俺は悲しみに堪えて前を向く 〜君の存在があれば生きていける〜

琴音

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12 ごあいさつ回り

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 翌日から俺たちは、世話になった叔父や一族の屋敷にあいさつに向かった。今後もよろしくってね。みな快く迎えてくれて、リリアナの品の良さや美しさにうっとりしていた。特におっさんたちが。

「さすが侯爵様の姫様。なんと美しい……この領地にはいないタイプの美人ですなあ」
「だろ?」
「イリアス様のところにこんな素敵な姫が……なんとまあ」

 などと褒めちぎってくれた。どの家も隣の奥様たちは笑顔だったが、瞳の奥に炎が見える方もいた。そりゃそうだ。よその女を褒める旦那など内心面白くはないだろう。でもそこは大人だからな。それと身分の違いもある。綺麗なのは当たり前だと思ってる言葉がチクチクあったりも。

「身分が下がられて困ってることはありませんか?わたくしたちでは何もしてやれないかもですが、出来ることがあるやもしれません。いつでもおいで下さいませ」
「ありがとう存じます」

 こんな言葉をくれたのは叔父クリスティンの奥様だけだったが、彼女も伯爵家からの人。身分が下がるってことを知ってる人なんだ。

「俺からも頼みます。リリアナの力になってやって下さいませ」
「もちろんですわ。うちの種馬夫……いえゲフン。あれのせいでわたくしはかなり、いえ相当言われましたから」
「「あはは……そうですね」」

 奥様はせっかくクリスティンもいないし聞いてって話し始めた。なんか楽しそうに微笑んでいた。

「夫婦仲は悪くはございません。側室の子どもたちもかわいいです。我が家に問題はありませんが、よその方には伝わりませんのよ。それでね」

 奥様の話では結婚当初から側室はいた。自分は知ってて嫁に来たから気にしなかった。なぜなら同じように求愛されて、たまたま本妻になっただけど思ってたからだそう。まあってリリアナは尊敬の眼差しっての?そんな感じで叔母を見つめている。

「博愛なのは知ってたし、彼ならそんなものと思ってました。ですが……よそ様には伝わりません」
「はい」

 叔母は叔父の特別な席にいる女性で、かけがえのない人。他の人とは違うと言われていた。そのとおりで大切にしてくれたが、ちょっと愛が重かった。奥様はふたり産んだところでギブアップ。よそに行きなさいとお願いしたそうだ。だろうね……

「愛しい愛しいと大切にしてくれるんですが、なんでしょうね。言いにくいですが……いろいろございまして……だから」
「あはは……」

 叔父の話と寸分違わない。元々気にもしてなかったが、彼は夜不在でも必ず朝早くに帰って来て「愛してる」とベッドの隣に入る。そして撫で回すそうだ。君がいいって未だに囁くそう。おお……隣のリリアナは驚いたり目を丸くしたりしてたが、叔父も一番大事な奥様は別格なのねと感嘆の声を上げる。

「クリスティンは、わたくしがいなくなったら生きている意味はないと申します。君が老いて先に死んだらすぐに追うからねって。嘘でも嬉しいんです」
「ほえ……」

 リリアナは変な声を出していた。そうか、新婚の初めの朝食の時にイリアスが言ったみたいなことを叔父様は思ってるんだ。奥様大好きだけど、負担に思って欲しくない。だから側室なのねって。

「そうなのかな?俺はただの女好きのように思うけど」
「違いますぅ。奥様が辛いと自分も辛くなるのです。叔父様は。だから余分な欲はお外でってことでしょ?やり方は夫婦ごとに違うから、叔父様夫婦はこれが正解なのですよ」
「そうかな?」

 そう思ってくれると嬉しいわって。わたくしもクリスティンを愛してます。とても愛してて何しても気にもならない。彼の生き方全部を愛してる。変人だとか、実は裏で側室やその子どもをいじめてるとか言われたりもする。そんなことはなく大切にしているそうだ。

 屋敷に少し……今三人子どもがいます。みんなお嬢様方が手放した子どもたち。お嬢様たちは、きちんとしたおうちに嫁がれているから安心なのよって微笑む。

「婿の斡旋もしますのよクリスティンは。色々本当と嘘を織り交ぜてお嬢様たちに痂皮かひはない。俺が悪いと説得するのです」
「ええ?」

 御屋敷の行儀見習いのメイドで主の手つきになってしまった。俺の不始末だから持参金もたくさん持たせる。だからって言うと大体夫側のおうちは折れる。貴族のおうちで行儀見習いをしてたならきちんとした娘。主が悪いだけ。なら構わんってなるそうだ。へえ……

「まあ子爵家の当主の弟に逆らえる庶民はいませんけど、それでもみな幸せだと手紙が来ます。たまに子どもたちにも会いに来ますし、成人すればお互いに会ったりしてるようですよ」
「「へえ……」」

