男娼からの成り上がり 〜溺愛されて流されて それでも僕は前を向く〜

琴音

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六章 そして行き着いた

9 講義の日

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 アルカイネ公爵家の学習部屋に先生と僕がぽつん。

「ではキャル様今日の講義は……」

 ナムリスが雇った先生と月に数日一緒にお勉強。うはは!仕事とは違い丸暗記嫌いなんだよ。仕事ならすぐに覚えることも中々頭に入らない。

「キャル様、これはサラッと聞いていればよいのですよ。仕事として関われば嫌でも頭に入りますから」
「はい……」

 この講義は学生のように覚えるための物ではありません。物語を聞いている気分でいいのですよと言われている。

「気になったことは聞いて下さいませ」
「はい」

 女性が完全にいなくなり、ゆっくりとアンと世代交代の時代。それはアンにとって暗黒の時代でもある。そのあたりの講義が今日のお話。

「見世物小屋、奴隷商、道端に転がる、娼館など、王家はアンを探しました。見つけると城に連れ込み手厚く健康状態が戻るのを待ち、蹂躙じゅうりんして行きました」

 市中ではおふれが出されていて、見つけ次第城か、貴族に差し出せと。見つけた者には大金が支払われたそうだ。だが、やはり自分の子も欲しかった街の人は、見つけたアンに数人産ませてから城に上げるなんてこともしていてね。

「そんな無理な出産に耐えられる訳もなく、何年もせずに亡くなっていたそうです。生まれた子どもにアンがいれば、我が子であろうが道具でしかなく……」

 それがたくさんの国で……妻が亡くなる、子が、身内がどんどん亡くなる恐怖でみんなおかしくなっていた。隔離しようがなんの効果もなくてね。経済も停滞して、奴隷商が一番儲かるなんておかしな時代。食べるものにも困るような時なのに、王家は子を作り続け、それに貴族も民も追随した。人という種が絶える恐怖が世界を覆っていた。

「私はこんな状況の中に女性がたくさん残っている国はさぞ怖かったと思いますね。女性は死の恐怖に怯え、アンは拷問のような未来が待っている」
「ですね。僕もそこにいたら……同じことをしていたかもしれません。自分が滅びの運命をたどると分かってるんですから」

 そうですねって先生。男だけが残り、百年経たずに全滅が見えるのだから。あの時代まともな人間はほとんどいなかったはずだ。正論を言えばその人が真っ先に殺されたのではないだろうか。希望だけどアン、女性は西の山脈を超えて逃げていて欲しいと思う。

「僕がその立場なら……そこしか逃げ場はないですもんね」
「だから私はあちらに冒険に行った者は帰ってこない人が多いのかも、なんて考えたりもします。恨みで男を殺してるのかもって」
「こちらがこれだけ資料が残っていると言うことは……ですね」

 まあ、山脈超えると広大に広がる砂漠があるそうです。そこをどれだけ歩けば水や森が現れたのだろうかと考えれば、荒唐無稽こうとうむけいですがねと。

「魔法を駆使し騎獣で飛び回り、それでも民家も人も草木すら発見出来ていないですから」
「そうなんですか?」
「ええ、今のところ良い報告は来ていないそうです」

 話がそれましたと先生は続けた。たくさん子どもが産まれ安定した頃から、この国の歴史は始まる。ここまでの話は旧ナロス王国の話だそう。そしてこのようなことをしでかしたあの国の前の王族、貴族はまともな人から狂っていき、今はその頃の貴族、王族は絶えている。

「自分の親、祖父母の残虐な行為に耐えられないアン、ノルンどちらの子どもも精神を病んで亡くなりました」

 その頃から他人の匂いを感じるようになり、相手をひとりに固定する番の本能が目醒めた。

「その時期に世界中の人々が自分の番を連れて国を出奔。その一つがサーマリク、モンタネールなどの国々です」
「はい」

 なぜ出奔か。国が内乱状態になったのか、もしくは政治が滞り国の体をなさなくなったのか。昔からの大国ナロス王国は名前だけは残りましたが、今の王は北の方の方だそうです。北から南に腐った国を滅ぼすと進軍していた、志だけで集まった解放軍かあったそうだ。

