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前編 ユルバスカル王国編
47 諦めないクロード様
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このお家のメイドさんに支度をしてもらっている間、彼女はとても楽しそうだった。なんで?
「あ、申し訳ございません。私は夫婦仲のいい方の担当になるのが楽しみでして」
「はあ」
今回の結婚式参加の旅ではメイドはいらないからと言われていた。護衛と側近はお好きにと。絶対におかしなことをしない人をつけるから安心してと言われている。まあ、縁遠くはなってたけど身内だし、予算とか気にしてくれたのかな。いいたくないけど、この地域の力の強い国の申し出を無下には出来ない。この公爵様の歓迎ぶりはうちの王族並み。そう、元々我が国は歴史的にも経済的(戦がなくとも)にも格下なのだ。
「昨夜のことを不寝番が幸せそうに報告してるのにうっとりいたしました。あ…失礼しました」
「あはは……」
素敵に身なりを整えてくれた。自国では髪を下ろしてることが多いけど、この国では未婚の方のみが下ろしてていいそうで、きっちりと結い上げてくれる。
「あんまりしない髪型も新鮮ね」
「お美しいです。ライラ様とは雰囲気が違いますから奥様らしく、なおかつ働く女性を意識しました」
「ありがとう」
胸が貧弱だから盛ってくれるのも嬉しい。やはり谷間がないとみすぼらしくなるもんね。これに関しては、どこに行こうがメイドさんは心得ているようだ。天然が憎いと常にどこか思っているところはあるの。ドレスの美しい着こなしをされている方がうらやましくて。性的にではなく、こんな胸の開いたドレスは女性のたしなみ。成人前はいつか母様のように美しく着れられると信じてたのに。特に結婚したら胸を強調し、腰は細く見せるのは当然で……うっ
「どうされました?」
「いえなんでもありません」
ないものをねだったところでどうにもならない。術で大きくなるならば困らないけどそんなものはない。昔鍛えれば?もしかしてと、アリスに相談したことがあったの。そしたら、シルヴィ様知ってる?と言われ当然。女性騎士と有名だもん。アリスの話によると、彼女は騎士になり胸がどんどんしぼんだそう。うそ……と絶句したら、私もこれでも減ったんだよって。やり過ぎるとどこかで小さくなるんだ。それでもやる?と。やらねえ。これ以上減ったら泣くもん。なんてことがあった。美しさを求めると私の体は向いてない。はあ……
「ティナ?」
「はーい」
振り向くと旦那様。今日も朝からかわいいねって。こちらの文化で朝から華やかなドレスはステキだと笑う。
「スタンドカラーのドレスが普通の仕事着となっている我が国を誇りに思います」
「え?」
淡々とした声が出てしまった。美の基準は国によって多少違う。男性のシャツもズボンの色もね。刺しゅうが華やかな国もあれば、多少の装飾のみで生地に重きを置くところもある。うん、私はいい国に生まれ、この国は私に優しくないんだもん。
「くっ……あははっ」
ブツブツ説明したら大笑い。失礼ねサイラス。つられてメイドさんもクスクス。
「そうですねえ。この国では女性は性的魅力を周りに発信するのが文化です。女は美しくあらねばなりません。身分の高い方は働く人は少なく、美しさを保つことが仕事。お年を召しても変わりません。いつまでも女であることを求められます」
「やはり……」
性に淫らとは関係なく、成人後の女性は魅力的であるのが当然と躾けられます。美醜ではなく、その人の魅力を最大限表すのが大切だそう。
「お化粧もそうですね」
「うん。少しいつもより華やかです」
「男性もですよ?精悍さや強さ、賢さを表します。堂々として女性を養えるだけの力を持たねばなりません。富は結婚の条件です。愛の前にお金。シビアです」
その説明に俺は知ってたけど、この国の人に言われると重みが違うなあって。結婚の条件厳しくない?とサイラスが聞けば、
「というのは建前です。貴族は仕方ありませんが、人の気持ちはお金では測れませんね」
