緑の竜と赤い竜 〜僕が動くと問題ばっかり なんでだよ!〜

琴音

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四章 どうしてこなるんだ

1 僕にはとても短い時間に感じたけど、でも一年過ぎていた

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 なんだろう体が動かない。意識も遠いのになにか聞こえる。僕はロベールと交わって気分よく目を閉じて……?

「なぜこんなことをするのです!」
「私はお前に傍にいて欲しいのだ」
「この体はリシャールのものです!ハイネは死んだのです!」

 え?なにこの会話。だんだん意識がはっきりしてくると、全体の把握が出来てきた。ハイネと同化してるんだ。

「兄様、精霊病は完全な死です。僕が子孫の行く末を見たくて血に少し力を残した。それだけなのですよ。こうしてあなたと話すためじゃない!」
「千年も会わなかった兄に言う言葉はそれか?」

 相変わらず表情のない精霊王。ハイネの感情からディオデベルデ、ディオ兄様と感じる。彼の名前か。

「ハイネ。私の悲しみを理解してはくれないのか?」
「そ、それは……僕の勝手な行動で悲しませたのは謝ります。ですが僕は後悔はしてません」

 ふうと鼻から息を吐き、ハイネを抱えてソファに並んで座る。つか、これ城の中かな?広いドーム状で、全部植物のツルで編み込まれたような天井と壁。少し葉っぱとか生えていて、緑で囲まれているようだ。座るソファもラタンのようでクッションがたくさん。他は人と同じかな?ちょっとした貴族の家のようだ。
 天井にはヒカリゴケがたくさんで、明るさは充分だ。広いホールの先に王の玉座。壁と同じで植物で編まれていて一段高いところにある。そして人と同じようなデザインが施され、肘掛けもある。
 特別贅沢なものはなく、食器もゴブレットも木製で古い……とても古いデザインなのが分かる。居間の豪華版に玉座がある感じだ。

「僕はあなたに会わないように今までして来ました。意識的に血に働きかけた。なのにリシャールは今までの子とは違った」

 あ……僕がまたなにかやったくさい。結婚してからこのかた、無意識に人に迷惑かけるよねとミレーユにも言われてたのに、先祖にまで?
 静かに話しを聞いていると、今までの竜の発現者は力にのみ興味を持ち、それを活用。人の世のために動いた。自分が精霊ならは人の役に立てると考える者ばかりで、精霊と友だちになろうなど考える者はいなかったらしい。あ……
 だからほんの少し、ハイネは精霊に興味を持たないように働きかければよかった。なのにリシャールは初めからそんな不思議なモノたちに興味が強かったと話している。召喚術士の家系もあるだろうが、彼が特別だったからなのか術に効果が出なかった。あう……

「リシャールは東の地に来ることをとても喜んで、森に行くんだとはしゃいで……いつかこんな時が来るとは感じてました」
「私はトリムの話を聞いて、もしやと池に行ったんだ。そしたらお前だと確信した」

 だろうねってハイネは落ち込んだ。力を調整して元に戻せば、お前は兄様と慕ってくれるかと期待したのに、こんな反応とはと言葉が途切れた。ディオ様は表情はなくとも、目に哀しさを浮かべる。

「兄様、僕は妻を子をとても愛してました。あなたと同じくらい」
「ああ」

 ハイネの心はその時の気持ちに支配され震える。短い時間だったけど、輝く命の煌めきと共に過ごし楽しかった。人の世界の醜さも喜びも全てが美しかったと。

「あなたは兄で僕の夫でした。でも子は出来ない」
「ああ……それでか」

 ハイネの心は悲しみに満ちている。ディオ様との子が欲しかった。永い永久の時の中、いつしか人と同じように子どもを授かりたくなった。自分が聖霊として不完全なことも気がついた。ベッドを共にする高位の精霊などいないが、毎晩ディオ様を求めた。もしかしたら奇跡がと。でもそんなことは起きず数千年。そんな欲望も薄れた頃人の子と仲良くなった。何年も楽しく過ごし、その子が成人して来なくなると追いかけた。

