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春のススキと白い息5ー4

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きっとこの先、セイラがアヤと初めて出会った時の事等、思い出すことは無いのだろう、と、アヤはそう思っていた。
それなのに。
思い出したのか。
アヤはもう堪らなくなって、何だかソワソワしている様な、泣きそうな様な、何とも言い表しがたい気持ちでいっぱいになった。
「酔っていたのか。そうか、そうだな、あれは本当にいつもと違って陽気なセイラだった」
つい言った言葉にセイラは直ぐに反応した。
「何それ、まるであの時が初めてじゃ無かったみたいな言い方」
「あ、え、うん」
「何を隠しているの?!」
「べ、別に今さら隠す事ではないなぁ」
過去の自分の勘違いと破廉恥な行為を一気に思い出したセイラは、羞恥心で挫けそうな自分を奮い立たせる為にあえて怒っているみたいな言い方でアヤに積めよった。
頬を真っ赤に染めて畳み掛ける様に話すセイラに気圧されつつも、元気なセイラも可愛いな、などと呑気な事を考えながら、アヤはセイラがアヤに気が付くよりもずっと前にセイラを気にしていた事を語った。
最初に気がついたのは匂い。やたらといい匂いのする人間が滅多に人が来ない獣道や山道をチョロチョロしていると思った事。
この山の生き物は代々決まりで人と出会ってはいけない決まりが有る事。
だからセイラが山に入ると、遠くや影からそっと見ていた事。
あの春の夜に、セイラに見つかる前までの事をかいつまんで話した。
「俺は、発情期になる随分前からお前の匂いが好きだった。
 お前が山に入って来た時、群の中で、一番最初に気が付くのはいつも俺だった。
 雌狼も雄狼の匂いも苦手だった。
 お前の匂いだけが俺を嬉しい気持ちにさせていた。
 俺にしてみれば、お前と番になるのは、きっと生まれた時から決まっていた当たり前の事だったのさ。
 不測の出会いで何もかもがアベコベにはなったが」
そこまで話して、アヤは少し照れながら、口を閉じた。
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