「だよね……」
その向上心で国が発展しているのも事実。男性の見栄っ張りが国の原動力なのですと、メイドさんはうふふと微笑む。
「良い方に向けば見栄っ張りや虚勢は幸せに繋がりますし、女性もその気持ちを支える。見栄でもなんでも上を目指す民なのです。そして我が国は結果を出してきました」
「ああ。いい国だと思う」
そう聞けば昨日のクロード様のアピールも腑に落ちる。ふむ。でもね、お金じゃないと私は思ってしまう。貧乏でも愛があればなんてなまっちょろいことを思ってしまう。本当の貧乏を知らないから、そんなことを思ってしまうダメさ加減。
「いいのですよ。それが王族や貴族の女性の気持ちです。余程のことがない限り食うに困る方はいませんから」
「うん」
そろそろお食事の時間ですから移動をと言われ向かう。
「やっぱり現地の生の声は書物とは違いますね」
「ああ、だから視察だ」
「はい」
この日は昨日会えなかったり、きちんと話せなかった一族の方との宴が一日中行われる。朝の食事が終わると、お茶会をするような大きなお部屋で各々語らう。なんのきっかけで繋がるか分からないし、お互い助け合えるから。こちらの王族との婚姻はあるけど、姫が降下するのは珍しいの。王族はともかく、こちらの貴族との付き合いがあんまりないのよね。席に案内されて座るとすぐにやってくる。
「ティナ様。俺の魅力を伝えきれなかったのでぜひ」
「おほほ……いりません」
サイラスが離れた隙を見逃さないクロード様がスッと隣に座る。まあまあ聞いてよって。
「俺はこんなだけど仕事は当然出来て、武人としての強さもある」
「はあ」
「それにこの国有数の穀倉地帯の主になる予定で、今飛び地も開拓中です」
「へえ」
「そして何より美しい」
「はい」
耳元にエッチも上手いから楽しめるよ?と囁かれる。いらん、サイラス上手いから。
「なにが不服?」
「そうですねえ。強いて言うなら出会いが遅かったとだけ」
「はあ~……やっぱりそこですか」
背もたれにあーあともたれかかる。俺の目に狂いはなかったのに遅かったかと。
「ですね。それにサイラスと出会う前の私は鈍感で、あなたの愛に気が付けないかもしれません」
「なにそれ?」
私の生い立ちやこだわりをサラッと話した。すると目がキラキラ……なんで?
「優秀とは伺ってましたが……そっか。あなたの魅力はそんなところから」
「魅力ではありません。要領の悪さです。家族しか見えてなくてですね」
「なら初めて俺が声かけていたらどうだったと思う?」
「……どうでしょうか。あまり社交的な方は得意ではないので」
ふーんと微笑む。仕事出来て真面目で夫しか見ていない。苦労も夫のためなら厭わない。なんだそれと笑う。
「国が違うと女性もこんなに違うのか。クライブ様がライラ様をお嫁にと言った気持ちが分かるね」
「そうですか?」
「この国の女性は、まあ王侯貴族だけですが夫は金づるです。優雅に暮らすためのアイテムでしかない人が多い。歳とともにそうなる人が多くてね」
「ふーん」
贅沢が当たり前になり夫は忙しく家にあまりいない。愛人を囲うなんてのまである。そして心の繋がりは切れて世間体だけになるなんて聞く。うちがまさにそうで、両親は子はかわいがるけど夫婦の関係は冷えているそうだ。
「全くという訳でもなくなんだろうな。兄弟みたいな距離感になってるが正しい。母はおかしなことはしてないけど、父をとても愛してる感じはない。それが寂しく感じるのです」
「そうですか。私の両親はどこか相手にふわふわした愛情を向けてましたね」
「でしょう?それが理想です。あなたとなら出来そうと思ったのに」
身分以外は俺の方が殿下より上。勝てるのではないかと押したけど無理かあと。
「ならライラ様を伝にそちらからお嫁をもらうかな」
「はあ」
近くで聞いていた彼の弟さんが兄さんの周りだけだよって笑って近付いてきた。
「お初にお目にかかります。弟のギースです」
「はじめましてティナです」
彼はクロード様の隣に座り、
「兄さんの周りはね。愛に飢えた方が多いんだ。家族の不和や腹違いのお嬢様とかね。裕福ゆえの問題が多い家庭の姫が多い。兄さんこんなでしょ?愛をたくさん囁き大切にしてくれそうでね」
