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一章 森の中の国
14 欲の暴走だよね
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朝になったけど起きられない。疲れた…本気で疲れた。あの後記憶は定かではないけど、乱れて……記憶がなくなったんだ。そして股間を触ればビチョビチョ……まだ漏れてるというか、彼のもあるんだろうけど。恥ずかしいから先にお風呂……ガシッと腕を掴まれた。
「おはようリシャールどこに行く」
「あはは……お風呂に」
「俺も行く」
仕方ないかとふたりでお風呂に。洗い場で体を手早く流した。お股は念入りに!やん漏れる。なにが出てんの?精液じゃないよね?僕の?
「気になるか?」
「はい……」
大人になったと言うか……子を産める体になったんだ。そう言うと抱き寄せられた。
「俺の匂い分かるか」
「え?……あっ甘い匂いがする。果物みたいな……もも?」
「お前もいい匂いがする。森に咲いているユリのような甘い香りだ」
お互い発情期なんだ。これからしたくて頭がおかしくなるらしい。一週間くらいで落ち着くが、それまではアンはこの匂いと尻から漏れ続ける。嘘でしょ!嫉妬もすごくなるから気をつけろと。おおぅ……
「おはようございます。入るならお声を……あっ」
その言葉とともにピシャンと扉が閉められた。なぜに?
「あはは。だからこの期間は自分でだ。今はあんまり感じてないだろうが」
「なに?」
「俺に誰か近づくとお前は嫉妬に狂う」
「は?」
「狂うは言い過ぎだが、とても嫌な気分になるんだ。俺もな」
「ふーん」
なら僕がロベール様を洗うねと、頭を濡らしシャンプーをつけてゴシゴシ。
「上手いな」
「僕たまにひとりで入りたい時があって、自分でしてたんです」
「ふーん」
頭を洗い体を海綿で洗う。なんか楽しい。
「改めてロベール様を見ると、きれいな体ですね」
「そうか?」
「うん」
「俺たち王族は細いからなあ。筋骨隆々とはならないんだ。他所からの血が入ろうともな」
ルーカスの奥方は大きいだろ?でも、子どもはきっと似ない。そんなもんなんだよって。
「ふーん。僕は細いけど両親は大きいからとか思ってたけど、ならロベール様そっくりな子どもが出来ますね」
「ああ」
彼の体を流して自分で頭も体も洗った。手伝うよと言われたけど、彼の目の色がおかしいから拒否。そして浴槽へ。
「したい……」
「ムリ」
お前の匂いが俺を誘うんだ。仕方ないだろって。この一週間はこの匂いをどこまで我慢が出来るか不明だそうだ。おおう……気を確かに持とうと心に誓ったが、あんあんと喘いでいた。
「いい……もっと……」
「ああ」
浴槽の縁でうつ伏せで押し込まれて、朦朧としながら悦んだ。言った先から……アアッ
「我慢なんか出来ないんだ。抑制剤があるからこの後飲もう」
「ハァハァ……うん」
とりあえず出したら落ち着いてお風呂を出た。クオールたちは青い顔して立っていた。
「どうしたの?」
「抑制剤が足りません。今宿屋にお願いしてます」
ここに服とタオルあるからご自分でと言い残し、駆け足で逃げた。なんでじゃ!
「この匂いな。他人にも影響してな」
「え?」
「他の人には他人の発情の香りは催淫剤みたいな効果があるんだ。他の人もしたくなってしまう」
「へ?」
それまずい。匂いをさせてる人を食いたくなるんだ。特にお前。僕?
