緑の竜と赤い竜 〜僕が動くと問題ばっかり なんでだよ!〜

琴音

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三章 東の城 

11 街にお出かけ

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 王が帰ってからもロベールは少しおかしいまま。僕はきちんと落ち着くまでは城から出ないようにしていた。
 心配はトリムたち。でもトリムは人の世界は面白いから別に森に行かなくてもいいよって。ミュイは転移の力があるから適当にいなくなる。特に問題はないが、トリムがいつもなにかしらのお菓子を持ってるのは気になる。

「トリムそれどうしたの?」
「うん。メイドの人がくれた」
「前にドールハウスのお皿みたいになのにチョコレートケーキもらってたよね?」
「うん。料理長がくれた」

 つーかさ、精霊ってなに食べるの?と聞けば、

「そうね、森の木の実や果物かな。後は食べられる葉っぱとか」
「冬はなにを?」
「備蓄の木の実かな。まあ魔素があれば本来食べなくていいんだけどさ」
「ふーん……お腹出てきたね」
「えっ」

 読書の本の横でバリバリ食べてるから気になったんだ。ここに来て二ヶ月、確実に丸くなって来ている。

「人の食べ物は栄養豊富だからねぇ。食事以外におやつ食べ過ぎじゃないの?お茶の時間に僕と食べて、それ以外にキッチンで何か食べてる?」
「う、うん?そんなには……のはず」

 焦りながら、まあ俺くらいなら太った方がかわいいよ?そうそうって、リシャールこれ見てってかわいい服を見せてくれた。僕ら人と同じようなシャツとズボン。どうしたその服!

「メイドの修繕の人かな?遊びに行ってたらくれた」
「マジか。お礼言わなくちゃ」

 僕の知らない間にみんなと仲良くしてるようで、おやつは手に入れるわ服も。精霊は人たらしで怖い。

「んふふっ俺のかわいさの、お、か、げ」
「そうですか。トリムかわいいよね」
「だろう?アンの人は俺にメロメロよ」

 なんだその言葉、まあ分かるけどさ。人懐っこくおねだりも上手いのだろう。そのうちたまごみたいにまん丸になるのでは……それは嫌だな。

「ならねえよ。ちょーっと今服がきついけど、こんなの精霊の力で、フンっほら見ろ」

 ふわっと光ると適正サイズになった。トリムはもらった服に着替えて、みてみてって嬉しそう。

「まあ……君がいいなら。それとても似合っててかわいいよ」
「だろ?」

 おう、おやつ足りねえな。キッチンに行くかとクッキーを食べ終えて消えた。まだ食べるのか。その様子にミレーユはクスクスと笑う。

「本当にドールハウスの住人のようですね」
「うん。精霊ってあんななのかと驚いてる」
「まあ、リシャール様も似たようなもんですから」
「ええ?」

 王が言ってた通り、問題を自分から起こしたのは結婚式のみですが、それ以外は周りが起こして巻き込まれる。困ったもんですねえって。はい?

「そっくりです」
「うっ……」

 本当にリシャール様は精霊っぽいんだなあって、私は改めて思いましたよってニッコリ。

「そう?」
「そうですよ」

 あんなか?もう少し人らしいでしょうよと思いなから読み進める。この間の続きだ。

 発情してしまった姫と駆け落ちしたお話しで、彼らは身分を隠し、たまたま農地の拡張をしていて人を集めていた領地に潜り込み、庶民として精を出した。始めは上手くいってたんだけど、姫は思ったよりも体が強くなく、農家の作業が過酷で病に倒れ亡くなり、騎士は失意に自ら……つかさ、なんてこんなに悲劇の物語が多いんだよ!

「前王妃の趣味でしょうか」
「いや、これは僕が買ってきたからタイトルで失敗しただけ。今度街に行ってハッピーエンドを探すよ」

 次にと読んでるのはここにもとからあったもの。これもなんか不穏。平民上がりの騎士学校からの人が街でウエイトレスさんに一目惚れ。彼は身分を隠していた子爵家の姫で、家出中だった。当然彼は子爵家とは身分違いもいいところ。結婚となったら親は反対するはずと、騎士は姫に平民になって逃げようと言い出す。姫も二つ返事で大きな西の国に行く。だけど、田舎の国から出て来たふたりには、都会は過酷だった。住む部屋も高いくせに粗末で、それを支払うと食べるのもやっと。結局、姫の妊娠で収入激減になり子爵家に帰還。

