殿下のやることを全面的に応援しますッ 〜孤立殿下とその側近 優しさだけで突っ走るッ〜

琴音

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前編 ユルバスカル王国編

54 ごめんなさい

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 申し訳なさと怯えはなくならず馬車に乗り帰宅。よく分からないうちに抱かれ翌日ぼんやり起きて……そのまままた抱かれて。食事したらすぐ抱かれてを繰り返し休み中抱かれてた。会話などほとんどなく求めてくる。自分が悪いのは分かってたから求めに応じた。気が済むならばと。そして疲れ果てて眠って夜中に目が覚めた。

「なにしてたんだろう」

 苦しそうに抱く彼になにも言えず私は喘ぐのみ。さすがに体はもうムリと感じる。
 
 カーテンのすき間から月明かりが差し込む。布団から出て窓に近づいた。少し開けて見上げると満月。庭のお花も少し見えるくらい明るい。そして私の体は病のようで噛まれた跡もある。それに強く掴まれたのか手首に指の青痣がついてて、お腹には引っかかれた跡もある。一歩足を動かすとごぷっと股から流れ落ちた。

「ヒリヒリする」

 治すことは簡単だけどやらなかった。彼の苦しみがこの体だと思うと出来なかった。ティナティナと、苦しそうに呟く彼に申し訳ないとしか思わなかった。自分の妻だと感じたくて私にも思って欲しくて。側室なんて簡単に口にしてはダメだったの。彼の境遇を思えば口にしてはならなかった。分かってたはずなのになんで。

 窓の外の月を見上げ、瞬きしたら涙がこぼれ落ちる。

 彼が愛情をとても欲しがるのを知ってたでしょ。実の母に愛されず今のお母様に愛されても甘えられず、幼いうちに大人になるしかなかった。どれほど辛く寂しい気持ちを持っていたか。ティナあなた知ってたでしょう?それを仕事と同じように子を作れ。あなたを愛さなかった母と同じことをしろなんてよく言えたものだ。

 なんで私はこんななの?愛されてることが当然と思ってるの?それは違う。私がサイラスを好きなの。なのに……うっ…ううっ……しゃがみ込んで泣いた。鈍感は標準装備と甘えてただけなの。分からないのが当然として、みんなに諦めさせてただけ。特にサイラスには甘えてた。なんでも許してくれるサイラスに甘えてた。努力もせずに甘えてたの。

「ごめんなさい……ごめんなさい……うっ…うわーん」

 声を殺すことも出来ず泣いた。自分の未熟さに呆れ、当然と言わんばかりに口にしたことを後悔した。私は心が育ってない。こんなのお母様になんてなれないもん。いつまでも成人した頃のままで、なんの成長もしてないの。体ばかり大人になっただけ。いやだあ!
 床に額を擦り付けて泣いているとふわっと抱かれた。ふえ?

「追い詰めたな。ごめん」
「えぐっ違う私が……わたしがあ!」

 抱きついて泣いた。ごめんなさいと繰り返して。何度謝ろうが取り返しはつかない。頭はぐるぐるするけど自分が悪いのしか分からない。そしてふと思った。

「私はあなたに相応しくない」
「え?」
「私のような女はいくらでもいる。いるんだもの私はいらない」
「まだ分らない?」

 そう言って見つめるサイラス。違うの。

「初めから間違ってるの。私を選ばなければよかったの。もっと素敵な伴侶はいたのよ」

 困った姫だねえと抱き起こされてベッドに座らされた。

「君は俺の愛を否定するの?」
「そうなるけど私でなくてもよかった。そしたらあなたはこんなに苦しまなかった」
「たらればなど意味はない。俺は君がいい。ティナでなくてはここまで愛しはしなかった」
「勘違いでしょ?」
「君バカ?」

 素直で真面目で誰にでも親切。民にも分け隔てなく接し、俺の理想を目の前でしてくれる。そんな女どこにいるよって。

「俺の評判知ってるだろ。今になって貴族共は手のひら返ししてるが、みんなボロクソ言ってたんだよ」
「それは……でもね。以前にそんなお嬢様がいたのでしょう?なら他にもいるもん」

 あー……そのお嬢様はこのねちっこさを嫌ったと頭を搔く。辺境伯のお嬢のケリー様だよって。始めて名前聞いた。彼女は今は他国のお身内に嫁いだと聞いている。ふわふわ系のライラ様のような雰囲気のこれぞ姫って方のはず。私とは随分違うけど。外見は君の方が好みで、あの頃は心を重要視しててなあって。隣に座り頰にそっと手を添えてくれる。

「彼女は俺に賛同はしてくれたけど、手は貸してはくれなかったんだ。それでも俺は嬉しかったから執着した。でもな、些細なことでこんななるだろ?だから嫌われたんだよ」
「そう……」

 自分を否定されたり軽んじられる言葉にキレる。押しつける愛情。そのうちケリー様は笑わなくなったそうだ。

「お傍にいるのが辛いと言われたんだ。あなたの愛に応えることは出来ないってな」

 体が清いままの時点でそう言われたら、もうなにも言えなくなったそうだ。とても辛そうな声。自分は一生の伴侶はこの人と信じてたから大切だし、とても愛していた。分かって欲しくて頑張ったのにそれは重いんだと。私にはあなたを支えられる力はない。はっきり言われたそうだ。