「ノルンの匂いはアンが嗅ぎつけて抱いてと迫り、アンにはノルンがむらがるんだ。だから発情期は外に出てはならない。出るなら薬飲まないとな」
「へえ……」
お前習ったろと言われたけど、はてさて?勉強に関しては……つか、性に関してのは、中等学園で習ったな。すっかり忘れてたけど。
「お前はぼやぼやし過ぎ!不安だよ」
「ごめんなさい」
バスローブを羽織り部屋に戻った。が、誰もいない。お水とかは用意されてるけど……キョロキョロ見てもおらぬ。
「そのうち来るよ」
「はい」
用意されてるお水を飲んでいると、お待たせしましたと二人が入って来た。騎士も我らも飲みました。はいって小瓶二つ渡された。
「夜まで持ちますからお願いします」
「ああ」
小瓶の中身はヘドロ色ですが?まずそうだなあ。フタを取ってクンクン。グハッ!クサッ鼻もげるッ
「これこんな臭いするのか……」
「酷い臭い」
早よ飲めと二人の目が言っているから、一気に飲んだ。クサッ口の中クサッ毒?毒のようなまずさだ。
「キツイなこれ」
「ええ……毒かと」
水で口をすすぐように飲み込んだ。はあ……魔力も含まれてるのか、スーッと体に馴染むような気がする。おお、変な体の熱が取れたね。
「大丈夫そうですね。では朝食を運ばせます」
「ああ、頼む」
すでに窓全開で風魔法も発動中。そよそよと対流して外に流れているようだ。すごいねえなんて見ていると、ここのメイドさんが食事を並べてくれる。そして、僭越ながらと微笑み、
「おめでとうございます。式から間もなくで発情とは、なんと相性がいいのでしょう。この国の民としても嬉しゅうございます。おふたりのお子様を楽しみにしております」
そう言うと下がった。
「とてもめでたいことですから」
「ええ。お子様が今から楽しみですね!」
そっか、この発情は喜ばしいことなんだね。それもそっか、後継ぎが生まれるかもってことだもんね。
「さあさあ食べましょう」
みんなで席について頂いた。やはり宮中とは味付けも違い新鮮だ。サラダのドレッシング一つにしても違う。美味しい。
「ここから次の宿屋まで昨日より掛かりますから、食事の後すぐに出発です。お昼は途中の町のレストランになります」
「はい」
それと、途中薬屋に寄ります。抑制剤がありませんからねと。
「私どももこんなに早いとは予想外で、別荘には用意してたのですが……」
「ごめんなさい」
いえいえ、全く悪くありません。これだけ愛し合ってるのだから予想すべきだったのですよと、ふたりはこちらこそすみませんと。
「俺はただ嬉しくてすまなかった」
「いいえ。アンの発情はノルンにとってはとても嬉しいことですから、当たり前ですよ」
私も妻の時とても嬉しかったですからと、クオールは微笑んだ。
「こんなに嬉しいとは思わなかったんだ。心が痺れるほどの感動があるんだな」
「それはもう。自分だけの番となるのですから当然です。アンが死ぬまで自分を愛してくれるんですからもうね。この世の天国みたいな気分になります」
「ああ、そうだな」
当然アンもそういった気持ちになるはずなんですが、いかがです?と問われた。
「はい。愛しくて堪らないのはすでに。ですのであんまり変わってないかな?」
ただすごく側にいたい気持ちにはなりました。ずっと触れていたいって……恥ずかしいけど、お側にいたいと。
「その気持ちです。ですので我らはこの期間お二人に触ることはいたしません」
「はい」
抑制剤を飲んでいてもモヤモヤするんですよ。どうも嫌だって気分になる。ですから、ご自分でお風呂に入れるようにして下さいませ、ロベール様と言われている。
「分かった頑張る」
野営訓練はしてるから身支度は出来るはずですので、お願いしますと。そんな話をしてすぐに出発。お昼は町のレストランで食べて、またすぐに出発。途中休憩を取りながら夕方に宿屋に到着。食事をしてまったり寛いでいると、ふたりはおほほほ……と出て行った。
「クンクン……ももの匂いがする」
「うん。ユリの香り……切れたな」
「ええ」
そこから体は熱を持ち、勝手に勃起。欲しくて座ってるだけでハァハァとし出した。お尻濡れてる気がする。
「ロベール様……抱いて」
「ああ……リシャール愛してるよ」
そして一晩中愛し合い、翌日ほとんど寝てない状態で朝が来た。うおぉー……足りない……ロベールもっと……
「ダメだ理性が……」
「奥にッアアッもっと深くにッむぐックサっ」
精液と愛液に塗れて興奮していると、口に毒!おおー……ふたりして悶絶。ぐおぉー……
「おはようございます。朝ですよ」
「ハァハァ……毒かと」
興奮が引いていき冷静に。ふたりで見合ってあははと笑った。これヤバいなって。
「でしょう?ゆるく効くのを夜飲まれた方がいいかもですね。お子様が出来ないお薬だけでは辛いのではないですか?」
「ハァハァ……そうだな。これじゃ寝る時間がなくなる」
「ですね」
ふたりはたぶん五日目くらいが一番キツいはずたと言う。我慢なんて言葉は無意味で、日中の抑制剤も一番強いのを飲まなくてはだめかもと。まあ、そこら辺は別荘に着いてるからいいとして、今日は馬車に乗るまで寝るのは耐えろと言われた。
「ああそうする」
そして宿屋を出て馬車に乗り込むと、支度がされていた。クッションや掛け毛布とか。
「ここからは別荘まで近いですから、着くまでおやすみしてて構いませんよ」
「はい」
でも数時間も寝ると僕は起きてしまい、窓の外を眺めていた。ロベール様に膝枕。よく寝ていて、なんともかわいらしい寝顔だ。少し幼く見えるかな?そして目的地が見えて来た。小高い山をいくつか越えたら海が見えたんだ。
「すごい海だ!僕海に来たことなくてすごーい!ねえ海の水はしょっぱいって本当ですか!」
「ええ」
「うわーっ」
キラキラ波が光ってて、小舟が奥に見える。手前には大きな船もある。すごーい!と騒いたら、ロベール様も起きた。
「ここは我が国の貿易港だ。海からの唯一の場所。この対岸の国との交易ルートになってるんだ。くは~っ」
「へえ……なにが来てるんですか?」
眠そうにしながらも、この先は南の国だから香辛料や綿、砂糖や岩塩などの食料と果物かなって。後はアップルタイザーなどのりんごのジュースとか、カカオ……後なんだ?と、ロベール様は考え込んだ。
「タイルとかガラス製品も来るな」
「へー……すごい!」
東や北は陸路で来るから、この港の一番は塩と砂糖だなあって。ああ、薬草もだ。暑い場所じゃないと育たない物とかだなと。
「リシャールが付与していた魔石なんかを売って、その金で砂糖を輸入してるんだ。我が国では採れないからな。塩は高級品をな」
「へえ……」
「塩は塩田で作れるんだが、岩塩はまた違う」
そんな話をしている内に目の前が海!海だあ!
