男娼からの成り上がり 〜溺愛されて流されて それでも僕は前を向く〜

琴音

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五章 流れに身をまかす

10 遠い島国に  

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 翌日も出掛けたけど父上は魔石をくれなかった。暑さを楽しめとしか言わず……耐えかねて移動したいと父上に願った。

「もうムリか?」
「はい。外出たくない…です」
「わかった」

 ならば東の国、カミーユが好きな国に行こうと翌朝朝食後に移動することになった。食事中に、

「一昨日は酔いもあってキスをねだってすまなかった。お前には必要ないものなんだが、したくなって……」

 必要ないとは?それ以上言葉が続かなかったから「要らない」の意味は聞きはしなかった。オムレツを食べながら、

「父上。僕はあんなことがあったにも関わらず、セックスが好きなのはなぜだろうと不思議に思っていたんです。父上のせいですね」
「そうかもね」
「僕は好きですが、父上とはないですからね」

 それは残念だと笑った。それ以上この話はせず移動。小部屋の外は執務室なのは変わらないんだけど、僕が一歩足を出そうとすると、

「出るな!」
「へ?」
「ここは土足厳禁。この国はそう言う文化なんだ。靴を脱げ」
「はい」

 靴を脱いで小部屋を出ると、ザラッとした感触がした。なんだろうこの絨毯?

「靴持ってこっち来い」
「あっはい」

 今忙しいらしいからあいさつは後でだって部屋の外に出る。うん?

「君たちその格好は?」
「はい!こちらの民族衣装です。洋装は目立ちますから合わせてます」

 へえってまじまじと眺めていると、父上が解説してくれた。

「こちらは屋敷も衣装も大陸とは違うんだ。キャル、ライリーの器の絵を覚えているか?ガウンのような感じだ」
「ああ!同じですね」
「だろう?後で外に行こうな」
「はい」

 父上は、他の国ではやらないが商会の建物はこちらに合せたそう。なら衣装も合わせようってなったんだ。この国はまだ他国の人はあまりいなくて、敵意はないと示すためもある。
 僕らはメイドに靴を渡して宿泊用の部屋に向かう。こちらは別の屋敷は作ってなくて、この商会の中に客間があるそうだ。

「おお……中はこみらふうだ」
「ああ、俺が慣れなくて疲れるからな。一階と外観だけなんだよ」
「ふーん」
「でも、現地の客もくるから土足厳禁にしている」

 ふーん。サーマリクからの初めての商会で、気を使ってるんだってさ。僕がソファに座るといつものようにお茶やお菓子、さらにあの漬物が用意されていた。

「美味しい。いつものお茶もいいですが、この緑茶でしたっけ。美味しいです」
「俺もこれは好き。新鮮なお茶の香りとほんのり甘い口当たりが上品だ」

 ねぇ……なんで僕の隣に座るんだよ。昨日まで向かいに座ってただろ。

「父上」
「なに?」
「あちらが上座ですよ」
「別にいいだろ」

 それにな、俺はもうすぐお前は帰りたいと言うと踏んでるから、もうすぐ終わる親子旅行を存分に楽しむ予定なんだよと、肩に腕を回す。

「食ったりはしないから安心しろ」
「はい……」

 疑わしいけど、これだけ世話になって申し訳なくも思ってるのもあるから信じるけどさ。

「かわいい。このお菓子……なに入ってんの?」

 支度してくれるメイドに聞くとこの国特有のお菓子なんだと半分に割って見せてくれた。

「この黒いのがあんこですね。小豆の甘いペーストです」
「ふーん」

 口に入れるとパリって音がして中は甘い……不思議な味だね。おっ砂糖菓子もあるのか。かわいい。これはカミーユにお土産に買って帰ろう。

「キャルこの国は最近サーマリクと国交が成立したんだ」

 へえ。ライリーが好きなのに遅いのはなぜかと聞くと、

「ここはあまりにも遠く、山や海も超えての距離。間の国を中継しながら来るんだ。だから魔力を大量に使用する」

 そう言えばナロスから暑い国までは二回の経由だったけど、ここまでは四回小部屋を渡ったな。だろうと微笑んだ。

「この国の物は他国との交わりも少なく、独自文化で珍しく美しい品が多い」
「ライリーにもらったグラスは透明度もあり美しかったです」
「ガラスの技術はどう手に入れたかは分からないが、透明度が群を抜いていて素晴らしい」
「ええ」