「ああ、なんか分かります」
「そんなつもりはないんだがな」
ちゃんとした家庭の人はたくさんいるのです。この公爵家もそうだし、兄さんが言うほど両親は仲は悪くない。不貞もどちらもしていない。
「どちらも現実的でドライなんですよ。ただ単に」
「へえ」
「兄さんはロマンチストで夢見がち。おとぎ話のような夫婦になりたくて選り好みしてるだけ。同じふわふわした部分を持つ姫を待っていて、逆はよく聞くでしょう?」
「はい」
なんだかかわいらしい人でどこかで聞いた気も。フフッ私の周りの男性はこんな人が多いかな。私がいろんなところが抜けているからかもしれないけど。ものを知らないとも言う……うーん。モテてもうれしくない気分。
「ティナ様は自分に染まってくれると感じます。そこが兄さん好みなのでしょう」
「フフッ当たりかもしれません。私はサイラス好みの女になってると自覚しますから」
「だろ?俺の目に狂いはなかった。出会いが遅かっただけ」
「遅いって兄さん。致命的だろ」
「そうなんだが……」
ギース様はこんなですが今後も仲良くしてくださいませと兄の肩をポンと叩く。
「悪い人ではないのです。夢を追いかけるロマンチストなだけ。ちなみに俺は妻がいます。かわいくてエッチで大好きですよ。あそこに」
「フフッはい」
指さす方には美しい黒髪にブルーの瞳のエッチなドレスの方。胸がこぼれそうです。いいなあ……じゃない。クロード様は悪いことではないけど、婚期は遅れそうな方ではある。いっそすごく年下を狙う方がいい気はする。そう提案すると、
「まあ……俺は変なところでリアリストでもあって、仕事の話しが出来る人がいい」
「あらら……育てれば?」
「せっかちで待てないの」
「うっ」
わがままでもある。完成した女性がよくてふわふわな人……どこにいるんだろう。うちには結構いそうだけどなあ。今はどこのお嬢様も万が一を考える。領地や自分のお家の仕事を勉強するのが流行りだし。
「ならばわが国のお嬢様や姫は正しいかもしれません。苦労してる分気は強いですが、ふわふわな乙女が多いですから」
「やはり。あなたがダメならそちらにするか」
だけど見た目はど真ん中。くっそーと。あの、今までの話しはあんまり褒められてない気がして落ち込みますけど?
「その抜けた感じが堪んない。男にとって純粋さは隙だから。もうかわいくて堪らないんだ」
「はあ……」
だからサイラスはよく心配と言うのかも。これだけ裏表なさそうな方が言うんだから、そうなのだろう。はあ……落ち込む。
「ねえ、これうちのドレスに合わせてくれてるのでしょう?」
「ええ、そうですが」
「んふふっ」
にっこり微笑むその姿にゾワッとした。なにか下心がある感じに変わった気がした。視線になにか獲物を見つけたような、そんななにかを感じる。
「俺と寝てみない?」
「は?」
「王族はそんなの当たり前でしょう?」
「当たり前ではありません」
「うちは当然でね。王妃すら愛人がいる。美形の男をはべらせてるから。ねえ気持ちが手に入らないのであれば、体から手に入れるのもありだろ?」
「はい?」
「俺なしでは生きられないようするってのもいいでしょ?疼いて眠れなくなるかもね」
あはは……もうなってるからいらない。入れただけで甘イキするくらい丁寧に体を触り、満足するまで抱いてくれる旦那様はもういる。言えないけど。
「ごめんなさい。あなたと寸分違わずの旦那様がサイラスなの。本当に間に合ってるの」
「へえ。夜は満足?」
「もちろん。だから赤ちゃんを作らな……あわわわッ」
慌てて口を手で押さえた。するとアハハッと大笑い。そうか変な色気はそこかと笑う。負けだなあと。
「私を好きになる人は似てると思いました。私のような女はそこらにたくさんいますよ。あなたは見えてないだけど思います」
「かもな。まあいいや諦める」
「そうして下さいませ」
殿下が戻ってきたからまたねと。握手と手を差し出すから握った。
「また会いましょう。今度は商売でね」
「はい。アッ」
グイッと引き寄せられてブチュー……え?