「あれ?港には行かないの?」
「行きたいのか?なら、明日以降だな」
「はーい!」
港直前で曲がったからね。海岸沿いを馬車で駆け、僕は窓を開けた。うおっ!湿っぽい風というかこれが潮風なんだね!すごーい!
「リシャール。そんなにはしゃぐと疲れるぞ」
「だって!こんなに綺麗なんだよ!空には鳥…カモメ!そうカモメだよね!」
「ああ」
夕方のキラキラした海が美しくて目が離せない。なんて綺麗なんだ。湖や池とは違う。目が奪われる……ほう……感動だ。
「ここまで喜んでくれたなら、ここの別荘は正解だったな」
「はい!」
海岸線を走ってたんだけど、横に曲がり森の中に。そして開けたところに到着すると屋敷があった。赤い屋根の貴族の屋敷くらいのサイズで、玄関が大きく、華やかな門柱と大扉があった。外門をくぐり車止めに馬車は止まる。
「素敵な屋敷ですね」
「ああ、夏によく来るんだが少し早いかな」
馬車の扉が開かれると、初老の執事がニッコリ。
「ロベール様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「ああ、ギオーク息災か」
「ええ、もちろん」
ロベール様が声を掛けると、ギオーク様は嬉しそうにした。
「奥様のリシャール様ですね。どうぞ」
「はい」
手を引かれて馬車を降りた。おおっここまで潮風がある。そりゃあ屋敷の後ろが海ですからと笑う。
「リシャール中に入るぞ」
「ああ、はい」
クオールたちは後で来るから気にするなと、ふたりで屋敷に入った。中のエントランスホールではメイドさんたちがズラリ。
「ロベール様、リシャール様ご結婚おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
どうぞこちらにとギオーク様が案内してくれて、客間に通された。すでにお茶の支度などが出来ていて僕らはソファに座る。
「お疲れ様でした。城から馬車ですと遠かったでしょう」
「まあな。ワイバーンなら半日だからな」
「そんなに早いのか。フェニックスと変わらないんだな」
「ほほう。リシャール様は召喚術士でおられるとお聞きしました。こちらまで来たことが?」
「いいえ、フェニックスに聞いたのです。呼び出した時に海まで飛んだんだって話してたので」
ほほうそうでしたかと。ここは城から一番遠い別荘で、直轄地としてはとても小さな領地。港のための領地なのですと説明してくれる。どこかの貴族の持ち物にすると、関税や港の停泊料などの金額が上がるため、国が所有しているんだそうだ。
「前はスキーマ男爵の持ち物だったんだよ。他国に国の分以上に上乗せしてな。問題になって一部直轄地にしたんだ」
「へえ」
ずいぶん昔の話だから今はその男爵はいない。やり過ぎてお取り潰しになった。我が王家は不正には断固とした措置を取る。今も昔もなって。こんな森の中の国でこんな小さな場所しか海に面してない国だ。不正を見逃すと、あっという間に国は滅びの入口に立つようになる。魔素だけが取り柄の国だから貿易は大切で、悪評が立てば他の国に乗り換えられる。それは死活問題になると、ロベール様が説明してくれた。
「うん。僕は付与技師だったからそれはよく知ってます。それを元にした製品で生計を立てている国だと、身を持って感じていましたから」
「ああ、この国が豊かなのはそのお陰なんだ」
ギオーク様、お部屋の準備が整いましたとメイドさん。ではこちらにと二階に移動した。一階は王様専用だそうだ。
「王はお年を召しても移動が楽なように、どの別荘も王のお部屋は一階あります」
「そうなんですね」
「王子様方にはこちらをどうぞ。作りは王と同じですので問題ないはずです」
中に入ると南国!ラタンの家具がある!お友だちの家にあったんだよ。すごーい。全体に他国感たっぷりで、これきっと南国の作りだよね!対岸の国の作りだ!そうだよねって聞けば、うんとロベール様。
