緑の竜と赤い竜 〜僕が動くと問題ばっかり なんでだよ!〜

琴音

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四章 どうしてこなるんだ

11 毛皮のお披露目

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 城に借りた客間には若い方ばかりだった。お嫁入り前や嫁いだばかりくらいの、クゥ~若さが眩しーい。

「では、本日の……」

 ソファに優雅に座るお嬢様たちに、家の商人の責任者クロードが説明して、窓際に並べた色とりどりの毛皮製品と、まだ名前のない魔石の貴金属。

「こちらでお手にとってご覧くださいませ。使用感の見本はリシャール様です。本日は品物に合わせた冬の衣装になっておりますから、ぜひ触ってお確かめくださいませ」

 え?ってみんな。妃殿下に触れるなどねえってドン引き。

「今回は特別でございます。シャツや付け襟、ズボンに至るまで全て東の品物になっております。ぜひこの機会に東の良さをお確かめ下さいませ。トルソーに着せた衣装の見本ももぜひお確かめを」

 窓際にシャツやズボン、刺繍の見本も並べてあるんだ。お嬢様たちはならと恐る恐るお友だちと近づいてくる。

「気になったら言って下さいね」
「は、はい」

 みな触れたり眺めたりして、シャツの絹がこんなにも光沢があって、他国からの物とは少し違うようですねとか、ズボンは厚手なのに刺繍が見事。職人は?とクロードの連れてきた職人に尋ねたり。視線の先には毛皮を羽織り、あら軽いと微笑む。そう!ヌーマリムの毛皮はキツネより軽く暖かい。エサの効果で密集した、ビロードのように肌触りもよく、羊に近い軽さがある。

「へえ。ヌーマリムの毛ってもっとゴワゴワしてるかと思ってた」
「柔らかいでしょう?あの大きさで茶色いからそう見えますが、柔らかくキツネなどより軽く柔らかい」

 ウンウンとうなずき、真剣にお嬢様たちはチェックしてくれる。最近ついでにテコ入れした絹製品も持ってきたんだ。東は蚕の糸が黄みががっててるんだけど、それがまたいい。使い方でとても素敵なシャツや上着のコート、中に着るベストのウエストコートが作れる。当然品質もいいから当然刺繍糸もで、艶のある素敵なものが施せる。

「あの、毛皮ヌーマリムですから理解しました。でも絹はお高いのでは?」
「ふふっそこは妃殿下直営ですから、まだ世間に認知されてません。今ならお安く手に入りますよ」
「そう。なら今のうちですかね」

 んふふっ始めたばかりで取れる量が少なくてね。クロードの説明に、色の濃いものは金色にも見えて素敵ですとみんな褒めてくれる。でもねえ、と東のデザインは魔族や獣人の国より洗練されてないと言うか、古臭い感じがいたしますと、お嬢様心をえぐる発言。でもそんなのは想定済みで、クロードは負けない。手を揉みながら、

「デザインがお気に召さなければ、お抱えの工房に生地だけ持ち込んでもありですよ。お好きにお作りになれば。生地だけの販売もしております」
「そっか」

 あー言えばこー言うを見事に体現してるなクロード。さすが東一番の商会と名高いだけある。連れてきて正解だ。

「リシャール様、私はしがない男爵家の者。あまりお小遣いがないのですが、毛皮を買えますでしょうか?」

 おどおどと僕に尋ねられるお嬢様は、グハッかわいい。オリバー様みたいなかわいさがある。こんな場に参加するのも本来はいけないのでしょうがと恐縮してるけど、そんなあなたに売りたい。

「ええ。キツネやミンクの半値以下ですからね。普通のウールよりちょっと高いくらいです」
「え?毛皮ですよね?」
「はい。催しに着るばかりではなく、デートにも心置きなく使えます。毛皮は貴族のお嬢様みなさん着用しますが、色もデザインもいくつも揃えられるお値段です。今ならお試し期間ですからさらに安いです」

 そうそう、あちらに見えるフサフサの毛足の長い物でも、衣装代の内で買えますよと説明した。

「あちらの白いロングコートも?」
「ええ。染色すればどんなものでもご用意します。もちろんお安く」
「そうですか……ほえ」

 いや本当に安いんだよ。元々二束三文毛皮だったんだから。防寒だけの毛であればいいんだろ?的な物だったんだ。それを栄養のあるエサ食わしてここまでにしたから、そんなにふっかけられない。家畜としてのこれからに期待だけど、いいもの食わすとこの金額では足が出る寸前。ギリギリを攻めて、他領が真似する前に確固たる地位を築くのが目的なんだ。東の物が最高級って思ってもらうのさ。うはは。

