殿下のやることを全面的に応援しますッ 〜孤立殿下とその側近 優しさだけで突っ走るッ〜

琴音

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前編 ユルバスカル王国編

52 ダチョウの収益は当分先

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 そしてダチョウの買い付けの案件がスタートした。ものすごく嫌々出かけたカール様。そして本当に陸路を使い帰宅。目の前にはタッタッタッと駆け足で柵の中を走るダチョウ。羽を少し膨らませてね。足は丈夫そうで目が大きく、近くで見ると全体に大きい。

「ダチョウさん……食べてごめん」
「なに言ってんの?」
「つぶらな瞳でどことなくかわいくて、これ食べちゃダメでしょって思っちゃった」
「ニワトリはいいの?牛は?羊は?」
「やめれサイラス」
「ごめん」

 嫌な言い方しないでちょうだい。三人でダチョウを見に来たの。牧場はカール様の買い付けに合わせて用意していた。始めの二羽はオスとメスを連れて帰国。後でカール様が手配した大型の馬車で次々とやって来て今十羽。でもみんな子どもで食べちゃダメ。大人は高いからなんだって。そしてカール様は飼育員をふたり連れて来てくれた。シェフは飼育員さんの伝で予約済み。カール様すごい。三カ月帰ってこなかったけど。

「仕方ないでしょ。売ってはくれるけど運ぶ算段に手間取ったの。飼育員も募集したし」
「陸路にするから。船ならもっと早く来れたのに」
「いやまあ」

 ダチョウはみんなヒナばかりで、オスは三歳にならないと繁殖出来ないらしい。だから最初の二羽だけ成鳥を連れてきた。落ち着けば繁殖行動を取りメスが卵を産む。それを増やしましょうと飼育員さん。気が長い……食べれないじゃん。そう言うと飼育員さんはニコニコ。

「その間は卵を売りましょう。一個でニワトリ十個分にはなりますから。味もいいですよ」
「へえ」
「でも割るのは大変」
「そうなの?」
「ええ。姫が乗っても割れませんから」

 ほほう。卵だけならどこにでも売れるよね。レストランや宿屋に売り込むか。私頑張ると意気込むと、

「まだ先ですけどね」
「そっか。すぐには産まないか」

 軌道に乗るまでは見学させるのもダメと言われた。そんなに肝っ玉が座った鳥ではなく、〆る時に興奮させると肉に血が回り不味くなるらしい。なにそれ。

「ダチョウや鳥の仲間の特徴で、失敗すると肉に血が回って鉄臭くなるのですよ」
「へえ」

 飼育員さんの解説を聞いていたら横で腕組みしてるサイラス。ダチョウをジーッと見つめ、

「俺は自分の思いつきを失敗したかもとは思ってる。先行投資が多くて俺の小遣いが減っている」
「でしょうね。私の使う?」
「いや、それほどまでじゃない」
「そうね」
「もっと調べてからにすればよかった」

 ニワトリと同じで一年くらいで出荷は出来るけど、ここにいるのは繁殖用。食べちゃダメ。こいつらが卵産んでそれが育つまでかあって。眉間にしわ。

「高すぎるペット状態が続くのか。象一頭を国が動物園のために買ったくらい掛かったんだ」
「え?」
「運搬費が凄まじく、こいつらエサを山ほど食う」

 飼育員さんふたりはクスクスと笑う。

「我らは雇われた身ですが、こんな遠くの国に物好きな王族がいるんだなあと思いました。お金かけてもすぐに収益にならないのに、気の長い方がと。アハハッ」

 飼育員さんは殿下は面白いですねって。サイラスはブスッとしてがっくり。

「俺の見通しの甘さだよ。カールを買い付けに行かせた後、図書室で調べ直してめまいがしたから」
「白くなってたもんね」

 我らも卵が産まれたらきちんと雛になるようにしますよって。頼むよと飼育員さんたちにあいさつして、知事のセガール様の屋敷に向かう。そして、

「いつ収益になりますか?来年にはなんとかなりますかな」
「それ聞くの?」
「え?」

 これあげると図鑑をセガール様に渡す。しおり挟んでるところ読んでと。はあ?と理由もわからず彼は読め始めて深いため息で眉間を揉む。

「数年はダメですね」
「ああ、初めの二匹だけじゃ採算は取れない。餌代と飼育員の人件費だけが出るのみ」
「はあ……この支出はどこから?」
「俺の取り分から」
「はい」