「伯爵家はどうなってんだ?お前国を旅行とかしなかったのか?」
「あー……僕だけ行かなかったんです。知らない人が嫌で。メイドさんも違うし、執事も変わる。それが嫌で……あはは」
僕はラタンの背もたれに掴んで俯いた。
「そっか」
ならこれから俺と旅をしよう。夏は忙しく難しいだろうが、秋の終わりから冬に掛けて行こうと。北は少し雪も降るし、ここは冬でも暖かい。きっと楽しいぞって。
「はい。楽しみにしてます。あなたがいれば怖くないですから」
「うん」
ロベール様はほんのり頬を染めてくれる。んふふっ僕も嬉しいけど、あら……ヤバいな。なんかももの匂いする。
「おふたりともこちらをどうぞ。強く発情する時期です。お飲み下さいませ」
「ああ」
ふたりで小瓶を開ける。むわっと苦そうなかおりと、複雑な薬草の甘いような独特な、もう毒の香り……
「これもう少し美味しくならんのかな」
「はあ、私が若い頃からこの匂いと味でしたなあ。後は水分を抜いた錠剤になってるくらいで、味に変化はないですよ」
「錠剤……臭そう」
それはもう臭いですね。水分が抜けてる分香りも味も強烈ですが、持ち運びに便利ですよと。そうだけど僕はちょっと……小瓶を見つめてむーん。瓶の口から湧き上がる毒臭……仕方なく飲んだ。ぐおッ慣れない!この味は慣れないよ!苦くて変な甘さと酸っぱさと薬臭い味!一言毒!
「ハァハァ……鼻から抜けるこの毒……誰か研究して欲しい」
「薬学研究所に頼め」
「そうする……不味すぎ」
ももの香りもユリの香りも部屋から掻き消え、匂いがなくなった代わりに、毒臭が蔓延……
「今のは短時間用ですから、就寝の頃には切れます。穏やかに眠りたいのであれば、こちらの青を追加で、短時間は赤の瓶をお飲み下さい」
「ありがとうございます」
寝室のコンソールの上に置いておきますからねって。私も若い頃はよく飲みましたねえって。妻は発情期が多く、大変でしたと笑う。
「え!人により違うのですか!」
「ええ。年に数度の方もいれば、月一の方も。アンの方の体質でしょうなあ」
「僕は……」
アンが発情しなければノルンは反応せず、発情もしません。ですので奥様の体質にかかっております。母上様に似る方が多いので、お聞きになるとよろしいかと。
「ありがとうございます。聞いてみます!」
「では、また夕食で。失礼いたします」
ギオーク様が部屋を後にすると、クオールとミレーユが入って来た。
「あっ毒臭……薬が切れたのですね」
「お前ら毒臭とか……やめろよ飲みたくなくなるだろ」
「失礼しました。リシャール様が毒毒言うので移りました」
「ごめんなさい」
でも毒と言われても差し支えないくらい、この薬臭いですし不味いですよねと、ふたりもウンウン。お口直しにお茶を淹れましょうと出してくれた。
「これ……なに?」
「紅茶です。宮中で飲まれているのはハーブティですね。これが本当のお茶の葉だそうです」
輸入量が少なく、この地でしか飲まれていないものですよって。美味しい。レモンやミルクとの相性もよく、冷たくしても美味しいですよって。我が国でもお茶の木を育てれば作れそうなのに、民に人気がでず、輸入に頼っているそうだ。そうね、売れなきゃ作らんか。
「お土産屋さんとかに売ってるかな」
「たぶん。でも高いと思います」
僕はサッと横を向いて見上げた。
「ロベール様、少し買ってもよろしいですか?」
「ああ、好きなだけ持ち帰ればいい。気に入ったなら城に卸させればいいさ」
言ってなかったが、お前の生活費として資金はある。そこから買えばいいと。
「え!僕あんまり働かないから少しだよね……どうしよう。どれだけ買えるかな」
三人はブブッと吹き出した。妃殿下の予算は潤沢です。紅茶くらいいくらでも買えますよって。そうなの?
