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すべては幻、隣の庭は枯れ木の庭 1ー12

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「まったく、人騒がせなカップルだこと」
湯殿に向かいながらシャルレはジェイコブ王子一行に、ジョアンを包んで運ぶためのシーツを一枚と、去った後の後始末をするよう手配させていた。
流石、手際が良い。
「驚いた?」
「夢で見てうなされそうです」
先ほどルークの真ん前で繰り広げられた娼館の厭らしいショーさながらのジョアンの様子が目に焼き付いて暫く忘れられそうにない。
好きでも無い人の本物の淫猥な姿なんて、見て喜ぶ趣味はルークには無い。
使用人として働いている時は鉄面皮と言われた事すらあるルークもつい眉間を寄せてしまった。
顔をしかめるルークにシャルレが言う。
「まだましな方よ、幻を見たと思って忘れなさい」
あれで、マシな方なのか、じゃ普段はもっと酷いのか、などと心中ではげんなりしたが、シャルレのこれ以上ないアドバイスをもらい、ルークは溜息交じりに頷いた。
「そうですね」
湯殿に着けば、入浴の用意は完ぺきに整えられていた。
何故かシャルレの秘密の仕事の方の道具まで揃っていた。
見慣れない小瓶が三つ程入っている。
何かの手違いかと思ったが、シャルレの脱衣を手伝った後、ルークが自分も脱いでいる間に、シャルレはさっさと浴場へと用意された道具を持って、行ってしまった。
今夜の仕事は無くなったハズなのに・・・。
シャルレが道具を持って浴場に入った。それは、つまり、この後誰かとセックスする予定が有るという事だ。
新しい『客』が着いたのだろう。
ルークの胸がツキリと痛む。
ルークは泣きそうになった自分の頬をパシパシと手の平で叩いて気合を入れると、いつも通りの『シャルレのルーク』の顔をして欲情に急いだ。


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