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十七、紅家当主
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「挨拶が遅くなってすまなかったね」
国を象徴する円形の机は、人間と鬼が手を取るときに使われるものだ。
今は豪華な食事が並べられている。
紅家の現当主、紅 カゲツとその妻。
つまり、ナツヒの両親。
そして、ナツヒの兄。
ナツヒと似た顔が、物静かに座っていた。
「いえ、お忙しい中、この度は、このような席をご用意していただき、ありがとうございます」
「いやいや。君のおかげで、ナツヒの調子は良くなっていると坂城から報告をうけているよ」
「坂城先生には非常によくしていただいています」
キサラの横に座る坂城は、カゲツに頭を下げる。
「恐縮です」
部屋の壁際には、赤居が女性の執事とともに控えている。
その隣には、もう一人、背の低い茶髪のめがねをかけた男性もたっている。
様相から見るに人間だろう。
キサラにとっては初めて見る人だが、赤居の隣にいるということは、おそらく当主の秘書だろう。
「ところで」
豪勢な食事が進む。
カゲツは、笑顔をキサラに向けた。
「気を悪くしないでほしいんだが、君は最初、我が家からの手紙を受取拒否していたようだね」
カゲツの赤い瞳はキサラをまっすぐ見ていた。
ナツヒのそれと似ているが、それよりも力のある赤い光がちらちらとしている。
その瞳から目をそらさないようにして、キサラは答える。
「はい、そうですね」
「その理由を聞いてもいいかな?」
「本当の紅家からの手紙かどうか、私たちにはわかりませんでした。紅家となれば、当主様のお名前も、次期当主様のお名前も、とても有名です。誰かが騙っているのかもしれません」
「ふむ」
「特に私のような個人医では、ナツヒ様の詳細な情報を知るわけもない」
「なるほど、実に人間らしい理由だ」
カゲツの笑みは崩れない。
その笑みが徐々に意地悪く見えてくる。
一方で、なんとなくナツヒを思い出させた。
「今後、人間に協力を仰ぐときには、参考にさせてもらおう」
それにしても、と弧を描いた目尻は、キサラの瞳の奥をのぞき見るようだ。
「円弧先生は、面白いお方だ」
「よく言われます」
「それは人間に、だろう?妖怪にはどうだろうか?」
「あまり覚えがありませんね……」
どちらにしても、思い出したくないことがほとんどだ。
だから思い出さないようにしている。
それに、個人医となった今は、キサラを悪く言うものは少なくなっていた。
「話がそれてしまったね」
キサラの返事に気を悪くする様子もなく、カゲツは話題を変えた。
食事は進み、整った器に乗った焼き物が置かれる。
「今一度、ナツヒの病状について教えてくれるかな?」
「はい」
キサラはナツヒや坂城と同様に説明した。
キサラが準備した薬は確実に効果を発揮している。
そのことからも想定が的中したといえる。
「なるほど、水が体にたまりやすい病気か。この病気は、君がいた沼地では多い病気かな?」
「数年に一人ほどでしょうか。多くは水属性をもたない妖怪が罹っています。昔の書物にも書かれており、古文書にいくつか似た症状をみたことがあります」
「君は一週間に一回、大学校で講義をしているときいているが、大学校ではその研究を?」
「研究室は古代医学を専門としています。私は一部の研究や講義を手伝っているだけです。その研究の資料にあっただけです」
「古代医学……つまり、新しい病気ではないということか」
「その通りです」
カゲツの質問に一つずつこたえていく。
隣にいる夫人やナツヒの兄は、うなずきながら聞いてくれているが、積極的には質問してこない。
当主であるカゲツが質問しなければ、それだけのこと、と思っているようだ。
キサラは気になってチラチラと二人の表情を確認するが、キサラに直接行ってくる様子はない。
「これまでいろいろな医者に頼んできたが、君が一番長くナツヒの相手をしてくれているし、これまでにないほどナツヒの体調が良くなっているようでうれしく思う」
「ナツヒ様の体調が良くなっていることは、私としてもうれしいです」
その言葉に嘘偽りはない。
