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ルークの初恋 3-10

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それに、シャルレと顔見知りかも知れない位身分の高い人を、シャルレ付きのルークがほったらかして帰ったりしたら、後々シャルレに迷惑が掛かるのではないかと思うと逃げるのも躊躇ためらわれた。
「私はただ今、一仕事終えて帰る所で、今日は財布を家に忘れて来たので、お飲み物を調達する事は出来ません、お役に立てず申し訳ありません、従者の方たちもご心配されていると思います。お帰り下さい。ここはこれから夜になる程混みだします。物騒な人間も出て来ます。お帰り下さい」
財布を忘れたのは方便だった。
高貴な身分の人間に、下手に飲み物を与えて体でも壊されたら責を問われるのはルークだけではない、用心に越した事は無いだろう、と判断したのだ。
根気よく説得するルークを無視して、青年は上着の内ポケットから何やら木片の束を持ち出して呑気そうに言った。
「何だ、お金持ってないの?仕方が無いなぁ・・・」
パタパタと音を立てながらその木片の束を何回か重ね直すと、弦楽器が姿を現した。
「折り畳み式の弦楽器・・・」
「珍しいだろう?この楽器に名前は無いんだ。年に一回私の国に来る有名な旅芸人の自作なんだ」
少し得意そうに笑うと、玄の張りを調節しながらキィキィと鳴らしては確かめながら音を調節していく、調節が終わらない内に鳴らす音は段々と軽快な曲に成っていった。
楽しそうな曲に道を行く者達が足を止めだした。
五、六人集まった所でタイミングを見計らった青年が調子の良い口上を良く通る声で述べだした。
「『さぁさぁ!さぁさぁ!さぁさぁさぁさぁ!道行みちゆ御方々おんかたがた、一つ、少々お耳を拝借奉はいしゃくたてまつりさうらう!』」
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