「普段のデートやお買い物、城やよそのお宅の夜会などの催しより、普段の生活をワンランク上をとの提案です」
「へえ。それは素敵です」
「でしょう?僕の頃もあればよかったのにと思ってます」
「え?リシャール様が?」

 熱烈なアピールをされてロベール様と電撃結婚したあなたがと不思議がる。デートなど必要なかったでしょう?と。あれ?僕のその前ご存知ない?いえ知りませんって。美しいあなたは恋の駆け引きで、ロベール様を焦らしてたのかと思ってましたと。おおう……僕の醜聞が消えてるようだね。というか、若い方が知らないだけか。

「今ではこんなですが、僕は心の弱い若者でした。ロベールが愛してくれたから今の僕があります。それだけは確かです」

 姫たちは目を輝かせ、まあなんて素敵なの。愛されて変わられたなんてああなんてステキと目を輝かせる。おいおい、そんないいものなのかな?前が酷すぎてロベールに依存したとも言うよ?と思ったけど、これはこれで僕らのイメージアップにはありか?と思い、

「なんでも受け入れてくれる、ロベール様の愛の賜物ですね。とても感謝してまして、東の王妃であろうとも、こうしてお仕事をさせてもらっております。少しでもご恩を返したくて、愛に報いたいのです」
「きゃあ、ステキ!」

 アンにとって恋バナとは食事以外の栄養。食いつきは異常なんだ。だから恋愛小説はバカ売れするし恋の観劇もね。僕もその一人。

「普段のロベール様はどんなお方ですか?」
「いつも優しくしてくれます。常に僕を優先してくれて、疲れてないか?とか気遣ってくれます」
「やーんっ」

 お話しをお聞かせ下さいませ、さあこちらに座れとソファに座れって。みんなで僕を囲むと、

「王族の方は優しいと伺いますが、本当ですか?」
「ええ。どの王子も妻をとても大切にして、愛してますね」
「王様も?」
「現王がそのような方なのです。ですから殿下方も同じように妻を大切にしますね」

 なら受けてみるかなと一人のお嬢様。南の公爵の子息から求愛されてるが、不安で見合いを先延ばしにしていたそう。宮中の関わりも多くなるからどうするかなあって。親は乗り気だが不安が強く進めてないそう。

「あー……南はフリュー公爵家ですか?」
「ええ。年も近くなく分からなくて」

 憂い顔で頰に手を添えるお嬢様。フリュー様か。現領主のマット様は穏やかでさすが王族出身って感じだったはず。跡取りの子息も見た目細いけど、文武両道と聞いている。優しげな美形のはず。あまり関わりがないけど評判は悪くない。一代公爵だから、現公爵の国への貢献度で次の職位が決定するから今が正念場のはずで、竜になれるだけでは爵位の維持は難しい。その子息の嫁と言われてるんだからこの人も優秀なはずだ。

「僕の見た限りですが、あの領地は栄えてますし、ご子息も賢く穏やかですよ。きっと上手くやれんじゃないかな」
「リシャール様はそうお感じ?」
「ええ」

 なら見合いくらいしてみるか。王族の縁戚だから拒否も出来るしとブツブツ。その横であのって一人のお嬢様。

「ならばシャール様はゲルググ様のご子息はご存じ?」
「ええ東の子爵様ですから。マッチョでノルンらしい精悍な方ですね」
「どう?」
「どうとは?」

 彼は僕こんなでしょう?リシャール様より細くて、家のお手伝いと嫁入り修行しかしていない。こんな僕に領主の妻は務まりますか?と。

「お付き合いされてるの?」
「いえ、別でお見合いの話が来たんですよ。どこかで見かけられたらしくて」

 へえってみんな。なくはないんだよねお見合いもまだあるやり方で、家同士の問題だけではない。たまたま夜会で見かけても、きっかけがなくてなんてある。

「会ってみてあれ?って思うならお断りすればいいだけですよ」

 でもって悩む。今彼は恋人もいなくて親はいい話だからとウキウキしてるしって。どこのお家も見合いの釣書があると安心するのかな?市井から平民を連れてこられ、どこの馬の骨?と調べる手間も省けるし。

