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ルークの初恋 3-11

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さぁさぁ!さぁさぁ!さぁさぁさぁさぁ!道行みちゆ御方々おんかたがた、一つ、少々お耳を拝借奉はいしゃくたてまつりさうらう!

わたくし、名をブガヤと申します。卑しい身の上ゆえ氏はございません。
しがない流浪の身でございますれば このみすぼらしき異国の弦楽器を相棒に
あはれな根無し草、その日暮らし・・・。
そこな評判の屋台の甘露なる飲み物さえ本日は買えぬ始末、
この身をあはれとおぼし、どうか数曲の演奏と引き換えに
私めに今宵食べるものをお恵みお願い申し上げます。

・・・大金貨をポケットに入れて、いけしゃぁしゃぁと青年は言った。
大金貨の釣りが無いからと言って青年に飲み物を売る事が出来なかった店の主人が、一瞬生ぬるい目で青年を見つめたが何も言わなかった。
商売とはそういう物だ。
折り畳み式の弦楽器の音色は、お世辞にも良い音とは言えないはすっぱな音だが、青年の腕前がそれを凌駕りょうがした。
前に置かれた楽器ケースの中はみるみる小銭でいっぱいになった。
青年は満面の笑みでケースの蓋を閉じると、大仰にお辞儀をして、
「あぁ、有難い。これで今夜食事と酒が飲み食い出来る。橋の下の使用料もこれで賄えるでしょう・・・ありがとうございます。有難うございます」
と、もう一度、まるで舞台挨拶の様にお辞儀をしてみせた。
ルークは開いた口も塞がらない思いでその様子を見つめていた。
青年は佇まいを直すと、すっと纏う空気を変えた。
賑やかに拍手喝采を送っていた見物人が自然と静まり返る。もうここは青年の為の舞台と化していた。
「それでは、お礼変わりにラストに一曲」
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