 パタンと本を閉じて黙った。そうよね。みんな期待してたから残念な気持ちは察します。セガール様の側近もうーんと唸り無言。だよね。

「殿下がこんな見切り発車するの初めてみました」
「うん。外国行って楽しくて気が大きくなり過ぎたかも」

 殿下らしくないけどこれも勉強でしょうと。すごく高くついたけどと苦笑い。

「でもいつか儲けになりますから気長にですね」
「ああ」

 今日は食事の後はお休みをされますか?と聞かれてうんって。テンション低めだからね。そして全部お仕事が済んでお部屋。

「サイラス」
「うん。もう気にはしてないが、こうなるとなにかしないとマズいかと考えてた。それで稼げる鉱山を探す。お茶も似たようなもんだから」
「うん。どこ?」
「サファイア出るんだから土魔法を駆使して君が探してくれ。銀や鉄ではなく宝石ね」
「ああはい。手早くお金になるものですね」

 うんってうなずくサイラス。土魔法か。あまり上手くないんだよね。あれは索敵の術に近くて、感覚を覚えないと分からない。この鈍感な私にはかなり苦手の部類。でもやるしかないか。訓練の一環としてかな。ダメならイアン様ねとサイラスに話した。

「それでいい。ダメなら君の負担でイアンを雇え」
「え?」
「君のカバーだから」
「ゔっはい」

 サイラスは仕事では「姫はもうかわいいんだから」とは言ってくれない。とても現実的だ。当たり前のことなの……ですが……こんなところは甘えたくなる。お金ではなく、そんな言葉が欲しくなる。ね?

「ムリ。君は妻だけど仕事は側近というより共同経営者だから。金銭の負担は半分こだよ」
「……はい」

 寝る。ダチョウかわいかったからいい。卵も今度見に来る。今は前向きに寝る。私は立ち上がりガウンを脱いでソファにかけると、スタスタとベッドに潜る。

「ティナ?」
「寝ます」
「え?」
「なんか疲れた」
「ああうん」

 なら俺もと隣に入り背中から抱いてくれる。月のものがまだ終わらないからエッチはない。

「体は辛くないか」
「うん。もうあと数日だから」
「そうか。遠くに来させるのは嫌だったんだが、城から離れられるのがこの日しかなくて」
「うん。そこまでじゃないの。私は辛くならない方だから」
「そう」

 優しく腕が回りティナと耳にチュッとしてくれる。

「無理させてる自覚はある。仕事辞めるか?」
「なんで?赤ちゃん出来るまでは働くし、産まれて落ち着いたら働くもん」
「仕事したくなかったんじゃないのか?」
「うーん。あなたと働くのは楽しいから。大変だけど楽しいの」

 そうかと首にチュッとする。俺は辞めて欲しい気持ちは捨ててない。そこは忘れないでと。君は時々領地に顔出すだけにして欲しいんだと。

「でもね。王妃も働いてるじゃない」
「あれは仕方ないだろ。王の妃は社交に視察、外交と暇なしだ。母上も似たようなものだが、あくまで王たちの代行だからそこまでではないし」
「だからいいの。王子の奥様みたいにお城の部屋にいると気が滅入るから」

 職業婦人が家に入って、子どももいなくてなにするの?アリスも復帰してバリバリ剣を振り回してるし、キャロラインは奥様になりたいと家に入った。でもあの子は元々仕事するの嫌ってた。(家の都合で使命感はあったけどね)私は嫌だとは考えたこともなかったし、楽しく感じるようになってしまった。

「サイラスのやること、思いつくことが面白いの。国の決まりきったことをやるのとは違うから」
「まあな。領地は自由度が違うし」
「だからよ」
「うん」

 暖かな背中が気持ちよくてうつらうつら。目を開けてられない。

「おやすみなさいサイラス」
「おやすみ」



 そして翌日昼には城に戻りイアン様の元へ。土魔法のスペシャリスト!訓練ならお小遣いは減らないもんね。お庭に出て訓練開始。

「感覚はな。自分で感じてもらうしかないんだよ。俺が感じてることは伝えられるが人によりが大きい。お前なりに感じないとなんだ」
「やはり」

 どの術もなんだけど、自分の中で納得し感覚を掴むものらしい。みんな無意識になにか感じて習得するそうで。確かになにかを考えて雨振らせたりはしていない。術を唱えこのくらいかな?とかそんな感じよね。イアン様はそれが才能なんだよって。そっか。

