殿下のやることを全面的に応援しますッ 〜孤立殿下とその側近 優しさだけで突っ走るッ〜

琴音

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後編 ヴァルキア王国編

89 ミリガンから見たラセイネイ

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(残虐表現あり)


 ミリガンから見たあの三年間。ラセイネイの国内の話しをしてくれた。

「王妃。この国は戦の前からおかしかったのです。貴族は自分で自活するのはどの国も同じ。上納金八割りなんて聞いたことごさいます?」
「え?八割?それは……」
「でしょう?戦の前からそんなでしたの」

 魔石を掘って簡単な術を付与したものばかりを量産。魔道具は古臭く、使い勝手が悪く売れない。そんなだから餓死者も多く、働き手は少なくなっていた。細々と農業をやり、チンケな術の魔石を売る。ユルバスカルと変わらない広さの国土。放棄された土地は多く、収穫量はそちらの半分。人口は同じくらい。元々の人口差があって、減ってこれくらいでしたって。

「なにもかも足りないのです。それを他国から買って誤魔化してたけど、それも限界が見え始めた。そして目をつけたのがユルバスカル。金銀など採掘し、狭いながらも美しい小麦畑にイモや豆の畑。少しだけど宝石も出る。人の出入りの多い王都は賑やかで、たくさんの人が商売をしている」
「はい……」
「羨ましい以外なかったのですよ。王はね」

 遅れた文化は簡単には取り戻せない。その運用のための資金すら、国にはない。食べ物を買うために、北の大国から知識を売りしのいでいた。やることはやっていたけど手詰まり。そして王はウソをばら撒き開戦。そして、敗戦が色濃くなるとみんな手を引き、飢えて戦うどころではなくなった。話終わるとお茶を手にし優雅にコクリと一口。

「大まかな流れはこんなですね。それは王妃もご存知でしょう」
「はい」
「王様は何代も前から能無しだったのです。雪鬼らしい見た目だけのぼんくら。臣下もみーんなね」

 アーダルベルト様だけは違ったけど、彼ひとりでこの腐敗した国が立て直せるとお思い?と聞かれ、首を横に振った。でしょうとうふふっと笑う。

「いくら王家の一人とはいえ、お一人ではね。仲間を集めることも出来なかった。だって楽な方がいいのはみんな同じですもの。賛同者は現れなかったの」

 こちらにはユルバスカルにはない術が多く、戦士の底上げも可能。簡単にユルバスカルなど落とせると王はうそぶいた。でもそれは初めだけ。ある程度ユルバスカルの混乱が収まると連携が取れ強くなった。他国の援助もあり、派手に飢えるなどもなかった。武器の供与もあり不足することもなかった。反対にこちらはどんどん手を引かれ、食べ物も売ってもらえなくなった。

「それがどういうことかお分かり?」
「なんとなく」

 私は自分の領地を思い出していた。確かに物資は不足したけど、小麦や豆、芋類は、足りない分は配給もあり困らなかった。肉とかが少し減ってしまってはいた。砂糖は特に贅沢品になり、少しの配給しかなかった。

 砂糖は王族の直轄地だけ。人手不足で生産が落ち込んでしまったからだ。こちらはラセイネイ国境の二つの領地以外は少し不便だったけど、普通の生活が送れた。女性がとても頑張ったから。

「そちらはどうでしたの?」

 私は自分の領地の話しをした。そしたら彼女はやっぱりね。ユルバスカルは賢い王様がいらしたのねって。貴族にも民にも慕われるいい王様。それがいない国の惨めさはないのよって。気だるそうな雰囲気でミリガンは微笑んでいる。

「愚王。まさにそんな方でした。ユリシーズ様は。美しいだけの空っぽな方」

 女が大好きで王妃以外も元々多く囲っていた。さすがに殺しはしていなくて、普通に愛妾としてね。敗戦が色濃くなった頃、先ほどのようになったのよって。

 死体は無残な色と傷。どれだけ殴ればこうなるの?ってくらいだったそうだ。他は薬で黒っぽくなってたり、人の関節はこうはならないよねって骨折とか。頭をたたき割られていた人もいた。

「あなたなぜ知ってるの?」
「え?片付けろって定期的に呼ばれたからよ」
「は?」
「殿方は戦闘に。妻や娘はメイドが足りないから来いってね」

 宮中にいる臣下は逃げる者が後を絶たず、城は男ばかりに後半はなっていた。軍は勝手に動き、王の一派は遊び呆けていた。その臣下もまともには動いておらず、王たちと遜色ない人たちばかり。終わりなんだから好きにさせろと最低限しか働かない。確かにアーダルベルト様にここは聞いた。もっと酷いけど。