 あちらの親は娘が辛いなら婚約はなかったことにと解消されたそう。別に王族と婚姻を無理に望んでない家で、あっさりしたものだった。彼女も親に同意と。

「それで俺の評判はさらに激落ちでな。君くらいだよ。俺を愛してるとあちこちで言ってくれるの」
「それは本当だから。尊敬してるし」
「ありがとう。だから君でなければならない。子どもも君との子どもでなければ意味はない」

 こんなに愛してるのに自分を蔑ろにされたような言葉は我慢出来なくなる。君が口にしたのは王族としては当然だ。でも、俺を分かってるはずの君の口からは聞きたくなかった。前の彼女も同じ。そこだけはダメなんだと。

「他の誰が同じことを言おうが気にもならない。だが、愛する者に言われるのは哀しいんだ」
「はい……」

 ヒールと聞こえると体が楽になった。お股のヒリヒリもなくなった。

「なぜ体を癒やさない?」
「うん。あなたの苦しみかと思って」
「バカだな。でもごめん」

 横になろうと布団に入れてくれて腕枕。

「俺はキレやすいんだよ。自覚はしてる。君の見てないところではイライラしてるし、怒鳴ってるしな」
「そう?」
「たまに見かけるだろ?」
「少し声が大きいだけでしょ?」
「俺的にはそれも嫌なの」
「私はもっとよ?」
「ふふっうん」

 さすがに胸ぐら掴んで殴り飛ばすはしなくなった。でも不快な言葉を元奴隷の人や、自分の従業員を怒鳴り殴る店主には目から血が出そうになる。忍耐が中々身につかないのよ。人に対する暴言暴力は反射的に体が動いてしまう。

「構わん。だから君の信者は増えた」
「信者じゃないもん」
「同じだろ。俺の案はみんな拒否するくせに、君が同じ事言うと「はい姫様頑張ります。なんなりと」だぞ?歴然だよ」
「あははっ」

 もう君は俺の一部なの。代わりはいないんだよと。ありがとう。

「それを踏まえて子はいらん。死後は知らんと言いたくなるんだ」
「はい」

 無責任な気持ちは湧くけどそれがダメなのも知っている。俺が下賜された領地は以前はもっと大きな直轄地だった。分割されてるんだよって。

「王族の持ち分は減り続けている。貴族派がぐちゃぐちゃ言ってるが、無理にしなくてもいずれ貴族が、民が治める国に変わっていくさ。王が残っても今のようなものではなくなるはず」

 戦後賠償でラセイネイの西側の土地を押さえた。だから当分持つだろけど時間稼ぎでしかない。俺も少しもらったからなって。でも世界は刻々と変わり民の力が増している。いずれ王国自体少なくなるさって。胸に抱かれながら、

「あなたはそんな先を見てたのね」
「当然だろ。だから改革すれば王族でも自活出来ると知らしめたかったんだ。未来の王族に、こんな王子がいたと記録に残ればその時の役に立つ」
「やはり尊敬に値するお方でした」

 だろ?と額にチュッとしてくれる。苦労しても未来の人になにかを残したかったそうだ。

「困った時は先人の知恵って言うだろ?俺たちはそれに助けられてる。ならば俺もだよ」
「うん」

 だから俺を愛してって。君だけがいればいいんだ。ふたりでひとりでいいだろって。俺のこんなバカな施策に賛同してくれる人は君だけだと。

「こんなに君に執着するとは予想外だったんだ。俺の弱さでしかないがな」

 強く抱きしめてごめんねって。君に愛してるって気持ちをぶつけてただけ。子どもが駄々をこねたの同じ。ごめんねと繰り返す。

「うん。でも怖いからキレる前に言葉にして。甘えだけど不用意な言葉は今後もあると思うから」
「ああそうする」

 ここまで来ても甘える言葉しか出なかった。私も一緒なの。あなたなら許してくれると信じててそれが言葉になる。甘える先があなたしかいないの。もっと両親と話したかった。母様に今も生きてて欲しかった。甘えたかった気持ちをあなたに求めるの。ごめんなさい。

「俺が君に甘えたんだ。甘えたからキレたそれだけなんだ」
「うん」

 俺もどこか君なら許してくれると思ってる部分がある。君なら俺のわがままも受け入れてくれるという驕りがあったそう。お互い様だよって。

「それと君は明日休め」
「なんで?」
「俺が抱きつぶしたからなにも出来なかったろ」

 それはお互い様。好きなところでキスしてくれてもいいし、したくなったら客間で襲ってもくれていい。ねえサイラス、私を愛してるのでしょう?んふふっ

「ほほう。ならやるぞ?」
「あ……やっぱりやめて。キスだけで」
「ふふっしないさ。君の泣き顔は辛いから」

 図々しい言葉をサラッと受け入れてくれる。この居心地の良さは旦那様だけなのだ。家族では得られない愛情の形。
 もう少し寝ようよと言われ目を閉じる。暖かな唇がまぶたにチュッ。こうして許し許される関係は大切だとしみじみ思う。愛する分だけ不安にもなるし、強く叱られると泣くほど苦しくなる。

「ごめんなさい」
「もういい。俺も悪かったから」

 胸に擦りついてしまう。暖かなこの胸にいたいの。家族では得られなかった心地よさと、家族に叱られるのとは違う恐怖を知ったの。ここは改めなければと強く思った。




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