「やっぱりあなたは気持ちいい。キスすら堪んない。またね」
「え……?」
えっと……ヴッこれマズいやつでは!と近付いてくるサイラスが怖い。そして無言でブチュー……
「消毒だ」
「ごめんなさい。隙がありました」
「うん。俺は騒がないが夜覚悟しろ」
「はい……」
そして夜、本当に腰が砕けるまで抱かれた。断ることは出来ず、されるがままで喘いてしまった。当然気分が乗れば自分から。もうサイラス仕様のディナですよ。はあ……
「あ、申し訳ございません。私は夫婦仲のいい方の担当になるのが楽しみでして」
「はあ」
今回の結婚式参加の旅ではメイドはいらないからと言われていた。護衛と側近はお好きにと。絶対におかしなことをしない人をつけるから安心してと言われている。まあ、縁遠くはなってたけど身内だし、予算とか気にしてくれたのかな。いいたくないけど、この地域の力の強い国の申し出を無下には出来ない。この公爵様の歓迎ぶりはうちの王族並み。そう、元々我が国は歴史的にも経済的(戦がなくとも)にも格下なのだ。
「昨夜のことを不寝番が幸せそうに報告してるのにうっとりいたしました。あ…失礼しました」
「あはは……」
素敵に身なりを整えてくれた。自国では髪を下ろしてることが多いけど、この国では未婚の方のみが下ろしてていいそうで、きっちりと結い上げてくれる。
「あんまりしない髪型も新鮮ね」
「お美しいです。ライラ様とは雰囲気が違いますから奥様らしく、なおかつ働く女性を意識しました」
「ありがとう」
胸が貧弱だから盛ってくれるのも嬉しい。やはり谷間がないとみすぼらしくなるもんね。これに関しては、どこに行こうがメイドさんは心得ているようだ。天然が憎いと常にどこか思っているところはあるの。ドレスの美しい着こなしをされている方がうらやましくて。性的にではなく、こんな胸の開いたドレスは女性のたしなみ。成人前はいつか母様のように美しく着れられると信じてたのに。特に結婚したら胸を強調し、腰は細く見せるのは当然で……うっ
「どうされました?」
「いえなんでもありません」
ないものをねだったところでどうにもならない。術で大きくなるならば困らないけどそんなものはない。昔鍛えれば?もしかしてと、アリスに相談したことがあったの。そしたら、シルヴィ様知ってる?と言われ当然。女性騎士と有名だもん。アリスの話によると、彼女は騎士になり胸がどんどんしぼんだそう。うそ……と絶句したら、私もこれでも減ったんだよって。やり過ぎるとどこかで小さくなるんだ。それでもやる?と。やらねえ。これ以上減ったら泣くもん。なんてことがあった。美しさを求めると私の体は向いてない。はあ……
「ティナ?」
「はーい」
振り向くと旦那様。今日も朝からかわいいねって。こちらの文化で朝から華やかなドレスはステキだと笑う。
「スタンドカラーのドレスが普通の仕事着となっている我が国を誇りに思います」
「え?」
淡々とした声が出てしまった。美の基準は国によって多少違う。男性のシャツもズボンの色もね。刺しゅうが華やかな国もあれば、多少の装飾のみで生地に重きを置くところもある。うん、私はいい国に生まれ、この国は私に優しくないんだもん。
「くっ……あははっ」
ブツブツ説明したら大笑い。失礼ねサイラス。つられてメイドさんもクスクス。
「そうですねえ。この国では女性は性的魅力を周りに発信するのが文化です。女は美しくあらねばなりません。身分の高い方は働く人は少なく、美しさを保つことが仕事。お年を召しても変わりません。いつまでも女であることを求められます」
「やはり……」
性に淫らとは関係なく、成人後の女性は魅力的であるのが当然と躾けられます。美醜ではなく、その人の魅力を最大限表すのが大切だそう。
「お化粧もそうですね」
「うん。少しいつもより華やかです」
「男性もですよ?精悍さや強さ、賢さを表します。堂々として女性を養えるだけの力を持たねばなりません。富は結婚の条件です。愛の前にお金。シビアです」
その説明に俺は知ってたけど、この国の人に言われると重みが違うなあって。結婚の条件厳しくない?とサイラスが聞けば、
「というのは建前です。貴族は仕方ありませんが、人の気持ちはお金では測れませんね」
「だよね……」
その向上心で国が発展しているのも事実。男性の見栄っ張りが国の原動力なのですと、メイドさんはうふふと微笑む。