「街は人がいっぱいで魔素も薄かったけど、でも命の輝きがあったんです」

 人の世界で暮らしたいって、人の生態を観察し、仕事を見つけ追いかけた子を妻にした。ベッドを共にすれば子も授かった。震えるほどの嬉しさがあなたに分かりますかと、泣き崩れた。

「本気だったのか……」
「ええ。子どもを抱いた時の感動は忘れません」

 はあと深いため息をディオ様。そこまで思い詰めていたとは知らななかったと項垂れる。我らに親はなく強いて言えば、森が親だと静かな声。

「すまなかった」
「いいのです。僕のわがままだから……」

 愛しい弟で妻と愛していたが、足りなかったのかと、震える声でディオ様はハイネを抱く。

「ディオ……こうなるのが嫌で……」
「うん」

 僕はハイネの中で泣いていた。ハイネの気持ちを理解出来るから。人の営みを見つめ、同じように愛し合っても聖霊の愛はどこか希薄。それを辛く哀しいと悩み人の輪に入った。ハイネは人のような感情を持っていたんだね。精霊としてはかなり問題なんだろうけど、でも……

「ハイネ」
「はい。ディオ……」

 そのまま押し倒された。いやー!これ僕の体だよ!待って!ハイネ待って!抗議虚しく押し込まれ、ハイネは幸せを堪能。そしてディオは中に吐き出した。

「お前と私の子がこれで生まれる」
「ええ……嬉しい」

 いやーーっ!ハイネ!待って!その子種魔力で殺して!いやーーっと叫んでも、ハイネは反応しない。たぶん僕を押し込めてるんだ。なにもさせないように。気がつけばドロドロの粘液に体が包まれてるんだ。ほとんど耳と目以外は使えない。感覚が全部奪われてる!ハイネ、ハイネと叫んでいたら、意識がぷつんと切れた。

「あ……声がする」

 目も耳も復活した。が、僕の手には赤ちゃん!いやーーっディオの子産んどる!そしてここ精霊の城だ!僕半年もここにいたの?

「ハイネ様、なんてかわいい赤ちゃんなのかしら」
「でしょう。リシャールのお陰でディオの子が持てた。愛しくて堪らないんだ」

 そうか、精霊もこうすれば子を持てるのかと周りはザワザワ。でも命がけはなあって。そこまでの情熱はないなあって。エッチすればいいもーんと。でもかわいいねって。

「ハイネ様は変な人とは思ってたけどさ」
「うん。僕も自分がおかしいとは感じてた。でもね、幸せだよ」
「ふーん。まるで人だね」
「そうだね。でもね、僕的には命を掛ける意味があったんだ」

 愛しい夫の子がここにいる。隣に座るディオ様も見たことない微笑みを浮かべ、ハイネの肩を抱く。おいおい、僕の体だよ。

「この子は人ではない。リシャールにはあげられない」
「ええ。成人後少しで成長が止まり寿命はない」

 え……それどういう?黙って成り行きを見ていた。

「ハイネ。ここに体を用意した。一部分離してここに入らないか?」
「はい。あなたとずっと一緒にいたい。僕の旦那様」
「うん」

 なんか分からん植物で編まれた人型が床にある。これに入るとハイネになるの?とか見てるとハイネは赤ちゃんをディオに渡し、指をかじり人型に血を垂らす。

「リシャールありがとう。記憶は残してるし、この体には僕はいる。いずれまた竜になれる子は生まれるから安心を」
「はあ?」
「後で説明するからもう少し待ってて」

 血を止めると体がスーッと冷えるような感覚があって、目の前の人型がハイネに変わる。ハイネはディオを優しげにした雰囲気の精霊らしいしなやかな肢体の人だった。ディオより髪の色が薄く長く手足は細い。トリムと同じ感じで、瞳は金色だ。

「自分を久しぶりに見ました」
「ああ、美しい。以前となにも変らない」

 どうぞ衣服をと側近であろう誰かが服を着せる。ハイネ様、仮の体ではありますが、時とともに本物になります。長い時が必要ですが、元通りになりますよと、側近の青い髪の美しい人が頭を下げる。

「うん。ありがとう。君らに無理させたね」
「いいえ。精霊王はふたりで王です。それを取り返すための苦労などなんでもありません。ハイネ様、おかえりなさいませ」
「うん」

