真紅のダリアは闇夜に開く 〜本能のまま好きに生きてたら奇跡が起きた〜

琴音

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18 エルがいなくなった後 2

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 ふたりが店に戻ると裏方の数人が執務室で重苦しく待っていた。扉を開いてすぐに、

「アレッシオ様、エル様は?」
「見つからなかったんだ。もう本土だと思う」
「やはり……」

 店に城から連絡が来た時には夕方近くだった。捜した末に本土かもとなってから。裏方たちはその話に衝撃を受けた。昼過ぎに迎えに行ったまま帰らない主ふたり。久しぶりだから街で遊んで帰るのだろうと考えていたのに城から使いが来た。もう不安で仕事どころではなかったが、そこは商売人の意地で、店の子たちには事実を伏せて店を開店させていた。

「俺たちは手出し出来ないんだ」
「仲間集めて奪還しましょうよ!いくらでも集められますよ!」
「ダメなんだよ」

 ベルベルトが城でのユリシーズの話をすると、みんな静まり返った。この裏方の中に番が若くして亡くなった経験ある人がいて、みんなもそれを見て知っていた。あの哀しみは強烈で震え上がったのだ。

「待つだけですか」
「ああ。大店の主ならこちらが襲撃なんて手もあるが、貴族はそうはいかないんだ」
「そうですか」

 ベルベルトは、帰ったばかりのエルヴィーレの兄には知らせるなと厳命。キレて俺たちを殺しに来るはずだからと。

 兄のフレデリクはエルヴィーレとは違いケンカっ早い。アルファのせいか力で解決をしたがる悪い癖を持つ。彼の番もオメガのくせに似たようなものと聞いている。暴れると店が壊れるからと、静かにベルベルトは話した。

「前にありましたね。客と揉めてあちこち壊したの」
「うん。大損害だよ」

 弟をこよなく愛するフレデリク。弟でも食おうとする変態兄貴だからなあとシリル。みんなもそうだなと失笑した。

「でもエルヴィーレ様は誰に似たのやらと思うほど美しくなられましたよね。親とはあまり似てないもの」
「ああ。俺たちはこの世代では島で一番だと思ってる。確かにいいとこ取りのような見た目だよな」
「ええ。間違いありませんね。そうね。いいとこ取りか」

 明るく元気で華やかさも持ち合わせ、いつまでも少年のような滑らかな体を持つ。まるで本土の森にいるエルフのような姿なのだ。

「あれば反則ですね。妖精族のエルフと言われても信じそうですもん」
「ああ。俺たちもそう思ってる」

 この島で人気になるオメガはエルフっぽい人が多いのは確かだ。あの人々はめったに人前には出て来ない。島の人とは違う意味の特別な人々だ。自然の力を操る術を使い、エルフだけで生活する。食べ物もなに食べてるか不明で、魔物の一種なんて噂もある。長命で不思議な種族だ。

「付き合いのある国ってあるのかな」
「さあ。本土の東、国と国の間の深い森に住んでるとしか知りませんしね。国でもないし」

 階下から客や店の子たちの賑やかな声が増え出した。裏方たちはそろそろ下に行きます。エルがいなくておろそかにするのは違う。彼が帰ってきた時店が傾いてたなんて恥ですからと、みんな下がった。

「彼らはここの店が全てだ。成人してここにずっとだから」
「ああ。エルの親にかわいがられてたからな」

 彼らは稼いだ金を持って新たな店とはならなかった人たちだ。エルヴィーレの親から大切にされた恩を忘れず、店を盛り立てる方に回った。

「島民は愛ある人たちだけど、例外もある」
「うん。聞くと気の毒になるくらいの人だよね」

 島民は赤ちゃんや子どもが大好きだ。賑やかに駆け回り、多少のやんちゃも大目に見るくらい大切に思っている人が大半だ。しかし、一部の夫婦は子は作るが産んでしまうと興味を失う人がいる。お互いの伴侶しか見ないのだ。

 子どもは夫婦の祖父母や兄弟が手厚く育てるが、親の目に映らない自分たちをとても辛く感じて育つ。祖父母や他人がどれほど良くしてくれても、親の愛に勝るものはない。家の中で完全に無視する親も存在する。声を掛けても返事すらしないなども聞くとふたりは思い出していた。

「裏方はそんな人多いね」
「ああ。俺には理解出来ないがな」
「僕もだよ」

 ふたりの気持ちは沈む。エルヴィーレは誘拐された。店の者も心を痛めているのに頑張っている。そんな事実にふたりは不安で心の置き場所に迷っていた。

「キスして」
「え?」

 アレッシオはベルベルトの言葉に驚いて視線を彼に向けた。

「不安なんだ。もう君でいい」
「あー……君でいいは失礼だよ」
「それは悪かった」

 このひと月は祭りだったが彼らは誰も相手をしなかった。エルヴィーレとの約束を守り、薬を飲み発情を抑えていた。エルヴィーレが城で匿われ、夜伽をさせられているのは承知していた。でもそれは匿われる代金でもある。したくてしてたんじゃないと知っていた。楽しんでても俺たちを思ってたはずだと信じていた。

「いくら相性がよくても、気持ちよくても俺たちには敵わなかったはずなんだ」
「ああ。僕もそう思ってる」

 ふたりは抱き合いキスを交わす。寂しい……不安だと静かに泣くベルベルトをアレッシオは大丈夫だ。泣くなと抱きしめ頬を撫で慰める。ベルベルトは騎士だったがこんなところに弱さがある。エルヴィーレを心から愛していてアレッシオも愛し、三人でいることをとても喜んでいた。番になると同性の夫や妻も、それなりに好きになるのも番の本能なのだ。

「やっば違うぅ」
「当たり前だ」

 エル……エルとベルベルトは呟きながら大声で泣き出した。もう不安に耐えられなくなったのだ。ふたりだけだからいいでしょう?もう泣かないから今だけ泣かせてくれと、アレッシオの胸に縋り付く。

「俺も……泣いていい?」
「うん。泣いて泣いて……そして明日から元気にエルを待とう」
「ああ」

 こんな時は肌を重ねるのがこの島では一般的なのだが、アルファ同士ではと見合って泣き笑い。

「お前受けする?」
「え?僕がかい?君は?」
「俺は嫌。生粋のアルファで尻は未だに処女よ」
「なら仕方ねえなあ。僕が体を貸すよ」

 そしてコトに及んでさらにベルベルトは泣く。

「気持ちいいけど違うぅエルのちんこがいいッエルのちんこはッなんだろいいんだ!」
「だろうよ」

 仕方なかろうと続け、どちらも絶頂を迎えると虚しさにさらにベルベルトはさらに泣いた。

「余計寂しくなったじゃないか!」
「俺も。お前体が硬いんだもん」
「そんなのお互い様だろ!エルぅうわーんッ」

 アレッシオははあと深い溜息をする。大声で泣くベルベルト。ひとしきり泣くと気持ちを立て直した。

「帰ってきたら好きなだけ……そうだな。三日はベッドからエルを出さねえ」
「うん。そうしようよ。僕もそうしたい。隅々までエルを堪能するんだ」

 そして仕事着に着替えると、ふたりは執務室を出て階下への階段を下った。下りている間に気持ちを立て直しながら。






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