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三章 東の城
8 穢れとは酷くない?
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ムカつくったらありゃしない。城に帰っても腹は立ちっぱなし。僕らの存在も否定されてるじゃん。もう!
「まあねえ」
ミレーユはあちらから見ればそうなじゃないのですかと、お茶を淹れてくれる。
「そうですか。ミレーユも僕の一族は穢れと」
「嫌ですよ。そうではなくてですね」
見る立場が違えばそうなるのは当たり前と言ってるだけだって。
「穢れと言うくらいですから、精霊にとって人との交わりは禁忌の所業なのでしょう。言われても仕方ないですよ」
「そうだけどさ。自分がばっちいみたいじゃん!」
向こうからみれば人とのハーフでばっちいのでしょうよって。清廉なのが精霊なのですから、人の血で穢れてしまったと取れるのでしょう?と。
「ミレーユは精霊王の味方ね。ふーんだ」
ヤレヤレって手を広げた。ムカついて冷静に考えられないだけでしょうが、王妃がそれでは困ります。落ち着いて相手の立場の目も持ちましょうって言う。
なら人族と獣が交わって出来た子を、世間がどのように思うかご存知でしょう?と睨まれた。
「僕はなんとも思ってないよ」
「それはあなたがです。我が国では気にする者はいませんが、他国では違います。穢らわしい子と言われ、まともに就職すら難しい。獣人の国では特にです」
「……うん」
その種の血を尊ぶから……はあ同じか。分かってるんだ。うちの国は商売っ気が強くて人種など気にもしない。だけど他は違う。
「ごめん……」
「いいえ。気持ちは分かりますよ。自分が否定されたような気がしたんですよね」
「うん」
交わったのが精霊だから誰も文句など言わず、逆に喜んだ。なら、他だったら?貴族に取り立てられるどころか、差別され今や僕らは血も途絶えていたかもね。
「王族も然りですよ。力の強い人好きの火竜だったからみんな喜んだ。それがただの獣人だったら?今は王にもなれてなかったでしょうね」
「うん……」
精霊王の言う穢れた子でしかなかったはずです。あなたたちは人族にとっては奇跡の子どもたちなのですよって。それが続いて人族の繁栄に貢献している。誇っていいですとミレーユは真面目な顔になり、
「胸を張りなさい!あなたは特別な一族の生まれで、国の大切な術士です。そして東の王妃、なにも恥じるものなどない!」
「うん……」
ウジウジしない!こちらから見れば貴重な人材です。特別な火竜の妻で自然を操れる竜なのですから、堂々とふてぶてしく生きなさいって、強い口調。
「精霊王の言葉など忘れなさい。あれはあちらの見識なだけ。こちらとは違うのですよ」
「うん。少し考えます」
そうしなさい。この大陸中を見ても王族やあなたのような者はおりません。それほど特別な交わりの結果。気にするべきは、夫や子どもたちだけでいい。民と仲良くこの地を治めることですと、ほら料理長のケーキです。あなたの好きなフルーツのタルト。夕飯前ですがどうぞって。
「きちんと食事もして下さいね」
「うん。ありがとう」
今日のフルーツは黄桃ですよって。とてもいい桃の香り。一口に切ってパクリ。
「美味しいーッエッチなロベールを思い出す」
「……やめて」
「はい……」
そして就寝前のベッドでロベールにくだを巻く。やはり穢れと言われたことは簡単には消化出来なかった。
「あはは。当然だろ?俺もお前もあちらから見れば穢れた子だよ。なんだ今さら」
「あの?ロベールそれで納得なの?」
「ああ、種を守りたいって本能だからな。責められることではない」
そっか……うちの伯爵家はこの力を誉れとずっと言ってきて、負の側面は教わらなかった。父上も兄上も、この力が術士としての能力の底上げをするから、我らは胸を張れると。
「お前が繊細だから、その部分に触れなかったのだろうな。モーリッツは」
「うん……」