目の前の患者が自分の治療でよくなるのは嬉しいと思うし、医者冥利に尽きる。
国を象徴する円形の机は、人間と鬼が手を取るときに使われるものだ。
今は豪華な食事が並べられている。
紅家の現当主、紅 カゲツとその妻。
つまり、ナツヒの両親。
そして、ナツヒの兄。
ナツヒと似た顔が、物静かに座っていた。
「いえ、お忙しい中、この度は、このような席をご用意していただき、ありがとうございます」
「いやいや。君のおかげで、ナツヒの調子は良くなっていると坂城から報告をうけているよ」
「坂城先生には非常によくしていただいています」
キサラの横に座る坂城は、カゲツに頭を下げる。
「恐縮です」
部屋の壁際には、赤居が女性の執事とともに控えている。
その隣には、もう一人、背の低い茶髪のめがねをかけた男性もたっている。
様相から見るに人間だろう。
キサラにとっては初めて見る人だが、赤居の隣にいるということは、おそらく当主の秘書だろう。
「ところで」
豪勢な食事が進む。
カゲツは、笑顔をキサラに向けた。
「気を悪くしないでほしいんだが、君は最初、我が家からの手紙を受取拒否していたようだね」
カゲツの赤い瞳はキサラをまっすぐ見ていた。
ナツヒのそれと似ているが、それよりも力のある赤い光がちらちらとしている。
その瞳から目をそらさないようにして、キサラは答える。
「はい、そうですね」
「その理由を聞いてもいいかな?」
「本当の紅家からの手紙かどうか、私たちにはわかりませんでした。紅家となれば、当主様のお名前も、次期当主様のお名前も、とても有名です。誰かが騙っているのかもしれません」
「ふむ」
「特に私のような個人医では、ナツヒ様の詳細な情報を知るわけもない」
「なるほど、実に人間らしい理由だ」
カゲツの笑みは崩れない。
その笑みが徐々に意地悪く見えてくる。
一方で、なんとなくナツヒを思い出させた。
「今後、人間に協力を仰ぐときには、参考にさせてもらおう」
それにしても、と弧を描いた目尻は、キサラの瞳の奥をのぞき見るようだ。
「円弧先生は、面白いお方だ」
「よく言われます」
「それは人間に、だろう?妖怪にはどうだろうか?」
「あまり覚えがありませんね……」
どちらにしても、思い出したくないことがほとんどだ。
だから思い出さないようにしている。
それに、個人医となった今は、キサラを悪く言うものは少なくなっていた。
「話がそれてしまったね」
キサラの返事に気を悪くする様子もなく、カゲツは話題を変えた。
食事は進み、整った器に乗った焼き物が置かれる。
「今一度、ナツヒの病状について教えてくれるかな?」
「はい」
キサラはナツヒや坂城と同様に説明した。
キサラが準備した薬は確実に効果を発揮している。
そのことからも想定が的中したといえる。
「なるほど、水が体にたまりやすい病気か。この病気は、君がいた沼地では多い病気かな?」
「数年に一人ほどでしょうか。多くは水属性をもたない妖怪が罹っています。昔の書物にも書かれており、古文書にいくつか似た症状をみたことがあります」
「君は一週間に一回、大学校で講義をしているときいているが、大学校ではその研究を?」
「研究室は古代医学を専門としています。私は一部の研究や講義を手伝っているだけです。その研究の資料にあっただけです」
「古代医学……つまり、新しい病気ではないということか」
「その通りです」
カゲツの質問に一つずつこたえていく。
隣にいる夫人やナツヒの兄は、うなずきながら聞いてくれているが、積極的には質問してこない。
当主であるカゲツが質問しなければ、それだけのこと、と思っているようだ。
キサラは気になってチラチラと二人の表情を確認するが、キサラに直接行ってくる様子はない。
「これまでいろいろな医者に頼んできたが、君が一番長くナツヒの相手をしてくれているし、これまでにないほどナツヒの体調が良くなっているようでうれしく思う」
「ナツヒ様の体調が良くなっていることは、私としてもうれしいです」
その言葉に嘘偽りはない。
目の前の患者が自分の治療でよくなるのは嬉しいと思うし、医者冥利に尽きる。
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