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ルークの初恋 3-18

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「・・・九歳の子供をあんな夜中に折檻して外に放り出すなんて!どんな酷い親だ!可哀そうに・・・辛かっただろうに・・・」
青年は、ルークの質問よりも、話したルーク自身の過去に意識が向いてしまった様だった。
大分薄絹に包んで話したつもりだったのだが、ルークの過去は育ちのいい殿上人には十分同情を誘う物だったらしい。これだから不用意に他人にの話をするのは難しいのだ。
運が悪いと変な考えの者に当たった時に酷い目を見るのだ。
「昔の事ですから、それに、貧民街では珍しい事ではないです」
変に同情や蔑みの対象にされて、望まぬ物を引き寄せてしまう。適当に作れば良かったと、ルークは少し後悔した。
しかし『時すでに遅し』だったようだ。
青年はルークの大きなヘーゼルの瞳を見つめ、そっと頬に触れ、事もあろうにルークを口説き始めた。
「苦労のし通しだったね。でももう大丈夫、皆夢だったと思えば良い、そんな過去は偽物さ。忘れてしまうと良いよ。そうだ、君、今の仕事を止めて私の妾にならないかい?いまよりずっと良い暮らしが出来るよ。大丈夫私の家は国が滅びない限り安泰な稼業だから、他にも何人かいるし寂しくなる事も無い。私の所へ・・・」
「大変恐縮ですが、あの・・「フリージング・ニードル!」
ルークが青年の言葉を遮ったその時、魔術発動の呪文と共に青年とルークの間を氷の杭が突き抜けて、地面に突き刺さった。
杭は平均的な人間の男の肱から先一本分位の大きさが有った。
「な?」
何事かと呆気にとられながらも、ルークが青年を見ると青年は一瞬で氷の杭から間合いをっていて、三歩以上も離れた所で剣を構えていた。
間髪入れずに大きな影がルークと青年の間に前に立ちはだかった。
沢山のドレープと、本物の宝石の放つキラメキと共に。
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