言われて当たり前なんだ。ハイネだっけ?お前の先祖は。彼が変わってただけだよ。当然俺たちの先祖もな。人が大好きで遠くの大陸からわざわざ来るとかどうかしてるんだ。あははとロベール。
「俺もお前の始祖の話しは初めて聞いたよ。確かに文献はないんだ。なぜ人と交わったのかなんてな」
「やっぱりそうなんだよね」
僕らは二匹ともこの世の最期かと思ってたからね。全く違ったけどさ。力のあるはみ出し者だっただけ。
「はあ……俺は嬉しいよ。あの火竜に仲間がいるんだって。ひとりぼっちじゃないんだって。今いないのは帰ったのかもな」
「うん。魔獣は人と交わっても病にはならないらしいから、きっと」
いつか会いに行きたいが、行けないんだよなあ。何年掛かるかわからないし、その大陸がどれほど離れてるかも定かではない。それに隣の大陸の人とは交易もなにもかもないんだ。無理だけど夢は膨らむね。
「そうだねえ。多分言葉も違うだろうし貨幣の価値も違うだろうから、何年分もの食料を持って?とか、無理だね」
「ああ。だが、解明されただけでも幸運だ」
「うん」
アウッ……なんで突っ込まれてんの……やん気持ちいい。
「考え事してるから勝手にな」
「なんでいつもそうなの?同意を求めてよ」
「え?嫌な日あるの?」
「……ないです」
エッチなリシャールが俺を拒むなんて、風引いてる時くらいだろ?と笑う。
「そうだけどさ。それでもね?」
「分かったよ。入れるよって言うさ」
「いやいや、する?しない?とまずは聞いてくれ」
「ええ、そこ?」
まあまあと唇が触れるともうダメ。気持ちよくてふわふわする。何年経ってもロベールのキスは……あぁ…もっと……僕は欲しくて頭に手を回した。
「すぐこんなになるんだから、声がけなんかいらんだろ?」
「いるの……夫婦でも……はふっ言葉はね。それによって気分は高まるから」
「ふーん……エッチな頭に切り替わって、俺を求めてくれるのか。なら聞く」
もう黙れと言われて激しく腰を振り、僕の体をなめ回す。念入りに乳首を舌で転がし、吸い付く。堪んない快感に力が入って腰が浮く。
「乳首硬い……新婚の頃より大きくなったな」
「ハァハァ…あなたが責めるから……んんっ」
上に乗るロベールの体に股間も擦れてもう……あうっ…出ちゃ……あーッ
「リシャールエッチだな。もうイッたか」
「だってぇ……」
「前は熱くて硬く、中は俺を締め上げる。うん?ほんのり花の香りを感じる。そっかもうすぐ発情期だな。楽しみ」
「ああ、それでこんなに早くイッちゃうのか。忘れてた」
リシャールの淫らな具合は毎回楽しみなんだ。お前は辛いだろうが、俺は誘われて発情するその辛さすら楽しい。セックス好きなんだよ。お前とするのが好きなんだと頬を撫でる。
「好きな人が自分を激しく求めるんだ。これほどの幸せはないよ」
だが、アンの発情期は誰でもよくなるから、城からは出るなよ?部屋からもなって。
「いやいや、毒飲めば平気だよ」
「ボケェ。俺は以前、多少しの香り漏れの文官にフラフラってしたからやめて」
「え?」
あわわわ……と激しく腰を振って誤魔化そうとする。ククッかわいいなあ。この隠し事できない感じが好き。仕事のことはきちんとしてるのに、こんなことは隠せない。
「ハァハァ……お前のことになるとダメなんだよ。不安になって話しちまう」
「うん。だから信用出来る。僕も隠し事しな……あっ」
そういや精霊王とキスしたよ?でもあれは力を分け与えるものらしいから違うのかな?と思ったけど話した。とても気持ちのいいキスなのに、欲情しない変なキスだった。
「ふーん。なんだろうな」
「分かんない。股間も体もなんにも反応しないんだ」
「でも嫌だな」
「ごめん……」
まあいいさ消毒だと唇が重なる。んふぅ……あなたのはものすごく欲情します。
「この顔は俺だけに。俺のリシャール」
「うん……もっとロベール」
そして翌日は雨。ふむ、お外はないな……いや。僕は城の裏口から傘を差して森の中に入った。そしてキョロキョロ。よし、人はいない。全裸マントで出てきてたんだ。んふふっそれっ
「おお!竜の姿で雨の中気持ちいい!雨に魔素たっぷりな気がする」
「なにしてんだか」