「良い方に向けば見栄っ張りや虚勢は幸せに繋がりますし、女性もその気持ちを支える。見栄でもなんでも上を目指す民なのです。そして我が国は結果を出してきました」
「ああ。いい国だと思う」
そう聞けば昨日のクロード様のアピールも腑に落ちる。ふむ。でもね、お金じゃないと私は思ってしまう。貧乏でも愛があればなんてなまっちょろいことを思ってしまう。本当の貧乏を知らないから、そんなことを思ってしまうダメさ加減。
「いいのですよ。それが王族や貴族の女性の気持ちです。余程のことがない限り食うに困る方はいませんから」
「うん」
そろそろお食事の時間ですから移動をと言われ向かう。
「やっぱり現地の生の声は書物とは違いますね」
「ああ、だから視察だ」
「はい」
この日は昨日会えなかったり、きちんと話せなかった一族の方との宴が一日中行われる。朝の食事が終わると、お茶会をするような大きなお部屋で各々語らう。なんのきっかけで繋がるか分からないし、お互い助け合えるから。こちらの王族との婚姻はあるけど、姫が降下するのは珍しいの。王族はともかく、こちらの貴族との付き合いがあんまりないのよね。席に案内されて座るとすぐにやってくる。
「ティナ様。俺の魅力を伝えきれなかったのでぜひ」
「おほほ……いりません」
サイラスが離れた隙を見逃さないクロード様がスッと隣に座る。まあまあ聞いてよって。
「俺はこんなだけど仕事は当然出来て、武人としての強さもある」
「はあ」
「それにこの国有数の穀倉地帯の主になる予定で、今飛び地も開拓中です」
「へえ」
「そして何より美しい」
「はい」
耳元にエッチも上手いから楽しめるよ?と囁かれる。いらん、サイラス上手いから。
「なにが不服?」
「そうですねえ。強いて言うなら出会いが遅かったとだけ」
「はあ~……やっぱりそこですか」
背もたれにあーあともたれかかる。俺の目に狂いはなかったのに遅かったかと。
「ですね。それにサイラスと出会う前の私は鈍感で、あなたの愛に気が付けないかもしれません」
「なにそれ?」
私の生い立ちやこだわりをサラッと話した。すると目がキラキラ……なんで?
「優秀とは伺ってましたが……そっか。あなたの魅力はそんなところから」
「魅力ではありません。要領の悪さです。家族しか見えてなくてですね」
「なら初めて俺が声かけていたらどうだったと思う?」
「……どうでしょうか。あまり社交的な方は得意ではないので」
ふーんと微笑む。仕事出来て真面目で夫しか見ていない。苦労も夫のためなら厭わない。なんだそれと笑う。
「国が違うと女性もこんなに違うのか。クライブ様がライラ様をお嫁にと言った気持ちが分かるね」
「そうですか?」
「この国の女性は、まあ王侯貴族だけですが夫は金づるです。優雅に暮らすためのアイテムでしかない人が多い。歳とともにそうなる人が多くてね」
「ふーん」
贅沢が当たり前になり夫は忙しく家にあまりいない。愛人を囲うなんてのまである。そして心の繋がりは切れて世間体だけになるなんて聞く。うちがまさにそうで、両親は子はかわいがるけど夫婦の関係は冷えているそうだ。
「全くという訳でもなくなんだろうな。兄弟みたいな距離感になってるが正しい。母はおかしなことはしてないけど、父をとても愛してる感じはない。それが寂しく感じるのです」
「そうですか。私の両親はどこか相手にふわふわした愛情を向けてましたね」
「でしょう?それが理想です。あなたとなら出来そうと思ったのに」
身分以外は俺の方が殿下より上。勝てるのではないかと押したけど無理かあと。
「ならライラ様を伝にそちらからお嫁をもらうかな」
「はあ」
近くで聞いていた彼の弟さんが兄さんの周りだけだよって笑って近付いてきた。
「お初にお目にかかります。弟のギースです」
「はじめましてティナです」
彼はクロード様の隣に座り、
「兄さんの周りはね。愛に飢えた方が多いんだ。家族の不和や腹違いのお嬢様とかね。裕福ゆえの問題が多い家庭の姫が多い。兄さんこんなでしょ?愛をたくさん囁き大切にしてくれそうでね」
「ああ、なんか分かります」
「そんなつもりはないんだがな」
ちゃんとした家庭の人はたくさんいるのです。この公爵家もそうだし、兄さんが言うほど両親は仲は悪くない。不貞もどちらもしていない。
「どちらも現実的でドライなんですよ。ただ単に」
「へえ」