「索敵に近いがあれは人や生き物を感じるものでな。土魔法は水や鉱石を感じるんだ。ゴーレムや土壁作るだけじゃない」
「はい。ゴーレム可愛く出来ないかな」
「うん?してどうする」

 それもそうなんだけどね。見た目が……いや、今はそこじゃない。ちゃんと聞けよってため息。すみません。

「対象物を感じるのは感じるのですが、石ころと水、鉱石との違いがわかりません」
「ふむ。もしかしたら……」

 何か悩んでスッと手が出た。なにこの手は。ジーッと見つめた。

「お前賢者だから、他人が使ってるのを手を繋いでたら感じるかなと思った」
「ああ、はいお願いします」

 ならばと手を繋いた。あれ?とても柔らかい手でふかふか。サイラスのように剣を握らないからか。へー男性の手なのに大きい女性のようね。

「なんだ?」
「剣術をしない男性の手は初めてで、なんか不思議です」
「そうか。気にするな」
「はい」

 全く剣術をやらない貴族はいないと思ってたからなの。そっか術者はしないのか。運動はするのは知ってたけどふーん。気になるか?と。

「女性並に護身くらいだよ。運動は走るとか山登りかな。騎士についていければいいんだ」
「へー……」

 話は終わりとイアン様が術発動。俺と同化する気持ちになれと言われた。たぶんそんな記述があった気がするんだが、不確かだから期待はするなって。ハイッ

「これが水、わかるか?」

 手からなにが流れ込んでくる気がして、チャプンと耳に聞こえた気がした。コポコポと地下を空気を含んで流れるような……そして体が冷える気がする。

「当たり。俺の記憶は正しかったな」

 次なと言われたら鼻に鉄臭さっ錆びた鉄のような匂い。

「庭に落ちてる古い馬車の車輪だ」
「それで臭いと感じたのですね。サファイアは匂いありませんけど?」
「匂いはないが感じるんだよ。石にはその種類の波動があるからな」
「ふーん」

 土魔法の索敵は土の上でも下でも分かる。生命関係は全くだがなって。手が離れて、

「感覚が分かれば出来るさ。自分の宝石を置いて練習すればいい。生き物と同じのなずなんだ。君は出来るだろ」

 生き物の索敵もあんまりですけどね。言うと訓練さぼってるのがばれる。お休みの日にちょろっとしてるだけだから。私は悟られないようにニッコリ微笑む。

「ありがとうございました」
「うん」

 でもよく俺がいる日が分かったなと笑う。火曜と水曜はいることが多いのでって話したらそう?って。

「術者の方はお仕事引き受けると遠いから、週末もその地にいることが多いじゃないですか。だから間の日は皆さん研究棟にいることが多いです」
「そっか。分からなかったら訓練の日じゃなくても来るといい」
「はい」

 そして屋敷に帰って練習。テーブルに並べてみる。術を発動したけどあるのは分かるけど鉄とか銅のようには感じない。目を閉じて集中。あるのは分かるけどなにがどれって違いは今ひとつ。毎日少しずつ。急ぎてもないしいいかなねえロッティと話しかけたら急ぎだよと、部屋に入ってくるサイラス。

「こっちに来ないから」
「ごめんなさい。やっぱり宝石関係は分かりにくくて」
「なにが分かんないの?」

 サイラスはこちらに来て、ソファに座る私に腕を回す。

「石ころとの区別がね。訓練の時に言われたんだけど、石には波長があるらしくてそれを感じるそうです」
「ふーん」

 結構並べてるけど区別つくの?と聞かれたけど、ダイヤとその他しか。

「なんでダイヤだけ分かるの?」
「ああ、あれだけ組成が違うから。炭素だからよ」
「ふーん」
「後は水晶に似てて分かんないの。石ころはなんとなくかな」

 まあいいや。終わった?と聞かれたけどまだでーす。チッとサイラス。

「寝ようよ。ひとりは嫌だ」
「はい」

 耳にチュッとされてくすぐったい。まあいっかと立ち上がり、彼の後ろをトコトコついて行く。ロッティはおやすみなさいませと。

「また明日ね」
「はい」

 こういうのは積み重ねよ。ちまちまするしかない。



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