殿下のやることを全面的に応援しますッ 〜孤立殿下とその側近 優しさだけで突っ走るッ〜

琴音

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後編 ヴァルキア王国編

77 ミーレン

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 呆然とした。背中から前に移動した半透明の人。ニコニコと人好きにする笑顔で私を見つめる。声だけじゃなかったのか。すごい。

「君ずいぶん前にこちらに来たのにさ。ここに来ないんだもん。待ちくたびれたよ」
「そ、それはご無礼を」

 まあ王様は忙しいもんねと。ええ?この現象はなんなのだろう。化けて出てる?と聞けば、

「あははっ違うよ。これは我らの魂の一部が話しているんだ。賢者の仕事を伝えるためにね」

 目の前の人は「雪鬼族」そのものだった。真っ白な長い髪、真っ赤なルビーのような瞳が美しい。それにスラッとした体躯に透き通るような肌の白さ。本当に透き通ってるけど。そして男性か女性か分かりづらい。声だけではなく姿も分かりづらい。背丈はあるけど細くて、少年のようにも見える青年?女性?判別しにくい美しさがあった。でもさ。声が聞こえるとか前情報がなければ叫んでたわね。この出方は幽霊かと疑うわよ。

「あなたは誰?」
「俺か?」

 俺ということは男性だ。歩き回っていたのを辞めて私の目の前にしゃがみ込む。とても美しい方。近くで見れば、人好きにする優しい三十くらいか。

「俺は氷の国のミーレン」
「ミーレン?」
「うん。後世に王子なんて言われてるけど、北の村の村長の息子みたいなものだ」

 彼は立ち上がり後ろで手を組み、ウロウロとお墓の周りを歩いて話す。

「俺は三男でね。跡継ぎがどうこうことか面倒くさくなって逃げたんだ。暖かいところに行きたいのもあったし」
「へえ」

 彼の国は小さな町一つくらいで、純粋な雪鬼族だけの国。ある程度の寒さには強い民族で、多少の術で気候をいじれば住めたそうだ。史実に残るような大がかりな国なんかじゃなく、本当に小さな町くらいのところだったそう。

「国の外に出ると死ぬよって言われてたんだ。でも俺は行きたくてね」
「ふーん」

 その頃、暖かい地域もあちこちに人は住んでたけど村とか小さな町ばかり。国として制定しているところは少なかったそうだ。俺は夜中にこっそり抜け出して旅に出た。思い立ったら吉日と適当に用意した荷物を背負って。

「だんだん暖かくなる空気と雪鬼以外の人の営みを見るのは楽しかったんだ」
「へえ」

 それと旅の途中やたら熱出るのは気になった。ケガの治りも遅く術を使うことが多い。なにこれ?と旅をしていたそう。いや言われてたんだから気が付け。そして何年か旅をして、ふらふらとこの地を歩いていたら急に体が軽くて楽。そんで定住となったそうだ。

「さすがに俺も気がついたよ。外出る人はお守りの魔石持ってたって。持ち出すの忘れてたんだよね。あはは」
「あはは……」

 軽いなこの人。ノリだけで生きてそうな雰囲気を感じた。まあいいけど。

「そんでね。親父がやってたように鉱脈を探したんだ。そしたらあった」
「それで術を?」
「うん。俺たちは魔石に反応するんだ。さらに術を掛けて快適にした」

 彼は初めはひとりで好きにしてたんだけど、自然は恵んでくれるけど奪いもする。それなりに警戒しながら開拓したそうだ。イノシシとかクマとか知識でしか知らなかったから。そのうち狩りに来る人とは仲良くなった。その縁で近くの村人は何かあると、野菜ちょうだいとか来ていたそう。彼の土地だけ天候に左右されないのを不気味と思う人もいたらしい。でもねって後ろで手を組み、うふってかわいく笑う。

「見た目が真っ白で、この辺りの人には嫌われたんだ。でもさ。俺ぼんやりしてるから気にもしてなかった。それに俺を受け入れてくれる人ならば来ればと放置した。そうしたら村になってたの。驚きよな」
「はあ」
「そんで勝手に村長にされてね。後、来た人の中にすてきな人がいて、お嫁さんになってくれたんだ。嬉しかったよ。お嫁さんもらえるとは思ってなくてね」
「へえ」