「ああ、俺たちはいずれ東の城を任される。父上の弟ウィリアム様が退位すればそうなる。だから王とほとんど変わらない予算が俺に、お前には王妃同等の予算が組まれているんだ」
「知らなかった……」
「うん。言ってないから」
これは教育では習わない。その時々で変わるんそう。俺ではなく弟が行くようなら、予算は削減する。王の補佐になるからなと。
「まあ、俺だろうけどね」
「へえ……」
お食事ですよとメイドさんが迎えに来たから、話は途中だけど食事に向かった。
「おはようリシャールどこに行く」
「あはは……お風呂に」
「俺も行く」
仕方ないかとふたりでお風呂に。洗い場で体を手早く流した。お股は念入りに!やん漏れる。なにが出てんの?精液じゃないよね?僕の?
「気になるか?」
「はい……」
大人になったと言うか……子を産める体になったんだ。そう言うと抱き寄せられた。
「俺の匂い分かるか」
「え?……あっ甘い匂いがする。果物みたいな……もも?」
「お前もいい匂いがする。森に咲いているユリのような甘い香りだ」
お互い発情期なんだ。これからしたくて頭がおかしくなるらしい。一週間くらいで落ち着くが、それまではアンはこの匂いと尻から漏れ続ける。嘘でしょ!嫉妬もすごくなるから気をつけろと。おおぅ……
「おはようございます。入るならお声を……あっ」
その言葉とともにピシャンと扉が閉められた。なぜに?
「あはは。だからこの期間は自分でだ。今はあんまり感じてないだろうが」
「なに?」
「俺に誰か近づくとお前は嫉妬に狂う」
「は?」
「狂うは言い過ぎだが、とても嫌な気分になるんだ。俺もな」
「ふーん」
なら僕がロベール様を洗うねと、頭を濡らしシャンプーをつけてゴシゴシ。
「上手いな」
「僕たまにひとりで入りたい時があって、自分でしてたんです」
「ふーん」
頭を洗い体を海綿で洗う。なんか楽しい。
「改めてロベール様を見ると、きれいな体ですね」
「そうか?」
「うん」
「俺たち王族は細いからなあ。筋骨隆々とはならないんだ。他所からの血が入ろうともな」
ルーカスの奥方は大きいだろ?でも、子どもはきっと似ない。そんなもんなんだよって。
「ふーん。僕は細いけど両親は大きいからとか思ってたけど、ならロベール様そっくりな子どもが出来ますね」
「ああ」
彼の体を流して自分で頭も体も洗った。手伝うよと言われたけど、彼の目の色がおかしいから拒否。そして浴槽へ。
「したい……」
「ムリ」
お前の匂いが俺を誘うんだ。仕方ないだろって。この一週間はこの匂いをどこまで我慢が出来るか不明だそうだ。おおう……気を確かに持とうと心に誓ったが、あんあんと喘いでいた。
「いい……もっと……」
「ああ」
浴槽の縁でうつ伏せで押し込まれて、朦朧としながら悦んだ。言った先から……アアッ
「我慢なんか出来ないんだ。抑制剤があるからこの後飲もう」
「ハァハァ……うん」
とりあえず出したら落ち着いてお風呂を出た。クオールたちは青い顔して立っていた。
「どうしたの?」
「抑制剤が足りません。今宿屋にお願いしてます」
ここに服とタオルあるからご自分でと言い残し、駆け足で逃げた。なんでじゃ!
「この匂いな。他人にも影響してな」
「え?」
「他の人には他人の発情の香りは催淫剤みたいな効果があるんだ。他の人もしたくなってしまう」
「へ?」
それまずい。匂いをさせてる人を食いたくなるんだ。特にお前。僕?
「ノルンの匂いはアンが嗅ぎつけて抱いてと迫り、アンにはノルンがむらがるんだ。だから発情期は外に出てはならない。出るなら薬飲まないとな」
「へえ……」
お前習ったろと言われたけど、はてさて?勉強に関しては……つか、性に関してのは、中等学園で習ったな。すっかり忘れてたけど。
「お前はぼやぼやし過ぎ!不安だよ」
「ごめんなさい」
バスローブを羽織り部屋に戻った。が、誰もいない。お水とかは用意されてるけど……キョロキョロ見てもおらぬ。
「そのうち来るよ」
「はい」
用意されてるお水を飲んでいると、お待たせしましたと二人が入って来た。騎士も我らも飲みました。はいって小瓶二つ渡された。
「夜まで持ちますからお願いします」
「ああ」
小瓶の中身はヘドロ色ですが?まずそうだなあ。フタを取ってクンクン。グハッ!クサッ鼻もげるッ
「これこんな臭いするのか……」
「酷い臭い」
早よ飲めと二人の目が言っているから、一気に飲んだ。クサッ口の中クサッ毒?毒のようなまずさだ。
「キツイなこれ」
「ええ……毒かと」
水で口をすすぐように飲み込んだ。はあ……魔力も含まれてるのか、スーッと体に馴染むような気がする。おお、変な体の熱が取れたね。
「大丈夫そうですね。では朝食を運ばせます」
「ああ、頼む」
すでに窓全開で風魔法も発動中。そよそよと対流して外に流れているようだ。すごいねえなんて見ていると、ここのメイドさんが食事を並べてくれる。そして、僭越ながらと微笑み、
「おめでとうございます。式から間もなくで発情とは、なんと相性がいいのでしょう。この国の民としても嬉しゅうございます。おふたりのお子様を楽しみにしております」
