魔獣の姫に黒の騎士

すずひも屋 小説:恋川春撒 その他:せつ

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サナリア・アルテミナとリリィ・ブラック5

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結果として、難民と化したグイネバルド国民の、ウロボロス支部周辺に逃れると言う選択は、最も自分達の生存確率を上げる事となった。
元々ウロボロス・グイネバルド支部がある地方はグイネバルドの中でも肥沃な大地が有る所で、グイネバルド内では珍しく生計を経てる為に穀物生産が行われている等、最低限とは言え、生産的経済の動きが有る所だった。
他国との交流もあり、この街でなら炭鉱等で時折出る美しい石が『ガレイアの春』以外の時季でも金や物資に代える事が出来る。
何だったら亡命の窓口としても機能していた位だ。
そこの一部にウロボロスが陣取って以来、研究だの町の警備だの自給分の菜園だのと称してはウロボロス職員と町の人間との交流が盛んに行われていた。
特に、騎士団と町の自警団や町を運営する団体との交流は盛んで、グイネバルド支部設立当初からお互い情報交換をしてこの町の治安は確率されて来た。
ウロボロスと親交の有る協会等も孤児院や無料の学舎等も有り、そこで育った者は大概その町や近くの町へ住処を構えている。他の地方と比較すると、ウロボロス周辺は局地的に格段に治安の良い土地だったのだ。
他の政党などが攻撃に来ても、支部が有るのウロボロス騎士団が迎え撃つし、教育水準が局地的に高いここは、多くの各政党の幹部の故郷でもあるからそもそも滅多に攻撃される事が無い。
このウロボロスの周囲の街だけが、グイネバルド内で唯一戦争が無くても生計を立てる事が出来る地盤が出来ている土地だったのだ。
敵対している党の者と恋仲になって逃げて来た者達にとって、ここ以上にこのグイネバルドで生き残れる可能性の有る町なんて無いだろう。町は突然の変化に悲鳴を上げながらも、難民を無下に弾き出す事なく対応していった。
町を運営している団体の者達は
「いつかこんな事が起きるかも知れないと、心の準備だけはしていたのです。」
と、笑って言ったという。
まず、心の準備が出来て居れば、無意識の内に何となし不完全ながらも何かしら物理的準備も少しは整っている物だ、その無意識の『少し』が恐らく今回町と難民を救った。

変化が有ったのはグイネバルド周辺だけでは無かった。
何故か各地の戦の戦死者が異常に減り始めた。
というか、戦場で金物の交わる音が各地で消えた。
いや、内紛が消えた訳ではない、現に各党の党首は今だ我こそが国の統治者よと声高に訴えている。
戦の勝ち負けの報告も上がってきている。
現場に紛れ込んでいる諜報部隊隊員から上がる報告だけが奇妙な事になっていた。
曰く、どこそこの戦場では武器が双方木刀のみだったとか、鉄砲の弾がインクになっていただとか、戦場で鎧を着た戦士達が将棋で勝負していただとか、爆弾が馬の糞になっていただとか。
腕を擦りむいた戦士が重症患者として運ばれて行っただとか、とにかく其処ら中からおかしな報告が山ほど報告されてきた。
崖から誤って落ちて骨折した『グイネバルド公国』の兵士を敵対する名も無き政党の兵士が自分の鎧を無理やり着せて自党の兵として救護施設に運んだという例もある。
運ばれた兵士はそこの看護師と恋仲になってそのまま政党を変えたそうだ。

そして、今、サナリアはフルフェイスの仮面を着けて、事の発端(?)の党違い元軍団長カップルと向かい合っていた。
『グイネバルド王国』元軍団長ガゼルと『グイネバルド民主国家』元軍団長ダミアンだ。
黒い髪と浅黒い肌がいかにも野生的で獰猛そうなダミアンが言った。
「ラメシャンの黒百合・・・こんな所に居るとはいかにもおあつらえ向きじゃないですか。亡国の国王よ。」
「あんな矮小な国の、一介の王子の末名をご存知とは驚きですね。笑いにでも来たんですか?国民を救う事も出来ずこんな所まで逃げて来た情けない男を。」
にらみ合う様に話すに、しかし緊張感は続かなかった。
ガゼルががこらえ切れず『ぶふっ』っと噴き出す。駆け落ちの道中切る余裕も無かったのだろう、斬バラに半端に伸びた栗色の巻き毛がフワフワと揺れた。
「何か?」
っと聞き返すサナリアの首には、子供の様にリリィが首に絡みついていた。
「いぇ、仲睦まじい様で喜ばしいなと思いまして。」
「気にしないでください。今この人そういう時期なんです。一見害のない様に見えますが、世界最強の武器兼防具と言っても過言ではない位強いのでくれぐれも殺気や攻撃など出さないでください。」
サラリアがそういうと、当の世界最強の武器兼防具は絡みついた体制のまま、けん制する様にキロリと二人に視線を向けた。
武術に秀でた者だけに伝わる威圧で二人の元軍団長の背筋が一瞬震える。
しかし緊張感は続かない、何せふざけたマスクを被った一見華奢な男に恋の力でペットの猫みたいにトロけた大型猫科獣人だ。
視覚的にのどか過ぎる。
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