ミレーユは呆れた顔で僕を見上げる。まあ、城の敷地で遊ぶ分にはいいですけどねって。
「雨の中で竜になったことなかったんだ。いいね」
「さようで」
楽しくて歩き回った。竜になって見る景色は、人の時とはなんだか感じ方が違うんだ。視線の高さだけじゃなくてね。雨だとさらに違う気がする。体を流れる水が心地よく感じ、植物が喜んでるのも感じる。こうしてると精霊なんだなと思う。
「リシャール、俺は濡れるの嫌い」
「うん。トリムはミレーユといてよ」
トリムは僕と契約してくれたんだ。精霊王との別れの後、彼が追いかけて来てね。お前俺がいた方がいいんじゃないのか?精霊王はお前を追いかけるぞって。ハイネ様の話は今でも時々出るんだ。側近の精霊も、時々懐かしそうに話してるのも見かけるから、そのうち拐うかもなあって。お前は人でありたいのだろう?なら助けてやるって。
「俺なら精霊の気配を察知出来る。前もって逃げることが出来るよ」
「いいの?」
「ああ、俺はリシャール好きだから、お前が死ぬまで傍にいてやる」
「ありがとう」
「でも、力の差があるから絶対とは言えない。それは覚悟してくれ」
僕は森を踊るように歩き回って楽しんでいた。
「トリム、ありがとう。そこは覚悟してるよ」
そしてトリムの提案でミュイも出しっぱなしに。フェニックスの悪意を感じる能力は必要だ。精霊王の心の機微を拾えるはずだかから、肩に乗せとけって。ミュイは孤児院の慰問のおかげか、言葉は流暢になっているから問題なし。僕の警護は鉄壁だ!あはは。
「リシャールは雨の中、なにが楽しいんだか」
「私も分かりません」
ミレーユの頭に乗ってふっくら座るミュイ、肩には妖精トリム。華やかだなとか思いながら雨の中を楽しんでたら、雨がやんだ。早いよ!ほんの三十分もなかった。
「雨がやみました。ほら、雲の間からお日様も見えますよ。通り雨には期待できません」
「うん……」
外に出るのが遅かった。仕方なく変身を解いて城の軒先に入り、ミレーユからタオルを受け取る。
「でも楽しかった」
「それはようございました」
冷たい目で言われた。そりゃそうか。ミレーユたちは楽しくないもんね。またマントを羽織り部屋に帰って服を着て、本日は図書館!新作の物語を街で買って来てたんだ。それを読む。トリムとミュイは適当に城で遊んでてと解放し、僕は読み耽る。ミレーユはお茶とお菓子を用意してくれて、一緒に。
「姫!俺はあなたを諦められない!」
「いいえ」
姫は首を横に振り涙を流す……グスッ
家に居場所がなかったノルンが冒険者になり、侯爵家の姫の護衛を旅先で請け負った。平坦な旅ばかりでなく、嵐や獣に襲われたりもした。その長い護衛の間にふたりは恋仲になる。が、彼は子爵家の三子。彼の家はそれほど手広く活動してなくて人手は足りていた。それにアンならまだしもノルンは余剰だったんだ。彼は文官としての能力も高くなく、婿入り先に難航し、なら剣術はそこそこだから、冒険者になった。なんとなく残念な人。
「私には許嫁がおります……無理なのです」
「クッ……姫のためなら俺は何でもするのに!」
「そうはいかないのを、あなたはご存知のはずです」
「クソッ」
ならば思い出に、あなたを忘れぬように抱きたいと姫に申し出る。姫もいいよとベッドをその日から共にし出し、姫は発情してしまう。これ大問題。
「どうすんのこれ」
このまま嫁には当然行けない。元々の発情があるから、どう誤魔化すのか。この物語の時代は、まだ貴族のフリー恋愛の頃じゃないんだ。親が決めるのが当たり前の頃。僕はドキドキしながら読み進めた。
静かな図書室。時々文官が資料を取りに来るくらいで音もなく、なんて優雅な時だろう。僕はお茶を片手にうふふっ
いきなりバンッと派手な音にビクッ
「リシャール!」
「え?」
聞き覚えのある怒鳴り声。入口の方を向けば父上。とうとうここまで乗り込んで来るようになったか。
「ロベール様からの書状が先ほど届いて、俺はワイバーンで全速力で来た。このまま西の城に行って説明しろ」
「なにを?」
はああって怒りに満ちた息を吐き、目が怖い。父上そんなにひん剥くと目玉落ちるよ?
