嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした

ナイトウ

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お近づき編

24, 貴方好みの

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次の日、昨晩も中々寝付けなかった僕は、すこし眠い目をこすりながら悩んでいた。

今日の服どうしよう。

部屋にはクローゼットが二つあって、一つは男物。もう一つは女物が入っている。

女物の方はチラッと覗いてフリフリのドレスばかりだったので着る選択肢は今まで無かった。
けど、あれはどうやらジョンの好みらしい。

「着てみよっかなぁ。」

別に女装が特に好きというわけじゃない。
むしろ男の格好の方が楽でいいくらいに思ってる。
それでも女の格好をしてきたのは、そうすると娘を失った義父やお芝居を見たお客さんが喜ぶからだった。

「ジョンも喜ぶかもしれないし。」

誰にともなく呟く。
ふと思い立って化粧台の鏡を覗き込んだ。
ジョンが僕の姿を見て耳を真っ赤にしている姿を想像してみる。

「ふふっ」

おもわず笑った自分の顔をチェック。

うん、この表情は使えそうだ。
今度の舞台で好きな人と話す場面はこの顔にしてみよう。
今までのただ思わせぶりに笑う顔より自然な感じがする。

やっぱりこれ着てみよ。
ジョンの実際の反応を見れば演技の参考にもなりそうだ。

朝食の時間になったので、今日もジョンの部屋に向かう。
ドレスは淡いピンクと白が基調色で、沈丁花のモチーフが散りばめられた可愛いテキスタイルだ。
袖や胸部にはたっぷりのレースフリルが盛られている。
着るときはメイドさんに手伝ってもらって、髪もハーフアップに結い白い花のバレッタを飾った。
こんな甘めの服が自分に似合ってるとは思えないし、久々のコルセットはやっぱり窮屈だけど、ジョンがどんな反応をするかと考えると胸まできゅっと締まる感覚がするのが不思議だ。

ドキドキしながら部屋をノックすると、ルパートさんが開けてくれる。
僕の姿を見てルパートさんはおや、と小さく呟いたけど、それ以上は何も言わずに僕を中に案内してくれた。
部屋に入り、食事のため体を起こしてベッドにいる彼に声を掛ける。

「おはよ、ジョン。」

ジョンはこちらを見て、一瞬だけ目を見張った。
どんな反応するのかな……。

その直後、ガバッと左手で目を覆ってしまう。

「じ、ジョン……?」

予想外の反応だ。まさか見てもらえないなんて。

「俺は死んだのか?」

「は?」

「天国にしかいないはずのものが見えた。」

「は?」

「旦那様、あなたが昇天するのは構いませんが、奥様を勝手に天に召さないでください。」

ルパートさんが辛辣な言葉を放つ。

「あの、ジョンに用意してもらったドレスを着てみたんだけど……」

「っ……」

話しかけると一向に目を塞いだままのジョンがブンブン頷いた。
だから、見た感想が欲しいんだけど。

「どうかな?変じゃない?」

目を塞いだままブンブン首を横に振る。
え、どっち。変なの?変じゃないの?

「見てないじゃん……」

「大丈夫だ。ちゃんと脳裏に焼き付いた姿を見ている。」

「実物がここにいるよ。そっちは見ないの?」

「しかし、こんなに素晴らしいものを何秒も見てしまったら反動で何か大いなる災厄が訪れるのではないだろうか……」

どうしよう。この人が何言ってるのかよくわかんない。

困ってルパートさんに目配せしたら、無言で首を横に振られた。
貴方が匙を投げちゃうともうどうにもならない気が……。

仕方がないので、カチコチになってるジョンがいるベッドに腰掛ける。

「あの、僕、ジョンがこういう服好きなのかと思って着てみたんだ。」

つまり貴方の為なので、一瞬だけチラ見して感想も無しとかだと悲しいんだけど。
何か喜んでそうな感じはするんだけど、それならちゃんとした反応が欲しい。

「お、俺の、為……?」

「うん。だからちゃんと見て何か感想言ってくれると嬉しい。」

しばらくするとジョンがゆっくり手を下ろしてこちらを見た。
眉間に深いシワが刻まれて三白眼がギョロリとしてるけど、耳はさっきからずっと真っ赤。

至近距離で睨まれてももう怖いとは思わなくて、僕に応えようとする必死さを感じて笑みが浮かんでしまう。

額に汗が浮いていて、何か言おうと考え込んでる。それを見て楽しむというちょっと意地悪な待ち方をした。

何言うのかな、と思っていたら、固まったまま動かなかった体が急にギギギギっとぎこちなく動いた。

そのままこちらに手を伸ばしながら身を乗り出す。

ぎゅっ

片手だけで腰を引き寄せられて、大きな体に抱き込まれた。
僕よりふた回りは広いだろう肩に顎を乗せるまで密着させられると、じんわりあったかいジョンの体温が伝わってくる。

わ、ジョンの心臓すごいドキドキしてる。
自分の心臓の動きまで早くなってきた。温かさが心地よくて、手をジョンの背中にそっと回して自分からも抱きつく。


「あ、まずい。」

背後から聞こえたルパートさんのつぶやきの直後、初めて会った時のようにジョンが目の前から消えた。
一瞬のうちに体温が離れ、大きな体が掛け布団の中に潜り込む。

「っ痛っ!!」

大きく動いたのが傷に障ったのか、布団の中から悲鳴が聞こえた。

結局初めて会った時みたいにジョンは布団に包まったまま出てこなくなってしまい、僕はフリフリの服を当面封印することを決めた。

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