魔獣の姫に黒の騎士

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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サナリアの現在の研究魔獣2

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「お前、今はこの国で働いていたのか、大変だな。流しの魔術師も」
ウロボロスの従業員は基本的に身分は極秘扱いだ。
就職と同時に偽の身分が用意される。
表立ってウロボロスを名乗るのは機関の外部とコンタクトを取る部署の人間だけだ。
サナリアはハンスにはフリーの魔術師と言っていた。
「あなたこそ、こんな物騒な国で何やっているんですか?」
「俺は旅行だよ。」
そう言って、ちらりと自分の後ろ側に目配せして見せた。
サナリアが目配せされた方を見ると、ハンスの右斜め後ろの席に座る女性がこちらを見て会釈した。
ハンスの首を見るとハンスの国で定められている既婚者が付けなければいけないネックレスが着いているが、女性は着けている様に見えない。
ハンスのネックレスは、昔サナリアが見たそのままだったが、連れだと言う女性はサナリアが知っているハンスの結婚相手と違っていた。
この男は、未だ同じような事をしているのか・・・・・。
サナリアは呆れかえってハンスを見ながら、綺麗になったゴーグルを掛け直した。
そんなサナリアを見て、ハンスは『ぷっ』と噴出した。
「しかしサナリア、何だその恰好は、何かの罰ゲームか?髪の毛だって枝毛だらけじゃないか。ハハハッ台無しだな。」
そう言って、サナリアの伸びすぎた髪を摘まんだ。
サナリアは無表情でその手から自分の髪をスッっと取り戻す。
ハンスが一瞬眉を顰めた様に見えたが、サナリアは気にしなかった。
そもそも、恋人や母親でも無いのに、他人の髪に無断で触るとはずいぶんと失礼な話だ。
一体この男、どんな常識で生きているのか・・・。
しかし、サナリアはハンスが家では全く妻に頭の上がらない恐妻家である事を知っていた。
自分に対して、傍若無人ともとれる態度をとっているハンスが、妻の前では従順な犬の様に振舞っている様子を目にした時にはあまりの事に自分の目を疑った。
この男は、惚れている妻に逆らえずに溜めたストレスや鬱憤を、なんとサナリアにぶつけていたのだ。
ソレを理解した時の絶望を、一体誰が理解出切るものか、
「私は貴方に、金輪際私に話しかけるなと言ったハズですが?。」
泣きながら、もう自分に構うなと、そう言った。『たとえ何処かで偶然見かけたとしても、声もかけないでください、貴方となんかもう二度と会いたくない。声も聴きたくない。』そう言って、サナリアはハンスに別れを切り出し、ハンスはそれに『分かった。』と応えた筈だ。
ボロボロの心と体で、無理をして時間を作って、別れ話をして帰ったその夜、高熱を出して二日も寝込んだ。
今も、昔もアレ以上酷い失恋なんてない。
臆病なハンスの事だ、戦火の絶えない『グイネバルドここ』ならば、よもや旅行にくる事も無いだろうから偶然の再開など無いだろうと予想してワザワザ転勤願いを出したのに・・・・・。
「なんだよ、未だ俺たちの昔の関係を引きずっているのか?過ぎた事じゃないか、つれないな。」
何か取り繕うかの様にハンスは来やすくサナリアに言い寄った。
おそらく、旅行の行き先を決めたのは彼女なのだろう、それできっとハンスは内心ご機嫌斜めなのだろう、だから当て擦りにサナリアに声をかけ、馴れ馴れしく触ってきたのだ。
自分が一時ひとときでもこんな自分勝手な男に本気で惚れていたのだと思うと吐き気がしそうになる。
後ろでは彼女らしき女性がヤキモキしながら此方を見ていた。
サナリアは不快さを露にした顔で、軽くハンスを片手で押しながら言った。
「もう離れてもらって良いですか?、私と貴方の関係は完全に終わったんです。」
食事をする気も失せてしまった。
「もう発ちますので、そこを退いて下さい。」 
言いながら、席を立とうとした時だった。
何を考えての行動なのか、ハンスがサナリアの肩を不躾に抱いて力を込めた。
「良いじゃないか、サナリア。折角の再会だ、一杯くらい奢らせてくれよ・・・。」
耳朶にかかる生暖かい息が酷く気持ち悪かった。
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