 ここは南側の島の端っこで、この国は縦に長く広がるそう。ここから北まで町や村が点在していて、その地には我らと同じように管理者の貴族がいる。貴族とは呼ばないんだが……なんだっけ?と悩んでいる。メイドが助け舟で「大名とか藩主」とか言いますって教えてる。

「行ってみるか?北は冬だろうけど」
「ええ。行けるところまでなら」
「よし!うちからナロスまでくらいだが楽しもうぜ」
「へ?……そんなに長いの?」
「ああ、この国は冬季には、夏から冬が味わえる珍しい国なんだよ」

 おお……他国怖い。ここは南と言っても最南ではない。それはもっと先の小島から北は大きな島まで。途中たくさんの小さな島もあって、ここが最大の島だなんだって。

「そして米の国。小麦はパンにならず麺に加工がほとんどだよ」
「へえ」

 さあ昼飯だ!とエントランスの広い板間を抜けると段差になっていて靴があった。

「夏は梅雨と呼ばれる長雨があり、その湿気のまま暑くなるから、暑さ対策と木にカビが生えないように家は上げ底が基本なんだ」
「湿気怖い…」

 靴を履いて外出たら……なんだ…

「すごいだろ。これだけのものをほぼ木材で作る。遠くに見える天子の城も木造だ」
「あれ……うちの城くらいの高さありますよ?」
「そうだな。技術大国ではあるな。これほどの国は俺も見たことはない」

 そうそう、この国の名はなんというんだと父上に訪ねた。

「ジハン国だ。我らの言葉に訳すと「日いづる国」と昔は呼ばれていたんだ。王はいるんだが、天子と呼ばれていて天子が王。国同士は王家に丸投げだ」

 ほう。面倒臭いんだなこのおっさん。友好の証に斥候で四賢者の誰かが行けと言われて年長のお前が行けと王に指名されたらしい。

「王の命でなけれは、手前のマクルール王国までしか来ないよ。明らかに外国人と分かる顔立ちで、服装も違うものですら同じ肌色だろ」
「ええ」

 僕らに似ている顔立ちの人もいるし、ヒゲが濃い人もいる。よく見れば沢山の民族がいるのが分かる。

「全部この島の対岸の大陸の人だ。近場しか来てない…はぁ」

 確かに肌の色はみな同じくらいだね。

「父上、なんでそんなに面倒臭そうに話すんですか」

 本当は俺はまだこの国は早いと思っていたと言う。ここまで来る間の国も友好関係が出来たばかりで、四賢者の家もそちらに商会を作ったりしてはいて、俺が一番遠いんだ。なんでだよって気持ちが拭えないと頭を搔いた。

「王の命でなければなあ。ライリーが好きで行けとねだらなければ。はぁ……でも儲かるから…仕方なく俺が来たけど、あーあ。金マジで掛かったんだ。取り返すのに今必死なんだ」
「あらまあ」

 それとあまりに文化が違うし、なにより言葉が通じない、来ると疲れるんだそう。でも、こちらのアンはかわいくて大好きだから頑張れると胸を張る。張るな。

「ちっさくて喘ぐ声がたまらないんだ。体毛があんまりなくてツルツルでスベスベ。堪らんくて持ち帰りたい」
「はあ……さようで」

 人買いになりそうな発言は控えてもらおう。でも確かに背は僕らより全体に低く、ツルンとした顔立ちで凹凸は少ない。髪はボブスタイルが標準のようで、頭の上で軽く白いなにかで結んでて……確かにかわいい。だが、この会話は道を歩きながらしていい話ではない。