 やることをやり、お嬢様方の幸せは壊さない。だから兄上様は放置したのです。そう話してくれた。

「クリスティンの傍にいたいって人は今でも屋敷でメイドをしておりますしね」
「おお……」

 女たらしの人たらし。外から見れば人でなしですが、誰にも嫌われてはいない。それがあの人の才能かなと叔母は笑った。

「マメなのですよ。愛しい人や自分の手の内の人はとても大切にする。明るくフットワークは軽い。それなりに仕事もできる自慢の夫ですわ」
「ええそうですね」

 俺はこんなふうに叔母と話したことはなかったんだ。辛いのではないかと思ってたけど、全くの見当違いだった。こんな人もいるんだなあと、別の意味で叔母を尊敬した。俺が彼女だったら……独占欲強いから無理だな。そんな話をしたら叔母は当然でしょうと微笑む。

「そりゃあ知らなくてお嫁に来たならそうでしょう。裏切られたとか思うでしょうが、あれは学生時代からモテてましたし、人が周りにたくさんいました。わたくしもそのひとりですから」
「そっか」
「そうなのです。でも親は嫌がりましたね」
「「でしょうね」」

 リリアナと声が揃ってしまって、見合って微笑んだ。

「親は別の人と何人も見合いさせましたが、わたくしは縦に首を振りませんでした。クリスティンがとても好きだったから」
「叔父上は叔母上に足向けて寝れませんね」
「うふふっそして親は折れました。今はみんな天国に行きましたが、わたくしに後悔という文字はございません」

 未だにあれこれ言われるのが悩みのタネですねって。ほっといてッてのが叔母の気持ちだそうだ。……夫婦は色々だな。

「うちはイレギュラーな夫婦だから参考にはなりませんが、愚痴くらいは聞けます。遊びに来てねリリアナ様」
「はい。ありがとう存じます」

 あいさつ回りの最後が叔父上のところだったんだ。最後にしてよかったかもな。普通の夫婦をたくさん見た後でさ。そんな思いが俺は浮かんだ。ていうか、叔父は嘘を一つもついていなかったことに驚いたけどね。夫婦は外からじゃ分からんもんだなあ。そんな感想を持ったから、お暇して馬車に乗り込んでからリリアナに話した。

「まあね。うちの親も仲はいいけど、母様はお外では弱々な雰囲気を出すけど、家では父様に殴り掛かることもあるもん。叩くじゃなくてグーで顔を狙うのよね」
「へ?」

 父様は宮中のお仕事があるから、実質母様が商売を仕切っていると言い切るリリアナ。領地も母様が動いていて、上の兄様は大臣を継ぐために側近になっている。二番目の兄様が母様からしごかれていると笑う。そりゃ大変だ。俺も似たようなもんだったけど。

「運送人たち知ってるでしょ?あれらに言う事聞かせなくちゃならないのよ。仕方なしよね」
「あー……まあね」

 園遊会や舞踏会では見せない姿がある。運輸の仕事などそんなもの。冒険者も多く、配達人はみな筋肉モリモリだ。そして荒っぽいのも常。うちも近いかな。リリアナは少し視線を落とし、

「わたくしは……本来母様のようになってたかもしれません。ですが……」
「なりたいの?」
「いえそうは考えてませんけど」

 俺はこのままでいい。仕事したいなら売り出す缶とか箱とかデザインして欲しい。もしくは領地の方かな。視察に着いてきてくれて民と関わって欲しい。その方がいい。そう話すとリリアナはニッコリして俺に抱きついた。

「うん。役にたちたいと思います。あなたがして欲しい部門に連れて行って」
「ああ」

 叔父の家から屋敷までは近くすぐに帰宅。馬車の音に気がついたステファンがすぐに出てきて頭を下げる。

「ただいま」

 顔を上げたステファンは、何かやりきった感のある興奮した顔をしているような?俺は変な感じに見えるステファンを凝視。

「おかえりなさいませ坊っちゃん!明日から別荘に行けるよう手配しました。領地の西の狩場の別荘です。あそこなら自然豊かで湖もある。楽しゅうございますよ」

 ものすごく楽しそうだ。狩場の別荘……ああ、あそこか。

「今の時期なら避暑にもなるな」
「ええ。ですのでそちらです。街から少し離れてますから静かですしね。おふたりで過ごすにはピッタリです!大声だしても暴れても問題はありませーん」

 いや、大声も出さないし暴れないよ。何言ってんだステファン?俺はそんなことしたことないよ?と見つめた。

「いやいや、新婚さんは色々気にされるでしょ?だからねえ」
「余計なお世話だよッ」

 俺は何か察して、真っ赤になりアワアワしているリリアナの手を引き部屋に足早に向かった。お前ら焦り過ぎなんだよ! 



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