男娼からの成り上がり 〜溺愛されて流されて それでも僕は前を向く〜

琴音

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五章 流れに身をまかす

1 コンラッド様と面会

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 まだまだ落ち着いたとは言えないけど、屋敷の文官たちは慣れて、外に配置した管理者たちも上手くやっている様子。
 この間の店主の放逐ほうちくの話が領内に広がって、僕のやり方がムカつくって人をあぶり出し、かなり落ち着いた。

「結局元農民身分の者たちも嫌だと少し出ていきましたね」
「ああ、以前のようには楽できないからねぇ」
「働かなければ食べられませんから」

 ふんぞり返っていれば金が入るなんて時代は終わったんだよ。そのやり方にどうしても馴染めない者たちは出ていったが、仕方ない。

「放置の畑はやりたい者に再分配しました。家族が多い者は喜んでいるそうですよ」

 そうか、ならいいかな。ヘラルドは、こういった改革は初めは出来ると思っても、やってみたら違ったなんてことは起きるものですからって。

「それと、こちらをどうぞ」
「なに?」

 宛先は僕で差出人は……コンラッド樣?カミーユでなく?封を破り中を読んだ。「グッ」と僕の漏れた声にヘラルドも分かっているのだろう、少し苦笑い。

「結婚式はいつやるのだってさ」

 僕の気の抜けた返事にヘラルドもこの状況ではねえって。

「ですが、お父上が亡くなって一年半以上経ちましたし、そろそろかとは感じていました」
「うん。したくない理由はないんだ。ただなあ」

 するのはいいが、他の貴族が今でも誰かしら面会予約が来てて面倒くさい。でもカミーユは王族だから大臣たちがうるさくてって書いてある。

「ヘラルドも読んでよ」
「はい」

 僕は隣のヘラルドにスッと差し出した。彼は途中からうーんって。

「今から準備して早くて半年後ですかね」
「だよね。ねぇヘラルド、家族だけじゃダメ?」
「あはは、ダメです」
「だよね……ふぅ」

 コンラッド樣はカミーユの年齢も言ってきてるんだ。始めて子供産むにはギリギリなんじゃないの?って……確かに。カミーユ二十八になったもんね。自分が若いのとカミーユ見た目は僕とあまり変わらないから忘れてた。

「赤ちゃんはさ。式前に作っちゃダメかな」
「はあ……こちらの国の常識が分かりませんから、なんとも言えませんね」

 仕方ねえ、コンラッド様に会いに行くかと、手紙を書いて二週間後。
 城の客間でカミーユと待っているとコンラッド樣が入って来た。

「コンラッド様、ご無沙汰しております。お時間を頂きありがとう存じます」
「いやいいよ。披露会ぶりか」
「ええ」
「カミーユはどうだ?」
「はい兄様。ぼくは……」

 カミーユは近況報告をした。最近メキメキと騎士としての腕を上げているんだ。私兵団長もすごく褒めてて、奥様にしておくのは勿体ないとまでね。魔力の少なさを腕で補って素晴らしいと。

「ほほう。お前は誰に似たのやら。父上もそこまでではないし……先祖に武芸に秀でた者でもいたのかもな」

 カミーユは自分の努力を兄に褒められるのを、ことのほか喜んでいる。

「うん。ぼく覚えるのは苦手だけど、慣れれば出来る男だよ」
「ああ、体も一回り大きくなったように見える」
「うん!相当鍛えてるから!騎獣に乗っての戦闘は難しいんだよ。術とのかね合いもあってね」

 ふーんとノルンみたいになって来て、キャルが嫌がらないか?とニヤニヤ。うーん、僕は壊れそうな華奢きゃしゃな人より……

「僕は気にしてません」
「そう?俺は妻はかわいい方が好きだがな」
「はあ?兄様とキャルは違いますぅ。ね?」

 ね?いくら兄弟でもねやの話はし辛いが、うんとカミーユに応えた。コンラッド樣は良い夫で幸せだなってカミーユに微笑みかけて、さて本題だと改まるのを確認して、ぼくらも聞く体制になる。

「モートンが終わって既に一年半以上経った。この間に私も新たな王として来年即位が決まっている」
「はい」

 今この国は急速に変わっていっているんだ。アセベドがいなくなり、気に入らない者を暗殺し、自分の子飼いの貴族に土地を渡すなど出来なくなった。未だに人さらいはなくなりはしないが、アセベドが台頭する前くらいには減っても来ていると、城の調査で確認されている。
 それに僕が他国との交易を始めて、国内に少しだけど珍しい物が流通し出した。その品がお金持ちの心を掴んだようで、僕の領地は観光で来る人も増えているんだ。当然他の領地は面白くない。国に税も収めず好き勝手やっているように見えるからね。

「それでな。自分たちでサーマリクに行って買い付けしてるようだ」
「ほほう。父上も最近こちらの国の人を見かけるとは言ってました。ですが……」
「ああ……分かっている」

 コンラッド様は僕の「ですが」に苦笑い。ほぼ鎖国の時代が何十年もあって、あちらに対する「小国を見下げる」気持ちがこちらの民に強くあるんだ。それがあちらの商人を怒らせて上手くいかない。そんな説明をコンラッド樣に僕は報告した。

