が多く、誰でも土地持ちになる事はやろうと思えば出来るのだそう。庶民ですらね。なぜやらないんだろうとふと、思った。まあ脱線だけど。

「この国は貴族しか土地を開発出来ないのか?」
「いいえ。荒野なら好きにすればいい。ですが、あんまりやりません」
「なんで?」
「それは作物が育たないからです」
「うん?……あ」

 そうだった。この辺りは土地の力が弱いって言ってたよ。そのための教会だった。

「魔力が膨大に必要になるからか」
「ええ。現在領地になっている場所は元々ある程度作物が育ちます。ところどころ育ちが悪いだけ。ですが、我が領地の奥は逆。育つところの方が少ない。雨も少なく砂漠があったり、逆に雨が多く沼ばかりで開発に手間取る土地です。その手間を考えるとやりたがりません」

 昔の人はそれをどうにかしてってのが近隣の国ですね。今は便利になりましたから、ここより遠い他国に行き開拓して、そこの貴族になる者の方が多い。無駄なことはしませんよって。

「そっか、だから貴族少ないのか」
「ええ、貴族になりたいとか思う者は遠くに行きます。そうそう!未開の地を開拓して国にした人もいますよ。まだ小さいけど森が多く、製紙の技術が抜きん出てて。えーっと」

 そう言うと立ち上がり引き出しをゴソゴソ。あった!って。

「これです。白だけでもこれほどの種類があり、色紙も」

 机に何枚も広げて見せてくれた。

「手にとって見てください」
「うん」

 うわっさわり心地が全部違う。ザラザラな感じから滑らかの物まで。色も赤からピンク緑青、黄色。

「こちらは手紙用の便箋。線が引かれていて書きやすく、ほらここ。家紋などの印ではなく絵が入っていたり。華やかなんですよ」
「へえ……これすごいね。色もあって」

 絵は精巧に描かれた花や街の景色だ。一枚ずつ描いてるの?

「いいえ、印刷の技術も凄いんです。これ全部印刷」
「うそ!どうやってるんだ?っていうか印刷ってなに?版画みたいなの?」
「そうです。新聞は黒一色ですが、こちらは色彩があります。あの技術の発展のようですが、門外不出で、どうやってるのかは不明です」
「へえ……」

 これお値段高そうでしょう?でもこちらにある紙より少し高いだけだそう。庶民も手軽に買える値段なんだって。

「高いのはもちろんあります。貴族が好んでお茶会とかの案内に使うものです封筒もね。製紙と印刷。これを近隣から広めて売っています。そのうちこちらにも来るかも知れません」
「まだ来ないの?」

 僕は手元の紙を繁々と見つめていた。

「ええ、国が小さく隣くらいですかね。商品もそんなに作れてないようです。欲しい人は多いのですが、間に合っていません」

 これからの国ですねって。

「なんでここにあるの?」
「それはこの国からの人だったから。いつか売りに行くから買ってねって貴族に配った見本なのです」
「ふーん、商魂たくましいな」

 あははと笑った。この国の民は努力を惜しみません。自分の才がどこまでか試す人が多いんです。この国は最も成功した部類ですって。

「なんとまあ。商人では済まさず国にする。どんだけだよ。僕は領主だけでこんなに不安なのに」
「本当に市井には驚くような人物が潜んでますね。因みに私は出来ません。領主もね」

 性格的に向かないそうだ。誰かの相談役が向いていて、だからここにいるんだってさ。

「参謀タイプなんだな」
「ええ、ゼロから考えるのは不得意。でもあるものの改良は得意です。それも文官の仕事に特化していると感じてます」
「やりがいがあるんだな」
「ええ。毎日楽しいですよ」

 実際の執務はこの領地の場合、ジョナサンと他三名いるそうだ。秘書を兼任してるのがジョナサンで、他は執務のみ。だから僕らと会わないんだそうだ。当然文官も多くいるけど、その人らもね。

「領地内にはたくさんの管理者がおります。全て貴族が管理の長をしています。身内の下級貴族の者や、その身内の者など。数えたことはありませんが、結構いるんしゃないかな?」
「ふーん」

 それだけの人をここで全部管理か。
 うふふ。そんな人数をおかしな事を思わせずに雇い続けるのか。僕はスーッと体が冷えて行くのを感じていた。そんなの出来るのかよってね。







しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました

ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。 タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。

【本編完結】転生先で断罪された僕は冷酷な騎士団長に囚われる

ゆうきぼし/優輝星
BL
断罪された直後に前世の記憶がよみがえった主人公が、世界を無双するお話。 ・冤罪で断罪された元侯爵子息のルーン・ヴァルトゼーレは、処刑直前に、前世が日本のゲームプログラマーだった相沢唯人(あいざわゆいと)だったことを思い出す。ルーンは魔力を持たない「ノンコード」として家族や貴族社会から虐げられてきた。実は彼の魔力は覚醒前の「コードゼロ」で、世界を書き換えるほどの潜在能力を持つが、転生前の記憶が封印されていたため発現してなかったのだ。 ・間一髪のところで魔力を発動させ騎士団長に救い出される。実は騎士団長は呪われた第三王子だった。ルーンは冤罪を晴らし、騎士団長の呪いを解くために奮闘することを決める。 ・惹かれあう二人。互いの魔力の相性が良いことがわかり、抱き合う事で魔力が循環し活性化されることがわかるが……。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
 病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。  言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。  小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。  しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。  湊の生活は以前のような日に戻った。  一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。  ただ、明らかに成長スピードが早い。  どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。  弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。  お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。  あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。  後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。  気づけば少年の住む異世界に来ていた。  二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。  序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

処理中です...