「そうですが僕魔法もそれほどでもなく、魔法学園すら行ってません。基準に足りなかったのです。こんな僕でいいのかな」
「あちらは承知しているはずですよ。嫌いじゃなければ試してみては?」
「はあ。僕誰ともお付き合いしたことないのです。どうすれば……」

 お若い方なのに家からあまり出ず、昔の貴族のような生活をしていて、たまに行く夜会で素敵な人を見つけても、魔力不足を恥じて声を掛けられなかったそうだ。なんか毛皮展示販売会なのにお茶会になってるぞ?まあいいけど。

「なんでもやってみなくては分かりませんよ。僕もそうでした。アルミン様はかわいらしいからきっと」
「そうかな」

 踏ん切りがつかずむ~んと唸る。新たな一歩って怖いよね。僕もそうだったから気持ちは分かる。するとお友だちかな?

「ダメでもいいじゃない。ノルンは星の数ほどと言うじゃありませんか。初めで結ばれもするし、たくさんの人と付き合ってより良い人を見つけるのも楽しみ。やる気です!」
「うん。なら頑張るね。ヨーク様」
「ウンウン」

 などとお友だちと励まし合ったりしている。僕の側は入れ替わり立ち代わりで、恋人の相談や王家ゆかりの方はどんな方?とか質問攻めに答えた。お嬢様方は楽しそうにしてくれている。

「こんなとで時もなければお聞きできませんし、リシャール様最近お茶会にいらっしゃらないし、他の妃殿下はその……」
「その?」
「話しかけづらい」

 そうか?オリバー様なんてあんなにかわいいのに。ユリアス様は確かに少し凛々しいから分かるけどさ。

「オリバー様は人見知りで、我らとはあまり話してくださりませんから」
「ああ、そっか」

 あなたが来なくなった王室のお茶会は楽しくないのですという。そんなことはないでしょうよ。他の方もいらっしゃるし。違うんです!と強く言われ、ビクッとした。

「リシャール様はなんか……なんでしょうか。話しやすくて、妃殿下なのに堅苦しくなくて好きでした」
「ありがとう」

 そうそう、お話してるとほんのりと自分が好かれてるんだって感じるのです。誰に対してもそんな雰囲気があり親しみやすい。いないのが寂しいのですと。あららごめんなさい。

「東の方ばかりではなく、我らも呼んで下さい。泊まりでも遊びに行きますから」
「うん。今ヌーマリムのことで忙しいから、落ち着いたら西の方もお呼びしますね」
「そうして下さいませ。リシャール様」

 人たらしリシャール、お前なにしてんだとロベールが横にドスンと座る。え?どこから現れたんだあなたは。

「普通にお話しだよ?若い方は悩みが多いからね」
「ふーん」

 うわーロベール様だとみんなザワザワ。今この部屋にはアンのお嬢様方しかいないから、みんなロベールを凝視。

「ロベール、アンの会話に入ってはなりません。ノルンには聞かせたくないこともあるのですよ」
「そうか。それは悪かったな。でもこれお茶会じょないよね?」
「そうなんだけどさ」

 ふーんと言いながら僕の肩を抱く。イヤーッて小さな声。なんか当然のように肩組んだ!と。

「ロベール……お嬢様たち本当に若いの。スレてないの分かる?」
「うん見れば。みんな毛皮どう?」

 いいです!デートにぴったりですと焦ってるのが分かる動揺ぶりで、目が泳いでワタワタ可哀想な感じになった。そんなのどうでもいいとばかりに営業スマイルでニッコリしてロベールは、

「小物もいいんだよ。マフラーやバッグもね」
「はい!」

 おいおい……みんな変な緊張感でお顔が白くなってるだろ。

「ロベールなにしに来たの?」
「うん?様子見かな。お嬢様たちに気に入ってもらえたのか手応えをだな」

 さようで。お嬢様たちとの語らいの邪魔をしに来たのかと思ったよ。

「あと少しで終わるから部屋で待ってるか、仕事してて」
「今終わったから来たのにお前は冷たいなあ」

 え?っと棚の時計を見ると三時間近く過ぎていた。そっか、楽しくて時間を忘れてた。

「姫たちもすでにお茶してるぞ」

 見渡せばあちこち仲のいい人たちで談笑していた。クロードは最後の方だろうか、説明してなにか書き込んでいる。

「皆さん考えて下さったのかしら」
「ええリシャール様。今から注文だと毛皮は冬の初めに出来るとお聞きしました。楽しみです」
「シャツはもう少し早くに届くし、生地だけならすぐと」