 君のように金髪でねって。また私に近づきズイッと鼻が当たるくらいに顔を近づける。そしてニコッと。

「妻に似てる。目の色は青だったけど。かわいい……エリアルにそっくりだ」
「そうですか」
「うん。かわいかったけど彼女は真面目でね。俺の代わりによく働いたんだ」

 いやあなたが働け男でしょう?と言えば、そういうことじゃなくて、人をまとめると言うのかな。農作業の話じゃないって。それもだろ。そうだけど、人には向き不向きがあるものよティナと笑う。そうだけどさ。まあなんとなくだけど、この人は向かなさそうではある。

「俺は人をまとめるとか苦手だから国を逃げたのもある。兄さんたちを助けるとか出来そうになくてね。術だけでいいなら国にいたかもとは考えるけど」
「ふーん」

 エリアルはいい人で子どもも産んでくれた。とても幸せに過ごし、年取って子どもに看取られて死ねた。とてもいい人生だったよって。それはよかった。

「こんな遠くまで来た甲斐は充分にあった。でも死なずにここまで来れたのは奇跡だけど」
「ですね。それより途中で魔石に気がつくべきでした」
「うん。それは俺も思う。気がついていればどこかで買って、自分で術を掛けたんだけど。アハハッ」

 天を仰ぎ笑う。なんてかわいい笑い方をするのだろう。素直で欲もなさそうな無邪気な笑顔。奥様のエリアル様はきっと大変だったと思う。私調べで、このタイプは奥様がしっかりしてないとキツい。家が立ち行かなくなる実例はリングヴァの人たちで知ってる。
 いやいや、この会話は楽しいけど、何か伝えるって感じではないわね。世間話をしてるだけのような。何の意味があって化けて出るの?と聞いてみた。

「化けて出てるんじゃないの。魂の一部をここに残しただけだよ。姿は俺が一番美しいと褒められてた頃にしてる」
「なにそれ?そんな術聞いたことありませんよ?」
「だろうね。俺の子どもが後世に伝えなかったから」
「そ、そうですか」
「君これいる?」
「いえ……ひとりぼっちでこの世に残るとか、拷問ですもん」

 だよね。普通はそう考えるんだと言う。俺はエリアルを残そうとしたけど、彼女は本当に普通の人。魂に魔素を貯める器官がないんだ。だから無理だった。とても寂しくて始めの頃は辛かったよって。魔素を貯める器官?なにそれ。ニヤッとして、

「雪鬼族独特の物だ。目に見えるわけじゃない。胸のところにあるんだ。体を解剖してもそんなのはなくて、魔素が勝手に作り出す袋ってのかな?」
「へえ……魂に何かあると聞いてますが」
「魂じゃない。雪鬼の子は生まれると、勝手に周りの魔素から作るんだ。袋の大きさは人によりだな。君は最大の袋があったの」
「ほえ……」

 それに、最大の袋がないと俺たちとは話は出来ない。私は千年ぶりだと言う。国交がなく隣からは来てくれないし、呼ぶ感覚も伝わらない。寂しかったと。彼らは生まれたのを感じるらしいけど、こちらは分からないそうだ。確かにこちらに来てからミーレンのゾワゾワを感じたもんね。

「たまに子孫が現れるのを楽しみにしてるんだ。雪鬼は俺たちの町が最後だった。弱い民族で他の土地に行けなくてね。寒さに耐えて生きるだけでさ。外に出ると死ぬって言葉も呪いのように浸透してたからね」
「そっか」

 魔石はあちこちにあるものではなく、特定の地域にしかない。俺たちの元の国に少しあってそれを使ってただけ。ここはいっぱいあったけど、旅をしててあったのはここくらいなんだよって。うんそれは知ってる。今この大陸にある魔石はほとんどここのものだけだ。多少別の地域のもあるけど。

「たくさんあるといってもこの山だけなんだよ。この国全体にあるなんてのはウソ。あちこちに魔石を埋めて、俺が術を掛けてるだけだ」
「へえ。今の私たちにも恩恵があるのですか?」
「ないね。雪鬼の血が強く出ている人以外はね」
「ふーん」

 綺麗な空気がなくても生きられる者には意味はない。害もないしねって。先の戦で純血に近い王族や貴族がいなくなったから、本当に意味はなくなっているそうだ。それにこの術で作物がよく育つとかもない。風邪を引きにくいくらいだよって。そりゃあ残念。元々私は病気になりにくいもん。そういや先祖と楽しくおしゃべりしに来たんじゃなかったわ。

「ミーレンあのね。ここに来ると昔の言葉が分かるようになると聞いて来ました。なるの?」
「もうなってるよ。俺たちとおしゃべりするのがそれ」
「はあ。なにも変わってませんが?」
「変わってるから帰ったら本を読んでみな。それと俺たちの頃には文字はなかった。だからこんな術があるんだ。後世に伝え残すためにね」