「うるさい!早く来い!」
「ええー……ミュイ、トリム来て」
その声に一分もせずふたりは僕の肩と頭に乗る。父上はなんだそいつらって目を向ける。
「昨日から僕の護衛になった精霊のトリムです。頭のはミュイ、知ってますよね」
「ミュイはまあ、精霊を使役?俺たちでは無理じゃ……」
彼は何年もの付き合いで僕を好いてくれて、僕が死ぬまでの契約をしてくれたんだ。いいでしょうと笑ったら驚愕し、スンとした。
「どうやって精霊を騙した」
「失礼な。僕の人柄です!」
まあいい、ワイバーンは用意してるから騎獣服に着替えて庭に来いと言い残し消えた。
「昨日のことですね。私も行きましょうか?」
「いいよ。王たちと父上兄様だけだろうから」
「俺たちがべったり付いてるから大丈夫さ」
まあそうでしょうが、トリム、あなたはなにが出来るのですか?とミレーユは問う。
「俺が得意なのは風魔法だ。リシャールに仇なす奴は切り刻む」
「いや……それは止めて。他は?」
「そうだな。嵐を巻き起こしたりかな?後は言葉を遠くに伝えるとか。風に乗せてどこまでもね。知ってる人のところならどこへでもだよ」
それすごい。お手紙いらずだね。
「そうさ。精霊同士なら念話も可能だけど、リシャールは竜になってないと他のやつの言葉は分からないからな」
「うん。未だに分からん」
ミレーユはええ?って。だからピンポイントで遊びに行ってたのかと驚いた。
「うん。俺が今日いる場所に遊びにおいでって誘ってたんだ」
「へえ……」
ああ!感心してる場合ではない。お父上がさらにキレるから早くって言われて部屋に戻り、ダッシュで着替えて庭に向かった。庭には父上とロベール。
「おそーい!リシャール!」
「すみません!でも急だったから」
「言い訳はいいから早くしろ!」
ほれ乗れってロベールに抱えられてワイバーンに乗せられた。俺が後ろに乗るからなって。
「西のワイバーンだから帰りは馬車かな」
「ふーん」
馬車は後から追いかけてくれるそうだ。あ?日帰り……
「出来る訳ないだろ」
「はい」
肩にふたりを乗せてると、飛ばされるかもだから胸に入れた。
「リシャールあったかい」
「いい子にしててね」
「ああ」
「俺はいつもいい子だよ」
行くぞと父上が言うと護衛とともに飛び上がる。そしてあっという間に加速して……グッ
「父上速い!」
「キレてたからなあ」
いつもなら三時間掛かる距離を二時間弱で到着。ハァハァ……苦しい。最近はベルグリフにもあんまり乗ってなかったから辛かった。
「お前は訓練サボり過ぎだ」
「はい。少し森あそび減らして訓練します」
父上は颯爽と降りて僕の腕を掴む。おいおい、逃げねえよ。
「王が詳細を聞きたがっている。急げ」
「はい」
相変わらず怖い。なんかお嫁に来てから父上怖いばっかなんだよ。優しかった父上はどこかに消えた。
「それはお前が問題ばかり起こすからだ!」
「ええ?なんもしてませんよ」
「胸に手を当てろ。いくつもあるだろ」
「はあ」
今はいいから早くと引きずられながら、城の正門の扉を潜ったんだ。あーそれ、僕が主体で起こしてないもん!濡れ衣だよとブツブツ思った。
「まあねえ」
ミレーユはあちらから見ればそうなじゃないのですかと、お茶を淹れてくれる。
「そうですか。ミレーユも僕の一族は穢れと」
「嫌ですよ。そうではなくてですね」
見る立場が違えばそうなるのは当たり前と言ってるだけだって。
「穢れと言うくらいですから、精霊にとって人との交わりは禁忌の所業なのでしょう。言われても仕方ないですよ」
「そうだけどさ。自分がばっちいみたいじゃん!」
向こうからみれば人とのハーフでばっちいのでしょうよって。清廉なのが精霊なのですから、人の血で穢れてしまったと取れるのでしょう?と。