「この……クソ騎士。考えなしかい!」

 父親はもう目も当てられないほどの剣幕で、騎士をなじった。姫が庇えばさらにで、騎士は言い訳虚しく叩き出された。騎士は国に帰っても騎士に戻ることも叶わず、仕方なく元の西の国に帰って働き出した。でもふたりだと厳しかった生活も、ひとりならギリギリ飲みに行くお金も出来た。楽に生きていけるようになったんだ。姫のことは気になるが、この騎士はドライでもあったのか、生活を楽しんでいた。

「おお……なんだこのお話」
「前王妃の趣味が見えますね」
「うん」

 僕の説明に読んだことがないもので、マニアックな物語で作家も見たことない作家。王妃はどこから買ってたやらとミレーユ。

「他国のかもですね」
「うん……こちら風の名前でもないし」
「バルザックとかチャイコフとか……そんな苗字はこちらでは聞きませんね」
「うん。まあいいか」

 少しミレーユと話してからまた文字を追う。
 その騎士は生活を楽しみ、同僚のおすすめの居酒屋に入り浸るようになる。そこで美しい人を見つけ結婚。妻はこの居酒屋の子どもで、騎士は婿として転職。子爵家の姫のことなど忘れて仕事に精を出し、子を儲け幸せに暮らしていた。
 その数年後、子爵家から使いが来て婿にしてやるって。ても時も経ち新たな妻も子もいる。騎士にはもうその気はなくなっていた。貴族は面倒臭いし、今の妻が愛しい。だから使いに帰れって。経済的にも落ち着いていたから余計に面倒くさくなっていた。
 使いの者はそのまま帰還し姫に顛末を話すと、姫は大いに落胆して部屋から出て来なくなり、出てくれば父親をなじった。あの時彼を認めてくれればこんなことにはと、暴れ放題。そしてある日、やみ気味の姫は父親の執務室で暴れていた。物を投げたり怒鳴ったりで手が付けられない。その時投げた本が壁の装飾の剣に当たり、姫の頭に向かって落ちて来た。よく手入れされていたその剣は切れ味はバツグン。姫の首を剣がスッと撫でると血を吹き上げ絶命……親は後悔に泣き暮らした、終わり。おわり?

「おいおい。誰も幸せになってねえ……いや騎士はなってるか。後味の悪い話だなあ」
「なんか……ですね。タイトルで選ぶからかも。よく探せば楽しいのもありますよ」

 よし!と意気込み本棚へ。定番の作家はだいたいこの辺でうんうん、読んだことあるものばかり。この辺は指南書や辞書的なものか……うーんと、やはりこの棚が怪しい。ならばこちらで探そう。窓際のこの棚からの本は癖があって、主人公の性格に難アリが多い。タイトルは楽しそうな「アリエスの幸せの時間」とかついてんのに中身は悲惨。それ以外は直球のタイトルで「逃避行の末に」とか「麗しの姫の後悔」とか。

「ねえ、ミレーユ。駆け落ちとか逃避行とかを思わせるタイトルばかりなんだけど。叔母様は東の城がお嫌だったのかな?城から逃げたかった?」
「そんなはずは……前王妃は東の出身ですし」
「そっか」

 そう言えば……叔父上退位してから連絡来ないね?そっちはどう?わからないことない?など聞いても来ないとロベールは言っていた。大体西の城の催しでもほぼ見かけない。

「叔父様たち今なにしてんだろ」
「さあ、なにも情報が入りませんね。アーダルベルト様の相談役のはずですが、城に参内もしてないみたいです」
「まあいいか。ねえミレーユこれならハッピーエンドかな?」

 ん?ミレーユの返事がないから振り向こうとしたら、リシャールと後ろから抱き締める誰か。もうこの人は。

「ロベールお仕事は?」
「もうお昼だよ。それと叔母上は叔父上大好きだったよ。東も当然好きだ。その本は趣味だろ?」
「そっか。あんまりにも逃げる話ばかりで、それも辛い終わり方が多くてさ」

 ふーんとロベールも僕の肩に頭を乗せてタイトルを眺めた。ああ、この本の出版はリーリュシュのだ。リーリュシュの新人作家ばっかの商会だと、教えてくれた。ほらここ、店の印章があるだろって。へえ、羽根ペンと新芽の印章、これそうなんだ。

「あそこはジャンルもまちまちで、それこそ人気出るの?って内容も多かった気がする」

 子供の頃ロベールは、叔母上につきあわされた経験があるそうだ。叔母上本屋さん大好きで、行った先の本屋には必ず入る人。長年集めたんだろうって。お前にって置いてったんだ。それでもかなり持っていったんだよ?ほらこの棚隙間多いだろ?って指をさした。それは思ってた。