「ほら欲しいものは?お茶か?」
「はい。カミーユに」

 屋敷を出る時に「お茶ああ!おみやげええ」って叫んでたから各地で買ってるんだ。ちょうどお茶さん発見。

「この茶器だ。かわいい」
「これ国で買うと怖い金額だが、ここで買えば普通なんだ。税関と魔力の通行料が恐ろしく高くて、値段に上乗せされてさ」
「貿易のマイナス面ですが、お互い様ですよ」
「まあ…な」

 コレールに値段を聞くと、うん……倍どころではないな。どれにしよう。茶器もカミーユ喜んでたもんね。

「すみません。アンの人が好むセットはどれですか?」
「は?◯✕……うにゃ?」

 やべぇこの人大陸の言葉が話せない。コレールに通訳をお願いした。店主の説明を聞きながら、奥様にはこちらは?と奥から出してくれた。

「うわあ……花の形なんだね。きれいだ」
「梅の形を取り入れた茶器セットだそうです。そちらの国には持ち込まれていない高級品だけど、そちらで買うより安いよって言ってます」
「いくら?」

 サミュエルが言う金額はこちらの茶器の高級品と同等くらいだから、くださいって頼んで包んで貰った。お茶も当然うちの国で手に入らない物を買った。花びらのようなカップと受け皿とポットがかわいい。ほんのりビンクと白のグラデーションでね。きっと喜んでくれるだろう。

「後は街歩きか?」
「はい」

 瓦屋根は見たことなくて、茅葺きはまあ似たようなのがこちらにもある。だだ、屋敷も民家も全て木造なんだよ。土台だけ石で後は木材なんだ。

「この島は水と木に恵まれているんだ。南の一部くらいが日照りがあるくらいでな。台風は秋に多い。ただ地震が多いのが辛い」
「ふーん。島だからですかね」
「分からんがそうなんだろう。その分火山も多いし、素敵な温泉地も多いんだ」
「へえ」

 町並みもまるで違うし、言葉はわからない。でも楽しそうにみんな働いてはいた。奴隷らしき人など見かけない。

「あー食事と寝床だけの丁稚奉公?だっけかな。子どものうちに働きに出て、十五から賃金を払うっての。そこまでは見習いだからって里帰りの時に小遣い程度を持たせるくらいだそうだ」

 ほほう。衣食住はお店にあって困らないようにはなっているんだって。

「奴隷に近いけど違いますよね」
「ああ。仕事を教えて一人前と認められないと賃金払わないって仕組み。大陸にはないシステムだな」

 こちらでは十五までは働かないからね。学校に行って基礎を学ぶから。僕が大変だねと言うと、全ての子どもがじゃないとコレール。

「正しくは貧しい家の子は、です。店が学校に行かせて彼らは読み書きを覚えます。因みにこちらの学校は有料で、裕福なお家の子は働かずに通います。こちらの貴族階級、武士の子どもは私たちと同じで、特別な学校がごさいますね」
「へえ」

 ここの国は開国が数十年前らしくて、外国人自体が珍しいんだそう。うん、ジロジロ見られてるのは感じてた。ここの人は黒髪だから父上は恐ろしく目立つ。

「そのうち大陸の言葉も覚えてくれるだろうさ」
「ええ」

 散策が終わり夕食のテーブルに……生の魚?が皿に薄く切られて盛られてる!