「この暴挙を止め、我らが滅びるならそれに従おう。生き物としての寿命を受け入れよう。これを錦の御旗に掲げて進軍していました」

 向かってくる敵はなぎ倒し、それに賛同する仲間をそれぞれの国で味方に加えていた。

「よかった……僕ここの部分知らなくて、正常な人はみんな殺されたかと」

 それなら我らは今ここにいませんと笑う。

「どうやって生き残り、軍を作り移動していたかは記録にはありません。カリスマがいたのです。それがあなたの先祖、現ナロス王の始祖です」
「へえ……ナロスの王すげぇ」

 美しい方でしたが、出自は分かりません。最北の国から来たとしか。その当時の最北は今は遺跡になっていて、観光客で溢れている。

「北の方でしたから白金、青い目、透き通るような白い肌だったそうです」
「今は多くの多身が金髪になったよね」
「ええ、ですが今のナロス王は白金のままです」
「系譜を残してるのか」
「はい。私もお会いしたことはありませんが、絵画はたくさんございますよ」

 ナロス王は解放軍のリーダーだったから王になって、一緒に行動していた者たちが貴族になり支えた。不遇の人たちを大切にして、生き残ったアンも保護した。ナロスがあの当時最南の国。本来の最南は前に行った灼熱の国イデール王国だ。あちらはあちらで暴動はあったが、それはご自分で勉強をしてねと。

「似たりよったりですが、あちらは小さな国の王がまともで……そうですねぇ。簡単に言えば、あなたの領地のようなことをして民を守り、周りが勝手にいなくなるまで耐えて再興したのですよ」
「へえ……それもすごい」
「それがイデール王国です」

 二大大国は手を携えるには物理的に遠く、お互いを知らなくて、民の移動が本格化してからの付き合いらしい。

「ナロス王の再興の過程は困難を極め、待てずに国を捨てる者も多かった。それがサーマリク、モンタネールなどの始祖たちです。この後はご存知でしょうから、割愛。なにかご質問はありますか?」

 現代人が考えれば森の魔物や猛獣と変わらない所業だが、なんとか種を存続させたいっていう「生き物の本能」がさせた行為なのかとも思う。人の理性などなく、子孫を残したいだけの……僕は改めてナロス王のように動けるだろうかと考えた。
 動物や昆虫はこんなことをすると、専門の博士たちの研究もなされてて、図書館の本で読んだことはある。種の保存が第一目標になり、病や環境が落ち着くまで耐えるんだ。ほんの一握りでも残れば、昆虫は瞬く間に増えて元通りになる。ネズミとかの種類もそうだ。

「動物に戻った数百年だったんですね」
「ええ。この時代の暴挙はなぜかというと研究と、ミツバチやアリの研究が合わさってこれだろうと仮説はたてられています。昆虫はいつも二割の者は働かず、餌もらって遊んでるんです。そして、普段働いている者たちがは働けなくなると代わりに働くんです。アンはそんな者だったのかと、仮説が立てられています」

 はじめにも言いましたが、我らの窮地を助けるのが「アン」だった。女性は男性に比べて体力的に弱く、魔力も少ない傾向があったと。

「もちろん個人差はありますが、全体にですね」
「昔は番の本能も匂いもなく、繁栄していた。病で女と言う属性が消え、男は男だけで増える能力を獲得した……か」
「簡単に言えばそうですね。今の我らはその当時の「アン」という宝物は持っていません。次は……ですね」
「うちの侍医も同じこと言っていました」

 番の本能が薄くなりつつあり、生涯ひとりを愛して増えるというものが崩れつつある。あの暗黒の前の時代に戻ろうとしているのだろうと。

「戻った先に女が産まれ、アンは危機の時の宝物に戻る。それならアンの不遇が起きない対策は必要ですね」
「ええ。僕の生きている間は無理でしょうが、薄くなり始めて二百年は過ぎていますよね」
「ええ、ゆっくりと戻っている最中なのかも」

 未来は不明だから、実は違う道かもしれない。我らは今を精一杯よくして、後進に豊かなものを残しましょうと先生は言う。

「そのためにキャル様はこの国を覚えて、真にこの国の者にならねばなりません。このサーマリクの発展を考えねばならぬのです」
「はい……出来るのかな。ヤバくなったらライリーの子に押し付け……て」
「あはは。王や四賢者になるための条件は知っていますね?」
「あはは……はい」

 王族にひとり、四賢者の血筋に一人ずつしか生まれないんだよねぇ……ふう。

 先生は、ナロス王の血族や、その時の貴族由来の者が今のサーマリクの貴族だから、北の滅びた国にこのような特殊能力があったのかもと。あの辺りは夏は短く、冬は厳しい。今ほど魔法の活用もなされていなかった時代で、寒さや食料不足は容易に想像く。子は死に易く、たくさん子どもを産むのが当たり前だったのだろうと。

「寒さは東の国で味わいました。あの雪と短い夏ば厳しい」
「ですね。うふふ」

 後半は雑談で講義は終わった。この国もモンタネールも苦労の末の国だと改めて思った。今僕がここにいられるのは奇跡なんだなあってね。







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