 お嬢様たちの話しを聞いて、クロード後どのくらい?と聞くと、この姫様で終わりですって。

「ロベール先に戻ってて。もうお開きだから」
「ああそう。みんなありがとう」
「い、いいえ!」

 ロベールは立ち上がると僕を見つめニコッとする。なに?と見上げている僕に触れるキスじゃなく押し付けてくる。周りは驚いてキャアって声。

「嫌がるな。仲の良さを見せてるんだから」
「うん……」

 数秒だけど長めのキスをして、今度東にも遊びに来てね西のお嬢様と、声を掛けると出て行き、扉が閉まるとシーンとした。この空気どうしようかと考えて扉を見つめ……きゃあああ!と叫び声に顔を上げた。ロベール様かっこいい!なんてスマートにキスされてイヤーッて。ヤダあれなんなの!いやあってみんな騒いだ。ロベール……こうなると知ってたな。

「なんて……愛する妻に対するキスは感動的なんでしょう!」
「僕感動して震えた!」
「なんて……ふう……僕もあんなふうに愛されたい」

 あちこちでキャーとか、あんな旦那様を見つける!とか、大騒ぎになった。

「いつもあんなですか?」
「うん。そうかな」
「イヤーッ結婚されて長いのにこんなッ」

 つかさ、うちの親どうよとヒソヒソ。こんなの見たことないけど?ねえ、もっとドライだよね?とか。

「あの、お子様の前でも?」
「ああ、あんまり変わんないかも。だから母様から離れろ父上とたまに言われてますね」
「う、うそ……」

 ロベール様はリシャール様溺愛なのね?うわー……羨ましいを通り越して憎いと聞こえた。おいおい。

「はあ、あんな方どこにいるんだろう。僕の彼はあんなじゃない」
「あはは……心に秘めてるだけかもよ?」
「いいえ、なんか違う」

 恋人のいる人がなんか……なんか違う気がすると言い出した。嘘でもあんな笑顔を僕に向けてくれないのに、なんて聞こえた。

「リシャール様、もう少しよろしい?」
「ええ」

 するとあちこちでヒソヒソと話し始めた。どうしたのみんな?と見回すと、隣の方が、

「自分の彼を疑い始めたんです。僕愛されてる?って。ロベール様を見て、何年経ってもあんなふうに愛してくれそうにないって」
「ああ」

 そこは分からん。僕の両親もこんなだったし、これが普通と思っていた。兄上も家では人目も憚らず奥さんにキスするし、纏わりついて引っ叩かれるのをよく見るしね。元々うちは愛情表現をケチらないよ?と話してたら、みんなの目が怖い。

「それ、リシャール様のお家だからですね。僕らのお家はそんなんじゃないです」
「そう?夜会とかで見るご両親は仲良さそうだよ?」
「それは外の顔。はあ……愛し合ってる夫婦は幻想じゃなかったんだ。噂は本当だったんだなあ」
「そりゃあねえ」

 いやね。みんな始めはそうだろうとは思うのですよ、新婚ですから。ですが、リシャール様ご結婚して何年?と聞かれた。

「あん?リーンハルトが今十歳だから十一年?かな」
「嘘だあ。見た目も嘘ついてるぅ」
「嘘ついてどうするの。僕は緑の竜の力で多少老化が遅いみたいだけど、三十半ばです」
「グッ……ちょっと上かと思ってました」

 みんなモヤモヤするがまあいいやと、夫婦の仲の良さの秘訣は?と真剣な目で睨人ばかり。これ睨むだよね?口をムッと結んでジーッと……

「え、えっと……愛情は口にするかな?愛してるって言う」
「それと?」
「感謝も忘れないし、尊敬してる」
「それと?」
「え?隠し事しないし、おしゃべりの時間を作るように……かな?」
「他は?」

 他?他なんかあるの?頭をフル回転させたけど思いつかない。

「こんなもんです。悪いことしたらすぐ謝るし」
「ふーん。標準ですね」
「そりゃそうでしょ。みんなと変わらないよ」

 なら相性しかないかと眉間にシワ。いやいやどの夫婦も似たようなもんだよ。これに関しでは貴族も民もないはずだ。ふーんと横に立っていたお嬢様が肘掛けの隣にしゃがみ込み、