 だからお墓になにも書いてないんだそう。立て看板に由来とか書いてあるけど、そっか。

「他の方とはおしゃべり出来ないの?」
「それな。なんでかわからんが出来ない」
「ふーん」

 誰に一番似てるかで変わるんだろって。俺自身も子どもとは話せないと言う。ほう。いるのは分かるけどそれだけ。つまんないんだよねって。

「でもさ。俺かなり子どもに迷惑かけたからしゃべれない方がお得かもな。父さんはあーだこーだと未来永劫罵られるのも辛い」
「あはは。そうですね」

 自覚はあったか。なら奥様だけが味方かな。そう聞けばそうだよって。妻は俺だけを愛してくれて許してくれた。よく殴られたけど、最後に味方になってくれるのは妻だったと。とても愛してて、一緒にいたかった。だけど彼女は普通の人で、魂を一部残すことは出来なかった。相当頑張ったんだけど、普通の人は無理だったんだと哀しそうに赤い瞳が揺らめいた。

「俺も妻も子供たちも、みんな生まれ変わってるんだ。君は俺の生まれ変わりなんだろう」
「そっか。だから話せるのか」
「俺はそう思っている」

 隣は君の夫か?と言われそうですと答えた。ふーんとジロジロと見ながら観察。本当にぐるぐると回り触ったりしながら観察している。チュッと頰にしたりして。サイラスは反応しないけど。

「見た目は俺に似てんな。顔立ちとか」
「フフッそうですね」

 ミーレン族かあ。ここを追い出されても俺の末裔だといいたかったんだな。みんな健気と笑う。

「血のこだわりなどいらないのにな。俺こんなだし。俺の国の村人の血が北の国に多少残ると聞く。純血がいいなどと俺には思えんなあ。あの村は外の人と出会えなかっただけ。この血を残そうなど誰も思ってなかった」
「はい」

 術者の能力なんかなくても生きていける。あったら便利なだけなんだ。ミーレンと雪鬼以外がいなくなったか?生活に困ってるか?ないだろって。

「特別視し過ぎなんだよ。見た目だけで、中身なんか変わんないのにな」
「はあ」

 久しぶりのおしゃべりにミーレンは止まらない。独演会のようになって来た。サイラスと一時間の約束で来たのにそろそろ時間切れになりそう。なので適当に切り上げてまた来るねって話した。

「それ気にしないで。俺が消えると一瞬しか時間経ったないから聞けよ」
「はい……」

 そこからはこの何千年かで起きたことや、初期の村のこと。しまいには「俺はちんこ大きくエリアルは喜んでたとか」いらんことまで話し出す。

「逢瀬は大事だろ?夫婦の愛を確かめることだもん。ちんこの具合で女は変わるだろ?ちっさいとつまんないだろ?指みたいのじゃ困るだろ?サイラスはいいか?なあなあ」

 なんの質問だ。いくら子孫でも私は一応女性なのに。

「そうだけど子孫に話さなくても。でもサイラスは完ぺきです」
「ならよかった。ティナ、俺を知ってくれよ。おしゃべり好きなんだよ」
「はあ」

 なんて長々とミーレンとおしゃべり。お話する分にはとても楽しくかわいらしい方だった。常に楽しそうに笑顔でね。苦しい話題は苦しそうに身ぶり手ぶり。かわいくて私は笑っていた。

「さて、今思い出すのは話したかな。また来てよ」
「ええ。時間が取れた時に来ますよ。ありがとうございました」
「うん。待ってる。寂しくなったら呼ぶから」
「え?」
「ザワザワさせるから」
「あははっ」

 じゃあねとミーレンが消えて、手を組むのを止めるとサイラスも顔を上げた。

「話出来たの?こんな一瞬で?」
「え?」

 ずいぶん話してた気がしたけどなあ。ポケットから時計を出して見てみると、時間はほとんど過ぎていない。あれは本当なのかと時計を睨んでいると、耳元にミーレンの声。「この魂を残す術の副産物でなあって。理屈は分かんないけどいいだろ」って耳にチュッとされた気がした。ほほん。

「馬車で話します。帰りましょう」
「あ、ああ」

 立ち上がりサイラスと馬車に向かう。この会話が記録に残されない意味を知ったわね。雪鬼たちは、始祖は厳格な王子であって欲しいと願う、子孫の希望だったのかもね。これじゃそこらのチャラい兄さんだもん。あはは。






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