「ミレーユは精霊王の味方ね。ふーんだ」
ヤレヤレって手を広げた。ムカついて冷静に考えられないだけでしょうが、王妃がそれでは困ります。落ち着いて相手の立場の目も持ちましょうって言う。
なら人族と獣が交わって出来た子を、世間がどのように思うかご存知でしょう?と睨まれた。
「僕はなんとも思ってないよ」
「それはあなたがです。我が国では気にする者はいませんが、他国では違います。穢らわしい子と言われ、まともに就職すら難しい。獣人の国では特にです」
「……うん」
その種の血を尊ぶから……はあ同じか。分かってるんだ。うちの国は商売っ気が強くて人種など気にもしない。だけど他は違う。
「ごめん……」
「いいえ。気持ちは分かりますよ。自分が否定されたような気がしたんですよね」
「うん」
交わったのが精霊だから誰も文句など言わず、逆に喜んだ。なら、他だったら?貴族に取り立てられるどころか、差別され今や僕らは血も途絶えていたかもね。
「王族も然りですよ。力の強い人好きの火竜だったからみんな喜んだ。それがただの獣人だったら?今は王にもなれてなかったでしょうね」
「うん……」
精霊王の言う穢れた子でしかなかったはずです。あなたたちは人族にとっては奇跡の子どもたちなのですよって。それが続いて人族の繁栄に貢献している。誇っていいですとミレーユは真面目な顔になり、
「胸を張りなさい!あなたは特別な一族の生まれで、国の大切な術士です。そして東の王妃、なにも恥じるものなどない!」
「うん……」
ウジウジしない!こちらから見れば貴重な人材です。特別な火竜の妻で自然を操れる竜なのですから、堂々とふてぶてしく生きなさいって、強い口調。
「精霊王の言葉など忘れなさい。あれはあちらの見識なだけ。こちらとは違うのですよ」
「うん。少し考えます」
そうしなさい。この大陸中を見ても王族やあなたのような者はおりません。それほど特別な交わりの結果。気にするべきは、夫や子どもたちだけでいい。民と仲良くこの地を治めることですと、ほら料理長のケーキです。あなたの好きなフルーツのタルト。夕飯前ですがどうぞって。
「きちんと食事もして下さいね」
「うん。ありがとう」
今日のフルーツは黄桃ですよって。とてもいい桃の香り。一口に切ってパクリ。
「美味しいーッエッチなロベールを思い出す」
「……やめて」
「はい……」
そして就寝前のベッドでロベールにくだを巻く。やはり穢れと言われたことは簡単には消化出来なかった。
「あはは。当然だろ?俺もお前もあちらから見れば穢れた子だよ。なんだ今さら」
「あの?ロベールそれで納得なの?」
「ああ、種を守りたいって本能だからな。責められることではない」
そっか……うちの伯爵家はこの力を誉れとずっと言ってきて、負の側面は教わらなかった。父上も兄上も、この力が術士としての能力の底上げをするから、我らは胸を張れると。
「お前が繊細だから、その部分に触れなかったのだろうな。モーリッツは」
「うん……」
言われて当たり前なんだ。ハイネだっけ?お前の先祖は。彼が変わってただけだよ。当然俺たちの先祖もな。人が大好きで遠くの大陸からわざわざ来るとかどうかしてるんだ。あははとロベール。
「俺もお前の始祖の話しは初めて聞いたよ。確かに文献はないんだ。なぜ人と交わったのかなんてな」
「やっぱりそうなんだよね」
僕らは二匹ともこの世の最期かと思ってたからね。全く違ったけどさ。力のあるはみ出し者だっただけ。
「はあ……俺は嬉しいよ。あの火竜に仲間がいるんだって。ひとりぼっちじゃないんだって。今いないのは帰ったのかもな」
「うん。魔獣は人と交わっても病にはならないらしいから、きっと」