「一時期悲劇にはまってたからね」
「ふーん」

 自分で空いた棚に詰めろってチュッて頬にキス。

「お昼食べたらまた読めばいい。いや、本を買いに行くか、俺とさ」
「え?そんな暇あるの?」
「ああ、少しならな」

 お前が普段なにしてるか見られるだろ?って嬉しそうだ。なら行くかな。

「ミレーユ、お金たくさん用意して。お願いします!」
「はーい」

 そして昼食後本屋さんへ馬車で向かった。いつもは飛んで行くけど、本日は馬車!たくさん買えると僕はウキウキしていた。

「リシャールあれなに?前はなかったけど」
「うん?果物の砂糖がけかな?」
「俺食いたい!」
「後でね」

 通り過ぎる屋台やお店のパンとか、むっちゃ反応するトリム。飯は城が一番美味いからいらないけど、お菓子は欲しい。あれなんだ!と叫ぶ。

「油か?なに揚げてるの?」
「ドーナツって食べ物だね。砂糖がまぶしてあるよ」
「へえ……」

 よだれ出てるよ!本屋さんが先だからねと言うと、うるさいなあ分かってるよとヨダレを手で拭う。

「本当に?」
「静かにしてまーす。だから買ってくれよ」
「はーい」

 街の一番大きな本屋さんに到着。まあ、いつも来てるけどね。新刊コーナーで物色してたら見かけないタイトルの本があった。

「さすがリシャール様、お目が高い。こちらはリーリュシュで今大人気の恋愛小説なんですよ。完結してますからいかがです?」
「ほほう。ならいただきます。他も見るから待ってね」
「ええ。ごゆっくり」

 ロベールは僕らのやり取りを怪訝そうに見つめた。お前ここにどんだけ来てるの?ってね。

「森の散歩の帰りは必ず寄るから、週に一度は来てるよ」
「結構来てるな。その割に図書室の、叔母上が空けたスペースは埋まってないが、物語ばかりか?」
「甘い!僕は気に入ったのをゆっくり読んでるから、そんなに早くは埋まりません。それに恋愛小説以外も読みます」
「ふーん。それしか読んでないのかと思ってた」

 ほぼそうだけど、たまに冒険物や魔物退治とか、後ろ暗い人々の話とか読むもん。てことで、本棚をぐるっと回る。ロベールは専門書の場所で立ち止まりなにか確認。よし!

「おお、砂漠の国の姫の話か。これと……」

 魔族暗躍の話……これはいいや、現実に遭遇したから。ならば……継母にいじめられたけど、領主の跡取りに見初められてか。ふむふむ、これならきっと楽しいはず。ずっと気になってたタイトルの本を漁る。森に行く時、騎士たちはカバンにお菓子とかお茶セット入れてるから、大して本が入らないんだよね。僕は小さなリュック一つだからなあ。今日は馬車だからたくさん買えるんだ。

「あらすじで買うとハズレもあるけど、まあ、叔母様の本よりハズレはなかろう」

 たくさん本を抱えてロベールの元へ。なにか真剣に読んでるね。

「なに読んでるの?」
「ひゃう!びっくりしたあ。ああ、精霊の本だ。今分かっている生態とかな」
「ふーん」

 キョロキョロしてチュッとしてくる。お前をどこにもやらなくて済むように、俺が側室を殺さないためになって。なんだその物騒な話しは。

「だって我慢出来る自信ないんだよ。でも顔見たら腰の剣を抜く自信はある」
「ばか!」
「俺の心の弱さを甘く見んな」
「それ自慢じゃない」

 小声でヒソヒソ話したけど、この人はもう。でもちょっと嬉しくて頬にチュッ

「ありがと」
「いいや」

 あー和む。この夫婦好きってミレーユ。こんなのをずっと見ていたいわあって。

「だろ?だから対策だ」
「ええ。頑張って下さいませ」

 リーリュシュの新刊三冊と他諸々で十冊買った。やっほーい。当分楽しめるね。カウンターでお会計してると店主が、

「リシャール様、来週たくさん新刊が出るんですよ。以前お買い求めの下巻とか中巻とかね、他も獣人の国のや魔族の国のも少しですが入ります。ぜひお越し下さいませ」
「うん。来る!」

 え?これだけ買ってまだ来るの?とロベール。チッチッチッ。本好きには本屋さんは天国。いつまでいても飽きないんだ。次はあっちねと別の本屋を物色。こちらは少しマニアックで、リーリュシュではなく、他の共和国の人気の本が多い。北から南までそちらの文化も色濃く、船での海賊の話や山脈超えの話とか、魔獣が改心して人に懐くとか、とてもファンタジー色が強い。ここでも十冊買った。

