殿下のやることを全面的に応援しますッ 〜孤立殿下とその側近 優しさだけで突っ走るッ〜

琴音

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後編 ヴァルキア王国編

98 国らしくなってきた

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 国は急速に発展し始めた。五人の貴族が完全に引っ越しを済ませると山を開拓し、銀や銅を採掘。それを求め武器職人が移住した。なんたって新興の国。物が安く(信用がないからユルバスカル値段では売れない)そのためにやって来る。有名な方も来てくれて、当然売り上げは大きい。

 多少の宝石も産出し宝石商も多数出入り。農産物は国で食べる分だけは取れない場所もあり、国で融通し合う。どうにか国として名乗ってもいいくらいにはなった。

「落ち着いたな」
「うん。姫も産まれたしね」

 あのお薬の日に出来たようでね。種が足りなくてもバカみたいにやりまくったからだろう。何年も出来なかったのに。

「意味はあったな」
「まあね」

 中間の日ではなかったけど、なぜなのか。シュルツ様はそんなこともあるんだよ。たからどの日にしても出来る時は出来る。赤ちゃんとはそんなもん。統計に表れない例外はあるものよって。

「でもさ。君に似てないんだよね」
「うん。目の色だけね。後はサイラスそっくり」
「おかしいなあ。三人もいればひとりくらい似るかと思ってたんだが」

 一歳と少しの姫。全く私の成分がない。三人ともよく似てて、上の王子ふたりは毎日姫姫と子供部屋に遊びに来る。

「かわいい。母様そっくりだ」
「そう?」
「うん。目元はよく似てるよ」
「そうか?」
「父様目がおかしいんだよ。こんなに母様に似てるのに」

 親は分からないとうーんと唸る。ベッドの柵から頬をつつくふたり。姫は嬉しそうに笑う。なんていい光景だろう。上は学校の春休みで帰宅していた。帰るたびに大きくなるねと嬉しそうで、下はもうね。夜中に忍び込んで隣で寝てたりで、姫の騎士のようになっている。

「いいもんだな」
「うん」

 タニア様は継続で見てくれている。やはり姫はかわいいですねって勝手にドレスを持って来るの。毎日新しいのを着ている。気にすんな趣味だからと言われている。とてもよく似合う物を持って来るのよ。いいけど。

 国として落ち着けば催しや祭りなども始まった。この国の神は私たちということになった。ミーレンたちもそのままでね。新たな国には新たな神がいた方がいい。えっと、まだ死んでませんが?と議会で言ったんだけど、今は始祖だけでもいいが、神殿は今から造ってねって。準備を始めるそうだ。はあ。サイラスも苦笑いで好きにしろって。そして術者がすぐに作った。早い!

「ねえ」
「ああ」

 出来たから見に来いと言われて来てみた。私たちが銅像になって中央に鎮座。サイラスが私の腰に手を回し、私は彼の頬に手を当てて見つめ合い、うっとりしている銅像。なにこれ。

「愛し合ってましたと伝えるためです。幸せそうでしょ?」
「うん……」

 サイラスは何とも言えない顔して見つめていた。私も同じ。

「これでいいの?もっとさ凛々しくとか……」
「はあ?お二人はエッチい王様として有名なのです。仲が良く愛を確かめるのがお好き。夫婦の幸せの象徴でしょ?子宝も祈れるし」
「なんでそんな噂が……」

 術者は、人の口に戸は立てられない。噂は城から出て国中に広がる。側室も取らず愛人もいらないと愛し合い、この国に来てからお二人王子と姫が増えた。腐れ王様と違い、愛し合い子を作る。家族の愛の象徴だと、民の意見を取り入れたらこうなったと。ふーん。

「まあいいけとさ。これでいいなら」
「サイラスがいいなら」

 民は王様たちの顔を見てる人ばかりじゃない。だから生前は解放して、民に王を知ってもらう場所にする。死んだら神様ねって。そうですか……

「自分が神になってる神殿を見れるとは思わなかったな」
「うん……」

 術者は王都の一番いい場所に作った。今あちこちの領地に作る場所を選定してもらっているそうだ。ティナ様たちが来なくてもお顔が拝見出来る場所としてねと嬉しそう。

 待ってて下さいませ。場所により銅像を変えるつもりです。そこの領主や知事の意見を聞いて作るから、視察のついでに見て下さい。我らは頑張りますから期待してねと満面の笑顔。もうなんでもいいやって気分で、はーい。