いつか会いに行きたいが、行けないんだよなあ。何年掛かるかわからないし、その大陸がどれほど離れてるかも定かではない。それに隣の大陸の人とは交易もなにもかもないんだ。無理だけど夢は膨らむね。
「そうだねえ。多分言葉も違うだろうし貨幣の価値も違うだろうから、何年分もの食料を持って?とか、無理だね」
「ああ。だが、解明されただけでも幸運だ」
「うん」
アウッ……なんで突っ込まれてんの……やん気持ちいい。
「考え事してるから勝手にな」
「なんでいつもそうなの?同意を求めてよ」
「え?嫌な日あるの?」
「……ないです」
エッチなリシャールが俺を拒むなんて、風引いてる時くらいだろ?と笑う。
「そうだけどさ。それでもね?」
「分かったよ。入れるよって言うさ」
「いやいや、する?しない?とまずは聞いてくれ」
「ええ、そこ?」
まあまあと唇が触れるともうダメ。気持ちよくてふわふわする。何年経ってもロベールのキスは……あぁ…もっと……僕は欲しくて頭に手を回した。
「すぐこんなになるんだから、声がけなんかいらんだろ?」
「いるの……夫婦でも……はふっ言葉はね。それによって気分は高まるから」
「ふーん……エッチな頭に切り替わって、俺を求めてくれるのか。なら聞く」
もう黙れと言われて激しく腰を振り、僕の体をなめ回す。念入りに乳首を舌で転がし、吸い付く。堪んない快感に力が入って腰が浮く。
「乳首硬い……新婚の頃より大きくなったな」
「ハァハァ…あなたが責めるから……んんっ」
上に乗るロベールの体に股間も擦れてもう……あうっ…出ちゃ……あーッ
「リシャールエッチだな。もうイッたか」
「だってぇ……」
「前は熱くて硬く、中は俺を締め上げる。うん?ほんのり花の香りを感じる。そっかもうすぐ発情期だな。楽しみ」
「ああ、それでこんなに早くイッちゃうのか。忘れてた」
リシャールの淫らな具合は毎回楽しみなんだ。お前は辛いだろうが、俺は誘われて発情するその辛さすら楽しい。セックス好きなんだよ。お前とするのが好きなんだと頬を撫でる。
「好きな人が自分を激しく求めるんだ。これほどの幸せはないよ」
だが、アンの発情期は誰でもよくなるから、城からは出るなよ?部屋からもなって。
「いやいや、毒飲めば平気だよ」
「ボケェ。俺は以前、多少しの香り漏れの文官にフラフラってしたからやめて」
「え?」
あわわわ……と激しく腰を振って誤魔化そうとする。ククッかわいいなあ。この隠し事できない感じが好き。仕事のことはきちんとしてるのに、こんなことは隠せない。
「ハァハァ……お前のことになるとダメなんだよ。不安になって話しちまう」
「うん。だから信用出来る。僕も隠し事しな……あっ」
そういや精霊王とキスしたよ?でもあれは力を分け与えるものらしいから違うのかな?と思ったけど話した。とても気持ちのいいキスなのに、欲情しない変なキスだった。
「ふーん。なんだろうな」
「分かんない。股間も体もなんにも反応しないんだ」
「でも嫌だな」
「ごめん……」
まあいいさ消毒だと唇が重なる。んふぅ……あなたのはものすごく欲情します。
「この顔は俺だけに。俺のリシャール」
「うん……もっとロベール」
そして翌日は雨。ふむ、お外はないな……いや。僕は城の裏口から傘を差して森の中に入った。そしてキョロキョロ。よし、人はいない。全裸マントで出てきてたんだ。んふふっそれっ
「おお!竜の姿で雨の中気持ちいい!雨に魔素たっぷりな気がする」
「なにしてんだか」
ミレーユは呆れた顔で僕を見上げる。まあ、城の敷地で遊ぶ分にはいいですけどねって。
「雨の中で竜になったことなかったんだ。いいね」
「さようで」
楽しくて歩き回った。竜になって見る景色は、人の時とはなんだか感じ方が違うんだ。視線の高さだけじゃなくてね。雨だとさらに違う気がする。体を流れる水が心地よく感じ、植物が喜んでるのも感じる。こうしてると精霊なんだなと思う。