「私もそれは聞いている。キャルの領地を見れば分かりそうなものなのに、なぜ認識を改めないのか」

 バカだからだろと浮かんだけど口にせず、

「お互い近くの国なのにほとんど知らない、身内もいないとなると、行くまで信じなのでしょうね」
「ああ」

 こんな彼らはうちに来るから商人は儲かっているんだよ。あはは。僕自身はそんなに儲かってはいませんがね。

「キャルの領地で仕入れると上乗せも必要で、結果高くなる。それが面白くないと領主共が騒いでいてな」
「ははあ。知らんがな、ですね」

 コンラッド樣に、そんな冷たい返事をするなと諌められた。こちらが悪いのは重々承知だが、取りなしてはくれまいかと。嫌だよ。

「うちもあちらも自由貿易で、税関での徴収のみです。それにサーマリクは世界中を相手にしています。そーんな尊大な態度で来る者に売る必要などないのですよ」

 僕の説明にコンラッド様は苦々しく、それは百も承知なんだ。こちらに非があり人として問題なのは分かっていると。

「今、私たちの力が及ぶのは直轄の城下町くらいなんだ。だから今の流れに王が手助けしたって実績が欲しい。王家の力を取り戻すきっかけにしたいんだ。手を貸してくれまいか。キャル」
「ああ、そういう……」

 コンラッド樣は辛そうだった。こんな些細な案件ですら好機と考えるほど力がなくなっているのか。

「すまない。ここまで落ちぶれると、どんな些細ささいな好機にでもすがりたくなるものなんだよ」

 僕はかしこまりました。父に相談してみますと答えはしたが、これは民間のことで商人や農民がと言うかは別物なんだよな。まあ、やるだけはやるけどさ。

「それと結婚式はやれそうか?」

 今日の本題だよね……うん。

「それがですね。うちはまだまだ不満を持っている者がいるようでして、先日強硬手段を取ったら結構各地で人が出ていってしまい……その、僕そこそこ嫌われてます」
「あれ……?俺も視察で見に行ったりしていたが、民も健康そうで市場も活気づいてるように見えたがな」

 うん、それは間違いない。領民の半分強には慕われているとは思う。だけど動くと損だと思って我慢している者、今はいいと感じていても気持ちが変わるであろう潜在的せんざいてき不満を持つ者がいるのが今回分かった。

「見た目だけなんですよ。そうそう人の心は変わりません」

 しいたげられてきた者たちにはよかっただろうけど、寝てても金が入るなんてやっていた者には不満でしかない。商人は粗方今回ので出ていったからこの先は少ないとは思うが、農民はどうかなとは考えている。

「大量離脱なんかされたら取り返せるのか。うちが傾くと国中が困りますからね」
「まあなあ。この国の医学の知識は過去のサーマリク伝来のものが基礎だ。少ない魔力と薬草で病気や怪我を治しているからな」
「ええ。これから数年は不安です」

 民に嫌われてる時点での、領主就任のお披露目もしたくはなかったのは本当だ。だから領地で民を迎えてのお披露目はしていない。父上が乗り込んだ時に触れを出したのみなんだ。

「だかな、キャルの顔をを見たことない者もいるはずだ。言葉も届いていないかもしれない」
「はい……」
「一度きちんと領民には顔を見せたほうがいいと俺は思うよ」

 分かってはいるんだよ。でも僕の腹黒さと、カミーユに嫌な思いをさせたくないって気持ちが優先してしまう。うんとは言えず黙っていると、

「よし。キャル余分な金はあるか?」
「へ?多少……」
「なら少し放出しろ。我ら王族と其方らだけの式にしよう。他の貴族には手紙と多少値の張る贈り物で招待しないようにすればよかろう?」
「え……それまかり通りますか?僕もそれは考えましたけど」

 不満は出るだろうが、城の内輪のはやっているからな。これくらいは俺が皆を納得させてやるって。

「父上にも頼むがな」
「はあ……それが出来るのならやりますけど」

 カミーユもそれならしてもいいかなって。ぼくはキャルが辛くなければいいって。

「カミーユ……知ってたのか」
「うん。ぼくは奥さんだよ?あなたの辛さは分かっているつもりだ。たくさん愛してくれてるのも知ってる」
「うん……ありがとう」

 屋敷で話しているのが耳に入らないことはないし、ヘラルドにも聞いたりしてるからって。言葉は濁されたけど察するよってね。

「ならこれで進めよう。半年もあればなんとか出来そうか?」
「ええ。父上にも相談しますが、多分出来ます」
「ならばよい。こちらの調整後の半年先を設定してくれ」
「はい」

 そんな会談を終えて屋敷に戻った。
 そっか、自分から提案すればよかっただけなのか。あーあ、カミーユにも心配かけちゃった。ちなみに先に子供は?とコンラッド様に聞いたら婚約中に出来ることもあるからなあって。手順を考えればよくはないが、子はめでたいから誰も文句など言わないよって。
 それに王族の場合、行儀見習いで半年前には別宅に住んでもらってとかするから……たまに間違いが起きることもある。避妊ポーションはあるが、人だからねって。

「それもそうか。親が決めるばかりではないからねぇ」
「うん。子供の頃から愛し合ってたなんて先祖は確かにいる。だから子供の誕生がおかしい王も時々ね」
「へえ」

 いつも通り寝る前のおしゃべりをベッドでしていた。この後の会話は……僕は気付いてなかったんだ。

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