スイート・スパイシースイート

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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first bite1−5

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琢美は、年を重ねる毎に母親の行った事がどういう事なのかを理解し、父親に暴力を受ける度に母親と同じ所へ行きたいと思う様になって行った。
唯一自分を守ってくれた母の、最後の贈り物。
父親の暴力から唯一逃げ出す方法。
それしか、この地獄から逃れる術は無いと思っていた。
死への渇望と、生きなければという本能との間に長く苛まれていた琢美の精神は、父親が家を買って、集合住宅から戸建てヘ引っ越して遂に瓦解した。
集合住宅にいる間は、騒音を立てると怒鳴り込んでくる男性がいた。
父親はそれが嫌で、それでも集合住宅の中ではまだ手加減があったのだった。
戸立に引っ越した途端、そのタガが外れた。
限界だった。
引っ越して数日、いつ死のうか、そればかりを考えていた。
亡き母のワンピースを着て。
早く死にたい、でも、家の中で死ぬのは絶対に嫌だった。
夜、父親が寝静まった時、ふと窓の外を覗くと、隣の家に住んでいる一人の少年が、二人の家の間にある雑木林の中でタバコをふかしながらベンチでくつろいで携帯をイジっていた。
携帯の明かりで顔が照らされてて分かった。
引っ越してきた時、荷物を運び込む琢美達の前を素通りして隣の家へ入っていった子だった。
確か、ランドセルを背負っていた。中学校3年生の自分よりも少なくとも三つは年下と言う事になる。
こちらに目も止めず、挨拶すらしないで目の前を横切って行った。
父親は目をむいて不機嫌そうにしていた。
子供が大人である自分に挨拶もせずに前を通り過ぎたのが気に入らなかったらしい。
自分が恐れてやまない父親を、道端の石のように扱った裕一郎の姿は、鮮烈に琢美の脳に焼きついた。
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