 はい?ハイネが精霊王とは……いいからこれ見ててって記憶が流れ込む。すると、森の大木からスーッと成人の姿でハイネは生まれとる!それに、確かに先に生まれたのはディオだけど、精霊としての力がまるで違う。ハイネの方が多いんだ。だからハイネが生まれるとふたりで精霊王。でも全ての決定権はハイネにある。ほえ……

「もうどこにも行きませんよね?」
「うん。ディオとここにいる」
「ようございます」

 そして用済みの僕は端っこのベッドに寝かせられて、また記憶をなくした。




「あ……くうっ寒い!冷たいしなんだよ!」

 僕は森の街道沿いの石畳の脇に、雨に打たれ倒れていた。なんでこんな扱い?体の中からハイネの声。

「いやあ、神隠しにあったふうを演出しようかと」
「風邪引くでしょ!それに僕赤ちゃん産んで弱ってるでしょ?」
「ああ、産んでないことになってるから。ディオの力全開で、なにもなかったことにしてるから安心。ごめんね1年経っちゃった」
「そうかよ。終わったことはどうにもならないから諦める。でも体はそうでも記憶は?」
「それは……消す?でもそうすると不安になるよ?」

 それもそうだ。あってもなくても心を病みそうか。いやいや頭が回らんぞ。

「君はロベールをとても愛している。僕はその気持ちが痛いほど分かる。だからどっちでもいいよ」

 雨に打たれボーッと考えた。ただ精霊王に連れ去られたって記憶だけにしておけば、この一年あまりを気に病まないだろう。それに赤ちゃんは精霊の気質が強く、人の世界には来ない。うーん。

「赤ちゃんはリシャールってつけるんだ。記念にね」
「それ止めて。記憶を消した場合不都合だよ」
「そっか。ならリーシアにしよ」

 君がそれでいいならと。なら、記憶を残した場合……これを話せばロベールは確実におかしくなる。ふたりを殲滅すると森を焼くかも……

「それは平気。今は火竜より僕らの方が強いからね。ただ全面戦争をすると、激しくなり国が滅ぶよ?」
「それはマズい」

 つかさ、なんで雨の日に帰そうとするんだよ!へプシッもう全身ずぶ濡れだ。頭から水が首筋を伝いお尻までビッショリだ。

「いや、さっきまで晴れてたんだけど、通り雨っぽくて」
「そうですか」

 ああそうそう、リシャールは精霊の城に来れるようにしてあるから安心。感覚である場所が分かるからね。それとお礼で君が生きている間、僕ら精霊はこの国の味方になる。絶対の力で守ってあげるよと。え?僕の生きてる間だけ?赤ちゃん産んだよ?同意もなく体を貸して、このあとロベールとの修羅場に耐えるのに?それだけ?

「仕方ないなあ。なら赤ちゃんは十年くらいすると繁殖能力が出来るから、誰かよこしてよ。確実に力が発現する子が生まれるからさ。アンの子ね。あの子は人ふうに言えばノルンだから」

 損得で考えるしかないか。なら得になる方は。

「チッ……僕の生きている間と、赤ちゃんで手を打とう。行かないかもしれないから損かもだけど」

 強欲だねとハイネは笑い、いいよって。なんかあったら声かけてくれれば対応すると約束してくれた。で、どうすんの?と聞かれたけどうーん。

「僕ロベールには誠実でいたいんだ。嘘つきたくない」
「そう。ならこの一年の記憶もいる?」
「いいえ。他人のエッチとか愛し合うものはいりません」
「そう?なら必要そうなところだけ後で聞いてよ。記憶を見せてあげる」
「うん」

 このまま誰かに発見されるまでここにいる?と聞かれたけど、寒いので自分で帰りますと飛び上がった。森の上空に出ると、西の空はもう雲が薄く、雨は上がりはじめているように見えた。

「ハイネ、やばくなったらあなたが表に出てロベールに言い訳してよ」
「ああ、構わない」

 雨に濡れながら城を目指す。一年いなかったとか、すでに葬式されてるんじゃ……僕は不安の中城に向かった。


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