「ロベールまだだよ!この先に超マニアックのお店、そう!叔母様の御用達の新人作家の本屋さん!」
「はい……」
「リシャールドーナツまだあ?」
「ここで最後だから待って」

 そろそろみんな不満げになってきたな。趣味になると人が狂うのは仕方ない。楽しくてしょうがないんだもん。いそいそと本を馬車に積み込み、目的の本屋さんへ。

「いらっしゃいませリシャール様」
「うん。今日はどんなのが入ってる?」
「そうですなあ」

 お前ここも顔なじみかとげんなりのロベール。当然でしょう。この都にある本屋さん、二十軒全部だよ。森のついでや街歩きで毎回寄るからねって言うと、目がスーッと冷たくなった。

「お前、本棚がすぐ埋まるぞこんな買い方してたら」
「おほほほ。雨季の暇つぶしには持ってこいだよ本はね。埋まったら本棚増設を……うふふっ」
「いいけどさ」

 この東の城の地域は毎年夏の入口に、二ヶ月弱雨ばかりになるんだ。農地は少ないから困らないけど、まあ迷惑。そんな時は剣や体術の訓練したり、本読んだりしている。本当は子どもと遊びたいんだけど、ジョナサンが怖い。決まった時間以外に近づくと魔物と化すから。もうね、僕を敵と思ってるくさい。酷くね?とクリスに言ったけど、改善はされず、夜にこっそりは続いている。

「これなんかいががでしょう?前評判はいいですよ」

 店主の選んだ本は表面の皮も青に染めてありタイトルは金字、とてもお金かかっている丁装だ。新人なのに凄いね。

「こちらはある貴族の方の作品と伺っております。名前はペンネームですから誰かは分かりませんが、いいところの姫とか」
「ほほう。なら買います。これだけ読めばいつか僕も書けるかな?」

 あははと笑われた。でも、作家は読書が趣味の人が多いのも確かですから、できるかもねって。

「貴族の方はお手紙などよく書かれるのでしょう?ならばいけるかもですね。もし書き上げたら私が作家ギルドに持ち込んで差し上げましょう」
「ほんと?」
「ええ。内容がよければ出版になります。まあ、最初は私どものような書店に並び、人気が出ればあなた御用達の大きな書店に並びますよ」

 おおっ夢が膨らむな。嬉しくてふるふるしてたらポンと肩に手が。

「お前は止めとけ。良からぬことを書きそうだ」
「ええ?」
「書くなら俺が検閲する」
「はい?」
「お前ハイネに聞くとかするだろ」
「おお!それいいね」

 ああと俺の失言だ。アレの体験談は口外してはならない。するなら森の中のことだけだ。わかったか?と。トリムもなって。

「なんでダメなの?」
「それはな。まあ、ダメなものはダメなんだよ。察してくれ」
「はーい。それよりロベールドーナツは?」

 ほらだいぶトリムを待たせてるし、俺もそろそろ時間がなくなる。急げって。僕は急ぎながら店主のおすすめは?といくつか選んでもらって買って、途中でドーナツとフルーツ串、待たせたお詫びにマドレーヌやクッキーの缶を買い求めた。

「リシャールメロンも!トマトはいいか。桃とそれと……」
「果物やさんね」
「おう!」

 城にもあるはずだけど、まあいいかと買った。トリムはドーナツ美味い!揚げたては小麦の香りとバターが美味しいって。せっかくだから僕らも温かいうちに食べた。

「美味しいーッ城のは冷たくなってるからなんて美味しいの!」
「ああ美味いな」

 ミレーユも美味しいって。ミュイもいつの間にか頭にいて、俺にもってついばむ。はあ、なんか楽しかった。ロベールとお出かけが楽しかったんだ。いつもマットやラインハルトと三人だからね。旦那様とこうしてるとデートみたいで、昔を思い出した。あの頃は楽しかったけど不安もあったなあって。振られないように振る舞ってる部分もあったんだ。それがないってなんて、なんて楽しいんだろう。

「楽しかったみたいだな」
「うん。ロベールと視察以外で一緒とか嬉しかった」
「そうか。これからもっと増やそうな」
「うん」

 俺ね、剣をもう一本欲しいんだ。今のがちょっとでな。だから付き合えって。……はい。剣の新調か。完全な武器のだよね?

「そうだが?」
「はい。かしこまりました」

 これ時間かかるんだよなあ。興味のない者には暇な時間なんだ。どうしよ。でもロベールに今日はついて来てもらったし、仕方なしか。




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