「兄さんはロマンチストで夢見がち。おとぎ話のような夫婦になりたくて選り好みしてるだけ。同じふわふわした部分を持つ姫を待っていて、逆はよく聞くでしょう?」
「はい」
なんだかかわいらしい人でどこかで聞いた気も。フフッ私の周りの男性はこんな人が多いかな。私がいろんなところが抜けているからかもしれないけど。ものを知らないとも言う……うーん。モテてもうれしくない気分。
「ティナ様は自分に染まってくれると感じます。そこが兄さん好みなのでしょう」
「フフッ当たりかもしれません。私はサイラス好みの女になってると自覚しますから」
「だろ?俺の目に狂いはなかった。出会いが遅かっただけ」
「遅いって兄さん。致命的だろ」
「そうなんだが……」
ギース様はこんなですが今後も仲良くしてくださいませと兄の肩をポンと叩く。
「悪い人ではないのです。夢を追いかけるロマンチストなだけ。ちなみに俺は妻がいます。かわいくてエッチで大好きですよ。あそこに」
「フフッはい」
指さす方には美しい黒髪にブルーの瞳のエッチなドレスの方。胸がこぼれそうです。いいなあ……じゃない。クロード様は悪いことではないけど、婚期は遅れそうな方ではある。いっそすごく年下を狙う方がいい気はする。そう提案すると、
「まあ……俺は変なところでリアリストでもあって、仕事の話しが出来る人がいい」
「あらら……育てれば?」
「せっかちで待てないの」
「うっ」
わがままでもある。完成した女性がよくてふわふわな人……どこにいるんだろう。うちには結構いそうだけどなあ。今はどこのお嬢様も万が一を考える。領地や自分のお家の仕事を勉強するのが流行りだし。
「ならばわが国のお嬢様や姫は正しいかもしれません。苦労してる分気は強いですが、ふわふわな乙女が多いですから」
「やはり。あなたがダメならそちらにするか」
だけど見た目はど真ん中。くっそーと。あの、今までの話しはあんまり褒められてない気がして落ち込みますけど?
「その抜けた感じが堪んない。男にとって純粋さは隙だから。もうかわいくて堪らないんだ」
「はあ……」
だからサイラスはよく心配と言うのかも。これだけ裏表なさそうな方が言うんだから、そうなのだろう。はあ……落ち込む。
「ねえ、これうちのドレスに合わせてくれてるのでしょう?」
「ええ、そうですが」
「んふふっ」
にっこり微笑むその姿にゾワッとした。なにか下心がある感じに変わった気がした。視線になにか獲物を見つけたような、そんななにかを感じる。
「俺と寝てみない?」
「は?」
「王族はそんなの当たり前でしょう?」
「当たり前ではありません」
「うちは当然でね。王妃すら愛人がいる。美形の男をはべらせてるから。ねえ気持ちが手に入らないのであれば、体から手に入れるのもありだろ?」
「はい?」
「俺なしでは生きられないようするってのもいいでしょ?疼いて眠れなくなるかもね」
あはは……もうなってるからいらない。入れただけで甘イキするくらい丁寧に体を触り、満足するまで抱いてくれる旦那様はもういる。言えないけど。
「ごめんなさい。あなたと寸分違わずの旦那様がサイラスなの。本当に間に合ってるの」
「へえ。夜は満足?」
「もちろん。だから赤ちゃんを作らな……あわわわッ」
慌てて口を手で押さえた。するとアハハッと大笑い。そうか変な色気はそこかと笑う。負けだなあと。
「私を好きになる人は似てると思いました。私のような女はそこらにたくさんいますよ。あなたは見えてないだけど思います」
「かもな。まあいいや諦める」
「そうして下さいませ」
殿下が戻ってきたからまたねと。握手と手を差し出すから握った。
「また会いましょう。今度は商売でね」
「はい。アッ」
グイッと引き寄せられてブチュー……え?
「やっぱりあなたは気持ちいい。キスすら堪んない。またね」
「え……?」
えっと……ヴッこれマズいやつでは!と近付いてくるサイラスが怖い。そして無言でブチュー……
「消毒だ」
「ごめんなさい。隙がありました」
「うん。俺は騒がないが夜覚悟しろ」
「はい……」
そして夜、本当に腰が砕けるまで抱かれた。断ることは出来ず、されるがままで喘いてしまった。当然気分が乗れば自分から。もうサイラス仕様のディナですよ。はあ……
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