「リシャール、俺は濡れるの嫌い」
「うん。トリムはミレーユといてよ」
トリムは僕と契約してくれたんだ。精霊王との別れの後、彼が追いかけて来てね。お前俺がいた方がいいんじゃないのか?精霊王はお前を追いかけるぞって。ハイネ様の話は今でも時々出るんだ。側近の精霊も、時々懐かしそうに話してるのも見かけるから、そのうち拐うかもなあって。お前は人でありたいのだろう?なら助けてやるって。
「俺なら精霊の気配を察知出来る。前もって逃げることが出来るよ」
「いいの?」
「ああ、俺はリシャール好きだから、お前が死ぬまで傍にいてやる」
「ありがとう」
「でも、力の差があるから絶対とは言えない。それは覚悟してくれ」
僕は森を踊るように歩き回って楽しんでいた。
「トリム、ありがとう。そこは覚悟してるよ」
そしてトリムの提案でミュイも出しっぱなしに。フェニックスの悪意を感じる能力は必要だ。精霊王の心の機微を拾えるはずだかから、肩に乗せとけって。ミュイは孤児院の慰問のおかげか、言葉は流暢になっているから問題なし。僕の警護は鉄壁だ!あはは。
「リシャールは雨の中、なにが楽しいんだか」
「私も分かりません」
ミレーユの頭に乗ってふっくら座るミュイ、肩には妖精トリム。華やかだなとか思いながら雨の中を楽しんでたら、雨がやんだ。早いよ!ほんの三十分もなかった。
「雨がやみました。ほら、雲の間からお日様も見えますよ。通り雨には期待できません」
「うん……」
外に出るのが遅かった。仕方なく変身を解いて城の軒先に入り、ミレーユからタオルを受け取る。
「でも楽しかった」
「それはようございました」
冷たい目で言われた。そりゃそうか。ミレーユたちは楽しくないもんね。またマントを羽織り部屋に帰って服を着て、本日は図書館!新作の物語を街で買って来てたんだ。それを読む。トリムとミュイは適当に城で遊んでてと解放し、僕は読み耽る。ミレーユはお茶とお菓子を用意してくれて、一緒に。
「姫!俺はあなたを諦められない!」
「いいえ」
姫は首を横に振り涙を流す……グスッ
家に居場所がなかったノルンが冒険者になり、侯爵家の姫の護衛を旅先で請け負った。平坦な旅ばかりでなく、嵐や獣に襲われたりもした。その長い護衛の間にふたりは恋仲になる。が、彼は子爵家の三子。彼の家はそれほど手広く活動してなくて人手は足りていた。それにアンならまだしもノルンは余剰だったんだ。彼は文官としての能力も高くなく、婿入り先に難航し、なら剣術はそこそこだから、冒険者になった。なんとなく残念な人。
「私には許嫁がおります……無理なのです」
「クッ……姫のためなら俺は何でもするのに!」
「そうはいかないのを、あなたはご存知のはずです」
「クソッ」
ならば思い出に、あなたを忘れぬように抱きたいと姫に申し出る。姫もいいよとベッドをその日から共にし出し、姫は発情してしまう。これ大問題。
「どうすんのこれ」
このまま嫁には当然行けない。元々の発情があるから、どう誤魔化すのか。この物語の時代は、まだ貴族のフリー恋愛の頃じゃないんだ。親が決めるのが当たり前の頃。僕はドキドキしながら読み進めた。
静かな図書室。時々文官が資料を取りに来るくらいで音もなく、なんて優雅な時だろう。僕はお茶を片手にうふふっ
いきなりバンッと派手な音にビクッ
「リシャール!」
「え?」
聞き覚えのある怒鳴り声。入口の方を向けば父上。とうとうここまで乗り込んで来るようになったか。
「ロベール様からの書状が先ほど届いて、俺はワイバーンで全速力で来た。このまま西の城に行って説明しろ」
「なにを?」
はああって怒りに満ちた息を吐き、目が怖い。父上そんなにひん剥くと目玉落ちるよ?