そう言うと下がった。
「とてもめでたいことですから」
「ええ。お子様が今から楽しみですね!」
そっか、この発情は喜ばしいことなんだね。それもそっか、後継ぎが生まれるかもってことだもんね。
「さあさあ食べましょう」
みんなで席について頂いた。やはり宮中とは味付けも違い新鮮だ。サラダのドレッシング一つにしても違う。美味しい。
「ここから次の宿屋まで昨日より掛かりますから、食事の後すぐに出発です。お昼は途中の町のレストランになります」
「はい」
それと、途中薬屋に寄ります。抑制剤がありませんからねと。
「私どももこんなに早いとは予想外で、別荘には用意してたのですが……」
「ごめんなさい」
いえいえ、全く悪くありません。これだけ愛し合ってるのだから予想すべきだったのですよと、ふたりはこちらこそすみませんと。
「俺はただ嬉しくてすまなかった」
「いいえ。アンの発情はノルンにとってはとても嬉しいことですから、当たり前ですよ」
私も妻の時とても嬉しかったですからと、クオールは微笑んだ。
「こんなに嬉しいとは思わなかったんだ。心が痺れるほどの感動があるんだな」
「それはもう。自分だけの番となるのですから当然です。アンが死ぬまで自分を愛してくれるんですからもうね。この世の天国みたいな気分になります」
「ああ、そうだな」
当然アンもそういった気持ちになるはずなんですが、いかがです?と問われた。
「はい。愛しくて堪らないのはすでに。ですのであんまり変わってないかな?」
ただすごく側にいたい気持ちにはなりました。ずっと触れていたいって……恥ずかしいけど、お側にいたいと。
「その気持ちです。ですので我らはこの期間お二人に触ることはいたしません」
「はい」
抑制剤を飲んでいてもモヤモヤするんですよ。どうも嫌だって気分になる。ですから、ご自分でお風呂に入れるようにして下さいませ、ロベール様と言われている。
「分かった頑張る」
野営訓練はしてるから身支度は出来るはずですので、お願いしますと。そんな話をしてすぐに出発。お昼は町のレストランで食べて、またすぐに出発。途中休憩を取りながら夕方に宿屋に到着。食事をしてまったり寛いでいると、ふたりはおほほほ……と出て行った。
「クンクン……ももの匂いがする」
「うん。ユリの香り……切れたな」
「ええ」
そこから体は熱を持ち、勝手に勃起。欲しくて座ってるだけでハァハァとし出した。お尻濡れてる気がする。
「ロベール様……抱いて」
「ああ……リシャール愛してるよ」
そして一晩中愛し合い、翌日ほとんど寝てない状態で朝が来た。うおぉー……足りない……ロベールもっと……
「ダメだ理性が……」
「奥にッアアッもっと深くにッむぐックサっ」
精液と愛液に塗れて興奮していると、口に毒!おおー……ふたりして悶絶。ぐおぉー……
「おはようございます。朝ですよ」
「ハァハァ……毒かと」
興奮が引いていき冷静に。ふたりで見合ってあははと笑った。これヤバいなって。
「でしょう?ゆるく効くのを夜飲まれた方がいいかもですね。お子様が出来ないお薬だけでは辛いのではないですか?」
「ハァハァ……そうだな。これじゃ寝る時間がなくなる」
「ですね」
ふたりはたぶん五日目くらいが一番キツいはずたと言う。我慢なんて言葉は無意味で、日中の抑制剤も一番強いのを飲まなくてはだめかもと。まあ、そこら辺は別荘に着いてるからいいとして、今日は馬車に乗るまで寝るのは耐えろと言われた。
「ああそうする」
そして宿屋を出て馬車に乗り込むと、支度がされていた。クッションや掛け毛布とか。
「ここからは別荘まで近いですから、着くまでおやすみしてて構いませんよ」
「はい」
でも数時間も寝ると僕は起きてしまい、窓の外を眺めていた。ロベール様に膝枕。よく寝ていて、なんともかわいらしい寝顔だ。少し幼く見えるかな?そして目的地が見えて来た。小高い山をいくつか越えたら海が見えたんだ。
「すごい海だ!僕海に来たことなくてすごーい!ねえ海の水はしょっぱいって本当ですか!」
「ええ」
「うわーっ」
キラキラ波が光ってて、小舟が奥に見える。手前には大きな船もある。すごーい!と騒いたら、ロベール様も起きた。
「ここは我が国の貿易港だ。海からの唯一の場所。この対岸の国との交易ルートになってるんだ。くは~っ」
「へえ……なにが来てるんですか?」
眠そうにしながらも、この先は南の国だから香辛料や綿、砂糖や岩塩などの食料と果物かなって。後はアップルタイザーなどのりんごのジュースとか、カカオ……後なんだ?と、ロベール様は考え込んだ。
「タイルとかガラス製品も来るな」
「へー……すごい!」
東や北は陸路で来るから、この港の一番は塩と砂糖だなあって。ああ、薬草もだ。暑い場所じゃないと育たない物とかだなと。
「リシャールが付与していた魔石なんかを売って、その金で砂糖を輸入してるんだ。我が国では採れないからな。塩は高級品をな」
「へえ……」
「塩は塩田で作れるんだが、岩塩はまた違う」
そんな話をしている内に目の前が海!海だあ!