「父上?なぜ調理前の魚がさらにおる……いや、あるのですか?」
「これで完成なんだよ。食ってみろ」
「ええ……マジか」

 ……黒いソースに緑の何かを溶いて、それに魚をつけて口に運ぶ。おお?このソースと合って美味いな。うんうんぐおッなんだ鼻が痛い!涙出るけど!後頭部もピリピリする!悶絶していると父上は笑いながら、

「わさびって言うんだって。辛いけど美味いだろ」
「はあー辛い、でも美味しいです。後は鶏肉や煮物?エビのフリッター…ですか。どれも美味しいです」

 ここは本当に馴染みがないものばかりだ。でもなんか好きかも、器が色とりどりで料理に合っていて目にも楽しい。
 そして風呂上がりにお酒を飲もうと、サロンと呼んでいいかは分からないお部屋に用意してもらった。夕食でも出たこちらの米とか麦のお酒を飲みながら、父上と明日以降の予定を話し合った。とても美味しいが、普段のワインと同量くらいのはずなのに、かなり酔ってグラグラする。

「父上……ムリだ眠い」
「俺もだ。飲みすぎたかも」

 この「座敷」は床に座り、低いテーブルと座布団のこちら様式の……知らないうちに隣にいた父上はふらついて僕により掛かる。重いなあ、もう。

「父上寝ましょうよ」
「うーっ寝るけど抱かせて」
「イヤですよ」
「俺は上手いから」
「怖っ!その情報どうでもいい。誰か!」

 はいとメイドが来てふたりで抱えて父上を部屋に運び込んだ。

「ナムリス様はここのお酒合わないのか合うのか、すぐ泥酔されるんです。それが分かってるくせに、美味しいからって毎回飲みすぎるんですよね」
「あはは……さすが僕の父上。だらしない」

 後は頼むねと、メイドに声を掛けて下がろうとしたら、腕を引っ張られ布団に倒れ込んだ。すかさず覆いかぶさりキスして来るし!強引に引き剥がす!

「ベッドに括り付けておいて!僕が身の危険を感じるから!息子狙うなって言っておいて!」
「ふふっはい」

 そして隣の部屋で爆睡した。翌朝目が覚めると隣に父上。ど、どこから忍び込んだんだ!?真っ先に僕はお尻を確認。うん大丈夫だった。ったく、あれだけフラフラのくせに狙ってくるとは。

「父上。朝ですよ、おはようございます」
「う…うん……キスして」
「僕は母上ではありませんよ」
「知ってる」
「余計悪い!」

 ほらほらと起こしてるとメイドが来てくれた。

「ナムリス様朝ですよ」
「うん起きる……いや、もう少し寝る」

 僕はメイドと見合って、別に仕事じゃないから好きに寝かせておこうってなった。僕は仕方なく父上の部屋の方に行って寝ることにした。
 数時間後、叫び声。キャルどこ!って。うるせえなと起きると、壁がスパンッと音を立てて開いた?ウソ絵があるから壁かと思ってたのに、これ引き戸か!
 ため息がふぅ……これさあ、別の部屋じゃないだろうよ。すぐ忍び込める作りとは。この国の文化、プライバシーがねえな。

「おはようございます。父上」
「うん……なんで隣にいないんだよ」
「いやいや…ねえ?食われたくはありませんから」

 チッと父上。あははと笑ってしまった。こんなやり取りが楽しいなあって思ったら、そろそろ帰りたいかもって気分。そうだね、ここが最後にしよう。父上とただ観光(視察)して商会見せてもらってるだけだったけど、意味なく楽しかったし、モヤモヤも少なくなっている。なんでも適当に生きて来たのに、きっとガラにもなく必死にやってたのかもと気がついた。

「父上ありがとうございます。この国を最後に帰宅します」
「ふん。やはりそうか」

 まあいい。俺も楽しかったしこの国で数日遊んでからなって言われて、はいって。

「いい顔になったな」
「んふふっ父上のお陰です」

 このなんにも気にせず遊ぶって何年ぶり?いや、こんなに気負わないのは娼館以来だろうか。あそこでは自分の世話だけで、売り上げなんざ知らねえとばかりに好きにしてたもん。子供時代を抜けば、あそこが一番幸せだったと思ってたけど、今も悪くないと思える。

「さて、寝すぎたからこれから騎獣で少し移動して、違う島で宿屋に泊まろうぜ」
「はい」

 そんな昼過ぎだった。
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