「うるさい!早く来い!」
「ええー……ミュイ、トリム来て」
その声に一分もせずふたりは僕の肩と頭に乗る。父上はなんだそいつらって目を向ける。
「昨日から僕の護衛になった精霊のトリムです。頭のはミュイ、知ってますよね」
「ミュイはまあ、精霊を使役?俺たちでは無理じゃ……」
彼は何年もの付き合いで僕を好いてくれて、僕が死ぬまでの契約をしてくれたんだ。いいでしょうと笑ったら驚愕し、スンとした。
「どうやって精霊を騙した」
「失礼な。僕の人柄です!」
まあいい、ワイバーンは用意してるから騎獣服に着替えて庭に来いと言い残し消えた。
「昨日のことですね。私も行きましょうか?」
「いいよ。王たちと父上兄様だけだろうから」
「俺たちがべったり付いてるから大丈夫さ」
まあそうでしょうが、トリム、あなたはなにが出来るのですか?とミレーユは問う。
「俺が得意なのは風魔法だ。リシャールに仇なす奴は切り刻む」
「いや……それは止めて。他は?」
「そうだな。嵐を巻き起こしたりかな?後は言葉を遠くに伝えるとか。風に乗せてどこまでもね。知ってる人のところならどこへでもだよ」
それすごい。お手紙いらずだね。
「そうさ。精霊同士なら念話も可能だけど、リシャールは竜になってないと他のやつの言葉は分からないからな」
「うん。未だに分からん」
ミレーユはええ?って。だからピンポイントで遊びに行ってたのかと驚いた。
「うん。俺が今日いる場所に遊びにおいでって誘ってたんだ」
「へえ……」
ああ!感心してる場合ではない。お父上がさらにキレるから早くって言われて部屋に戻り、ダッシュで着替えて庭に向かった。庭には父上とロベール。
「おそーい!リシャール!」
「すみません!でも急だったから」
「言い訳はいいから早くしろ!」
ほれ乗れってロベールに抱えられてワイバーンに乗せられた。俺が後ろに乗るからなって。
「西のワイバーンだから帰りは馬車かな」
「ふーん」
馬車は後から追いかけてくれるそうだ。あ?日帰り……
「出来る訳ないだろ」
「はい」
肩にふたりを乗せてると、飛ばされるかもだから胸に入れた。
「リシャールあったかい」
「いい子にしててね」
「ああ」
「俺はいつもいい子だよ」
行くぞと父上が言うと護衛とともに飛び上がる。そしてあっという間に加速して……グッ
「父上速い!」
「キレてたからなあ」
いつもなら三時間掛かる距離を二時間弱で到着。ハァハァ……苦しい。最近はベルグリフにもあんまり乗ってなかったから辛かった。
「お前は訓練サボり過ぎだ」
「はい。少し森あそび減らして訓練します」
父上は颯爽と降りて僕の腕を掴む。おいおい、逃げねえよ。
「王が詳細を聞きたがっている。急げ」
「はい」
相変わらず怖い。なんかお嫁に来てから父上怖いばっかなんだよ。優しかった父上はどこかに消えた。
「それはお前が問題ばかり起こすからだ!」
「ええ?なんもしてませんよ」
「胸に手を当てろ。いくつもあるだろ」
「はあ」
今はいいから早くと引きずられながら、城の正門の扉を潜ったんだ。あーそれ、僕が主体で起こしてないもん!濡れ衣だよとブツブツ思った。
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