「あれ?港には行かないの?」
「行きたいのか?なら、明日以降だな」
「はーい!」
港直前で曲がったからね。海岸沿いを馬車で駆け、僕は窓を開けた。うおっ!湿っぽい風というかこれが潮風なんだね!すごーい!
「リシャール。そんなにはしゃぐと疲れるぞ」
「だって!こんなに綺麗なんだよ!空には鳥…カモメ!そうカモメだよね!」
「ああ」
夕方のキラキラした海が美しくて目が離せない。なんて綺麗なんだ。湖や池とは違う。目が奪われる……ほう……感動だ。
「ここまで喜んでくれたなら、ここの別荘は正解だったな」
「はい!」
海岸線を走ってたんだけど、横に曲がり森の中に。そして開けたところに到着すると屋敷があった。赤い屋根の貴族の屋敷くらいのサイズで、玄関が大きく、華やかな門柱と大扉があった。外門をくぐり車止めに馬車は止まる。
「素敵な屋敷ですね」
「ああ、夏によく来るんだが少し早いかな」
馬車の扉が開かれると、初老の執事がニッコリ。
「ロベール様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」
「ああ、ギオーク息災か」
「ええ、もちろん」
ロベール様が声を掛けると、ギオーク様は嬉しそうにした。
「奥様のリシャール様ですね。どうぞ」
「はい」
手を引かれて馬車を降りた。おおっここまで潮風がある。そりゃあ屋敷の後ろが海ですからと笑う。
「リシャール中に入るぞ」
「ああ、はい」
クオールたちは後で来るから気にするなと、ふたりで屋敷に入った。中のエントランスホールではメイドさんたちがズラリ。
「ロベール様、リシャール様ご結婚おめでとうございます」
「ああ、ありがとう」
どうぞこちらにとギオーク様が案内してくれて、客間に通された。すでにお茶の支度などが出来ていて僕らはソファに座る。
「お疲れ様でした。城から馬車ですと遠かったでしょう」
「まあな。ワイバーンなら半日だからな」
「そんなに早いのか。フェニックスと変わらないんだな」
「ほほう。リシャール様は召喚術士でおられるとお聞きしました。こちらまで来たことが?」
「いいえ、フェニックスに聞いたのです。呼び出した時に海まで飛んだんだって話してたので」
ほほうそうでしたかと。ここは城から一番遠い別荘で、直轄地としてはとても小さな領地。港のための領地なのですと説明してくれる。どこかの貴族の持ち物にすると、関税や港の停泊料などの金額が上がるため、国が所有しているんだそうだ。
「前はスキーマ男爵の持ち物だったんだよ。他国に国の分以上に上乗せしてな。問題になって一部直轄地にしたんだ」
「へえ」
ずいぶん昔の話だから今はその男爵はいない。やり過ぎてお取り潰しになった。我が王家は不正には断固とした措置を取る。今も昔もなって。こんな森の中の国でこんな小さな場所しか海に面してない国だ。不正を見逃すと、あっという間に国は滅びの入口に立つようになる。魔素だけが取り柄の国だから貿易は大切で、悪評が立てば他の国に乗り換えられる。それは死活問題になると、ロベール様が説明してくれた。
「うん。僕は付与技師だったからそれはよく知ってます。それを元にした製品で生計を立てている国だと、身を持って感じていましたから」
「ああ、この国が豊かなのはそのお陰なんだ」
ギオーク様、お部屋の準備が整いましたとメイドさん。ではこちらにと二階に移動した。一階は王様専用だそうだ。
「王はお年を召しても移動が楽なように、どの別荘も王のお部屋は一階あります」
「そうなんですね」
「王子様方にはこちらをどうぞ。作りは王と同じですので問題ないはずです」
中に入ると南国!ラタンの家具がある!お友だちの家にあったんだよ。すごーい。全体に他国感たっぷりで、これきっと南国の作りだよね!対岸の国の作りだ!そうだよねって聞けば、うんとロベール様。
「伯爵家はどうなってんだ?お前国を旅行とかしなかったのか?」
「あー……僕だけ行かなかったんです。知らない人が嫌で。メイドさんも違うし、執事も変わる。それが嫌で……あはは」
僕はラタンの背もたれに掴んで俯いた。
「そっか」
