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1章

第2回鉄拳制裁

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ナイフ…短剣の作成依頼を忘れていた…。
武器屋からしばらく歩いたところでようやく思い出したのだ。それもそのはず、一晩と数時間を得体の知れない異界の地で過ごしているせいか疲れが出ているのだろう。何かを忘れるなんて数年ぶりだ。仕方ない。特にやる事もないので戻って短剣の作成依頼をしてこよう。そうして俺は武器屋へ戻り扉をくぐる。すると店主と男が揉めている光景が目に入った。青い髪を上げていて、それなりに身体つきも良い男だった。隣には女もいた。淡いピンク色の綺麗な髪で、スタイルが良く背中には弓を装備していた。男と女は身なりからして、おそらく冒険者だろう。俺と見かけの歳は変わらないくらいだ。関わりたくはないが今は疲れている。早めに用を済ませて宿に行きたかったから仲裁に入ることにした。全くもってついていない。
「おい、何を揉めているんだ。その辺にしておけ。俺は店主に用があるんだ。騒ぐならその後にしてくれないか。」
「んぁあ?お前、何もんだよ?俺に文句あるっていうのか?俺は先月ここで買った短剣がすぐボロボロになっちまって使いモンにならなくなったからこうしてわざわざ店まで来て話し合ってやってるんだよぉ!てめぇこそ引っ込んでろ!カス!!!」
威勢だけはいい。それなりに使い込んだ防具、腰には剣を差していたところから察するに【ファイター】のやつだろう。隣の女はこちらをただ黙って見ているだけだった。
「お前がそうして文句垂れ終わるのを待ってるより俺の用が済む方が早い。店主も困ってるだろう。いいからどいてくれ。」
そう言って俺は店主の方へ寄ろうとしたその時。
「てめぇ調子こいてんじゃねぇぞ!!!」
そう言いながら男は拳を振るって来た。全く、この世界のアホな男はみんな叫びながらしか攻撃できないんだろうか。そう思いつつも拳を前腕の外で受け流し、その勢いで顔を掴み視界を塞ぎつつ壁まで一気に押し込む。男はあっさり怯んだ。その隙に空いた手で腕を掴み足をかけて引きずり倒す。防具を着ているおかげですぐにバランスを崩した男はそのまま顔から地面に突っ伏した。やはりこれも一瞬の出来事だった。女と店主はぽかんとしていた。
「さっき、銃の依頼をしたが短剣も欲しい。片刃で、サビに強く少ししなるものを頼みたい。」
声をかけたとこで店主は我に返ったように
「…ん?…ぁあ!分かった!短剣だな!短剣っと…」
まだ驚きでそれどころではないようだった。
「いやぁ…助かったぜぇ。たまにウチにもケチつけるやついるんだよぉ。俺を街一番の武器商人と知らずになぁ!がっはっは!」
「そうか…。とりあえず依頼できたらそれでいいんだ。ところで、こいつは何が気に食わないであんなに怒ってたんだ?」
「あぁ、それはそこで伸びてる冒険者の若造が持ってきた短剣見てみりゃぁ分かるぜ。どっちがケチ付けたくなるかも、な。」
そう言って店主が差し出した短剣を見ると、刃こぼれがひどく血と脂でベタベタでサビかけだった。
「確かにそうだな。おおよそコイツが乱雑に扱い無理に肉を切ろうとしたり骨に当てたりしてたんだろうな。それに使い終わった後に拭き取りもせず、砥石で研いだ形跡も見られない。扱いが悪すぎる。」
「だから俺もそう言って研いではやるからそれで手を打っておけって言うけど新しいものをよこせとしつこくてなぁ…。正直困ってたんだよ。」
「やるせないものだな。」
そんな事を話していると女が男を抱えて店を後にする前にこちらへ寄ってきた。
「あの、ウチのメンバーがすみませんでした。実は先程あなた達が話している事はほぼ当たっていて…私もお店に行く前にメンテナンスをしてみてはと提案してみたものの聞いてくれなくて……」
「苦労してるんだな。アンタも。」
「いえいえ!そんな苦労だなんて…」
「短剣の扱い方くらいしっかり学び直してこいとだけ言ってやれ。使われる短剣の方がかわいそうだ。それから、その男は手加減してやったからしばらく横にでもさせておけ。じきに目を覚ます。」
「ありがとうございます。お忙しそうなところ迷惑をかけて本当にすみませんでした…。」
そう言って女は男を抱えたまま店を後にした。
しばらくして店主が口を開いた。
「しかしお前さん、喧嘩慣れしてるんだなぁ。見た事ない動きだったがありゃ何かの武術か何かか?」
「まぁ、そんなところだ。」
喧嘩慣れどころか。武器があろうが素手だろうが、それで人の命を奪い取る事が俺の仕事だった。
「ほほー。まぁ何にせよ助かったぜぇ。短剣はサービスさせてくれぇ!それと銃の依頼も半額にしとくからなぁ!」
「そうか?それはありがたいな。いい買い物ができたよ。」
「へっへっへっ!客が増えるのは悪い事じゃねぇからなぁ!アンタ?名前なんて言うんだ?」
「ジェイデン。ジェイデン・ウィルソンだ。」
「そうか、ジェイデンだな!俺はダリオだ。よろしくなぁ!」
そうして挨拶を済ませ、俺も程なくして店を後にした。あの治安の悪い宿はごめんだ。浮いた金でそれなりの宿に泊まる事に決めた俺は、また街へと歩き始めた。
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みんなの感想(1件)

gaiaku
2021.08.02 gaiaku

初めまして!小説を漁ってたところ自分が考えた事のある題名があったので、読ませて頂きました!
とても面白くて、楽しく読めました!
質問ですが、続きを投稿はしますか?個人的には、ゆっくりでも構わなので投稿して欲しいのですが無理強いはしませんm(*_ _)m

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