上 下
42 / 110

ルークの初恋 3-14

しおりを挟む
ブガヤが楽器を片づけると、観衆は自然と掃けて行った。
「あの・・・ブガヤ様」
「偽名」
「・・・・は?」
「ブガヤは偽名、さっき思いついた」
青年はどこまでも食えない人物だった。
「・・・・では何と呼べば?」
「まぁ、良いじゃない。で、何?」
じゃぁ名乗ったブガヤで通せば良いのに・・・。とルークは思ったが、青年の胸を飾る勲章の数々がルークにそれを言葉にする事を許さなかった。
先ほどの観衆達は、青年の身なりを大道芸をする為の衣装だと思っただろうが、宝飾職人のルークの見立てでは、勲章に使用されている貴金属や宝石は本物だ。
確実に使用人としても、宝飾職人としてもルークの客筋になる。下手な事は言えない。
そんな事よりも、ルークにはこの青年に聞きたい事が有る。
「さっきの最後の曲、どこで知ったんですか?」
子供の頃、一度だけ聞いたあの曲。どんなに探しても何の手がかりも見つからなかった。
曲名も、あの時歌っていた女の子の事も。この青年はそれを楽器で弾いたのだ。
楽譜を見たのか、どこかで曲を聞いて自力で覚えたのか、誰かに教わったのか分からないけれど、何かルークの知らない情報を持っている可能性が高い、あの女の子の事も何か知っているのでは無いのだろうか・・・。
ルークの考えは的中していたが、返って来た答えは思いもがけない物だった。
「有名な曲だよ?古典オペラだね200年位前の。物凄い人気だったんだけど、主役の女優が舞台の上で裸にされるシーンがあったり内容があまりにえげつなすぎて政府が公演禁止にしたんだ。この曲はラストに主人公が歌う曲なんだ」
「そんなえげつないオペラの歌あの子歌ってたの!?」
ルークは思わず叫んだ。
しおりを挟む

処理中です...