「おい」
「なによ」

 後ろ向けって言われて振り返ると、キラキラ目をした人々が遠巻きにいた。私たちが見つめると、うおっ王様お傍に行っても?と聞かれどうぞって言うとあっという間に囲まれた。ジョンとキリクはサッと剣に手を当て警戒する。なにもしねえよと怒鳴り声が聞こえ、跪きお手をと両手で私の手を取りキスをくれる。

「ありがとうございます。幸せに生きております」
「うん。よかったわね」

 サイラスも同じように感謝を伝える人々からキスをもらっている。二十人くらいいて、今日見学に来てよかった。本物の王様がいたと涙を流す。

「産まれて死ぬまで貧乏で、お腹すかしたまま死ぬのかと思ってました。それがこんな……グスッ」
「ああ。そんなことがないようにするさ。着いてきてくれよ」
「ええ!もちろん」

 幸せそうな人たちはあいさつするとまたねと帰っていく。神殿が見たくて仕事サボって来たから帰るって。サイラスは最後の一人の後ろ姿を見つめ、

「期待に応えるよう頑張るさ」
「うん」

 そして城に帰るとサイラスは執務室に、私はイアン様のところで術の訓練と術書の翻訳だ。本の数が多く簡単には終わらない。すでに何年も過ぎたけど開拓が優先だから、遅々として進まない。

「仕方ないけどもう少し頑張れ」
「うっはい」

 変な術に頼れるのは私が生きている間だけ。次がいつ生まれるかなど運。そのために私がいなくても困らない土地の改良が必要なの。それに対応する術も探しているのよね。

「まあ時間かければ出来るんだが、君がやれば一瞬だからさ」
「……はい」

 それに未だ手を付けていない山は多い。そして山には鉱石の反応多し。この国マジでなにしてたのか本気で不明。石炭とかは掘ってたようだけど、それくらい。今どき石炭ってのもおかしい。

 かまどなどなく、キッチンの火は魔石で駆動する、鍋を置けばいいだけの「コンロ」と呼ばれるものが主流。冷蔵庫に照明も。他国の賢い人の発明で、最近はコックをひねれば水が出るシンクまで登場している。(井戸から水を引いている)生活は便利になっている。北の大国ありがとう。ちなみに山奥は以前のままも多いけど、順次何とかしようとしているの。

「途中で鉱山を放棄したようだな。人もいないし、倉庫に山盛りの魔石で稼ぐってなってたっぽい」
「ふーん」
「今でも倉庫は山盛りだ」

 今それを使ってお外に出るための魔石をチマチマ作っている。出来た分から国民に配っているの。この術だけは他の方が出来ない。だからどんなに人が増えても賄えるだけを、私は生きてる間に作るの!それは使命だと思っている。

「君バカだろ。人は永遠に生きないんだよ。死んだら返してもらえ」
「そっか」

 この感じだとユルバスカルくらいしか人口は増えない。その頃には人が混じり合い、魔石が必要な人は減る。使うのは能力向上として騎士ばかりになるから、その人口を目標に作ればよろしい。それでも多いくらいだ。外に出る人とはそうそう多くはない。ユルバスカルも領地から出たことなくて死ぬ人も多いんだ。人家族分、四個もあれば足りるよって。

「そうかな?」
「ああ。子だくさんの家は申請されたら渡せばいい。今はどの家も二~三人しか子を産まないから」
「ふーん」

 能力向上にもなるから、あれば邪魔にはならないもんね。作ろっと。声には出さなかったけどね。バカだと叱られるから。それに!他国に売るのもありよね。少ない術者の能力向上だもん。ふっかけられるでしょ。ウヒヒッ

「変な笑いはなんか企んでるな?」
「いッいいえ!なんにも!サイラスのこと考えて笑いが出ただけですッ」
「ふん。嘘っぽいな」

 私はしらばっくれた。いつか無料の私の術をちんまり取れるくらいの国になったら、この魔石を売りに出す。そうしたらお小遣い増えるもんね。それで王位を退いたら旅行に行くの。お仕事じゃなく、世界を回る。他の大陸にも行ってみたいしね。うふふっ夢は膨らむわあ。

 そんな穏やかな日々を送っていたある日、ユルバスカルからの招待状が届いた。王が退位して王太子が王に即位するそうだ。

「久しぶりのユルバスカルだわ」
「ああ。せっかくだからリングヴァも見てくるか」
「うん!家族にも会えるわね」
「ああ」

 そして半年後。私たちは行ける貴族を誘ってユルバスカルに向かった。

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