「もうね。国じゃなかったの。アーダルベルト様が立ち上がるまでここは地獄だったのよ」

 言葉がなかった。彼女は地方はもっとよって。忘れられたように放置。配給もなく国の動きも分からない。貴族はとうに領地を捨てていた。知事も村長さえ逃げた。民は訳も分からず土地に置き去り。またに軍が男を拐い、女を犯して殺したりで逃げる。そんな感じ。

「ここはそれもなく放置。少しの民は何も分からなかったの。アーダルベルト様が王になるまでね」
「ミーレンにまったく似てませんね。王様」
「ふふっ初めから似てないわね。見た目だけのクズですわ」

 この国の貴族も王族も見た目だけ。始祖の血などどこにあるのかと思うような方ばかり。カールはミーレンの記述に似てますし、あなたもねって。

「見た目を維持出来なかったミーレン族の方が、よっぽどミーレンに近かった。皮肉ですわね」

 私とカールはなにも言えなかった。カールは思い出してるのだろう。苦しそうな顔をしてグッと奥歯を噛みしめる。私は知らなかったことばかりで、本気で胸が苦しい。

「わたくしは見ての通り、まったく雪鬼の見た目を保っておりません。色白なくらいですわね」
「……うん」
「王妃の方が雪鬼らしいですわ」

 男も不遇だったけど、女はもっと。ユルバスカルのように立ち上がる女はいなかった。男が怖くて震えてただけ。若い娘はいつ王に売られるかと怯え、男の子は成人が来るのを恐れた。それに体質のせいで怖くて国を出られない。民は平気な人が多くいたけど、貴族は掛け。見た目を守ってる人ほど恐れた。そして王に従い、狂っていった。

「わが夫の父はまだまともでした。自分の領地を守ろうとしてましたから。ですが、私の父はダメでしたわ。お城で王と戯れて、その期間に母は飢えて病で死に、姉妹は城で死体になりました」
「え……」

 なんでもないふうに話す。何の感情もないように話しているあなたは……

「ふふっこの国は領地の主がいないところが多かったでしょう?みーんな王様とともに斬り殺されて死んだの」

 アーダルベルト様が女と戯れている部屋に押し入って全員殺した。その中に我が父もいた。いい気味ですわと高笑い。嘲るように声を上げて笑った。

「あれが父と思うと虫唾が走りますわ」
「うん……」

 うちの父は高潔だった。私にそんな世界を見せないようにしてくれたの。女が体を売らないと困るなんて見せたくない。配給が足りないお家も確かにあった。だけどないものはなくて……

「素敵なお父様。そんな人に育てられると王妃みたいにふわふわの姫になれるのね」
「それは違う!ティナはとても苦労したんだ」

 カールが慌てて否定した。彼女はカールを一瞥し、

「それはそうでしょう。領主の勉強もしてないのに主をしてたんだから。でも元からの賢さでしょうね。王妃は素敵ですもの」
「いえ…私は……」

 カールはティナを責めるな。彼女の家は男爵で兄や婚約者が戦に参戦。父と婚約者が死んでいる。決して楽なんかしてないと言ってくれた。そうですわねと涼しい。

「それはどこも一緒です。あの戦は長かった。ラセイネイは途中から負け戦で構わんとなってましたから。退路のない、無敵の人とは恐ろしいのですよ」

 死を当然と受け入れ、やるだけやるとなったバカな軍部と王。その一員であることが辛かったとミリガン。私ならもっと上手く立ち回れた。敗戦が濃厚になれば、ユルバスカルに頭を下げることも厭わなかったのにと。でも過ぎたこですわとお茶に手を伸ばした。カップを手に、

「王侯貴族は一掃され、穏やかなユルバスカルの貴族が領地を統治。優しい王様が来てくれたの。結果オーライですわ」

 ね?王妃とニッコリして飲み干す。でもどこか冷たい雰囲気をさせている。さて、陰気臭い話は終わり。

「わたくしを妻にして下さいませ。カール」
「俺は君を家臣としてなら迎え入れる。もう君を抱いたりもしない」
「イヤですわ。もしかして……お好きな方でもいらして?」

 カールはビクッとする。はあ……バカ正直なんだから。

「わたくし構いません。その方をお抱きになればよろしい。妻の座とお仕事があればわたくしは構いませんわ」
「なぜそこまで仕事と妻の座に固執するの?」

 仕事は家臣でも出来るし、ここに住み込みでもいい。妻でなくともねえ?

「ふふっまたこんな戦が起きた時対策出来るから。それと、稼げるようになったら商会を立ち上げお店をやりたいのです。食べるための対策ですわ。それほどわたくしはあの戦で傷つきましたの」

 カールの妻の称号は信用に関わる。側室では足りないのって。

 ……これ難しくない?彼女はものすごい意思でカールをターゲットにしてるもん。カールはすでに真っ白になってるし。どうしよ。



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