「発情の匂いは?」
「と、とても好ましく思います」
「どんなふうに?」
「ふえ?それ言うの?」

 こんな機会はないからリシャール様お願いします。他の妃殿下や殿下のいない場所など今後あるかどうかすら怪しいから、話せと。僕らも幸せになりたいんです。参考に聞かせろって。

「ほ、ほんのり香るだけでその……とてもいい香りと感じて体が熱く……何言わせんの!」
「ほえ……なら普段の体臭はお好き?」

 目が怖いよみんな。さあ言えと目が……はあ。

「好ましく感じます。ノルンらしい匂いだけど、臭いとは思ったことはないです」
「やはりか……」
「え?」

 みんなヒソヒソ。どうしたみんな!遠くの姫たちも知らんうちに近くに集まってた。

「リシャール様。結婚前、お付き合いされてる方は普段の匂いをどう感じましたか?」
「え?」
「ステフィン様とか」

 あぁ知ってる人もいたか。
 うーん……ずいぶん前だからなあ。大好きで嫌われたくなくて、一年以上付き合ったけど、思い出せば………




「リシャールどけよ」
「う、うん。重いよね。ごめんね」

 萎えた股間を抜くと、僕を自分の上から落として水差しからグラスに注いだ。それを乱暴に飲み戻すと布団を被った。僕も飲もうと寝ている彼を避けて自分で注いで飲んだ。お前もどうぞなど言われたこともなかった。それでも愛されてるんだと思いたくて抱っこしてと頼むと、ああと不機嫌な声を出してため息。仕方なくって感じで腕枕してくれたっけ。
 僕は胸に抱かれて嬉しかったのに、どこか虚しかった。エッチが終わると冷たく背を向けられることも多かったな。そんな時は……

「そうだ……少し苦いような匂いがした。ノルンらしい匂いと甘い匂いの中にほんの少し……前の彼もだ。ロベールは甘い香りだけがする。安心する匂い」
「……やっぱりかあ」

 そこそこの相性だとそうなるって母様が言ってたんですって、ニール様。

「うちは母様があけっぴろげで、話してくれたんです。うちはリシャール様のお家みたいでして、目障りなくらい仲がいい」
「へえ。いいでしょう?親が仲がいいと」

 ソファの背もたれから覗いていた凛々しいお嬢様。彼は北の領地の方で色白で白金の髪。とても美しい方だ。

「ええ。たまに腹立たしいですよ」
「アハハッ自分が上手くいってないとね」

 おふたりがそう言うなら……今の彼とお別れするかなあって。どうも会わないような感じは受けてたんだよなあって、何人か。

「見つけるまでに婚期を逃しそうだよ。僕は」
「うん。彼には不信感しかない」

 そうだなあ。なら思い出話しをしてみるか。あのね。僕はロベールを幼い頃から知ってて、その頃から大好きなお兄様だったんだと話し始めた。

「匂いなんて関係なかった頃から大好きだった。お兄様なのに守ってあげたいってずっと思ってて、彼のためなら怪我しても気にならなかった」
「あ?それ知ってます!ヘルナーの事件の時父が言ってました」
「今でもこの気持ちは変わらない。なぜと言われると分からないけどね」

 条件とかではなく、ただ彼の笑顔が見たかった。リシャール遊ぼって声を掛けてもらいたいだけ。そんな頃から変わらないんだよと僕はみんなを見回して笑った。

「きっと会った瞬間にそう思ったんだと思う」
「そうですか……そんな方がいるのか」
「ステフィンにもそう思ったけど、彼は僕をそう思ってはくれなかった。苦く感じる部分が合わないんだろうね」

 難しいなあってみんな。どこの家庭も年取るとドライになる原因なんですねって。他の人は奇跡だよそれって。いやいや、でも王族はみんなそんな感じだよ。多少合わない人でもお互い大切にする努力を惜しまないから。

「それ、王族の特殊技能では?」
「かもね。ふふっ」

 僕は、日も落ちてきたからお開きねって解散した。また、リシャール様のお茶会に呼んでねって。母たちもリシャール様がいるといないじゃ、会の雰囲気が大違いと言ってましたからって。ちょっと嬉しい言葉だった。そんな毛皮の発表会は楽しいまま終わった。






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