ならこれから俺と旅をしよう。夏は忙しく難しいだろうが、秋の終わりから冬に掛けて行こうと。北は少し雪も降るし、ここは冬でも暖かい。きっと楽しいぞって。
「はい。楽しみにしてます。あなたがいれば怖くないですから」
「うん」
ロベール様はほんのり頬を染めてくれる。んふふっ僕も嬉しいけど、あら……ヤバいな。なんかももの匂いする。
「おふたりともこちらをどうぞ。強く発情する時期です。お飲み下さいませ」
「ああ」
ふたりで小瓶を開ける。むわっと苦そうなかおりと、複雑な薬草の甘いような独特な、もう毒の香り……
「これもう少し美味しくならんのかな」
「はあ、私が若い頃からこの匂いと味でしたなあ。後は水分を抜いた錠剤になってるくらいで、味に変化はないですよ」
「錠剤……臭そう」
それはもう臭いですね。水分が抜けてる分香りも味も強烈ですが、持ち運びに便利ですよと。そうだけど僕はちょっと……小瓶を見つめてむーん。瓶の口から湧き上がる毒臭……仕方なく飲んだ。ぐおッ慣れない!この味は慣れないよ!苦くて変な甘さと酸っぱさと薬臭い味!一言毒!
「ハァハァ……鼻から抜けるこの毒……誰か研究して欲しい」
「薬学研究所に頼め」
「そうする……不味すぎ」
ももの香りもユリの香りも部屋から掻き消え、匂いがなくなった代わりに、毒臭が蔓延……
「今のは短時間用ですから、就寝の頃には切れます。穏やかに眠りたいのであれば、こちらの青を追加で、短時間は赤の瓶をお飲み下さい」
「ありがとうございます」
寝室のコンソールの上に置いておきますからねって。私も若い頃はよく飲みましたねえって。妻は発情期が多く、大変でしたと笑う。
「え!人により違うのですか!」
「ええ。年に数度の方もいれば、月一の方も。アンの方の体質でしょうなあ」
「僕は……」
アンが発情しなければノルンは反応せず、発情もしません。ですので奥様の体質にかかっております。母上様に似る方が多いので、お聞きになるとよろしいかと。
「ありがとうございます。聞いてみます!」
「では、また夕食で。失礼いたします」
ギオーク様が部屋を後にすると、クオールとミレーユが入って来た。
「あっ毒臭……薬が切れたのですね」
「お前ら毒臭とか……やめろよ飲みたくなくなるだろ」
「失礼しました。リシャール様が毒毒言うので移りました」
「ごめんなさい」
でも毒と言われても差し支えないくらい、この薬臭いですし不味いですよねと、ふたりもウンウン。お口直しにお茶を淹れましょうと出してくれた。
「これ……なに?」
「紅茶です。宮中で飲まれているのはハーブティですね。これが本当のお茶の葉だそうです」
輸入量が少なく、この地でしか飲まれていないものですよって。美味しい。レモンやミルクとの相性もよく、冷たくしても美味しいですよって。我が国でもお茶の木を育てれば作れそうなのに、民に人気がでず、輸入に頼っているそうだ。そうね、売れなきゃ作らんか。
「お土産屋さんとかに売ってるかな」
「たぶん。でも高いと思います」
僕はサッと横を向いて見上げた。
「ロベール様、少し買ってもよろしいですか?」
「ああ、好きなだけ持ち帰ればいい。気に入ったなら城に卸させればいいさ」
言ってなかったが、お前の生活費として資金はある。そこから買えばいいと。
「え!僕あんまり働かないから少しだよね……どうしよう。どれだけ買えるかな」
三人はブブッと吹き出した。妃殿下の予算は潤沢です。紅茶くらいいくらでも買えますよって。そうなの?
「ああ、俺たちはいずれ東の城を任される。父上の弟ウィリアム様が退位すればそうなる。だから王とほとんど変わらない予算が俺に、お前には王妃同等の予算が組まれているんだ」
「知らなかった……」
「うん。言ってないから」
これは教育では習わない。その時々で変わるんそう。俺ではなく弟が行くようなら、予算は削減する。王の補佐になるからなと。
「まあ、俺だろうけどね」
「へえ……」
お食事ですよとメイドさんが迎えに来たから、話は途中だけど食事に向かった。
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